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大企業同士の異業種共創は本当にうまくいくのか?商工中金×NTT東日本グループのオープンイノベーションプログラム『SAI』のキーマン達が語ったリアル

6月11日、「ARCH Toranomon Hills Incubation Center」にて、大企業同士の異業種共創をテーマにしたトークイベント『「SAIどうだったのよ」パネルセッション』が開催されました。
「Shokochukin All-Japan Innovation Program 彩(SAI)」は、商工中金が主催する異業種との共創を通じて新たな事業を創り出すための新規事業創出プログラムです。
初回は、NTT東日本グループ(NTT東日本およびNTT DXパートナー)と手を組み、2023年10月から6か月間のプログラムを実施しました。6つの混成チームを結成し、フィラメントが各チームにメンタリングなどの伴走支援を行いました。約半年間の活動を経て、2024年3月には最終成果発表のピッチイベントであるDemodayを開催しました。
本レポートでは、SAIプログラムの概要から、企業横断チームの編成、半年間の成果までをご紹介します。さらに、SAIに関わったキーマンの皆さんの率直な感想や社内の評判、直面した課題とその克服方法、そしてプログラムを通じて得られた気づきについてQ&A形式で掘り下げていきます。オープンイノベーションの最前線で起きている変革の息吹を、ぜひご覧ください。


株式会社フィラメント代表取締役 CEO 角勝(以下、角):『「SAIどうだったのよ」パネルセッション』を始めたいと思います。共創型オープンイノベーションプログラム「Shokochukin All-Japan Innovation Program 彩(SAI)」は商工中金がプロジェクトオーナーとしてNTT東日本と合同で行ったビジコンです。本日は複数社合同でのビジコンを実際にやってみた結果を包み隠さずお話します。よろしくお願いします。

まずは登壇者の皆さんの自己紹介から始めていきましょう。今回は「各企業の役員をはじめとした皆さん」「SAIのマネジメントなどに携わって現場をご覧になってきた皆さん」というそれぞれのポジションの方に各社からお越しいただいています。では、皆さん、自己紹介をお願いします。

株式会社 商工組合中央金庫 常務執行役員 山田真也 氏(以下、山田):本日はお集まりいただきありがとうございます。商工中金の山田と申します。商工中金は融資以外にも創造的な事業に取り組んでいこうということで、今回のSAIに取り組ませていただいております。

株式会社 商工組合中央金庫 経営企画部 未来デザイン室 オフィサー 佐藤宣幸 氏(以下、佐藤):商工中金の佐藤です。私は山田常務のもとで、SAIのプログラムマネジメント担当として企画進行をおこないながら、参加者のメンターとしても参加していました。今日は色んな現場の話をご提供できればと思います。よろしくお願いします。

NTT DXパートナー株式会社 代表取締役 長谷部豊 氏(以下、長谷部):NTT DXパートナーの長谷部です。NTT東日本グループ側の責任者として、NTT DXパートナーの私と、NTT東日本の常務取締役 遠藤がSAIの意思決定および責任者として参加しておりました。本日は私と遠藤の視点からお話をできればと思っています。よろしくお願いします。

NTT DXパートナー株式会社 企画総務部 シニアマネージャー 荒川淳一 氏(以下、荒川):NTT DXパートナーの荒川です。NTT DXパートナー側の事務局として、商工中金さんと運営に関するやりとりをしたり、NTT東日本とのやりとりをしたりといった窓口業務を担当しました。本日はよろしくお願いします。

株式会社フィラメント取締役 取締役COO 田中 悠(以下、田中):フィラメントの田中です。フィラメントはSAIの企画支援・プログラム全体の進行といった立場として関わらせていただきました。
今回は6チームがSAIに参加してくれたのですが、そのうち2チームのメンターも担当しました。企画支援とメンターの両方の立場からお話できればと思います。

