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エール取締役・篠田真貴子さん、楽天大学・仲山がくちょが語る「聴く」ことのポテンシャルと重要性 ~雑談王・外伝~(後編)

こんにちは、フィラメントの宮内です!
オンラインの場面での「雑談」や「ファシリテーション」の具体的ノウハウをスペシャリストに聞く連続企画「雑談王」。おかげさまで各所にて好評をいただいてます。今回はその「外伝」ということで、「雑談=話す」とは逆の「聴く」にスポットをあててみました。ゲストにお越しいただいたのは、エール取締役の篠田真貴子さんと楽天大学の仲山進也学長(がくちょ)です。「話す」ことに目が行きがちなコミュニケーションスキルですが、「聴く」の可能性についてたっぷり語っていただきました。(取材・文/QUMZINE編集部 岩田庄平)

仮説を立てて訊いてみる

角:僕、フィラメントで、「面白がり力」強化プログラム※っていうワークショップをやっていて…

※「面白がり力」強化プログラム

篠田:そんなものがあるんですか?(笑)

角:はい(笑)。内容としては、まず、人の自慢話を聞いて、それをとにかく褒めるということを繰り返していきます。そのときの「褒める」ポイントは、「仮説を立てて訊く」ということです。

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これはいつも使っている資料ですが、褒めるコツは斜に構えないことが一番大事で。「建もの探訪」というテレビ番組があるんです。こだわりのある素敵な家を巡る番組なんですが、その進行役を務める渡辺篤史さんって自身の中にある経験やこだわりから、相手にフィットしそうな引き出しを当てにいくんです。僕は彼が日本で一番褒め上手だと思っています。建築家に頼んで家を建てる人って、めちゃめちゃこだわりがあるんですよ。でも、渡辺さんはそのこだわりポイントがどこなのかを見つけ出し、「ここ褒めて」と相手が思っているところを褒めるし、「ここ訊いて」というところをちゃんと訊く

でも、相手の引き出しに当てられるような自分の引き出しがないこともあるじゃないですか。その場合は、親和性の高そうな話題を自分の引き出しから取り出して、仮説を立てて訊くとうまくいくと思っています。

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聞き手の仮説が合っていれば、話し手は「そうなんだよ!」と言うし、違っていても「そう思うだろ? でも実は…!」みたいな感じで盛り上がる。でも結局は、相手に仮説を立てたということが伝われば、話し手は心地よくなり、つい話し込んじゃう法則があると思っています。

さっきの篠田さんとがくちょのお話から、これに近いのではないかと思って、「面白がり力強化プログラム」の宣伝もかねて出してみました(笑)。

篠田:そもそもなんでこういう研修を始められたのですか? なぜ、今聞いたかと言うと、単純にまず私は思いつかないなっていうのがあって。あえて仮説をたてるとしたら、おそらく私は無意識に褒めたり、質問したりするので、「褒め方を分析しよう」とは思わないんですよね。

角:最初は別の研修のアイスブレイクとして、「自慢し、褒める」をやっていたんですけど、いざ「褒めてください」って言っても、意外とうまく褒めることができない人が多くて。褒め方を教えるのが必要だと、奥の深さに気づいたのがきっかけですね。

じゃあ、日本一褒め上手な人は誰かと考えたときに、「建もの探訪」の渡辺篤史さんだと思いました。でも、多くの人は渡辺さんのように知識もなくて、相手が何を褒めてほしいか分からない。そんなときに、自分だったらどうするかを深堀りしたら、「仮説を立てて人の話を聞く」というところに行き着いたんです。

篠田:「褒めるを分解する」って角さんらしいです(笑)。私は褒めるよりも、面白いなと思って人の話をただ聴いていることが多いかな。

「聴く」と「好き」は表裏一体?

仲山:篠田さんにだと話したくなっちゃう理由の一つが、面白がって聴いてくれることだと思うんです。そして「この本にも同じようなことが書いてあって…」と付け足してくれるので、話し手は間接的に褒められた気分になるんですよ。質問される際にも「話をつなげよう、持たせよう」という質問ではなく、本当に自分の興味があることを聞いてくれる。だから、話したくなります。

篠田:実は、複数の人に「どんな質問でも一生懸命に答えますよね。中には的外れな質問もあると思うんですけど、質問を受けているとき、何を考えられてますか?」と聞かれたことがあるんです。でも私は、この人はなぜこの質問をするのかということを考えるので、どんな質問にもすごく興味がわくんです。だから質問の背景をもっと知りたくて、逆質問もしちゃいます。そうやって掘り下げていくと、聞き手の動機が分かるから、その人にあった回答ができる。もしかしたら、「分かりたい、理解したい」っていう欲求が、人よりも強いのかもしれないですね。

