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コロナ禍で大活躍の医療ITベンチャー「アルム」坂野哲平氏|2017講演アーカイブ 3/3

コロナ禍の医療業界で、テクノロジーの力を用いてめざましい活躍を続ける人がいます。医療ベンチャー企業・株式会社アルム代表取締役の坂野哲平さんです。アルムが開発した新型コロナウイルス対策サービスは、現在自治体にも導入され、市民の命を救うために活用されています。
今回は、2017年12月13日に大阪で開催されたTheDECKエッジセミナー「情報リテラシーの勝利 -ICT医療-」での坂野さんの講演を収録した貴重なアーカイブ記事を3回に分けてお届けします。

*本記事は、2018年3月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。

2017年11月21日、ヘルスケアをテーマにしたイベント「Smartphone and Beyond 2017 vol.3 」が東京で開催されました。
その時にご登壇いただいたアルム坂野さんの講演に感銘を受けた角が、「ぜひ関西でも!」とラブコールを送り、12月13日にTheDECKエッジセミナー「情報リテラシーの勝利 -ICT医療-」を開催。
更に当日参加できず「話を聞きたかった!」という声が多かったため、ご講演頂いた内容を3回に分けてダイジェスト版としてお送りします。

無視できない米国の医療事情

 日本の医療市場は、世界の8%と言われています。だいたい米国が43%、その次はドイツの7%、イギリスが6%、フランスやイタリアが5%、中国はまだ4%ですが、ものすごい勢いで伸びています。

 ですので、医療系のベンチャーが海外展開をしようとしたときは、「米国をどうするか」がという話になります。

 私が米国で営業したときの感覚ですが、初めて病院に行って予算に入り込めるまでに、だいたい最低6ヶ月はかかります。導入実績が全くない場合は2年です。

 東海岸や西海岸など、エリアによって文化や考え方が異なりますが、例外なく特徴として言えるのは、人件費が日本よりも圧倒的に高いということです。

 日本では東大を出ても、最初の年収は500万や600万ということもありますが、スタンフォード大学を出ると、年収2,000万から3,000万でのスタートになります。営業マンも1,500万からのスタートです。

 また、交通の便で言いますと、隣町でも車で5時間はかかります。そのため移動は基本的に飛行機ですが、飛行機代も高くつくので、時間がかかるし、交通費もかかるし、人件費もかかるというのが実情です。

 でも、投資家から資金を集めるにあたり、「米国はお金がかかるのでやりません」と言った途端、「じゃあさようなら」と去ってしまいます。ですので、米国でどうやって売り上げるか、というのを前提に、資金調達する必要があります。


日本にまともな医療ファンドがない理由

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日本にはまだまだ医療に特化したファンドがありませんが、米国の場合は医療専門のファンドが多く存在し、ステージも分かれています。

「特許を取ったばかりで、これから臨床試験をします」というところに出資するファンドもあれば、臨床試験の途中で出資するファンドもありますし、臨床試験が終わった後に出資するファンドもあります。

日本で資金調達するよりも、米国で資金調達する方が、お金が集まるのが現状です。

 と言うのも、日本では医療ベンチャーの成功事例がまだほとんどありません。

 医療ファンド自体がなければ、資金を出すファンドもありませんし、出す資金もないのです。

 成功事例ができて、みんなそこにお金を突っ込む。そのサイクルがないのは医療ベンチャーがないことが原因だと考えています。

日本の医療産業全体を盛り上げたい

 また、日本のベンチャーキャピタルと、米国のベンチャーキャピタルでは、出すお金の桁が3つ違います。

 米国のファンドでは、そもそも決裁権のある人しか交渉の場に出てきません。プロセスも考え方も、日本とは違います。

 あとは、米国のファンドは、すでに散々いろいろな医療ベンチャーに投資しており、同じグループ会社に保険会社や医薬品会社を持っているところもあります。

 ですので、買収した時に会社のP/L(損益計算書)や売り上げではなく、自分たちのグループ会社の商品に加えたら、どれだけ売り上げや利益が上がるのかを重視します。

 つまり、会社自体ではなく、会社が持っている製品のポテンシャルでで価値を図るわけです。

 価値基準が日本とは違います。ベンチャーからすれば、会社の売り上げと利益しか見てくれないファンドに売るより、そちらに自分たちの製品を売りたくなりますよね。

 そういうファンドが日本にない、と言うのが実情です。

 そんな中弊社は日本の医療市場で、業許可取得し医療機器開発の末、ソフトの認証の取得や保険適用された実績を得ました。そこまでやったベンチャーってほとんどありません。

 そのノウハウを閉じ込めておくにはもったいないと考え、お話ししています。

 医療産業自体を盛り上げていくことが、まずは大事だと私は考えています。

子会社化してリスク回避

 グローバルに医療機器の開発をしようとすると、どうしても米国の市場を見なければない、そして人件費、交通費、臨床試験にかかるお金は日本の約3倍、という話をしました。

 そのリスクを下げる方法はないの? とよくいろいろな人から質問を受けるのでお話しします。

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我々は、この事業がうまくいきそうだとなったタイミングで、子会社化しています。