角:皆さん、自己紹介ありがとうございました。本日モデレーターを務めさせていただきますフィラメントCEO角勝でございます。 
フィラメントは新規事業のビジネスコンテストをサポートする機会がすごく多いんですが、今回のSAIのように複数社合同で開催するビジネスコンテストをご支援するのは我々にとっても初めての取り組みでした。今回、私はモデレーターとして参加し、フィラメント田中が支援内容ついてメインで語らせていただきます。

共創型オープンイノベーションプログラム「Shokochukin All-Japan Innovation Program 彩(SAI)」の概要

自己紹介のあと、商工中金 佐藤氏より共創型オープンイノベーションプログラム「Shokochukin All-Japan Innovation Program 彩(SAI)」の概要について説明がありました。

株式会社 商工組合中央金庫 経営企画部 未来デザイン室 オフィサー 佐藤宣幸 氏

なぜ、社内ビジコンを複数回行っていた商工中金が他社との共創型オープンイノベーションを開催するに至ったのかなど、商工中金の目線からお話いただきました。以下に内容をまとめます。
(以下、本プログラムについては「SAI」と表記します)

・SAIに至るまでの流れ

商工中金ではSAI開催前となる2018年から社内ビジコンを実施していた。この頃は、社内イベントや風土改革といった目的で開催していたが、2022年からはフィラメントの伴走支援を活用しながら、しっかりと新規事業創出ができる人材を育てることに目的をシフト。

社内ビジコンの経験が蓄積されていく中で、ビジコンの運営としても参加者としても、次は社外の人々と共創していくプロジェクトに取り組むことで新たな成長を目指すということがアイデアとしてあがってきた。異業種とのコラボレーションにより、自社のみでは生み出されない新たなサービスが生み出せるのではないか?という思いを持って今回のSAIが始まっている。

・なぜ共創パートナーがNTT東日本グループだったのか?

SAIのパートナーとしてNTT東日本グループに参加いただいた理由は複数ある。非常に重要だったと感じる点は「会社としての目線が非常に似通っている」という点。両社とも「中小企業の皆様や地域社会の成長を支援する」という提供価値が共通している。一方で商工中金は金融業、NTT東日本グループの皆様は通信業という異なる提供価値を持っている。サービスの先に描きたいお客様の未来について共通する部分が多く、共創によって共感性の高い事業が生み出されやすいのではと感じた。

・企業横断チームの編成について

チーム編成については、商工中金はこれまでの社内ビジコン参加者のOBを軸にしてCEOの役割に適した12名を選出。NTT東日本グループは、技術力をビジネスに昇華できる力を持ったメンバー12名を選出。
それぞれからアサインされたメンバーをCEOとCTOに相当するようなイメージで各社2人ずつの4人1チームに編成し、合計6チームを作成。そして、これらのチームの事業創出支援を行う事務局といった枠組みで半年間取り組んだ。

事務局では社内調整、企業の情報の共有についての調整などをおこない、フィラメントは各チームが着想しているアイデアについて具体的なアドバイスをはじめとした前に進むためのサポートをおこない6チーム全体をけん引する役割を担った。

・半年間のプログラムでどこまで進んだのか

各社から2名ずつの合計4人1チームは初対面の状態からスタート。このチーム編成については、事務局とフィラメントで仮説を立てながら検討した。
CPF、顧客課題、ソリューションについて検証を終えてデモデイに至った。サービス検証を行うのは審査を終えてからという形になっている。

・SAIで最優秀賞を受賞したアイデアは?

