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エール取締役・篠田真貴子さん、楽天大学・仲山がくちょが語る「聴く」ことのポテンシャルと重要性 ~雑談王・外伝~(前編)

こんにちは、フィラメントの宮内です!
オンラインの場面での「雑談」や「ファシリテーション」の具体的ノウハウをスペシャリストに聞く連続企画「雑談王」。おかげさまで各所にて好評をいただいてます。今回はその「外伝」ということで、「雑談=話す」とは逆の「聴く」にスポットをあててみました。ゲストにお越しいただいたのは、エール取締役の篠田真貴子さんと楽天大学の仲山進也学長(がくちょ)です。「話す」ことに目が行きがちなコミュニケーションスキルですが、「聴く」の可能性についてたっぷり語っていただきました。(取材・文/QUMZINE編集部 岩田庄平)

ある夜、突然企画は立ち上がり‥

角:がくちょ(※仲山学長)、篠田さん、今日は急遽このような会にお集まりいただき、ありがとうございます。今回の鼎談が開催した成り行きってなんでしたっけ?

篠田:がくちょが私の「聴く」について、倉貫さん(ソニックガーデン代表・倉貫義人氏)と3人でやった鼎談の記事をネタに全部解説できるって言ってくれたんですよね。

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仲山:篠田さんも参加してくれた、リモートチームビルディングの集まりを開いたのですが、いつもだったら篠田さんが話し始めそうだなと思う場面でも話されず、あえて聴き手に回っているオーラを感じたんです。それは、「聴かれた体験」を大切にする会社(※エール株式会社)に入ったことが大きいのかなと思いつつ、でも、コーチングの勉強を始めた人が話をやたら聴こうとする感じとかでもなかったんですね。

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篠田さんの「聴く力」って守破離でいうと、「離」のレベルだと思っていて、篠田さん独自の聴き方が確立しているんですよね。でも、篠田さん自身はそれをあまり自覚していないと仰っていて(笑)。

だから、僕は「篠田さんの聴く力」について、「鼎談の記事を使って解説できますよ」とお伝えしました。「この篠田さんのコメントはこういうことですよね」ってすべて解説できますと(笑)。

角:篠田さんの変化を分かるのもすごい観察眼ですよね。仲山さん、さすがです。

篠田:そんなの聴いてみたいに決まっているから、「その解説、聴きたい」と言ったら、「せっかくなので、イベントか何かにしますか」とがくちょから提案されまして。でも、その話って私以外、聴きたい人がいないだろうなと思っていたら、「ちょっといいところを知っているんです」とまた連絡を頂いて。

仲山:はい(笑)。それで、即座にフィラメントさんにパスを回させていただきました(笑)。夜中の時間帯なのに全員、メッセの返しの速さがすごくて。思いついてから10分くらいでこの会が決まりましたよね。

篠田:面白がり力がすごい(笑)

角:僕らって、面白そうなことへの反射速度がとにかく速いんですよね。そこがなにより売りでして。

篠田さんにとっての「聴く」とは?

角:篠田さんの「聴く」ということについて、エール株式会社に入ってから自分の行動をどのように変えたのかを聞きたいです。

篠田:以前は人の話へカットインするのが早すぎたな、と反省しているんです。今は、すぐに思ったことを言うのではなく、1分くらい我慢するようにしています。私って、話を聴いていると、その話題と似た事象や他で教えてもらった事柄をパッと思い出すことがよくあるんですが、今まではそれをすぐに相手に伝えていました。でもエールに入ってからは、聴くことによって話がもっと広がる可能性を知りましたね。相手の話にすぐカットインするのではなく、聴く時間を増やすことで、相手の話の中からまた新たなネタが出てきて、自分の中での繋がりが複数個になるかもしれないと期待していたりして。

1分間待っても相手から新たなネタが出なかったら、そこまでの会話の中で繋がった話をすればいいわけです。逆に新たなネタが出てきたら、さらに面白さが増すじゃないですか。ここがチューニングを変えてみた結果、わかってきたことですね。

角:より面白くなるかもしれないから、1拍泳がせてみるみたいな感じですね。変えてみて、手応えはいかがですか?

