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コロナ禍で大活躍の医療ITベンチャー「アルム」坂野哲平氏|2017講演アーカイブ 2/3

コロナ禍の医療業界で、テクノロジーの力を用いてめざましい活躍を続ける人がいます。医療ベンチャー企業・株式会社アルム代表取締役の坂野哲平さんです。アルムが開発した新型コロナウイルス対策サービスは、現在自治体にも導入され、市民の命を救うために活用されています。
今回は、2017年12月13日に大阪で開催されたTheDECKエッジセミナー「情報リテラシーの勝利 -ICT医療-」での坂野さんの講演を収録した貴重なアーカイブ記事を3回に分けてお届けします。

*本記事は、2018年3月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。

2017年11月21日、ヘルスケアをテーマにしたイベント「Smartphone and Beyond 2017 vol.3 」が東京で開催されました。
その時にご登壇いただいたアルム坂野さんの講演に感銘を受けた角が、「ぜひ関西でも!」とラブコールを送り、12月13日にTheDECKエッジセミナー「情報リテラシーの勝利 -ICT医療-」を開催。
更に当日参加できず「話を聞きたかった!」という声が多かったため、ご講演頂いた内容を3回に分けてダイジェスト版としてお送りします。

保険適用までの道のり

2015年4月に第1種製造販売業の許認可を取り、同年7月に汎用画像診断装置用プログラム Joinの医療機器認証を取得しましたが、その2ヶ月後には、もう「公的保険制度で認めてください」と保険適用の申請をしています。その3ヶ月後には、中央社会保険医療協議会という日本の公的保険制度を決めている有識者会議があるのですが、そこでプレゼンを行いました。

 2016年1月に3社でプレゼンを行い、3社とも保険適用が認められましたが、5時に結果をもらって、5時半には中国から「買収させてください」と電話がかかって来ました(笑)

 新規の枠で認められたのは、弊社と、サイバーダインというロボットスーツの会社と、もう1社の3社だけです。

 保険適用は、「今あるものに劣っていないので認めてください」というのは通りやすいんです。同じ枠の中に入れるだけなら、医療費も上がらないから。

 しかし、新しいものの保険適用を認めるというのは、その分の医療費も上がり、他の予算を削らないといけなくなるので、ものすごく狭き門なんです。

 保険の改定って、2年に1度しかないんですよ。それなのに、プレゼンに残ったのは3社しかいないんです。

 厚労省への新規の保険適用の申請は、1日4-5件あるそうです。単純計算すると、4-500社が申請して、通ったのは3社ということになります。

申請で必ず必要な2つのこと

 私はセミナーで医療機器プログラムの保険適用の話をさせてもらうときに、既存の枠で行くならいいけど、新規で何かを認めさせるのは大変だから、諦めた方がいいって最初にはっきりと言います。

 でも、公的保険制度は関係なく、医療機関にいいものとして売る分には、どんどんやればいいんじゃないかと。

 厚労省に申請する上では、「臨床上の効果」と「医療経済上の効果」の2つは必ず出す必要があります。

 私たちは、「早く治療した方がいい結果が出る」という論文を探して引用しました。

 また、実際に使ってみてどうかというデータも出さないといけません。

 私たちは東京慈恵会医科大学と連携して実証試験を行い、アプリの使用前後を比較し、「診療時間」「医療費」「入院日数」「死亡率」の変化に関する実証結果を出してもらいました。それを厚生労働省にプレゼンしました。

 また、このアプリは患者の生死などの機密情報などが入っているので、セキュリティの担保も証明する必要がありました。しかし、当時の薬事認証審査過程にはセキュリティ項目はありませんでした。新しい領域なので、審査する機関もなければプロセスもありません。それはおかしいのではと訴えたところ、やぶ蛇なのですが、「それならお前が作れ」という話になりまして、申請書類に含めました。

地域全体の医療で使って欲しい

 プレゼン後の夕方に、紙1枚で「Joinを保険適用に入れます」と書かれたものを渡されました。しかし、それだけでは、営業資料も作れませんし、どう営業活動すればいいいのかもわかりません。そこで、「何点かとか、誰に使っていいかとか、どれくらいの範囲の患者さんに使っていいかがわからないのですが」と担当者に伝えたところ、「改訂のタイミングで公表されますのでそれを待ってください」と言われました。

 改訂に合わせた保険点数表の公表が 4月1日。保険適用が決定した50日後でした(笑)

 内容としては、脳卒中患者をケアする体制や設備が整う医療施設としての保険点数加算に必要であった、5年以上の経験のある医師が常駐という条件が、モバイルアプリなどを使い夜間休日などにも常時上級医と連携できる体制があれば3年以上の医師でもいいよという施設基準の緩和、そして夜間休日に急患患者さんがたくさんきたときに、モバイルアプリで院外から画像診断していいという規制緩和の2点です。

 こちらとしては、転院したときも使って欲しいという申請をしたのですが、それは認められませんでした。地域全体としてみたときに、お互いに違う病院の医師同士が、相談しあえた方が、地域全体で患者を支えることができるのでは? という考えで申請したのですが、回答は「その考えは(医療業界には)馴染まない」というものでした。