仲山:よくある残念なリアクションは、「なるほど、わかります」とかしか言ってくれないことですよね。でも篠田さんは自分がどう理解したかを説明してくれるんですよ。日経ビジネスの鼎談の時がまさにそうでしたが、話し手が自分の中で言語化していない表現を使われることが多いから、「その表現いただき!」みたいなことになりますよね。

例えば、その鼎談では、「リモートワークにもリモート分業とリモートチームワークという2つの種類があって、リモート分業はマネージャーが分担をすべて決めて仕事を振ることで、リモートチームワークはみんなで分け方も決めながら仕事をやっていくことだ」みたいな話をしたときに、

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「仕事の面白さって、うすぼんやりしたお題をどうやって分けるのかに詰まっているよね」って、篠田さんがその話題をどう自分が理解したのかを説明してくれたんですよ。その表現がすごく新しくて、そのあと自分の言葉のように「仕事って分けるところに面白さがあるんです」って使わせてもらっています(笑)。

篠田:そうなんだ!私、いいこと言ってますね。ちょっと忘れてた(笑)。

仲山:話し手としても、聞き手がどう理解したのかが分からないと、本当に伝わったのかが分からないまま話し続けないといけないから、繰り返しが多くなったりしがちでちょっとつまらない。

篠田:今の文脈でいうと、自分なりの「分かった」と思える水準みたいなものがあって、そこに到達するまで質問し続ける、ということを無意識にやってるのかも。それを受け止めてくれる人は面白がってくれるんでしょうね。

自分の中の「分かった」と思える基準のひとつは、「その人の本当の動機を感じられるか」ということだと思います。当然、他人だから私と興味関心も全然違う。だからこそ、興味を持った経緯やワクワクしてしまう気持ち、動機の源まで触れることができたら、とても面白い。だから質問するときは、そこを触りに行きたいと思って聞いています。

角:「面白がり力」強化プログラムも、人に興味を持つことを目的の1つにしています。いろんなことを聞いていたら、その人のことを好きになって、「もっと知りたい」みたいな感覚になると思うんです。僕も初対面で「この人面白いな」みたいなところから入って、その人がなぜ面白いのかを知りたくて、仮説を立てて聞いている側面もあるんですよね。それをやっていると、大体仲良くなれるんですよ。

篠田:私も以前、角さんと同じようなことを考えたことがあります。相手の話に共感できるメカニズムって、基本的にその人を好きであったり、好きになろうという意思と共にあると思っています。だから、循環する話だと思っていて。興味を持つから好きになるし、好きだから興味が持てると思うんですよ。例えば、あまり好きじゃない人が趣味の話をしている時、それが自分の興味のない内容だと「心のシャッター、ガラガラ」って降ろしたくなっちゃうじゃないですか(笑)。

でも好きな人の話は、「何があなたをそうさせるのか」ということにすごい興味があるから、聴こうとする。テーマ自体はさほど興味なかったことでも、ね。自分の経験と照らして考えても、人を肯定的にとらえることと、好奇心を持って話を聴くことって、結構近いところにあるのかなと思います。

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角:僕は公務員を20年やっていましたが、すごく閉ざされた世界なんですよね。癒着になってはいけないから、民間の人と一緒にプロジェクトをやっても、打ち上げには一緒に行けないし、派遣社員と仕事の話はできるけど、それ以外の話はダメみたいな場所でした。

だから公務員人生の最後の職場で、「イノベーション創出支援」という外部の人と話す仕事のときは本当に楽しかったですね。「誰にでも絶対尊敬できるところがあるから、それを探し当てる!」みたいな気持ちで、交流していて。だからなのか、そのときに知り合った人とは今でも仲がいいですね。この気持ちは今でも変わっていなくて、今日も篠田さんとお話できること、仲山さんが仲良くしてくれること、こんな僥倖が世の中あるのかって思いましたもんね(笑)。

仲山:僥倖って(笑)。

角:世間知らずの元公務員にいろいろ教えてくださって、語らう場まで作ってもらえて、日々感謝しています。僕も、そこでの内容をとことんまで噛みしめるように理解したいと思っているので、篠田さんが相手を分かりたいと思われる気持ちがものすごくよくわかる。

コミュニケーションの主導権は「聴き手」にある

仲山:コミュニケーションって、実は「聴き手」のほうが主導権を持っているんですよ。そう思っている人はあまりいないと思うけど(笑)。例えばいわゆる「言葉のオウム返し」も、相手のどの単語を繰り返すかで次の展開が変わるじゃないですか。だから、「コミュニケーションって、聴き手が主導権も持っているんだ!」ということに気が付くと、人の話を聴ける人が増えると思います。

