アフターコロナ時代を見据え、企業や行政のDX戦略に求められることとは?~DISわぁるど in 越後にいがた with Digital Days 特別セッション『アフターコロナにおける地域DX戦略 ~ローカルテレワークとスマート行政の2軸で考える地方発展~』 レポート~
企業のDXの目的は3つしかない
角: 本日は地元新潟の行政のトップ、そして新潟を代表するスタートアップのトップ、そして国の審議会の委員をたくさんご経験されているアカデミアの方と、非常にバラエティ豊かなパネリストの方にお越しいただいています。こうした様々な視点からアフターコロナの地方発展についてディスカッションできるのを楽しみにしております。まずは、パネリストの方の自己紹介とお取り組み内容の紹介から始めていきましょう。
渋谷: フラー株式会社の渋谷です。私は新潟の佐渡島で生まれ、長岡高専を卒業するまで、新潟県内を転々としていました。長岡高専でプログラミングを学び、筑波大学で経営を学んでGREEに入社し、2011年に今の会社を作って、創業11周年を迎えたところです。コロナ禍となり、首都圏にいる理由がないと気づき、2年半前から新潟にUターンして会社の本店も新潟に移しました。今は地域と密着していると言えます。
新潟に戻ってきたときに、まず感じたのが、デジタル化の遅れでした。長岡花火とか、芸術祭、伝統工芸品など素晴らしい資源はたくさんあるんですが、デジタル化が遅れてるので、ちゃんと進めてあげたらその伸びしろは大きい。結果として、日本のデジタル化を進めるには、地方のデジタル化を進めることが重要だと気付きました。
弊社で実際に行っていることを2つ挙げます。1つは長岡花火のアプリです。長岡花火は100万人が訪れるイベントなので、人が来すぎて携帯の電波が通じないことがあります。そこで、事前にダウンロードしておけばいつどの花火が打ちあがるかオフラインでもわかるというアプリを作りました。デジタル化を進める中で気づいたことは、デジタルを使うことはもちろん大事なんですけど、一番の目的は地域をどう良くするということなので、必要であればデジタルかそうでないかにかかわらずやることが重要だということです。
2つ目は、全国に1000店舗ある新潟発のハードオフさんです。3つほどアプリ作っていまして、1つは、そのハードオフさんのお店にユーザーさんが来る公式のアプリ。もう1つは、買い取ってほしい人が製品を写真に撮って、ハードオフの店員がオークション的に値段をつけてくれる『オファー買取』というアプリ。そして、店員さんが買い取った商品を登録してデータベース化するタブレット向けアプリです。実は、僕はDXと呼ばれるものは「既存の事業の売り上げを上げる」「新規の事業をデジタルで作っていく」「生産性を上げる」の3つしか存在しないと思っています。この3つすべてをご一緒させていただいて、その上でウェブサイトをはじめとしたデジタルに関することを全部ご一緒することも行っています。他にも地域のIT人材育成も実施しています。そこでは、「ソフトウェアの地産地消」という概念を大切にしています。地域の課題は、その地域の中で解決すべきということです。雇用の創出もそうですが、地域の課題を地域の人がやることでモチベーションにもつながります。
角: すごいですね。地方創生DXのニューリーダーだけありますよね。デジタルでも寄り添うし、非デジタルでもちゃんと寄り添う。それが地域との繋がりとかも深めていくことにつながるということですね。続いて燕市の鈴木市長からお話をいただきます。
燕市はデジタル市役所を目指す
鈴木: 燕市の鈴木です。1960年燕市に生まれまして、大学の時東京に4年間行ってました。そして、新潟県庁での就職を期に地元に戻ってきて、主に産業畑と人事畑を歩んできました。2003年には新潟産業創造機構に3年間出向、そして2010年に県庁を退職して市長に立候補、当選して現在、4期目となります。
燕市は全国的にものづくりのまちということで認知されています。地域ブランド調査では地場産業が盛んな町として全国でも2位にイメージされています。
角: 全国2位はすごいですね。
鈴木:産業は江戸時代の時に始まって、いろんな事業転換を進めながら、今に至っています。時折経済危機があっても、そのたびに、持ち前の起業家精神で企業の皆さんが乗り越えてきたということです。今回コロナでまた非常に経済危機になったんですけれど、乗り越えていけると思います。