「デポ休」というサービスが最優秀賞を受賞。どのチームも解像度の高い素晴らしいアイデアが並んでいた。今回最優秀賞を受賞したサービスは、物流業界のドライバーの方々が休憩地や荷待ちをする場所という部分に注目し、物流業界のお客様の駐車場や敷地を活用してパーキングスポットとしてシェアリングするサービスができないかという部分から着想を得てできあがったサービス。これから具体的なサービス検証に入っていく。こちらのデモデイの様子については、フィラメントオウンドメディアQUMZINEでも紹介されている。

Q1,SAIをやってみて、率直な感想&社内の評判を教えてください。

SAIの概要をご説明いただいたあとは、パネルディスカッション形式でSAIを振り返っていきます。事前にSAIに関する質問にお答えいただいた回答を紹介するスタイルでお話を伺っていきます。

角:では、最初の質問をお伺いしましょう。「SAIをやってみて、率直な感想&社内の評判を教えてください」というものなんですが、率直な感想をはじめ、社内の評判なども気になりますよね。まずは回答からご紹介しましょう。伴走支援をしていたフィラメントの田中としては、伴走支援をしてみての率直な感想という形になりますね。まずは商工中金の佐藤さんからもう少し詳しくお話いただいてよろしいでしょうか?

株式会社フィラメント代表取締役 CEO 角勝

佐藤:現場目線で見た時に改めて「NTT東日本グループのみなさんとやってよかった」と思ったんです。先ほどお話ししていた、どうしてNTT東日本グループのみなさんとパートナーを組んだかという理由の部分がまさに事業創出と人材育成の両方で実現できたと思っています。参加者の方からは「それぞれの企業でコミュニケーションも文化も全然違うなか、その違いを受け入れながら納得して1つのチームとして動いていくという部分が学べたのがよかった」っていう感想をいただいています。

角:最初は初対面ということもあって進めるのが難しい部分がありましたけど、そこから学ぶものがたくさんありましたね。商工中金の山田さんにそのあたりについてコメントいただいてもよろしいですか?

山田:NTT東日本グループのメンバーの方々は、コロナ後に入社した世代の方々がいらっしゃいました。我々銀行の営業は経営者の方との雑談から入り経営ニーズを探ることが多いのですが、NTT東日本グループの皆さんは「雑談ってなんですか」ってくらいの感じでした。これは極端なたとえですが、これぐらいギャップがあるメンバー同士がチームとして1つになって成長していくというのはすごく面白いと思いました。

株式会社 商工組合中央金庫 常務執行役員 山田真也 氏

角:文化の違いがどんな感じだったのかが今のでかなりイメージしていただけたかと思います。雑談も仕事のうちという文化もあれば、エンジニアリングでいろいろなものを作る文化もあるとなると、それぞれの文化や風土って全く違いますよね。

山田:今回は化学反応がうまく起きたなと率直に思います。

角:続いてはフィラメント田中さん、お願いします。

田中:「複雑系の難しさ」と書きました。物事ってパラメーターや変数が増えるとどんどん難しくなっていきますよね。最初は1個、2個って増えていたものが、急に10になって100になって……というのは常々感じてたんですけど、このSAIはそれを超えたなっていう感じがしました(笑)
1社でやるビジコンもいろいろな「参加者」や「部署」が参加していろいろなアイデア出されるという非常に複雑なものですけども、今回は2社が組み合わさることでいろいろな「文化」や「強み」が組み合わさっていました。こういった全然違う側面をどうやってチームとしてまとめていくかを考えながらビジネスアイデアを作っていくのは非常に難しいなと感じました。フィラメント社内でも私以外にその関わった人たちもみんな一様に「難しい」と言っていましたね。

角:変数が増えるほど難しくなるという感覚は僕も携わっていて思いました。
NTT DXパートナーの長谷部さんは「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」、荒川さんは「ペンキ塗りとワックスがけ」と回答していただいていますね。 

長谷部:社内の評判の部分で言うと、途中の評判ってあんまりあてにならないなと思っています。今回最後にアウトプットの発表をして、それを聞きに来てくれた周りの人たちや関係者の人たちからの評判は非常に良かったです。すごく安心しましたし、信じてやってきて良かったなと思っています。
「早く行きたければ〜」の回答については、率直な感想を書きました。私も新規事業をこれまでいろいろやってきて、課題解決のためにソリューションを考えるというのは1社でもいろいろやってきていますが、現在の社会課題を解決するにはかなり複雑なピースを組み合わせて構造的に変えていかなければなりません。その変化の道が険しくて一人で一直線に進むことが難しいときに、同じような目的に向かおうとするパートナーが最初からいるというのは心強いですね。