篠田:まさに!私も、聴き手が主導権を持てると思います。私が「聴く」場合、コンサルティングでいうところのフレームワークを意識してますね。例えば「起承転結」というフレームワークがあります。話を聴く中でまだ「起」の部分しか話してもらっていないと思えば、「それでどうなったの?」と「承」を促す。さらに「とはいえ、うまくいかないこともあるでしょ?」と「転」にもっていく。そして、最後に経験からの学びや振り返りを「結」として相手に話してもらうと、話し手のストーリーの良さを引き出しながら、結果的に聴き手が対話を形作ることができる。このように、光の当て方次第で対話が大きく変わるので、対話は聴き手がデザインできる気がしますね。

角:全然、そんなこと考えて「聴いた」ことはなかったですね(笑)。とはいえ時間がない中で、答えづらい変な質問を受けることもあるじゃないですか。そういった質問を受けたときに何か工夫していることってありますか?

仲山:大学生協の掲示板の質問に対する返答が面白いから話題になっていたのってご存知ですか?

角:知っています! 大学生協職員の白石さんですよね。※

※『生協の白石さん』/白石昌則(著)

仲山:そうです。白石さんの回答こそが「沿いつつずらす」の達人技だと僕は思っています。
掲示板の質問の中には、変な質問もあるわけですよ。白石さんはそれらに対して、質問者が想定しているであろう内容から絶妙にずらして、期待値を超える回答をされるんですけど。それと同じで変な質問だなと思ったら、沿いつつ、いい具合にあえて曲解して回答する工夫をしています。

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篠田:私は、登壇しているときと少人数のときでは、意識していることが違います。登壇しているときは、質問者だけでなく、参加者全員が聞き手ということを意識していますね。そして、その答えづらい質問を参加者の方との対話のきっかけにさせて頂く。

少人数のときは、時間がないと思ってしまうと相手の話をちゃんと聴けなくなってしまうので、本当に盛り上がっているときは、あとの予定を調整してでも残りますね。それが難しいときは、続きの約束をして、時間いっぱい楽しみます。

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でもどんな質問でも、よく「聴く」ことによって、こちらも新しい発見が多いんですよ。誰しも自分の知っているフレームでしか物事を理解出来ない。変な質問だと感じてしまうのは、相手のフレームが自分のと違うからだと思うんです。相手の質問の意図をしっかり聴いていくと、どこかで自分の知っているフレームに繋がる。そこまで行ったら、私は「私の知っているフレームに引き寄せてあなたの話をこう理解したんですけど、合っています?」という風に質問をしている感じですね。

それが読んだ本を例にとるときもあるし、自分が経験したことから返すこともある。そういうことを繰り返すと、また自分の知識として、知っているフレームが広がっていく。だから、これからも私は「聴く」ことを大切にしていくと思います。

角:篠田さんに話を聴いてもらうと、質問の中から、篠田さんの知識という「宇宙の背景放射」を浴びるので、話し手も新たな気づきがあるんでしょうね。そして、それが楽しい。「聴く」ことの重要性が身に染みてわかりました!

仲山:話を聴いているうちに、記事を元にした解説が全然できないまま終わってしまいました(笑)。

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【プロフィール】

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篠田 真貴子(しのだ・まきこ)
エール株式会社 取締役


慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008 年 12 月より 2018 年 11 月まで(株)ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を経て、2020年3月より社外人材によるオンライン 1on 1 を提供するエール株式会社の取締役に就任。(株)メルカリ社外取締役、学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン評議員、認定特定非営利活動法人かものはしプロジェクト理事。「ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」監訳。


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仲山 進也(なかやま・しんや)
仲山考材株式会社 代表取締役
楽天株式会社 楽天大学学長

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期(社員約20 名)の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。
2004 年には「ヴィッセル神戸」公式ネットショップを立ち上げ、ファンとの交流を促進するスタイルでグッズ売上げを倍増。
2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立、オンラインコミュニティ型の学習プログラムを提供する。
2016〜2017年にかけて「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。
20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を探求している。
「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。

著書
『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』
『まんがでわかるECビジネス』
『組織にいながら、自由に働く。』
『あの会社はなぜ「違い」を生み出し続けられるのか』
『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』
『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』
『「ビジネス頭」の磨き方』
『楽天市場公式 ネットショップの教科書』

(仲山さんにご登場いただいたQUMZINEの「雑談王」シリーズはこちら)


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