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公務員として働きながらクリエイティビティを磨くには!? ~Tokyo DXセミナーレポート~

東京都は職員の改革意識を高めるため、都庁職員・区市町村職員・政策連携団体職員に向けて、様々な分野の専門家、経験者に講演するTokyo DXセミナーを毎年開催しています。2024年3月8日に新宿NSビルGovTech東京イベントコーナーで開催された、DXセミナー10回目となる講演は、株式会社フィラメントの代表取締役CEO角勝が担当しました。講演タイトルは『公務員の仕事を通じてクリエイティビティを磨く』。角がフィラメントを起業する前の公務員時代を振り返りながら、その後の起業人生に活かせた経験や考え方をシェアしました。本記事では、講演内容の一部を掲載します。(文・写真/QUMZINE編集部・永井公成)


「デモシカ公務員」だった

フィラメントを起業する前の20年間、大阪市役所の職員をしていました。まずは鶴見区役所の税務課・固定資産税係というところからキャリアをスタートしました。その後に行ったのが民政局、今でいう福祉局になります。大阪市での20年のキャリアの半分が障害福祉や高齢福祉、介護保険といった仕事でした。最後の3年間に「大阪イノベーションハブ」というオープンイノベーションスペースの立ち上げと運営をする仕事をしまして、この仕事があまりに面白くて、一生の仕事にしたいと思って作ったのがフィラメントという会社です。

フィラメントを創業してもうすぐ9年経ちます。最初は一人で始めたような小さな会社だったんですが、だんだんとメンバーも増えてきました。

皆さんは公務員として働かれていると思いますが、皆さんには「世の中をこうしたい」という理想はありますか。僕は今自分で起業したので「意識高い系」のように思われたりしていますが、公務員だったときにはそんな理想は特にありませんでした。でもそれが普通なので大丈夫です。

僕の人生を振り返ると、大学から関西に出てきて関西学院大学で歴史を学んでいました。子供のころから「人間って何なんだ」とか「人間はどこからきてどこに向かっているんだ」とかそんなことを考えるのが好きな子供だったんです。だから人間を理解するには歴史を学んだらいいと思い、大学でローマ史を学びました。でも歴史をやっていると全然つぶしがきかないんですよ。その上、就職する頃はバブル崩壊直後の就職氷河期で、全然就職先がないわけです。このままノルマがきつい民間企業に行っても絶対やっていけないと思い、民間企業をあきらめて公務員になるしかないなと考えました。昔の人はよくご存じだと思うんですけど、「公務員でもいいか」とか「公務員しかなれない」みたいな、「デモシカ公務員」という言い方があります。そんな感じで公務員になったのが僕です。

そんな僕でもいろいろ業務で経験させていただいてそれなりに面白いことができるようになったと思っています。公務員という仕事をしていろいろ学ばせていただいて、独立してもやっていけて、会社も少しずつ大きくなっています。本当に感謝しています。

論理的知性と情緒的知性

ここで、「賢さ」というものはどういうものなのかについて考えてみます。いろいろな人にも聞いてみたんですが、「論理的知性」と「情緒的知性」の2軸があるように思います。「論理的知性」というのは頭が良いということです。筋道立てて物事を理解して、やることもテキパキしているということ。そして「情緒的知性」は人の気持ちがわかることです。両方とも大事だと思っていますし、公務員はその両方を鍛えて高められる仕事だと、辞めた今こそ思っています。

また、公務員には3つの仕事の特徴があると考えています。まず一つ目は「多様な視点」です。公務員の仕事は利害調整と合意形成がすごく大きな割合を占めてると思います。多岐にわたる関係者の相互理解と納得をどうやって調整していくのかを常に考えさせられる仕事だと思うんですね。その結果、人の気持ちがわかるようになります。二つ目は「複雑な構造」です。階層的な合意形成を図らなくてはいけないし、業務執行もどんなプロセスでやっていかないといけないのかを常に考えないといけない。そして三つ目が「繊細な実務」です。やたらとゼロリスクが求められるので一つ一つの仕事の緊張感がかなりあるんですよね。緊張感を持って、しかもいろんな性質の仕事を大量にこなさなくちゃいけない。だから必然的にスキルが鍛えられていきます。

公務員にとってのクリエイティビティとは

公務員にとってのクリエイティビティを図にすると以下のようになると思っています。

まずは「発想」ですね。何かを改善するとか、市民のためにサービスを考えて発想するところから始まります。自分の中で生まれるもので、ちょっとした気づきのようなものとして個人レベルで起きます。自分の中でとどめておいたら仕事になっていかないので周りに広げて共感してもらわないといけない。自分の周りに広げて賛同を得て、感化してもらって、これはいいと仲間に思ってもらう。そうなると、仲間レベルの仕事になります。そして本当に社会に出てそれを実現するということ。ここまでいくと、実態のある仕事として社会に影響を及ぼしていくことができているといえます。そして公務員の仕事というのは、個人レベルから社会レベルまで伸ばすのが求められることなんだと思いますが、これは行政だけじゃなくて全部の仕事で一緒だと思います。それを学ぶきっかけを作ってもらえたように思っています。

