COTEN RADIOの深井龍之介さんとリベラルアーツや学び、歴史をダダしゃべりました 1/2
みなさん、COTEN RADIO聞いていますか? 2018年にスタートし、いまや大人気となった歴史系ポッドキャスト番組がCOTEN RADIOです。今回はそのパーソナリティである株式会社COTEN代表取締役CEOの深井龍之介さんに登場いただきました。
フィラメントは常々、新規事業やアイディエーションには「教養とムダ知識」が必要だと布教し、会社のポリシーにも加えています。フィラメントの角・宮内と繰り広げる「超雑談」をお楽しみください。
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角:フィラメントのCEOをしております、角です。関西学院大学文学部西洋史学科卒。高校は出雲高校卒でございます。よろしくお願いいたします。
深井:そうですか。同じ高校なんですね。
角:そうなんです。出雲高校卒の方とそもそもこういう感じでお会いするのってほとんどないので。
深井:僕もビジネスの現場ではほとんどないですね。ゲーム会社・アカツキのCEOだった塩田元規さんが2学年上にいるくらいで。
角:僕は当時は平田市に住んでいまして、なので一畑電鉄を使って電車通学をしていました。
深井:すごい。完全に地元ネタですね。
宮内:フィラメントという会社もさくっと補足しますと、新規事業のアイディエーションとか伴走支援みたいなのをやっている会社です。角がシニア起業した会社なので、普通に新規事業を開発するというよりも、リベラルアーツであったり、いろいろな知識を繋ぎ合わせるような役目を僕らがやって、イノベーションに繋げていこうみたいな、そんな感じでやっております。
そういう関係でカルチャー系のイベントとか記事とかを紹介するようにしているので、今日は歴史をテーマにやりたいなということで、深井さんにオファーさせていただきました。
角:僕が出雲高校だっていうことを言いたいばかりに会社の説明を飛ばしてしまいました。すみません。
深井:なかなかいないですからね。
角:僕は大学の頃は本当に歴史が好きで、ローマ史をやっていたんです。ポエニ戦争とか、古代ローマ史って奴隷制はあるわ、身分制はもちろんあるわ、なんかもう血なまぐさいじゃないですか。
深井:そうですね。
角:子どもが生まれるまでは、歴史の意義をちゃんとは考えていなかったんです。古代ローマからすると現代は、奴隷制も身分制もなくなっているし、人間の尊厳が大事だっていうことも知っているし、教育もめちゃくちゃ行き届いている。これって今まで生きてきた人類の先輩たちが、自分の人生をかけて死に物狂いで世の中を良くしてきた結果じゃないですか。
その時に、子どもが大きくなって、僕はいつか死んでいくけど、「あれ? 僕は人類の先輩たちのように、世の中を良くするためになんかしてきたんだっけ?」みたいな想いがちょっと去来しまして。そこから役所の中の新規事業の提案制度に応募したり、イノベーション創出を支援する部署に行ったりして、2015年に大阪市役所を辞めて起業したのがフィラメントなんですね。
深井:なるほど、すごいですね。大事件が起こったというよりも、内発的動機で起業されたんですね。
宮内:深井さんも歴史によって人生を変えられた経験みたいなのあるんですか?
深井:そういう意味では、たぶんめちゃくちゃ変えられています。僕は歴史はもちろん好きなんですけど、歴史に限らず「今の自分たちが持っている常識を疑えるような発見」がすごく好きなんです。今の自分の常識が常識ではなくなっていくという経験を通じて、自分というものがだいぶ変わってきているなという感覚がありますね。
宮内:何か具体的なエピソードはありますか?