NTT DXパートナー株式会社 代表取締役 長谷部豊 氏

角:先ほどの佐藤さんにご説明いただいた概要のスライドにも「CEO・CTOの役割」というキーワードがあったように、今回の座組って何か足らないものがあるから補っていくという発想とは違いますよね。最初からチームとして役割分担を前提に組成されているものだったと思うんですが、まさにそれが今の長谷部さんの今のお話と一致しているなと思いました。
荒川さんの「ペンキ塗りとワックスがけ」についてもお伺いしてみましょう。

荒川:正直に言うと、SAIは順調にスタートしたわけではなくて、NTT東日本側では参加メンバーの上長は「今、本業の方も忙しいから」と結構渋りました。それを経て12人のメンバーが参加するに至ったんですけれども、参加した本人たちも「自分はSEなのにSAIは本業に役立つのか」とちょっと半信半疑のところがありました。
そんな状態の時に「ペンキ塗りをしろ」「とにかくワックスがけをやれ」といった感じで言われてやり始めるわけなんです。それが新規事業のアイデア創出を一通り経験する中でファシリテーション能力がすごく上がっていきました。本業の方でもお客さんと仕様確定の話をする時に「あれ?すごくファシリテーションができてる」という感じで問う力、聞く力が上がってるっていうのが本人も上司の皆さんも実感できたようです。

角:商工中金さんの「社長と雑談をするところから仕事」というのが伝わって、コミュニケーションの能力が上がった部分もあるんですかね?

荒川:そうですね。弊社の場合は営業がいてSEがいるという構造なので、営業というかコミュニケーションの部分も含めて主体的に経験できたのが良かったですね。

角:ちょっとここで、ペンキ塗りとワックスがけと『ベスト・キッド』という映画について解説させていただくとですね、『ベスト・キッド』という映画でいじめられっ子の少年が空手を学ぶことで心身ともに成長していくっていうのがあるんです。
その中で師匠にペンキ塗りとワックスがけをさせられるんですが、何の役に立つのか分からないままにやっていたら、 実はすごく強くなるのに役立っているっていう部分があるんです。そして 今、荒川さんおっしゃっていたのは、まさにそれと同じことだったと。「何のためにやってるのかわからん!」と思いながらやってるうちに「あれ?基礎体力めっちゃついてる!」みたいな感じのことが起こったということですよね。

荒川:その通りです。上長はメンバーを参加させることを渋ってたのに、最後はやけに褒めてくれてました(笑)

角:実務者としての生々しい話をズバっと言ってくれて本当にありがとうございます。 
最初は意味があるのかと思ったり、複雑系の難しさゆえに先を見込むことが難しかったりする中で1歩踏み出してみることで得られるものもたくさんあったというのが1つ目の質問の答えなのかなと思いました。

Q2,SAIをやってみて、難しいと感じたところとその乗り越え方を教えてください。

角:続いて2つ目の質問に移りましょう。まずは皆さんの回答をご紹介しまして、商工中金の佐藤さんからお答えいただきましょうか。

佐藤:最初に感じたのは、パートナー探索の難しさでした。その中で感じた大事なポイントは「会社の目線がしっかり合っていること」です。ビジコンや新規事業に対しての経験値であったり、リスクヘッジやトラブルシュートがお互いしやすい組織かどうかといった部分ですね。そういった共通点があるパートナーさんを見つけるのは難しいですが、やるべきだなと思います。
それから、それぞれの意思決定の部分にいる弊社の山田やNTT DXパートナーの長谷部さんがARCHのエグゼクティブサロンで元々繋がっていたことで、情報共有させていただきながら、二人で交流をしていただきつつSAIを見守っていただける状況が作れていたのも、運営側としては非常にありがたかったですね。