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篠田:思惑通り、ちょっと待っていると新しい話題が出てくることが多くて。私も繋がりを思いついてからさらにもう一度考えるので、急いでカットインするよりも、話が面白くなる確率が高い気がします。でも、自分が何をはじめに言おうとしたかを忘れてしまう恐れもあって(笑)。メモっておいたり、記憶の奥に残したりしながら同時に聴くので、頭に負荷がかかりますね。

「聴くこと」のポテンシャルについて

篠田:ヤフーさんをはじめとする多くの企業が1on1をやられていますが、話をちゃんと「聴く」ことって、人材開発や組織開発の文脈で語られることが多いじゃないですか。でも実は、話をちゃんと「聴く」ってことは、事業の成功や経営戦略の実行の要になる話で、いわゆる人事だけの話ではないと気づいたんです。

具体的には、「聴く」ということができると、相手と心理的関係性がフラットになると思うんですよ。これができていないと、私が何かアイデアを持っていて、角さんに話してみたときに、自分の考えと全く違うことを言われたら、「ええ!?」みたいにちょっとムッとして、「私の話を聞きなさいよ」という気持ちになってしまうこともあると思うんです。そうすると、どっちが会話のイニシアチブを取るのか、という力関係になってしまい、「どっちの案を取るか」といった着地点に会話が向きやすい。

でも自分の意見はさておき、一旦話を聴こうという考えが持てると、「この人の知識や経験を踏まえれば、そういう話になるよね」ということが感じられる。そうすることで、フラットになりやすい。だから着地点を見出すときも、「私のアイデアが合っていて、あなたは違う」という議論ではなく、「じゃあここからどうしましょうか」といった新しいことを考える議論になりやすいと思うんです。

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イノベーションって異なる複数のアイデアが結合して生まれる、という定義じゃないですか。そう考えると、複数のアイデアを結合させることって結局は、人の心理とか頭脳をかけ合わせるので、フラットな関係性の対話抜きにイノベーションは無理だと思うんですよね。逆にいうと、相手の話を聴くことができる人がいるチーム、あるいは「人の話を聴こうよ」というのが当たり前のカルチャーになっているチームじゃないと、イノベーションを起こすことは無理だろうというところまで考えが進みました。だから、「聴く」ってビジネスにも直結する話なんですよね。

仲山:チームビルディングの話にも通じますね。

篠田:チームビルディングも理解の浅い人が聞くと、「なんとなくモチベーションが上がって仕事がうまくいく」ということばかり考えてしまいます。でも本質は、チームビルディングを意識することで、新しい発見や今まで意識しなかった情報をキャッチできるようになるということなんです。こうやって、ちゃんと聴くことで何が起こるかの本質を理解することがすごく大事だと思います。

「聴くこと」はSDGsである

篠田:さらに、もう一枚大きな風呂敷を広げると「聴く」ことってSDGsとも関係していると思っています。SDGsって社会全体で協力しながら、「持続可能な経済と社会開発をしていきましょう」という目標と17のゴールを国連が示したものですよね。でも企業や組織の中に専門部署などを作ってSDGsを推進しようとするだけでは、足りないと思うんです。

組織って、自分たちの事業達成のために、組織の内側に人やお金、情報を集めるもの。つまり定義上、組織の内と外は断絶することを前提にしている。そして、組織や企業はそれぞれの目的に沿って一生懸命事業を行った結果、意図せず、ひどい労働環境や環境汚染、経済格差を生んで、SDGsとは正反対の状況を作ってしまった歴史があります。

だからこそ、組織の内側の論理で独りよがりになってしまわずに、外側の情報や価値観をうまく橋渡しをして視野を広げることが大切なんです。それがSDGsを推進し、問題を解決していくために必要です。

角:なるほど。

篠田:そして、それを実行するために必要なのが、「聴く」というスキルですよね。ちゃんと「聴く」ことできれば、現場でもSDGs的な視点で判断していくことができる。そして、その集積として組織全体が社会全体の方向と、ずれにくいジャッジができるようになるはずです。だから、SDGSの専門部署を作ればいいわけでは全くなくて、組織全体がちゃんと「聴く」ことを意識する必要があると思うんです。

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もちろん、自律的な人材、組織を作るということについても「聴く」ってすごく大事なんですけど、「聴く」のポテンシャルがそれだけだと思うと、もったいないと最近は考えています。

角:すごくよくわかります。篠田さんが人の話を本に繋げて解釈されるように、僕はすぐ漫画に繋げちゃうんですけど(笑)。昔、読んだ『鈴木先生』※という中学校の先生が主人公の漫画があって、もめ事が起こったときの話し合いで、生徒の親御さんが言うセリフがすごく本質的だなと思っていて、今でも心の中に残っています。