 治験をやっている間は、製品を世に出せません、博打です。もし失敗したら会社が吹っ飛びます。ですので、子会社化してリスク分散しています。医療機器の開発領域ごとに会社を作り、医療法人を別で作ります。

 せっかくなので、もう少しビジネスモデルの話をさせてもらいます。

 海外で、最初はアプリを病院に売っていたんですよ。でも営業効率がめちゃくちゃ悪いので、やめることにしました。

 最初は、医者一人あたり月間いくらと金額を決めて販売していましたが、それはやめて、アプリは無料で配ってしまうことにしたんです。日本だと法律上難しいのですが。

 特に発展途上の国では、専門医が全く足りておらず、必要なのにできてない治療がたくさんあります。そこで、アプリを無料で提供して、医師をネットワークでつなぎます。

 例えば、ブラジルの場合、サンパウロはまだ医師が足りていますが、地方都市に行けば、この領域の医師はゼロ、ということがあります。医師がネットワークで繋がることで、これまでは命を落としていた患者に対し、適切な薬を投与したり、適切な手術ができる医師を派遣することができます。

 そうすると、誰が一番儲かるでしょうか? それは、手術をした時に使うカテーテルを扱う医療機器の会社や、血栓の薬を販売する製薬会社です。そこで、製薬会社や医療機器会社に販売するように、戦略を変えました。そしたらこの戦略が大ヒットしたんです。

 今までは、1病院ずつ説得に行ったものの「これは良いアプリだね。だけど病院上、こういう決裁のプロセスがあるので6ヶ月後に来てくれ」という話で終わっていました。それがすぐに導入するという流れになり、さらに導入や説明のため派遣する看護師の費用を、医療機器開発会社や製薬会社が負担してくれることになりました。それだけ彼らの売り上げが目に見えて増えたんです。

 さらに、今までは製薬会社や医療機器会社も、飛行機代をかけて病院に営業していました。それがうちのアプリを導入してからは営業の必要がなくなったので、人件費を節約できるというメリットも生まれたんです。

AIで脳卒中・心卒中を予測

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現在、アルムではAIの開発を行っています。

 過去の脳血管疾患の画像データを機械学習させることで、「この人は脳梗塞です」「脳内出血がおきています」と言うのをAIに判断させます。

 画像を見た瞬間に、今起こっていることを判断させるというのは、既にいろいろなところで研究されていますが、我々がやっているのは、過去のデータや、今のバイタルのデータをもとに「このあとどうなるかを予測する」ということです。

 発症時間からこれだけ経過している、今はここの血管が詰まっている、この人は将来的にはどこまでの神経細胞が壊死して、どれくらい生活が悪化するか、医療費がいくらかかるかをAIで予測する、という研究しています。

新しい保険の取り組み

 また、「無料の保険」という取り組みも始めています。

 これは、申し込みは無料で一定期間終了後に継続する場合だけお金を払ってくださいという仕組みですが、かなりの人たちが継続しています。その保険料をアプリケーションの収益にした方が、アプリケーション自体を有料にするよりも圧倒的に利益が高いんです。これも日本で初めての取り組みです。

 また、「MySOS」で健康診断の結果と連携し、健康状態に合わせたおすすめの保険をリコメンドする、という試みも検討しています。。こちらも日本で初めての取り組みです。

 私は医療市場は誰でも参入できると思っています。アルムもいろいろとトライアンドエラーを繰り返しながらやっていますが、「諦めなければなんとかなる」というのをいつも申しあげています。

 日本のITベンチャーの平均売却価格は5億円と言われています。米国はその約70倍です。米国市場を見ないとお金も集まらないし、タイミングも遅れるし、リスクも高くなるし、売却価格も下がってしまいます。今は売却まで時間がかかりますが、売却までのステージはどんどん早くなって来ています。踏ん張れば70倍で売れる、というのを、どうとらえるかという話だと私は思います。

本日はありがとうございました。

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*本記事は、2018年3月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。

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