山田:もちろん、NTT東日本グループが大企業であるというところもあります。ただ、長谷部さんといろんな話をしていて長谷部さん自身の悩みや考えを聞いていたこともありましたし、それに加えて「目指すところがやっぱり一緒だ」となると、NTT東日本グループの社内ヒエラルキーをうまく説得できるだけの力も、そして情熱も持ってらっしゃるんで、一緒にいろんなことを乗り越えていけると感じました。

角:冒頭のスライドにビジョンやパーパスミッションに親和性があったとありましたが、それはチームビルディングの決め手だったのみではないということですね。そしてそれ以上に重要なものは、相手が信頼できる人間かっていうことだったりとかするということ。こういうお話が、経営層の方に来ていただいてセッションをしている醍醐味ですね。
続いて長谷部さんにもお話を伺いたいと思います。

長谷部:私は「これは何か得られるな。今まで越えられなかった壁を越えてブレイクスルーを起こせるんじゃないか」という直感があったので、とにかくいろんな人を説得していこうと進んでいました。でも、「総論は賛成で各論は反対」みたいな人が出てくるわけです。先ほどのお話にもありましたけど人の問題って1番大きいんですよね。「いいね、やろうよ」といってくれる人はたくさんいますが、「じゃあ何人の人を参加させられますか」という話になるとすぐにスタックしてしまうんですよね。かといって、どの部署にどんなメリットやアウトカムがあるのかというのはわからない部分もあるんです。こういったところで各組織で参加者を出す難しさはありました。で、その時に、人材育成といった越境学習的な要素というのは重要な視点になると思います。

角:ちなみに、NTT東日本グループ側からの参加者の方々は、SAIに関しては仕事として業務時間にカウントされる形なんでしょうか?

荒川:そうですね。

角:商工中金サイドはいかがですか?

佐藤:自己研鑽のための研修という枠組みで実施したので、原則として勤務時間外という扱いでした。

角:なるほどです。ではここでフィラメントサイドからのコメントも見てみましょう。「事前準備・想定外・想定外」とありますね。

田中:事前準備は当然どんなプロジェクトをやるにしても大切です。今回は商工中金さんのビジコン支援をさせていただいた経験も踏まえて、「きっとこうなるだろうな。そしてそこにNTT東日本さんたちが入ってくることでこのくらい難しくなるだろうな」と想定して準備をしていました。ただ、想像をかなり超えるような想定外がたくさん起きるんですよね。 そうなると、かなり柔軟に、今の状況から何がベストかを考えて対応していくというのを事務局と参加者の皆さんと協力してやらせていただきました。

角:具体的にどのようなことが想定外でしたか?

田中:たとえば、後半になってくると締め切りや年度末が近づいてきて、業務も忙しくなってきて参加者の皆さんが焦り始めるんですよ。その場合にはなるべく対面で話す機会を作っていくのがいいのかと思うんです。ただ、元々、SAIのプログラムは東京以外の場所から参加される方がおられたこともあり、ずっとオンラインでやるという設計にしていたので、それなら我々がオフィスに乗り込んでやろうとなりました。商工中金さんの本店とNTT東日本さんの本社へそれぞれ丸1日お邪魔して、「今日は朝から晩までフィラメントのメンバーがいるので、仕事の合間にちょっと話しませんか」という感じで皆さんと顔を合わせてお話させていただきました。そうすることで、なかなかオンラインだと話づらいとか、 他のチームがいる状況だと話しづらい、文字ではちょっと伝えづらいといったことを率直に聞くことができました。

