楽天大学・仲山がくちょに聞く、雑談から考えるこれからのビジネスの心得とは? ~新企画・雑談王~
コロナによって、オフィスに行かないリモートワークや会議のオンライン化など、私たちの働き方は大きく変容しました。そんな中、リモートワークでのツールの使い方といった話題は増えているのに、「雑談」や「ファシリテーション」の具体的ノウハウはあまり聞きません。そこで、「雑談王」と称して、雑談の極意や誤解、スキルをスペシャリストにご紹介いただく企画を考えました。
第一回目のゲストにお越しいただいたのは、楽天大学の仲山進也さん。
文字通り雑談について“雑談形式”で語っていただきます。
(取材・文/QUMZINE編集部、岩田庄平)
雑談には2種類ある
宮内:リモートワークについて、ZoomやMicrosoft Teamsといったツールの話は多いけれども、ファシリテーションや「雑談の仕方」といった話はあまりなく、そうしたソフトスキルについて考えることが、この回の趣旨です。
どうすれば、オンラインでもファシリテーション力を発揮したり、心理的安全性を高めたり、合意形成をはかることができるのかをお聞きしたいです。
仲山:最近よく「リモートワークには雑談が大事」という記事を目にしますよね。あれって、元をたどるとソニックガーデンの倉貫さん※が何年も前からずっと発信し続けている記事や書籍が源流になっているんじゃないかと思っています。それがコロナによるリモートワーク化で一気にいろんな人が「雑談が大事だ」と言い始めたことで、言葉だけがひとり歩きして「リモートワークは雑談をすればいい」みたいな風潮ができている気がしてモヤっとしています。そんなわけないですよね(笑)。
というわけで、いまは「何かが生まれる雑談と、生まれない雑談の違い」を話題にしたほうがいいタイミングではないかと思っているんです。
※倉貫 義人 氏
株式会社ソニックガーデンの創業者で代表取締役社長。ソニックガーデンでは、月額定額&成果契約の顧問サービス提供する新しい受託開発のビジネスモデル「納品のない受託開発」を展開。全社員リモートワーク、本社オフィスの撤廃、管理のない会社経営などさまざまな先進的な取り組みを実践。2015年の時点で書籍『リモートチームでうまくいく』を出版している。
角:倉貫義人さんの『ザッソウ 結果を出すチームの習慣の本』って本当によかったですよね。従来のホウレンソウ(報告・連絡・相談)に代えて、ザッソウ(雑談・相談)が大事だという。あれはもう全員読むべきだと思う。
仲山:『ザッソウ』はコロナの前(2019年8月)に出版されているので、リモートを前提にしているわけではなくて、オフィスで働いている人たちにとっても「ザッソウ(雑談・相談)」」が足りていないのでは、という話です。もしオフィスで雑談できていなかった人たちが、リモートになったからといって急に雑談を始めても「あの時間ムダじゃない?」ってなりますよね。
そうやって雑談にも「何かが生まれる雑談」と「何も生まれない雑談」があって、その違いはポイントが2つあると思っています。ひとつは、何かが生まれる雑談は、「この人たちには何が響きそうか」がお互いにわかっている関係性の中で交わされる雑談。何も生まれない雑談は、なんとなく探り合いながらするあたりさわりのない雑談。要はメンバーが「この顔ぶれだと、次、何の話題をすると面白くなるかな」ということをそれぞれ考えながらパス回ししている感じが大切です。
もうひとつは「チームになる必要性や可能性がある人たちと話しているかどうか」だと思うんですよね。将来的に一緒に何かをやろうとする関係の人たちだと、そこに向けた何かが生まれる雑談になりやすい。
角:みんなの出口のイメージが一致しているみたいな感じですよね。
仲山:「チームになるためのお題があるか、仕事があるか」というのは、よく考えると深い話で。僕の用語法で言うと「チーム」というのは「みんなで試行錯誤しながら、強みを生かした役割分担が決まっていって出来上がるもの」のことです。でも完全に分業で出来てしまう仕事って、振られたことを各自がきっちりやれば、別にメンバー同士で話す必要もないんですよね。つまり、「チーム」になる必要性がなくて、雑談の意味もあまりない。
角:実際多くの会社は、雑談の時間が終わったら「じゃあ仕事に戻ろうか」みたいになっている気がしますね。
仲山:だから、分業スタイルでオンとオフをきっちり分けたいタイプの人は、何かが生まれる雑談が苦手な可能性がありますよね。なんでこんな無駄な時間があるんだろう、みたいに感じるので。
雑談はよい影響を生むためのプロセス
宮内:コロナによっていきなりオンラインになったので、従来のオフラインのチームがそのままSlack上の1チャンネルになったり、Zoomでミーティングするようになったりして、「巷で雑談が大事と言っているけど、僕は口下手なんだけどな」って言いながらやっているケースもあるんじゃないのかって思っているんですけど。
仲山:「雑談させられる」みたいなパターンですよね(笑)。倉貫さんの『管理ゼロで成果はあがる』という本の中でも「ザッソウ(雑談・相談)は大事」と出てくるんですけど、最初に書かれているのは、「まずはちゃんと結果が出るように生産性をあげる」ということなんですよね。
角:結果が出るように生産性をあげることが大前提ですよね。
仲山:「生産性の低い人たちは、雑談とか言っている場合じゃない」という情報は広めないといけないと思います。
宮内:雑談が苦手な人ってチームリーダーでもいるじゃないですか。そういう人はどうすれば雑談ができるようになるんでしょうか?
仲山:「雑談が大事」というときの雑談とは何を目的にしているか、そこの解像度を上げるのがよいと思います。雑談の目的が「ムダ話をして仲良しになるため」ではなく「成果を上げるための手段」とわかれば、別に雑談で仕事に関することを話してもよいのだと気づけます。
角:雑談の本当の目的を知らないと、自分の好きなように解釈して、話があいまいになってしまいますよね。
仲山:それぞれの解釈でなんとなくやると「これ意味ある?」という話になりやすく、意味のある雑談まで駆逐されがち。1on1(※上司が部下の主体的な内省を促す目的で行う、人材育成の手法)も同じですね。ちゃんとやれば意味があるけど、お互いがやらされ感のある場合はムダな時間になりがち。
角:本質的な意味や価値を脇に置いて、形だけ真似するとそうなりますよね。
仲山:「雑談」がそうならないといいんですが。
【プロフィール】
仲山 進也(なかやま・しんや)
仲山考材株式会社 代表取締役
楽天株式会社 楽天大学学長
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期(社員約20 名)の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。
2004 年には「ヴィッセル神戸」公式ネットショップを立ち上げ、ファンとの交流を促進するスタイルでグッズ売上げを倍増。
2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立、オンラインコミュニティ型の学習プログラムを提供する。
2016〜2017年にかけて「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。
20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を探求している。
「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。
著書
『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』
『まんがでわかるECビジネス』
『組織にいながら、自由に働く。』
『あの会社はなぜ「違い」を生み出し続けられるのか』
『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』
『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』
『「ビジネス頭」の磨き方』
『楽天市場公式 ネットショップの教科書』
(これまで仲山さんにご登場いただいたQUMZINEの別記事はこちら)