「本は人生の味方」!NHKプロフェッショナルでも特集された、いわた書店の「1万円選書」を実際に注文してみました
いわた書店の「1万円選書」とは
いわた書店は北海道砂川市にある個人書店。いわゆる「町の本屋さん」ですね。1年に数日間だけオープンになる申し込みフォームから申し込むと、毎月抽選が行われ、当選者には店主から「選書カルテ」が届きます。これに答えると、その情報をもとに店主があった本を1万円の予算で選び、代金を振り込むことで本が配送されます。
2014年にテレビ朝日の深夜番組に取り上げられ、2018年にはNHKのプロフェッショナルで特集されたことで、一気にブレイクしました。プロフェッショナル放送後の一番多かった年には7753通の応募があったそう。一過性のブームで終わってしまうこともなく、今年は3701通の応募があったとのことです。SNSでは「3年応募し続けてようやく当選した」という声も見かけました。
当選から本が届くまで
私は今年の10月に初めて応募したのですが、翌月となる11月分になんとあっさり当選。正確な当選者数は公開されていませんが、毎月数十人程度が当選するようです。11月頭には本が発送されたので、応募した人の中でもおそらく最短で発送まで完了したのではないかと思います。
当選すると、「選書カルテ」のWordファイルがメールに添付されてきます。フォーマットはA4で3枚。印象に残った本20冊と「何歳の時の自分が好きですか?」や「これまでの人生でうれしかったことは?」、「上手に歳をとることができると思いますか?」、「あなたにとって幸福とはなんですか?」など、これまでの人生を振り返るような質問が並んでいます(プレジデントオンラインにより詳しい質問事項が掲載されています)。このほかにも、家族構成や仕事の内容など、応募者の人生に深く関わるようなことを記入する欄があります。カルテにはなるべく詳しく書くよう求められていたこともあり、気づけば12枚にもなっていました。あまりに個人的な内容のため、具体的に何を書いたかについては秘密にさせてください。
カルテを入力後、メールを返送すると、十日ほど経って、店主から選書結果のリストがメールで送られてきました。メールには店主から心のこもったメッセージも書かれています。メールでのやりとりなので、店主には会ったこともありませんが、自分の人生について多少なりとも知られている人からのメッセージですから、なかなか刺さる内容となっています。
ちなみに、選書リストを見て、すでに読んだことのある本があれば、別の本を紹介してくれます。今回はどの本も読んでいないものだったので、そのまま了承しました。本の代金と送料を合わせた金額を銀行に振り込みました。しばらく待つと本が北海道からはるばる届きます。自分の場合、北海道から東京までなので、ちょっと送料はお高めでした。
包みの中には、本の他に、おそらく全員に送られているであろう店主と砂川市長からのメッセージ(ともに印刷されたもの)が入っていました。店主からのメッセージには、いわた書店のこれまでの歩みが書かれています。
10冊の本が選書されました
今回選書された本は以下の通りです。タイトルだけ並べてもどんな本かわかりにくいので、Amazonの説明文を引用します。本の感想を添えたいところなのですが、届いた直後でどれもまだ読めていないため、書けません。
エンド・オブ・ライフ 佐々涼子
京の大工棟梁と七人の職人衆 笠井一子
嗤う伊右衛門 京極夏彦
月まで三キロ 伊与原新
心の傷を癒すということ 安克昌
霧のむこうに住みたい 須賀敦子
田村はまだか 朝倉かすみ
楽園のカンヴァス 原田マハ
カーテンコール! 加納朋子
へろへろ ──雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々 鹿子裕文
選書される本について
SNSなどを見ていると、同じようにどんな本を選書されたか掲載している人が多くいます。それらの投稿を見てみると、選書される本の多くは小説や随筆のようです。少なくとも、ビジネス書を選書されたという人は見たことがありません。
また、どうやら多くの人に選んでいる本もいくつかあるようです。私に選んでいただいた本でいうと、『へろへろ』『カーテンコール!』『田村はまだか』がそれにあたります。この他にも『パリのすてきなおじさん』『にげてさがして』などの本もよく選ばれているように思いました。ちなみに、『カーテンコール!』は巻末の解説にいわた書店店主の文章が載っており、本の帯にも引用されています。上に引用した紹介文にも「一万円選書」の文言が見られます。