株式会社フィラメント取締役 取締役COO 田中悠

角:チームの推進力を生むのはやっぱり難しいことだと思いましたね。そういった中で、腹を割ることの大切さも感じましたよね。

佐藤:先ほどのお話にもあったように業務時間扱いと研修時間扱いって形でチーム内で稼働できる時間が大きく異なる状況と、田中さんのお話のように基本的にオンラインでコミュニケーションで進めていく難しさ。このあたりがボトルネックになっていましたね。 それをどう折り合いつけるのかについて自分の状況や悩み事を打ち明けられたのは、フィラメントさんがそれぞれの会社にやってきてくれてたのが大きかったです。対面で、自由に活発に、発散しながら、愚痴でもなんでもいいのでひたすら話す時間が非常に大事でしたね。

角:荒川さんの「冷静と情熱のあいだ」も今の佐藤さんのお話と通じる部分があるのかなと思うのですがどうでしょう?

荒川:おっしゃる通りですね。やっぱり問題になったのは、チームで問題が起こっている時にどこまで事務局として介入すべきかという部分でした。人材育成という側面もありつつ、3月にはある程度発表できるまでにならなきゃいけないというところもあって、チームを見てるとつい口を出したくなったりしました。冷静でないといけなかったり、情熱的でないといけなかったり……皆さん他の会社さんとやる時にはぜひ各社の事務局同士でそのあたりを合わせておくのが良いと思います。今回は情熱の部分はフィラメントさんと商工中金さんがやってくれました。

角:素晴らしいですね。コミュニケーションと言いますか、どこまでいっても「やる人の問題」というのがネックになるのはすべてに共通していて、そのネックを解消すると一気に走り出すっていうことも同じなんだろうなと思いますね。 

Q3,SAIをやってみて、わかったこと、気づいたことがあれば教えてください。

角:最後の質問に移りましょう。SAIをやってみて、わかったこと、気づいたことがあれば教えてください。長谷部さんからお伺いしていいですか?

長谷部:今回、両社とも新規事業創出の取り組みは既に何度かあって、それぞれがノウハウを積み上げてきていたと思ってます。その両社が共同でSAIに取り組んだことで、これまでの経験値はありながらも、一旦自分たちの考え方を手放して互いのやり方でチャレンジしてみるということができました。変に妥協点を探るわけじゃなくて、葛藤はありながらもちょっとこの方法でやってみようというアンラーニングみたいな感覚だったのかなと思います。

角:自分たちの組織の常識にとらわれない経験ができるということですね。荒川さんの「無知の知」も似た雰囲気のご意見でしょうか?

荒川:私も社内ビジコンを何度かやっていたんですけど、どうしても似たソリューションが出てきてしまって限界を感じることもあったんです。それを今回、商工中金さんと一緒にやることで「商工中金さんから見る流通業ってそういう風に見えてんだ」「そんな見方もあるんだ」といった具合に自分たちまだまだ知らないんだなってことに気づけたのは非常に大きかったです。
それが本業にも活きたようで、今までずっとお会いしているお客さんに対して「実は違う課題や見え方があるんじゃないのか?」と考えられるようになったのが非常に大きいですね。

NTT DXパートナー株式会社 企画総務部 シニアマネージャー 荒川淳一 氏

角:なるほど。無知の知でありアンラーニングでもありますね。続いて、フィラメントの「人と組織を勇気づける」についても伺ってみましょう。

田中:「人と組織を勇気づける」というのはフィラメントのミッションの一部でもあるんですが、今回それを強く感じたのは、失敗をたくさんしなきゃいけない新規事業と、業務において失敗することがあまり許されてない大企業のギャップにおいてでした。「失敗していいんです。むしろ失敗する方が普通で何もしないのが一番良くない。失敗から学べばいいんです!」というのをどんどん話して勇気づける。一方で、今回は2つの会社が合同でやっているので「自分たちはそれでいいかもしれないけど相手はどうだろう」と探り始めると、「やっぱり失敗しちゃダメかな」と思う部分が出てきたように思います。
プログラムの中盤くらいで、長谷部さんや山田常務から参加者の皆さんに対して「こういう目的でSAIをやってるんだよね」という再確認や「人材育成の目的もあるよね」ということをお話いただいたことで、皆さんの発想や目の色が変わったと感じました。そうやって人を勇気づけていく気持ちを持ってちゃんと発信していくことが非常に重要だと今回改めて感じました。