深井:具体的ではないんですけど、歴史を勉強していると、現代ってどんな時代なんだろうっておぼろげに見えてくる感覚があって。現代って、完全に「過渡期」だなと思っているんです。人類史において哲学が出てくる条件ってあると思うんですけど、それって結構暇な時です。暇というのは仕事で毎日忙しいですとかいうレベルではなくて、ご飯を食べるのに困っていないとかそういう意味。
宮内:確かに現代人はみんな暇かも。
深井:あとはいろいろな異文化の情報が入ってきている時ですね。古代ギリシャのアテネもそうですし、ルネッサンスもそうだったんですけど、外部からの新しい考え方が入ってくるとか、いろいろな考え方の交差点になるような位置的条件とかが揃うと、哲学が生まれているなという感覚があります。これも今はインターネットの登場によって、ほとんど世界全体がこの条件を満たしていると思っています。
宮内:ここまで聞いて深井さんのメタ認知力に驚かされますね(笑)。
深井:あともう1つ。それは今まで通用してきた社会の一般法則とか原理とかが、どうやら通用しないってことが分かってくるタイミング。これはルネッサンスもフランス革命もそうですし、ギリシャのアテネでソフィストが出てきた時もそうなんですよ。ソフィストが出てきた時って、ペルシアが攻めてきていて、このままではやばいってことが分かっていた時。この状態が揃うと、人が「そもそも人間とは?」とかいうことを考え始めるんです。
宮内:めちゃくちゃおもしろい(笑)。
深井:おそらく現代はまさにその状態、「過渡期」。みんなが「人生とは」とか「自分の生きる意味とは」とかを、自由意志を持っている存在として主体的に考え始めている。
しかも識字率が非常に高いですから。ソフィストのギリシアの時代だと、ごく限られた一部のエリートだけがそういうことを考えていたわけですけど、現代は大卒もめっちゃ多いので、それを考える人たちが多いし、そして総じて困っている気がする。何に困っているかというと、そもそも論を考える思考パターンをまったく持っていないし、学んだことがないんですよ。なぜならばそれは人文学でしか学べない思考パターン。医学でも法学でも工学でもそこは司られていないんですね。
宮内:確かに効率性や経済合理性が、時代として求められすぎてきた感はありますね。
深井:これを勉強しとけばいいって分かっていた時代だから、そこまで遡らなくて良かった。だけど、どうやらそれでは幸せになれないことが分かってきて、遡らないといけないんだけど今のこのタイミングの人類ってごく少数の人しか遡るという思考方法を持っていない。それで、みんな困っているんだなと思っているんです。
角:なるほどな。物理や数学って今までの発見をずっと積み上げてきていますが、歴史ってそういう感じじゃないですもんね。
深井:歴史は非常に分かりやすくて、そもそも論を考えやすい題材です。なぜかというと自分と比べることができるからです。自分自身と自分が所属している社会と比べる対象になりうるケースパターンがたくさん出てくるので、現代だけを見ているよりも時系列の違う社会や人間を見た方が、分かりやすい。
そうすると、自分がどういう社会に生きているどういう人間なのかが分かってくる。それがさっきのそもそも論に返っていく時の大切な要素なので。それを定義し直さないと、そもそも論ってのはできない。それにはやっぱり歴史や哲学を勉強していく必要があって。多分みんなそのことにあまり気づいていない。
宮内:確かにそうですね。気づいてはいないけど、本屋に行くとリベラルアーツとかアートとかの本がたくさんある状態ですね。
深井:だからちょっとずつ分かってきているんですけど、言語化されていない。だからたぶん今リベラルアーツが大事になってきているのは、そういう理由ですね。
宮内:よく「アートの学び方を教えてください」って言われるんですけど、それを目的化しちゃうとあまり教えにくいなみたいなところがありますよね。COTEN RADIOはすごく学びやすいというか、これまでの難しい歴史の解釈というよりも、深井さんのフィルターを通した人物像であったり解釈の面白さ、人間味が伝わってきます。そもそもどうしてこんないいフォーマットができたんでしょうか?
深井:これは本当にたまたま運が良かったという感じです。ポッドキャストをやろうと思って始めたわけでもないですし、自分が好きなことを喋ったら思ったより人に聞かれたっていう。
角:COTEN RADIOを聞いていると、その時の歴史的な事実だけじゃなくて、「その背景としてこの社会では…」とか、「この事実は、この時代の感覚だとこうです」みたいな時代背景を入れてくださるじゃないですか。あれがめっちゃいいんですよね。
歴史ってケーススタディの積み重ねだと思うんですけど、時代によってパラメーターは変わっているわけですよね。社会の状況とか、経済の状況とか、その時の常識とかそういうパラメーターがどんどん変わっていっているから、今の常識で見ると解釈が違っちゃう。
深井:それも結局は、視点移動させるのがリベラルアーツの本質だと思っているからですね。これは言い換えると、1つの物事を複数の視点から同時に見ることができることだと思うんです。それができないと今までの常識をはずせないので。今までとは違う視点で同時に見ていくこと、その能力がまさに歴史を見る時に必要とされるわけです。今の常識から見てしまうとまったく理解ができないことを、視点を移動させて見ることで深く理解できる。歴史はそういう能力が鍛えられるし、それを実際に行うことができる良い題材にもなっていると思うんです。
角:COTEN RADIOを聞いていたら、例えば室町時代のその当時の人の気持ちに立つみたいなこともできるようになる感覚はありますよね。めっちゃ価値がある。ビジネスにおいても、相手の立場に立つってすごい大事じゃないですか。
深井:いろいろな思考方法で仕事できますね。
角:なので深井さんは思いやりの感覚を大切にしてらっしゃるのかなあ、って思ったりもしました。
深井:そこは、あんまり思いやりがあるタイプの人間じゃないなって自分では思っているんですけど…。
角:そうなんですか?
