ツール以上に重要!? 河原あずさん・藤田祐司さんに聞く、ファシリテーションの極意 ~雑談王~ (後編)
オンラインの場面における「雑談」や「ファシリテーション」の具体的ノウハウを、スペシャリストにお伺いする連続企画「雑談王」。第二回目のゲスト、Potageの河原あずさんと、Peatixの藤田祐司さんによる後編です。新著『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』が好評の2人だけに、オンラインイベントでの工夫についての驚くほど具体的なTipsで話は盛り上がります。さらにコロナ後の社会や地域の話題にも。「ファシリテーション」についての本質が垣間見れる後編、どうぞお楽しみください。(取材・文/QUMZINE編集部、本田 恵理)
状況変化への適応力
宮内:例えば、自分の会社のことしか考えてないで今まで生きてきたような人に、いきなりリモートで「雑談しろ」っていうのもけっこう難しい話ですよね。各地で、悲惨な事例を、聞いたりもします。
藤田:ハレーションしかないでしょうね。
角:けれど、本業のことしかやってこなかった人なんているんでしょうかね。
宮内:どうなんでしょうね。地域差とかもあるんでしょうかね? 例えば、東京と関西の違いとか。
河原:関西の人はやっぱりコミュニケーションを作るのが上手な気がします。東京の人は一方通行な喋りとかでも、頭のいい人は頭のいい喋りをしてしまいがち。だけど、そうでない、バトミントンのラリーみたいな会話を作ることって、やっぱり高スキルなんですよ。関西の方ってその辺りをナチュラルにされるじゃないですか。
角:たしかに、関西の人はツッコまれる隙をわざと作る感じはありますね。
藤田:コミュニケーションとしての余白をね。きちんと作れるんですよね。
宮内:会社でのチームづくりとしても、心理的安全性が生まれますよね。
河原:いわゆる「優秀なビジネスパーソン」ほど、隙を見せまいとするんですよ。それがやっぱり、話しかけづらさに繋がる。会話のリレーが続かない状態になっちゃうから、結局雑談が続かないということになる。さらに、オンラインだと、”同じ「場所」を共有する”という、これまで暗黙に、無意識になされていた文化の共有ができないわけで。そうすると結局は言語コミュニケーションに頼らざるを得ない。そこで生じるギャップが、やっぱりいろんなところでハレーションを生んでいるんじゃないですかね。そのあたり、Peatixはいかがですか?
藤田:Peatixはもともと、個人に任せる部分がすごく大きいですね。たとえば僕のチームだと、コミュニティマネージャーの人たちは、チーム内の人にも「自由に動いて欲しい」と思っている。それぞれの外の活動についても全力で応援する。例えば、「イベントをやるから休みます」みたいなことも、「全然OK!全力で頑張って!」みたいな感じなので(笑)。クライアントや主催者に還元できる経験を得ることができるので、ガンガン自律的に動いてもらっていますね。
角:たしかに、イベントを扱っている会社だから「自分でイベントを主催した経験がない」というわけにはいかないですもんね。
藤田:そうなんですよね。だから、この数ヶ月間っていうのは我々にとってもすごくチャレンジングでした。コロナが来て、世の中の状況を見ると、リアルのイベントがどんどんキャンセルになっていく現実を目の当たりにして。Peatixのビジネス的な意味でも、絶対もうオンラインに活路を見出すしかない、そうすれば、数多のコミュニティ活動を救えるだろうといった状況が正直ありました。とは言うものの、Peatixの中でもそれまでは2%しかオンラインイベントってなかったんですよ。全くやったことがない分、数をこなすしかないな、と。
角:僕もコロナでリアルなワークショップができないとなった時に、とりあえず「オンラインで何ができるか」をどんどんやってみようと思いましたね。まずアンケートをとって、その結果をネタにして、イベントをやる!みたいなことを何回もやって。そのうちに掴めていくオンラインでの肌感覚って、やっぱりやってみないとわからないですよね。
藤田:こういう危機的な状況や、世の中が大きく変化する時って、「動けるかどうか」ってすごく大事なことで。一歩踏み出して、「失敗してもいいからとりあえずやってみよう」って思って動ける人と、「ちょっと様子見よう」って動けない人がいるじゃないですか。だからこういう時って、日頃の動き方とか考え方とかで差がつく。うちは身軽さがあるから一気に動けたっていうのはありますね。
オンラインの時代に再定義される、「ローカルの意義」
角:ちなみに、今ってオンラインイベントは全盛期だと思うんですけど。全体的なイベントの数自体って、以前と比べての増減率で言うとどれくらいなんですか?