燕市のコロナ対策は「フェニックスイレブンプラス」と名付けました。まさに不死鳥のように、今回の経済危機も必ず乗り越えようということです。イレブンプラスとは、最初に考えた事業が11だったので、 そこをスタートにどんどん状況に合わせて政策を打っていくぞということで、令和2年度のその最初の緊急事態宣言が始まった時に、11の事業を2億2000万円で組みまました。飲食店の家賃補助、飲食店の需要喚起のためのクーポン発行、製造業のオンライン営業に向けた環境整備の補助金、自主的なPCR検査の費用補助というのも始めました。自治体の中では多分初めてだと思います。その中で1番有名だった事業が学生へお米を送ったというものです。
角: twitterでかなりバズりましたね。
鈴木: これは市民の方から発案があり実現しました。職員だけじゃなくて、いろんな企業の方々、ボランティアが一生懸命お米を集めてくれて荷作りをして送りました。現在は、61の事業で25.9億円の事業をいろんな形でやっています。財源は国の交付金では足りないので、ふるさと納税を活用したクラウドファンディングで確保しました。
アフターコロナについては3つ事例を紹介します。
まずは企業間取引の効率化です。燕市には1700社ほど製造業があり、基本的に工程ごとに分業体制を取っていて、工場を転々としながら、1つの製品が出てくるという産業構造になっています。これまで受発注や状況確認をFaxや電話で行っていましたが、これをクラウド上で見られるようにしていきます。SFTC(共用受発注システム:Smart Factory Tsubame Cloud)と名付け、推進プラットフォームには産学官、金融機関にも入ってもらいました。現在10社ほどで動き出しており、仲間を募っております。最近はいろんなテレビで取り上げられ、新潟県代表としてデジ田甲子園にも出ました。
次に、コロナ禍の流れではじめたシェアオフィスの誘致です。国の交付金を活用し民間のシェアオフィスの整備を支援するというもので、昨年度は3箇所開設し、今年度さらに3箇所開設されます。ものづくり産業があるので、デザイナーやプログラマーのアイデアが具現化しやすいのが売りだと考えています。
最後に、市役所のDXです。平成25年からスマホを内線電話化したことにはじまり、全議員・全職員へのタブレットの配布でペーパーレス化しています。早くから取り組んでいるので毎日全国の自治体から市議会に視察が来ていますね。
コロナ禍になってからは、オンラインでの情報発信を進めたり、キャッシュレス決済、ビジネスチャットを進めてきました。来年4月からは電子契約もはじめます。
角: 「AI音声認識」もされてるんですね。
鈴木: 議会の議事録は今それでやってます。
角: テープ起こしは、めちゃくちゃ大変ですよね。すごいスピードで市役所のDXが進んでるって感じですね。
鈴木:そうですね。常に深化、進化、真価を発揮しながら日本一へ輝いているまち 燕市を目指して頑張っております。ありがとうございました。
地方豪族企業が、地方の情報化を支える
角:次に武蔵大学社会学部の庄司先生、お願いします。庄司先生はリモートで参加されています。
庄司:庄司です。武蔵大学社会学部に所属していますが、2018年度までは国際大学のGLOCOMという研究所に所属していました。国際大学は南魚沼にあり、今も併任していますので、20年以上新潟の大学の所属ということになります。
国のデジタル化関連の取り組みをお手伝いしています。行政や地域社会の中でオープンデータを活用していくことを研究したり、その自由に使えるデータを増やしていくべく「オープンデータ伝道師」もしています。また、自治体DXに関する総務省の検討会や、自治体システムの標準化の検討会の座長もしています。
最近の関心ごとの一つに「地方豪族企業」があります。地方の財政が厳しい中、これからの地方はどうしていくべきか考えたときに、行政と地元の有力企業との関係を強くする、あるいは、地元の有力企業が鉄道を引いたり学校を作ったりしてきた歴史に倣って、デジタル分野でその地域の社会インフラに投資をするみたいなことができないだろうかということを考えています。全国に進出するというのは、企業の発展の仕方の一つとしてあるかと思いますが、地方豪族企業は、エリアを拡大するよりはその地域に根付いて、その地域の中で多角化をしています。新潟でいえばNSGさんはその典型例だと思います。その地域の中でいろんな事業に参入し、ネットワークを持ち、雇用も抱え、消費者も相手にしているので、その地域のキープレイヤーだと思うんですね。