「問題が起こったときは、犯人捜しをして、原因の特定ばかりに目が行きがちだが、それは結局、自説を通して他人を落とす論戦になってしまう。そうではないところに本質があるのではないか。」みたいなことを言われるんですよ。

※『鈴木先生』/武富健治(著)

若い頃の僕は、会議で「自説を通して他人を落とす」みたいなことをよくしてしまっていたので、この漫画が自分の振る舞いを変えようって思うきっかけでした。そして今、篠田さんの話を聞いて、改めて「聴く」って大切だなと思いました。

篠田:具体的な仕事の場面を思い浮かべれば、旧来の角さんスタイルのように、自説を押し通すことが絶対必要な場面もあると思います。

でもよく考えてみると、「話す」ことに関してはプレゼンでの話し方、クライアントと1対1のときの話し方など、さまざまなレパートリーを学ぶ機会がありますよね。それに比べると、「聴く」というのは何も教わってないから意識に上らないんですよね。

「コミュニケーションで困っています」とか「コミュニケーションをもっと良くしたい」っていう人って、話すことばかりに意識が向いてしまうんです。でも、これまで私たちが教わってきたコミュニケーションって、まさに「自説を通すため」のやり方なんですね。だから、「聴き方」のバリエーションを持つと、コミュニケーションスタイルに幅が出せるようになります。それを知らずにいる人が多い。

「沿いつつずらす」こそ、コミュニケーションの奥義

角:篠田さんって、人に気持ちよく話をさせる達人みたいな感じですよね。

仲山:なんかついつい話しちゃうんですよね。

篠田:それは皆さんが面白いからですよ(笑)。

仲山:角さんもきっとそうですけど、人前で話す機会が多い人って、何度も話して練度が高くなっているネタがあるんですよ。だから、インタビューでよくある質問をされると、いつものネタを話して終わる感じになる。だけど、篠田さんは、僕がいつもの話をしていても、絶妙なタイミングで「あの本を思い出した」みたいなカットインを入れてくれて、お決まりのフレーズじゃない展開になっていく。

角:わかります、わかります。

仲山:コミュニケーション力の高い人って「沿いつつずらす」※のがうまい人だと思うんです。これは、斎藤孝さんの書籍からの言葉なんですけど、「自分が言ったことに気持ちよく沿ってくれて、かつ、気持ちよくずらしてくれる」と相手がもっと話したくなる。そして、篠田さんはその「沿い力」と「ずらし力」がすごく絶妙なんです。

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※『コミュニケーション力』/齋藤 孝(著)

角:「沿いつつずらす」って確かに面白いですね。

篠田:ここの最大のポイントは、この「沿いつつずらす」って言葉を私が今、初めて聞いたことだと思うんですよ(笑)。でも、今まで何も考えていなかった人が「ここは沿って、今はずらそう」って意識しすぎてコミュニケーションを取ってしまうと、多分ぎこちなくなってしまいますよね。

仲山:構造が分かっても再現するのが難しいですよね。知ったからといって、すぐできるという事にはならない。

2/2につづく


【プロフィール】

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篠田 真貴子(しのだ・まきこ)
エール株式会社 取締役


慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルバニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008 年 12 月より 2018 年 11 月まで(株)ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を経て、2020年3月より社外人材によるオンライン 1on 1 を提供するエール株式会社の取締役に就任。(株)メルカリ社外取締役、学校法人ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン評議員、認定特定非営利活動法人かものはしプロジェクト理事。「ALLIANCE アライアンス―――人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用」監訳。


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仲山 進也(なかやま・しんや)
仲山考材株式会社 代表取締役
楽天株式会社 楽天大学学長

慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期(社員約20 名)の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立、人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。
2004 年には「ヴィッセル神戸」公式ネットショップを立ち上げ、ファンとの交流を促進するスタイルでグッズ売上げを倍増。
2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年には自らの会社である仲山考材株式会社を設立、オンラインコミュニティ型の学習プログラムを提供する。
2016〜2017年にかけて「横浜F・マリノス」とプロ契約、コーチ向け・ジュニアユース向けの育成プログラムを実施。
20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を探求している。
「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。

著書
『サッカーとビジネスのプロが明かす育成の本質』
『まんがでわかるECビジネス』
『組織にいながら、自由に働く。』
『あの会社はなぜ「違い」を生み出し続けられるのか』
『あのお店はなぜ消耗戦を抜け出せたのか』
『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』
『「ビジネス頭」の磨き方』
『楽天市場公式 ネットショップの教科書』

(仲山さんにご登場いただいたQUMZINEの「雑談王」シリーズはこちら)


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