藤田:コロナ前はざっくり、月間で、Peatix上のイベント公開数って1万件くらいだったんですね。で、今は週に3,000-4,000件ぐらいのイベントが公開されてるので、12,000件以上。なので、20%増くらいになっています。
さらに、すごく特徴的なのは、制限がないからだと思うんですけど、オンラインイベントの方が参加人数が多いんです。だから、ユーザー数自体の伸びは右肩上がりです。
面白いのは、これまでリアルのイベントだと半年〜1年に1〜2回行く、みたいなのがスタンダードだったんですよね。けど、今オンラインイベントのみで調査すると、2ヶ月くらいの間に2〜3回以上は行ってるっていう人が大半です。そういう層が40数%います。なので、やっぱり参加しやすくなってるんでしょうね。ちょっとでも「行こう」と思ったらワンクリックで参加できるから、ハードルが下がっている。
宮内:そういう意味でも世の中の流れが、少しずつオープンになってきてるのかなとは思いますね。一方で、Peatixの地域別の参加数の公開データがあったじゃないですか。あれを見ると「地域から参加できていいよね」っていう面と、「別に、地域なんてもう関係ないよね」っていう面の両方があって。なので、僕はもう「地域が溶けた」って表現をしたりしています。
藤田:そこは一つ、課題ですよね。Peatixとしてすごく考えている部分でもあります。オンラインの良さって、地域が溶けて、どこからでも参加できるっていう拡張性みたいなところなんですけど、一方でローカル性の意義が見えづらくなるんですよ。固有の場所から発信することの意義って絶対あるはずなんですけど、「オンライン」ってなった瞬間に、そこが見えなくなるんです。
Peatixの中でいうと、オンラインイベントでの検索はできるんですが、地域での絞り込み検索はできないんですよね。けれど、たぶんそこは、やっていかなきゃいけないんじゃないかなと思っています。ローカルの意味っていうのは、おそらくオンラインの時代でも、しっかりと再定義されていくので。
角:そういったローカルの意味って、どの辺りに出てきそうでしょうか?
藤田:発信する内容とか。例えば、「地域が固有に持っている問題」ってそれぞれあるじゃないですか。エリアを気にせずにビジネスの世界だけで活動している場合は、そういった視点はあんまり関係ないかもしれないですけど。他方で、地域の課題への取り組みをベースに活動している、前に出ていくべきコミュニティっていっぱいあるはずなので。
角:そういう、「”地域ならでは”のコンテキスト」って、その土地ならではのコンテキストがある上での話じゃないですか。それって内部事情に精通している人であれば頷ける話だと思うんですけど。他方で、すごく共有しづらいじゃないですか。オンラインだと、誰が聞いてるかわからないし、「地域が溶けてしまう」ことによって、そういった理解が薄まるパターンもある気がします。
宮内:地域系のオンラインイベントをやる時って、自分が住んでいる場所とその地域の課題について、10秒くらいで話せる能力ってすごく重要だと思います。Zoomの表示名も「名前+地域」に変えるとか、そういうハックがもっとあるといいんですけどね。
角:だとすると、Peatixが地域名で検索できる機能があると、やっぱり違ってきそうですね。その地域の課題に興味がある人が集まってくる、みたいな。
藤田:そういう風に考えると、オンラインだからといって、100%地域が溶けちゃうわけではないんじゃないかなと思っています。
河原:そういう意味でいうと、僕は「東京の意味」っていうのを、最近すごく考えていて。コロナ時代、東京にいると「この街に住んでる意味ってなんだろう?」ってものすごく考えさせられるわけですよ。この状況にあっても、東京の意義って何か?って言ったら、やっぱり全国の情報なり人なりのハブ拠点だっていうところだと思うんですよね。だとしたら、やっぱり東京のアイデンティティというのは、違う地域間の人を繋ぐことだったり、情報を繋ぐことだったりすると思うんですよね。たとえば僕が考えた「47ers(フォーティ・セブナーズ)」っていう47都道府県リレー企画についても、そういう発想が元になっていて。あれって、たぶん東京の人じゃないとできない企画だと思うんですよ。
プラス、最近個人的にも「ローカル」っていうテーマをすごく考え出していて。これまでやってこなかった、「住んでいる場所のコミュニティにリーチして、地域と一緒に何ができるか」について考えるようになったりとか。海外に行った場合でも、やっぱり日本ってどういう国かをまず伝えられないといけないし、外につながりに行く時って、その前にまず自分自身の周辺の環境を知らないと、結局は本質的な会話にならないんですよね。そこがないときちんと外と繋がれない。コミュニケーションって内と外を繋ぐものなので。足元を固めるのに欠かせない作業っていうのが、「ローカルを知る」っていうことだと思うんですよ。
宮内:いわゆるシビックプライドの重要性を感じますよね。ちなみに普段の生活におけるクオリティー・オブ・ライフ(QOL)については、なにか変化を感じますか?