これからのデータ活用社会では、人々の生活に密着していろんなビジネスを立ち上げてきた地元企業には分野横断的にデータを取得して活用してしていける可能性があるのではないかと考えています。「これからは世界的なプラットホーム企業にデータのすべてを持っていかれる」と言われることもありますが、現場でデータを取得しているのは、地元企業に他なりません。しかも、それがグループ企業だったりすることもしばしばあります。つまり、多角化という意味で地方豪族企業も結構いいものを持っていると思うんです。 デジタル社会のインフラを行政に任せるのではなく、地域の企業が協力して、デジタルインフラ投資みたいなことをできないか、みたいなことを考えています。
面白い例として、前橋の「太陽の会」をご紹介します。JINSの田中社長が前橋市のご出身だそうで、田中社長が中心となって企業が集まり、毎年の純利益の1パーセントを、前橋の町作りのために拠出しています。これは別にデジタルに投資してるわけではありませんが、例えば岡本太郎の作品を復元して市に寄贈するなど、私がイメージしてることに近いです。
角: ありがとうございます。次は私ですね。フィラメントという新規事業の創出をサポートする会社をしております、角と申します。フィラメントを立ち上げたのは7年ほど前でして、それまでは大学卒業してから20年間、大阪市役所の職員を勤めていました。
フィラメントは事業を作る事業開発、事業を作れる会社に組織を変えていく組織開発、そしてチャレンジができる人材を作っていく人材育成、それらの情報発信を行う会社です。
デジタルの力で人に寄り添う社会に
角: それではディスカッションに移っていきます。まずは庄司先生にお聞きしたいと思います。アフターコロナになっていく中で、国はどのようなことを考えてますか。
庄司: コロナ禍をきっかけにデジタルシフトしていこうという大きな動きが始まりましたが、この動きはもう止まらないと思うんですね。国のデジタル政策を20年以上見てきているものからすると、 その1番最初のIT革命の頃と同じくらいの力強さがある。これまではそうでもなかったんですが、今度こそ変えていこうという動きがあります。デジタルよりトランスフォーメーションの方に重きを置いている。アプリやサービスを導入して終わりではなく、変化することが目的でそれがとても重要なことなんです。これまであまり手が付けられていなかった行政や教育、医療、農業など高齢者が多くて大変といわれていた分野ほどIT導入が大きく動きそうですね。国の会議も、私が参加しているのはほぼ全部オンラインになってきています。コロナになってから2年半くらいデジタル改革やデジタル庁関係の仕事してますが、デジタル庁には行ったことありません。
角: そうなんですね。
庄司: デジタル臨時行政調査会という会議では、国の法律の「対面でやらなくてはいけない」「書面で出す」「常駐しなくてはいけない」といった記述を全部洗いだしてデジタルに置き換えようということもやっています。すべての省庁がこれを行っているので、私たちの日々の生活に結構影響を与えてくると思いますね。
角: そういう動きは、自治体にも波及しますか?
庄司:国は自治体も同じようなことを求めていく予定なので、確実に波及します。でもこれは良いことだと思います。たとえば電子契約も、民間対民間の間ではできていても、国や自治体とのやり取りとなると、紙でやらなくちゃいけなかったりして、全面的に移行できない部分があったと思うんです。そういうのがなくなると、企業も電子化に振り切ることができて、民間にもいい影響を与えていくと思っています。
角: なるほど。渋谷さんは今のお話聞かれて、何か思われることありますか。
渋谷: そうですね。民間の方が基本的に早いと思っています。僕は最近アフターコロナ的な部分は、民間はちょっとフェイズ2入ってきてるんじゃないかなと思ってるんです。うちはテレワークも可能なんですが、最近オフィスに出てくる人が増えたことで、リアルなコミュニケーションも増えてきて、会議に出る人の数が無駄に多いなということが気になってきちゃって。イーロン・マスクがTwitterを買収して会社に出てこいとか、人をバリバリ減らしますとか言ってましたけど、実はそれは理にかなってるなと思うんですよね。「こんなに人が必要だったのか」といったことを、イーロン・マスクのアクションで、みんな考え直すということが出てきていると思います。
角:なるほど。アフターコロナの実感をイーロン・マスクは感じているのでしょうね。
ここで第2問、「アフターコロナを実感するのはどんなところ?」をお聞きしたいです。