でも、公務員の仕事をしてたら誰でもクリエイティビティが身につくのかと言うと、残念ながらそうではないようにも思います。公務員の仕事を通じて学びを増やしていくためには、ある程度意識をして自分の行動特性を身に付けていくことが必要です。三つあるうちの一つ目が「リスペクト」です。「リスペクト」というと、他者に対しての経緯と思ってしまいますが、他者だけでなく自分に対しても同じです。二つ目は「アクション」です。手近なこと、できることを見つけてまずやってみると経験が増えます。三つ目は「リフレクション」、顧みることです。自らの活動の結果を分析してより良いやり方がないかを探求していくことです。これらを意識的に繰り返していくことで成長していきます。

まず行動特性としてリスペクト、アクション、リフレクションがあり、これらをもって、多様な視点、複雑な行動、繊細な実務という特徴を持つお仕事を進めていく。そうすると、論理的知性、情緒的知性が高まって、結果的にクリエイティブな仕事を実現できるようになります。

あえて苦手な人と一緒に飲みに行く

抽象的な話ばかりしても面白くないので、僕個人の話をしたいと思います。民政局(福祉局)で働いてた時に最も学んだのは「人間ってこんなに話が通じないんだ」ということです。理由を考えてみると、その部署ごとに異なる事情や立場があって、部署ごとに異なるプレッシャーを受けているからというのがおそらく一つの答えだと思います。それぞれの部署で自分の立場しか主張していない。しかも組織の中だけではなく外部からも言われます。当事者団体や地元住民、業界団体や市民団体など全員が違うこと言うんですよね。「市民のために仕事をしなさい」と上の人は言いますが、市民は皆違う人で、全員利害が違うんです。一向に彼らとの距離は縮まらないし、分かり合える気もしないという板挟み状態。そんな当時よくやっていたのは、苦手な人や利害が対立して話が合わない人ほど飲みに誘うということです。苦手なのは相手のことを理解していないからなんですよね。だから、なんとか苦手じゃないようにできないかと思って飲みに誘っていました。1対1で誘うのは大変なので、何人かと一緒でしたが。そのときに仲良くなった人は今でもずっと仲良いままなんです。仕事でコンフリクトが発生した時こそ自分の視点や視野を広げていくチャンスだと思います。

その場にいない人を褒めたたえる

若いころやっていた飲み会では「その場にいない人を褒めたたえる」ということをよくやっていました。その場にいる人を褒めたたえるとこびへつらっているみたいで気分が良くないですが、そうではなく、その場にいない人を褒めると清々しく飲めるし、酒も美味くなる。それに加え、「あの人はこんなことやってるから周りに感謝されてるんだな」ということもわかるんですよね。

そのときのエピソードを一つご紹介します。当時障害福祉の若手職員だったYくんと飲みに行ったときに、僕の上司であるHさんの話をしてくれました。彼は「角さんがうらやましい。僕もHさんと一緒に働きたい」と言うんです。YくんはHさんと一緒に仕事をしたことがないはずだったので不思議に思って理由を聞くと、Yくんは最近仕事が大変で深夜1~2時までずっと一人で残って仕事をしているというんですね。そんな中、Hさんはよく声をかけてくれて、帰り際に「Yくんいつも頑張ってるな、私ちゃんと見てるで。体壊さんように気をつけてな」と言われるそうなんです。「仕事も一緒にしたことがないような人に気にかけてもらえることがすごく嬉しい」と涙声になってたんですよね。多くの人は自分の仕事で成果を出すことをまず考えてしまいますが、大事なのはそんなことだけではないんですよね。人を追い詰めるのは孤独感なんですが、その孤独感から救ってあげるヒーローになるのはすごく簡単な、ちょっとしたことなんですよ。それを皆が思いながら仕事をするだけですごくハッピーになると思うんですよね。ちなみに、Hさんは女性の方なんですけど、僕もいまだにあこがれの上司です。

リスペクトするためにまずはやってみる

その後、障害福祉の仕事を行いました。これは、役所内でも特に困難な仕事でした。特に大変だったのは、障害者自立支援法の施行準備で、僕はそのプロジェクトのチームリーダーを務めていて、2年間ほぼ毎日深夜2時までの長時間労働です。この仕事の中で特に大変だったのが、障害者団体への対応です。ある日、彼らは僕に「あなたは障害当事者のことを何も分かっていない」と言い、全身性障害者のホームヘルパーとして1日働くように勧めました。これを受け入れ、実際に働いた結果、当人しか知り得ないような生活の辛さとか、想像できないことがだんだん想像できるようになってくるんですね。自分以外の人の思考回路のパターンを増やすには、実際に1回やってみることがすごく大事だなと思います。 分かり合えないのは、お互いに歩み寄ろうとしないからなので、文脈を共有して、お互いに理解しようとしましょう。 そして、リスペクトする。多分これも行動が伴うものな気がします。その行動はちょっとした声かけでも、1日ヘルパーをやるのでも、 なんでも良いと思います。一般的に嫌だと言われる仕事をやって、だいぶ鍛えられましたね。