深井:人の立場に立つという思考方法はしていますけどね。
宮内:深井さんの高校時代のエピソードがCOTEN RADIOの番外編であがっているんですけど、めちゃめちゃ面白いです。
角:聞きたい聞きたい! 僕それ知らないです。
宮内:要は、相手の気持ちとかを理解できない人間だったみたいなことを振り返っていらっしゃる。
深井:そうですそうです。まったく理解していなかったんですよ、実際。
宮内:物事をロジックと構造で捉えているので、相手に酷いことでも事実を伝えるみたいなことを(笑)。
角:若い時ありがちなやつですね。
深井:はい。その程度が甚だしかったんですね。今はだいぶ気持ちが共感できるようになったな、と思いますけど。
宮内:話は戻りますけど、フィラメントはそうやって学び続けて起業したり、これまでの常識じゃなくもっと違う生き方をする人を応援したいなと思っていまして。学べない人も結構いるじゃないですか。そういう人にどうやって学びの良さを伝えていけるか、何か深井さんからヒントはありませんか?
深井:さっき言った条件、つまり1つの物事を複数の視点から同時に見ることができない人は、多分そもそも論に遡ることはあまりないかと思います。とはいえ物事を深く理解できないことに対する悩みを抱えている人はたくさんいると思うんです。要は潜在的ニーズは持っているんだけど学習に繋がっていない人。実は学ぶことによってそういう悩みが解消されるんだってことを知らないんですよね。
宮内:学びはつらいものだみたいな概念が先に立ってしまうんですよね。
深井:好奇心の赴くまま、まずは何か知るという喜びを知ってほしいですね。
宮内:役に立つと思ってやらないほうがいいみたいなこともありますか。
深井:手段としてやってしまうと手段にしかならないので。目的としての学習、学びを得ることが目的であるということですね。
宮内:イノベーションや新規事業をつくる時でも、それってすごい必要な要素ですよね。関係ないと思って切り捨てると絶対いいアイディアにならないと思います。
深井:だからビジネスにそれを活かしたい、そのために勉強してしまうとおかしくなっちゃうということですね。確かに活きるんだけど、好きなように勉強した方がよくて。そうすると結果的にほぼ確実に何かにつながってくるような感じですね。
宮内:フィラメントはそれを「面白がり力」という名前で定義していて。「面白がれる力がちょっと弱いよ!」とか、「面白がる力があの人強いよね」とか。そんな感じに表現すると学びが目的化すると思っています。
角:すぐ役に立つことを追い求めすぎなんですよね。「読んだらいいビジネス書はなんですか?」って聞かれることがありますけど、いやいや待て、と。読んだらいいビジネス書を読む以前に、すぐ役に立つことだけに囚われない方がいい。それにはたぶん、心の余裕がいりますよね。
深井:いりますね。あと本当に学ぶ喜びを知らないのが一番あるんですよね。
角:面白がり力ってこういうもんだと思っていまして。好奇心や感受性で物ごとを自分に取り入れて、能動性をもってそれを次に活かす、知性を獲得する力だよねってこと。要は、赤ちゃんがなんでも口にいれるやつですよってことで。だから学びと遊びは本当はイコールだと思うんですけど、「勉強」って「勉めるを強いる」って書くじゃないですか。僕らはあれを子どもの時にやらされすぎているんじゃないかと思っていて。本当は「学び=遊び」なんですよね。
あと、面白がり力って今、VUCAの時代と人生100年時代と終身雇用の崩壊が一緒にきているから、学びって継続しなくちゃいけないです。でも勉めるを強いるでは続かないよねと思っていて。みんなすぐ役に立つことにこだわりすぎていて、VUCAの時代なんだから今役に立っていることはすぐに役に立たなくなるから、知性の真ん中に「心の余裕」があったほうがいいよなって思うんです。
深井:すごくいいですね。でも本当に学びが遊びだっていう感覚が大事でしょうね。遊ぶっていう感覚でやらないと学びにならないって。勉強っていうと学校の勉強を思い出す人が多すぎる。僕も学校の勉強は別に好きではなかったので、やっぱり遊んでいるという感覚。
角:好きなものをやっている感じですよね、今でも。それが一番夢中になれるし、パフォーマンス上がりますもんね。
深井:本当にそうなんですよ。夢中になれるのがすごく大事で。僕の考え方とすごく近いなと思います。
【プロフィール】
深井龍之介(ふかい・りゅうのすけ)
株式会社COTEN 代表取締役。島根県出身、福岡在住。
新卒で入社した大手電機メーカーの経営企画を2年で退社し独立。新規事業立上コンサルタントとして3年働く。その後福岡でベンチャー企業取締役を2社経験し、株式会社COTENを起業。現在も複数社のスタートアップ・ベンチャー企業の取締役を兼任しながらCOTENの代表を務める。人文学・歴史・社会科学が大好き。3,500年分の世界史情報を体系的に整理し、200~300冊の本を読んで初めてわかるような社会や人間の傾向やパターンを、誰もが抽出できるように世界史の一大データベースを作成するプロジェクトを進行中。また会社の広報活動としてPodcastで「歴史を面白く学ぶCOTEN RADIO」を放送中で2018年末から開始し、2019年にはJapan Podcast Awards大賞とSpotify賞をダブル受賞。Apple Podcast総合ランキング過去最高1位を獲得。
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