河原:特に「食」の部分のQOLが自然と上がりましたね。地域の魚屋さんで魚を買うようになったり、八百屋さんで野菜を買うようになったり。その野菜に関しても、産直のものを買うようになったり。より「ローカルを意識する」みたいな生活にやっぱりなっているんですよ。「地域と食」っていうテーマは、僕自身、今すごく注目しているところです。
藤田:この2〜3ヶ月で急に、自分の住んでる街に知り合いが増えましたよね。今まで通り過ぎてたようなお店の人とかとも、喋るようになりました。変わりましたね。潰れたら寂しいもんなって思いますもんね。
これからのオンライン活動をデザインするには
宮内:これから、お二人がやっていきたいところは、他に何かありますか?
藤田:「オンライン活動の中でのセレンディピティ」みたいな部分ですね。人生の中でも面白いポイントですよね。リアルで体感していたセレンディピティをどうやってオンラインで作っていくのかが、一つのチャレンジですね。これから、オンラインでの活動ってまだまだ続くと思うんです。まだリアルとのハイブリッドに移行できるかも、ちょっとわからない状態なので。
いろいろ実験している中で、個人的に今やっているイベントで、毎回ゲストに次のゲストを紹介してもらって繋いでいく、っていう方法を、毎週試みてるんですけど。
宮内:いいとも方式。
藤田:ですね。本当に、1人目のゲスト以外は全員僕が会ったことない人で。明日が5〜6回目なんですけど、東京の人ってたぶん2人ぐらいしかいなくて、みんな違う地域の方。けれど、最初は「初めまして」の仲でも、準備期間やイベントを通じたコミュニケーションで、2週間ぐらいは一緒に過ごすんですね。そうすると、自然とけっこう仲良くなれるところがあって。これは、自分じゃコントロールできない出会いだと思うので。いろいろ試しつつ、もっとやっていきたいなと思いますね。
河原:僕の場合は、制約条件があるほど燃える、っていうのはあると思うんですけど。オンラインイベントという、できないことだらけから始まっている状況だからこそ、できることをしっかりと、一つ一つ形にしていくっていうのが大事かなと思ってます。
あとは、より精度の高いやり取りや、気づきに繋がるコミュニケーションはどうやったら作れるのかっていう部分。いろいろなバリエーションを試しつつ、そこを一つ一つ作っていきたいなと思っていて。そのうち何か面白いことに繋がる気がするんですよね。
宮内:オンラインイベントのマネタイズの課題はいかがですか?
河原:正直、あまりお金のことは今は考えてなくて。僕の中では、稼げる稼げないっていう観点で仕事は選んでいなくて、売上がたってもそうでなくても「面白い」と思う仕事をやってるんで、今は「稼げそうだからやる/稼げないからやらない」っていう線引きをしていないんです。むしろ、価値を作れていれば、やがてはマネタイズもできるはず、くらいの感覚でいた方が、こういう状況のときは身軽に動けていいんじゃないかなって思っています。
角:最後に、お二人に、オンラインならではの、コミュニケーションを盛り上げていく技みたいなものがあれば、教えて欲しいなと思っています。
藤田:オンラインイベントは、配信方法にどのツールを使ってるかにもよるんですけど、チャットなどの機能を上手く活用できれば、リアルイベントよりも参加者を巻き込みやすいんですよね。『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』で書いたリアルイベントの最終章での質疑応答とかと違って、オンラインは、もう始まった瞬間から参加態勢にできるので。その技でいうと、やっぱり人間って最初の一声をあげるのが一番緊張するので、最初のコメントを書くハードルを、いかに下げてあげるかっていうのが大事ですね。「今日どこから観てますか?」とか、誰でも答えられるような質問を最初に投げかけて、場をあっためるとか。
角:なるほど、今度から真似します(笑)。配信ツールでStreamYardを僕らが使い始めたのも祐司さんの真似してますからね(笑)。
河原:僕の場合は、やっぱり「共通体験をいかに作るか」っていうことに尽きるかなと思ってて。一方通行なコミュニケーションだったらアーカイブで良いわけですよね。だからこそ、「ライブならではの体験」をいかに作るかっていう原点に還ること。画面上であっても、その場にいる人たちが一緒に何かをやるシーンを一個作るだけで没入感が変わるんですよね。そういうことをひとつひとつ、どういったデザインでできるかっていうのを考えて企画立てしていくことですかね。
平井:普段、オンラインイベントの配信前に、通しのリハとかってされるんですか?