リスペクトを起点に、様々なことに挑戦してみることが重要です。そして、その結果をポジティブに振り返ることも大事です。反省点だけを挙げることは、自分にとっても辛いことですから、客観的に見て、良かった点や、何が得られたのかを見つけるようにします。こうすることで、さまざまな仕事を経験し、学びを身に付けていくことができます。行政の仕事は多様な視点・複雑な構造・繊細な実務と大変ですが、その厳しさがゆえに、自分の中の知性が豊かになり、情緒的な知識や論理的な思考力も高まっていくと思います。大変な仕事だからこそ、多くを学び、磨かれていくのです。

世の中を良くして次世代にバトンを渡す

その後、市政改革室、都市計画局に異動になりました。民政局時代にかなり鍛えられたため、仕事をこなせるようになっていました。そして、この時期に僕の人生観を大きく変える出来事が起こりました。それは、子供が生まれたことです。長女の誕生は僕にとって大きな転機でした。大学時代に歴史を学んだのは、「人間とは何か」についてもっと知りたいと思ったからですが、大学を卒業し公務員になっても、人間とは何かを完全に理解することはできませんでした。しかし、新しく生まれ落ちてきた娘と対面した時に、その積年の謎が解けました。

大学でローマ史について学んだとお話ししましたが、かつてローマでは教育が限られた人々にのみ与えられ、平等も人間の尊厳も軽んじられていた時代でした。しかし現代は違います。教育は普及し、身分制度はなくなり、世界は以前より良くなっています。これは、過去の人類が努力し、その成果を積み重ねたおかげです。娘が成長するにつれて、自分も歳を取り、いずれこの世を去る時に「自分も世の中を良くするために努力した」と胸を張って言えるかどうかを考え始めました。妻からは、子供の誕生によって自分がまるで別人のように変わったと言われています。この経験から、「世の中をより良くして次世代に渡すための努力」を自分の「生きる」ことの定義として決めました。その後、公務員として、従来の保守的な考え方から脱却し、能動的に生きることを心がけるようになりました。

その頃はSNSがいろいろと出てきていて、それまではこれらに手を出さなかったけど、まずは積極的にこれらをやってみて、それで判断しようという気持ちになりました。また、職員提案制度を通じて新規事業を提案し、2年連続で入賞したことで、自分にはアイデアを生み出し、周りを巻き込むという強みがあることを実感しました。

このように、人生を通じてリスペクト・アクション・リフレクションというサイクルを回していくと、徐々に世の中や自分の中の価値観が整ってきます。そして、世の中をどうしたいか、という感覚が自分の中で明確になってきたのです。これはまるで自分の辞書が増えるようなもので、どんな世界にしたいかというビジョンのようなものが徐々に芽生えてきました。

僕が抱いているビジョンは、既存のルールに囚われず、もっと楽しく個人も社会も成長していける世界です。これは、市役所での仕事を通じて、多くの先輩から教わったことです。そのためには、仕事にも積極的に取り組み、成長を続けていきたいと考えています。

そして、僕は初めて人事異動を願い出ました。市役所では通常、「与えられた場所で頑張るべきだ」と言われますが、自分の道を切り開きたいと思ったのです。科学技術振興担当からイノベーション担当に異動し、「大阪イノベーションハブ」の設立に携わりました。単に箱物を作って終わりという「お役所のありがちな仕事」ではなく、失敗しないためにはどうすればいいか、という逆算的な思考で取り組みました。

その後、SNSを活用し、個人の繋がりを強化することで、多くのコミュニティイベントに参加しました。Facebookの友人数が1年で1000人くらい増え、メディア化していったことで、イベントの誘客の成功に貢献することができました。イベントはヤフー・ソニー・シャープ・ABC放送などいろいろなところでやりました。しかし、この頃になると公務に支障が出ると言われるようになり、また、大阪市だけがよくなればいいというわけにも思えなかったので、退職を決意しました。そして2015年に独立し、今ではクリエイティブな仕事にも携わるようになりました。これも全て、公務員としての経験のおかげです。

最後に改めて振り返ります。公務員の仕事には多様な視点・複雑な構造・繊細な実務という特徴があるということをイメージしながら取り組みましょう。そして、リスペクトを起点に面白がって何でもやってみてポジティブに振り返りましょう。そうすると結果としてクリエイティブな仕事もできるようになります。皆さんも、それぞれの職場でクリエイティブな仕事を楽しんでいただけたらと思います。ありがとうございました。


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【プロフィール】

角 勝
株式会社フィラメント 代表取締役 CEO

1972年生まれ。2015年より新規事業創出支援のスペシャリストとして、主に大企業において事業開発の適任者の発掘、事業アイデア創発から事業化までを一気通貫でサポートしている。前職(公務員)時代から培った、さまざまな産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、必要な情報の注入やキーマンの紹介などを適切なタイミングで実行し、事業案のバリューと担当者のモチベーションを高め、事業成功率を向上させる独自の手法を確立。オープンイノベーションを目的化せず、事業開発を進めるための手法として実践、追求している。

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