 私としては、もっと適用範囲を拡大して欲しい、脳卒中の画像診断だけではなく、循環器など他の分野でも認めさせたいと考えています。

 そのためにはデータが必要ですが「いいと思う、一緒にやろう」と言ってくれる臨床現場のドクターが増えています。

 例えば、北海道のある大学が発表した事例ですが、転院から手術開始まで最大3時間程度かかっていたのを、転院前の病院から患者の画像を送ることで、どれくらい手術までの時間が短縮されたかというデータです。最短だと8分になったそうです。

(会場からどよめきが起こる)

 それはつまり、救急車で転院してくる前に、手術室を準備し、ストレッチャーごと直接手術室に入れている、ということです。

 今までは一度救急医が受けて、検査して、診断して、その結果手術しようという判断をし、それから手術手術の準備をしていた。個人差などにより患者によって異なる形状の機器が必要になる手術では、院内に在庫がないこともあり、診断後にメーカーから取り寄せたりもしていた。それだと最低でも1時間半はかかっていたそうです。

救急搬送を短縮化する「Fast-ED」

 私たちは、先ほど説明した4つのステージに合わせて、Join以外にも複数ソフトを作ることにしました。

1)早期発見
2)トリアージ・救急搬送
3)専門医診断
4)病院内治療

 この4つを連携させ、共有できた方が、より診断や治療の時間が短くなるからです。こちらからいくつか紹介します。

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まずは「Fast-ED」という、基本的に救急隊員の方が使うアプリです。

 このアプリに患者の症状、意識障害があるかどうか、いつ発症したかと言ったデータを入力すると、「脳血管障害が発生している確率」がスコアで表示されます。

 さらにスコアや距離によって適切と考えられる近隣の搬送候補先病院のリストが表示され、搬送ルートが表示されます。

 また、Joinを持っている医師の元には、救急隊員が入力したデータや救急車で計測した心電図などのデータが送られてきます。

 今までは、救急部の医師または看護師が電話を受けて、救急隊員の話を聞きます。そして自分の病院では受け入れられないとなったら、たらい回しにされるわけです。実は救急車は現地に到着してから発車するまでに30分くらいかかるんです。

 でも、心臓って5分止まったら死にますよね。脳や心臓の領域は、早く搬送を開始して、適切な病院に送らないといけません。このアプリを使えば、救急のドクターや看護師を挟まずに、受け入れ側の専門の領域の先生の判断を直接仰ぐことができ、受け入れまでの時間が短縮されます。

 国内では残念ながら和歌山市しか対応できていませんが、アメリカやブラジルではすでに導入されています。

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こちらはシカゴの事例ですが、救急車の移動の軌跡が見えています。病院側ではあと何分程度で救急車が到着するのか、どんな患者が到着するかがわかるようになっています。

患者のためのアプリ「MySOS」

 これまで、医師のアプリ「Join」、救急隊員のアプリ「Fast-ED」を紹介しましたが、もう一つのアプリ「MySOS」は患者や一般ユーザ向けのアプリになります。こちらも、「生存率を上げる」をテーマにしています。

 MySOSは、目の前に人が倒れていた時にどうするかをサポートします。「反応があるか」「呼吸しているか」などの確認画面が表示され、入力に応じて、近くにあるAEDや救急病院の情報を調べたり、救急救命講習を受けている人を呼び出すことができます。

 また、出血が多い時に血を止める方法など、応急処置のコンテンツも無料で用意しています。小児科に行くべきかどうかの判断に迷う場合の相談窓口もあります。

 さらに、血液型や既往歴、服薬歴、かかりつけ医といった、自分自身のデータや、検診結果も登録できます。

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 例えば脳梗塞になった時に、過去の脳梗塞の有無、また腫瘍の有無で治療方法が異なる場合があります。過去のデータがなく、例えば「このデータだけでは判断できないので、半年後にもう一度データを取りましよう」となった場合、その半年後には手遅れになって、「あなたは余命何ヶ月です」というのもあり得ます。ですので、自分が過去のデータを持っていることはすごく大事なんです。

データを患者の手に取り戻す

 なんらかの理由でこれまで通っていたところとは違う病院に行くことになった場合、紹介状をもらう必要があります。でも、紹介状の中身は封筒に入れられて、「開けないでください」と書いていることもあります。

 なぜそうなるかというと、後で問題になる可能性があるからです。別の医療機関で診察を受けたときに、何か見落としがあった場合、患者や本人にそこを責められたくないからです。診察データを患者に見せることは、リスクが高いのです。

 でも、「そろそろ患者にデータを返そうよ」ということで、我々のシステムと、病院側のデータ、そして検診センターのデータをリアルにつなぐことに取り組んでいます。

患者が検査画像のデータを医師依頼

医師が「Join」にある画像データのQRコードをスマートフォンに表示

患者が自分のスマートフォンにある「MySOS」で画像データを読み込む

患者が転院先の医療機関で「MySOS」のQRコードを提示

転院先の医師が自分のスマートフォンにある「Join」で画像データを読み込む

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 これが今までだと、「もう一度1から検査しましょう、1ヶ月後にMRIを撮影します。結果には1週間かかりますので、診断結果は5週間後です」となることもありうるわけです。

 2017年から複数の大学と連携して、この診察データの受け渡しの臨床研究を始めています。

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*本記事は、2018年3月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。

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