渋谷:コロナによるデジタル化は最初はB2Cの企業が一番重要だったんですよね。店に行って買えないからネットで買うしかない。Snow Peakさんのアプリを開発しているんですが、アプリからの売り上げがとても伸びたんです。店舗に行けないから代替手段が必要なんですね。それがだんだんと世の中が通常に戻ってきて、インバウンドもきて、人もお店も来れるようになった時に、企業が二択に分かれた。もう1回窓口のサービスのための人増やして拡充しようとなるのか、デジタルファーストでその窓口の体験も変えていこうとなるのかですね。そこでデジタルファーストで行ける企業が、伸びていくのではないかと思います。
角:コストがかからないですもんね。
渋谷:そうですね。
角:窓口に人を貼り付けて、ずっと来るか来ないかわからない人を待ち続けるよりも、ECで買ってもらう方が楽だしコストがかからない。実際にコロナ禍で行動変容したからすでに受け入れてるということですね。世の中の経営者の方も、効率とかコストを考えたら、そっちに移行していく人も多いんじゃないかなっていう感じですか。
渋谷:そうですね。選択肢の話になってくるので、めちゃくちゃ意思決定が大事になってくるフェーズっていう気がしますよね。
角:意思決定というと、鈴木市長も行政のトップとして、この意思決定はめちゃくちゃ難しいんじゃないですか。
鈴木:はい。おっしゃる通り選択だと思うんですけど、行政の立場になると、どちらかに決めるわけにいかないので、両立せざるを得ないというのが、行政の難しいところなんですよね。 例えば健康診断だと、今までは大きな体育館で通知を出して、その場で受付していたんですがコロナ禍で予約制にした。それを戻すのか、予約システムは残すのか考えないといけない。
渋谷:そうすると、本質的にダブルコストみたいになりますね。
鈴木:そうですよね、行政的にはどんどんコストはかかっていくんだと思うんですよね。
角:あれ、なんとかならないんですかね?
鈴木:そのためにデジタルに対応できる人たちをいかに増やしていくかだと思います。高齢者向けにスマホの使い方教室をやり始めていて、いずれは完璧にデジタル化に切り替えたいと思います。私ももう10年後は後期高齢者になるぐらいの人間なのですが、我々は今普通に使っています。本当にあと4、5年するとガラッと変わる可能性もあるんですよね。
角:デジタル庁では「だれ一人取り残さない」ということが言われていますが、戦略はあるのでしょうか。
庄司:デジタル庁としては、「デザイン」に力を入れていくということが言われています。銀行のATMは高齢者の人も使えるので、そんな感じで本当に必要なものだけを残してそぎ落とす分かりやすさなどが重要ですね。
これは私の意見ですが、そもそもデジタルが難しい以前に行政が難しいと思うんですよ。たとえば年末調整の書類は説明部分がいっぱいあって、その全部を理解しないと書けない。このあたりの難しさをデジタルのデザインで吸収しようとしています。それから、私は「支える人を支える」という言葉を使っています。デジタルは人に厳しく冷たく使われるイメージもあるんですけど、人に優しく使うこともできるはずです。拡大するとか、読み上げるとかもありますし、高齢者に覚えてもらうのは大変かもしれないけど、高齢者に対応している介護職の方とか窓口の方がパワーアップしていれば、結局人に優しくできるはずなので、そうやって恩恵をみんなが受けられるようにしていくのが1つの考え方かなと思いますね。
角:なるほど。
鈴木:「年末調整の文章が分かりにくい」というお話がありましたけど、我々行政としても、行動経済学の「ナッジ」を導入して、色々文章を作ろうとか、結構模索が始まっています。
角:人に寄り添って、その人がどうやったら分かりやすく、理解しやすくなるかっていうことをデジタル云々以前にちゃんと考えるっていうこと。 そこもセットでやっていくっていうことが、1つの答えなんじゃないかっていうことですね。
コロナで浮き彫りになったことは、人間に寄り添うことの大事さっていうことだと思いますし、今までは物理的に近寄って寄り添うっていうことしかなかったのが、デジタルを通じて寄り添うことが可能になった。そして、その可能性がどんどん明らかになって、それがコストがかからないものであるが故にもっともっと広がっていけば、今後人口減少の課題を補って余りあるような良い国になる可能性も見えたセッションだったかと思います。皆さんどうもありがとうございました。
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