藤田:僕とあずさん、全然準備しないですね。ゲストの方をちゃんと調べたりとか本を読んだりとか、そこはちゃんとやりますけど。
河原:必要に応じて音量チェックや通信チェックをやることはありますが、純粋なトークコンテンツに関して言ったら、あまりリハとかはやらないかな。行き当たりばったりのライブ感を楽しんでるところがありますね。
宮内:台本があると、台本読んじゃってダメになったりしますよね。
河原:そうなんですよね。結局、会話って、やっぱりいかにアドリブでその場の空気を作るかっていうことなので。コミュニケーションや会話って生きものなので、バトミントンのラリーみたいなことを繰り返しながら、その時の状況によって、次に出す言葉を選ぶことが大事だと思っています。最適な言葉って状況で変わるはずなんですよ。だからそこはやっぱり、約束事ではなく、一種のアドリブ性みたいなところを重要視した方が、個人的にはいいものが作れるんじゃないかと思ってます。
角:けど、オンラインイベントでスピーカーをやったことない方に登壇依頼をすることもありますよね?
藤田:そうですね。だから「もしわかんなかったら言ってください」っていう風に言っとくと、不安な人は言ってくれる。でも大体の人はなんとかなると思ってあんまり言ってこないですね。
河原:クライアント案件だったらさすがにリハもやりますけどね。でも、例えばクライアントが台本をつくってきても、アドリブ感を重視したいと伝えることはあります。そういう時は、台本に赤線でピッ、ピッ、ピッ、って引いて、代理店の人に「ここのキーワードだけさらえばいいんですよね?」って確認してあとは好きにやったりしますね。キーワードだけは、ちゃんと抑えると、アドリブ感重視の方がイベントも盛り上がるし、納得いただけることの方が多いです。
宮内:木曜日にあずさんがやってるPeatix「ティータイムイベントサロン」がすごく好きで。終わった後に、みんなそのまま残って、Zoomでダラダラ喋ってるじゃないですか。あの雰囲気とかやり方は、すごくいいと思います。参加者が交流する方法としても。
河原:あのやり方はオススメですね。配信が終わった後の、いわゆる楽屋トークが、やっぱり一番面白い。
余白の時間はやっぱりデザインした方がいいですね。オンラインイベントはブチッと切らずに、ダラッと喋るっていう時間を意図的に作るっていうのがコツですね。
宮内:良い感じでまとまりました。ありがとうございました。
(前編はこちら)
【プロフィール】
河原あず(かわはら・あず)
富士通を経て、2008年からニフティが運営する(当時)イベントハウス型飲食店「東京カルチャーカルチャー」のイベントコーディネーター就任。年間200本以上のイベント運営に携わる。2013~2016年、サンフランシスコに駐在し新規事業開発に従事しながら様々な現地企業とコラボレーションを重ねる。帰国後、伊藤園、コクヨ、オムロンヘルスケア、サントリー、東急などと数多くのコミュニティイベントをプロデュース。2020年春に独立し、ギルド制のチーム「Potage」を立ち上げ、コミュニティ・アクセラレーターとしてイベント企画、企業のコミュニケーションデザイン、人材育成などを手掛ける。
著書に「ファンを育み事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書」(藤田祐司と共著/ダイヤモンド社/2020年)
日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)、LinkedIn公式インフルエンサー。
藤田 祐司(ふじた・ゆうじ)
Peatix Japan株式会社 共同創業者 取締役・CMO (最高マーケティング責任者)
慶應義塾大学卒業後、株式会社インテリジェンス(現 パーソルキャリア株式会社)で営業を担当 後、2003年アマゾンジャパン株式会社(現 アマゾンジャパン合同会社)に入社。最年少マネー ジャー(当時)として、マーケットプレイス事業の営業統括を経て、Peatixの前身となるOrinoco株 式会社を創業。国内コミュニティマネージャーチームを統括したのち、営業、マーケティング統 括を兼務。2019年6月 CMO(最高マーケティング責任者)に就任し、グローバルを含めたPeatix 全体のコミュニティマネジメント・ビジネスデベロップメント・マーケティングを統括。
日経COMEMO キーオピニオンリーダー。 LinkedIn認定インフルエンサー。著書に「ファンを育み事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書」(河原あずと共著/ダイヤモンド社/2020年)