角:そうやって勇気づけていただいた結果として、佐藤さんが書いてくれた「輝く人の宝庫」になったということですかね。

佐藤:そうですね。もっと簡単に言うと「餅は餅屋」ってことなんですけど。SAI終了後に参加者24人全員にヒアリングしたんです。そのときにNTT東日本グループの参加者の方々から言われたのは、「商工中金の参加者の経営者との距離感の近さ」でした。日常的な業務の中で聞ける経営者の声と全然レイヤーが違うということですね。
一方で、経営者の方々からのヒアリングを経て朧げにプロダクトをどう形作るか?というフェーズになった時から、NTT東日本の皆さんが本当に輝いていて。「こういった価値を提供したい」とスイッチが入った瞬間からのスピード感が尋常じゃなかったです。
そういった各社の強みをもって補い合える関係で、SAIを終えられたことから、 やっぱ餅は餅屋に頼ることが1番早いと感じました。

角:お互いの良さや強みがすごく濃厚にわかったんだろうなっていう感じがしますね。山田常務はいかがでしょうか?

山田:「傲慢と善良」ですかね。CEOになったらなんでもできちゃうみたいに思ってしまいますが、実はできることはほとんどない。技術とかいろいろなサポートを受けていかないと、新しいビジネスを作っていくって絶対できない。 この傲慢さに気づくことによって、善良さに磨きがかかるという点に気づきました。

角:会社としても個人レベルとしても言えることなんだろうなと思いますね。それに気付くことによって、やっぱ人間的な成長があって、指導者的な立場になる人が育っていくというプログラムにもなったかもしれません。
では最後に、会場の皆さんの質問をお受けする時間にしたいと思います。

質疑応答:SAIは継続するのか?最終的に知財と売り上げはどう扱うのか?

質問1:SAIを終えて、今後も継続していくのでしょうか?あるいは1社開催に戻すのでしょうか?

佐藤:NTT東日本グループの皆様とはSAI以外にもいろいろな共創施策が動き出しています。今後も若手層の育成や我々のアンラーニング、事業創出に向けたこのような機会は機械今後も設けることができればと思っています。

山田:「ビジコンの数をこなしていく」という発想は私の中には全くありません。いろいろな企業と共創していくことが重要なんですが、権利関係や損得勘定といった企業体同士のリスクはいつまでもつきまとう問題です。なので、あまり手広く展開していくという発想は持っていません。
今回はいろいろな縁が重なって本当にうまくいったケースを皆さんにお伝えしましたが、共創ビジコンの開催を推奨しているわけではないことを改めてお伝えさせていただけたらと思います。

質問2:今回は知財と売り上げをどのように扱うのでしょうか?当初は後から考えようというスタンスで始められたと思うのですが、今回のケースでは最終的にどうされたかを教えてください。

佐藤:シンプルにお伝えすると、知財は両社で共同保有し、開催後に単独で活用してもよいという形で整理して契約をして進めました。ここで生まれたアイデアを軸にして類似するサービスを作ることもOKで、成果として出てきたものは両社平等に使える形で終わりを迎えましょうという形です。
たとえば今回のビジコンで最優秀賞を受賞した「デポ休」のようなサービスですと、具体的にプロダクトの話も出てきます。こういった成果物やシステムに関しては、両社ともに今後独自のサービスを考えるたたき台として使えるという状況です。

角:あっという間に時間が経ってしまいましたね!今日は6名の皆さんにお越しいただき、貴重なお話をしていただきました。登壇者の皆さん、お聞きいただいた皆さん、ありがとうございました!


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