「マネ会 仕事」によると、選書される本について、店主の岩田さんは、すべて自分で読んだことのある本であり、この下敷きとなっている本への知識は、一万円選書がブレイクする約10年前から担当していた、地元の新聞の書評欄に書くための読書によるそうです。特定のジャンルに偏らず幅広い内容の本を10年間、毎年約150冊の本を読み込んでいた計算になるとのことで、その膨大な本の知識をもとに、人に寄り添い、選書するサービスこそがこの「一万円選書」ということになります。また、ベストセラーではなく、「あまり知られてないけど良い本」を提案するようにしているそうです。
本屋に行くと、よく売上ランキングで1位の本が紹介されていますが、必ずしもその本が自分にとって面白く感じるかはわかりません。本を知り尽くした店主が、自分にあった本を紹介してくれるとなれば、「自分ではまず選ばないものの、実は自分に合う」という本と出会うきっかけになるかもしれません。
「1万円選書」はコト消費
「1万円選書」のことを初めて知った時は「1万円も知らない本をいっぺんに買うのは高いな」と思いました。Amazonなら条件付きですが送料も無料で、お急ぎ便なら遅くても翌日には届いています。でも、実はむしろ安いんですよね。先述した通り、店主は大量の本を読み込んで、書かれたカルテを基にオススメの本を紹介してくれるわけですから言わば「本のコンサルティング」をしているわけです。しかし本と送料代しかお支払いしていないので、事実上このコンサルティング料が無料。この安さに気付いた時、すぐに申し込みました。
また、選んだ本を買うだけならモノ消費と思いがちなのですが、実際にやってみて、これはコト消費だなと感じました。
Amazonで本を購入するときは、「1クリック購入」のボタンをタップするだけで、翌日には本が届きます。もはや自動販売機のようです。しかし、1万円選書で本を購入するためにはいくつかのステップがあります。
この一連の体験こそが「1万円選書」の醍醐味であり、これが良いのだなと感じました。ちなみに、選書理由が特に書かれているわけではありません。本こそが店主からのメッセージなのです。
自分の場合、「短編集を好む」と書いていたので、短編集が選ばれていたのは理解できるのですが、京極夏彦の作品や京都の職人に関する本が選ばれた理由は、まだ読んでいない現時点ではわかりません。きっと読んでいくうちに理由がわかるのかもしれませんね。
北海道にあるいわた書店は、かつては多くの書店と同じように配本されてくる本を並べているだけだったものの、一万円選書がブレイクしてからは一万円選書でよく選んでいる書籍を並べたり、自分が売りたい本を並べるようにしたそうです。本の置き場を確保するために、新刊やベストセラー、漫画や雑誌の売り場も減らしたとのこと(「マネ会 仕事」による)。よくある書店の品揃えと大きく違うことが想像できます。最近では、一万円選書の噂を聞きつけて、国内外の観光客が書店に訪れるそうですよ。
地元企業とコラボグッズも
最近では、いわた書店と地元企業がコラボレーションしてオリジナルのグッズもいくつか出しているようです。
今回は取材費で1万円選書を注文したのですが、私費で購入したのがこちら。
右は砂川市にあるカフェ「MEDERU」と組んで発売した「本を読むときの珈琲」。手書き風のパッケージがおしゃれですね。
そして左は、砂川市に本社のある馬具メーカー「ソメスサドル」と組んで制作して作られたレザー製のしおり。「一万円選書」「本は人生の味方」という標語が入っているのが気に入ったので購入しました。レザー製の文庫本カバーも発売されています。
この他にも、今年になって砂川市の美容室「BONDS」と組んで作った「本を読むときのハンドクリーム」も発売されました。小説『虹いろ図書館のへびおとこ』の世界にある商品で、ハンドクリームのチューブの表面に書き下ろしの物語が載っているそうです。ユニークですね。
終わりに
まさにAmazonなどと逆張りするこの「一万円選書」。随所で人間味を感じて良いサービスだなと感じました。普段ビジネス本や流行の本ばかり読んでいて小説などを読めていない人には特にオススメです。
次回の申し込み受付時期はまだ明らかになっていませんが、例年10月が多いようです。申し込みを検討している人は、いわた書店の公式サイトを時々チェックすることをおすすめします。
文字数の関係上紹介できませんが、「一万円選書」の始まりもユニークで面白いのでぜひ「プレジデントオンライン」の記事もお読みください。
また「急いでないけど自分の知らない本を読みたい」という方は、以前執筆した選書サービスの記事もご参考にされてください。
さて、どの本から読み始めましょうかね…?