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ツール以上に重要!? 河原あずさん・藤田祐司さんに聞く、リモートファシリテーションの極意 ~雑談王~(前編)

コロナによって変容した、私たちの働き方。リモートワーク化や会議のオンライン化などの状況変化の中で、Zoomなどのツールの使い方以上に必要となってくるのが、オンライン状況下でのコミュニケーションスキルではないでしょうか。オンラインの場面での「雑談」や「ファシリテーション」の具体的ノウハウをスペシャリストに聞く連続企画「雑談王」。

第二回目のゲストにお越しいただいたのは、新著『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』が大反響を呼んでいるPotageの河原あずさんと、Peatixの藤田祐司さんです。ファシリテーションのプロであるお二人に、その極意を伺います。(取材・文/QUMZINE編集部、本田 恵理)

オンラインにおけるファシリテーションのHow to

角:昨今テレワークが普及していく中で、リモート会議において大切なことは、何よりも「人と人とのコミュニケーション」だと思うんです。それをどうしたら盛り上げていけるのかという部分を、今日はその道のスペシャリストであるお二人にお伺いしたいと思っています。

宮内:まず、ファシリテーションの重要性について。プロのお二人が経験則から学ばれているコツや工夫があれば、お伺いしたいです。

藤田:まずはリアルイベントとオンラインイベントの両者には大きな違いがあること、それによってファシリテーションの位置付けも変わってくることを認識するのがスタート地点ですね。リアルでは五感が使えるのに対して、オンラインでは基本的に視覚と聴覚しか使えない。その中で、表情を読み取るなどのセンサーを働かせながら回していかざるを得ないので。

河原:リアルな場の方がより感覚的で、オンラインの場の方がよりロジカルだという違いは、歴然とありますね。

宮内:イベントのオンライン化が進む中で、リアルとの違いを掘り下げてノウハウ化してきた過程を改めて振り返っていただけますか?

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藤田:この数ヶ月間、手探り状態の中から、経験を積むにつれて見えてくるものはありましたね。
大きく違うのは、お客さんの離脱率。リアルのイベントでは、対面という形式上、お客さんが逃げにくいんです。けれどオンラインでは、ボタンひとつで退席できてしまう。なので、お客さんの参加の仕方の違いも意識する必要がありますね。
さらに、オンラインだと画面上の数字で、視聴者の増減が可視化されるんですよね。ファシリテーション力が足りないと、目に見えて参加者数が減っていきます。

河原:最初、祐司さんとオンラインイベントをやった時も、1.5時間中の40分くらいをピークに、そこからお客さんがドンドン落ち始めましたよね(笑)。
そういうものだと思っていても、やっぱり数字を見るとショックだし。離脱させないためにはどうしたらいいかっていうのは、そこからけっこう考えるようになりましたね。

角:離脱理由には何が影響していたんでしょう?

藤田:まず、お客さんを巻き込めていなかったですね。スピーカーだけで喋ってしまっていました。

河原:ハッシュタグすら決めていなかったですもんね。

藤田:あと、トークが間延びしていた感じはしますね。ずっと同じテンポで、変化がなかった。

河原:やっぱりオンラインだと、クロストークが難しいんですよね。Zoomなどのツールでは被せて話すことができないので、誰かが喋ってる間は、他の人は黙らないといけない。ファシリテーションがやりづらいんです。リアルみたいな、お互いに被せ合いながら会話を盛り上げていくテクニックが使えなくなるので。個々の話が面白くても、同じ人がずっと喋っていると「間延び」状態になってしまう。やはり場面転換とか、話題の転換は重要なんだと感じますね。
2人ファシリテーターがいる時は、片方が喋っている時にもう片方が俯瞰で見て、裏で個人チャットで「そろそろ話題転換しようか」「時間配分、間延びしてるから畳もうか」みたいなやり取りをするといった工夫もありますね。

藤田:これは、オンライン上だからできる技ですよね。リアルだと、目や動作を見ればなんとなく、阿吽でできるんですが、オンラインだとなかなかそうもいかないので。

河原:一方でお客さんは、Zoomだと、つまらなくても聞いてるフリするんですよ。でも、慣れてくると、「この人、目は退屈してるな」みたいなことがわかってくる。だから、オンラインの時は、じっと観察するんですよね。同じ画面で全員が見えるから。それで表情を読んで、人への話の振り方を考えるとか、観察に基づいてフィードバックを当てるみたいなことを、より積極的にやるようになりましたね。

『「コミュニティ」づくりの教科書』誕生秘話

角:オンラインイベント進行上での細かいTipsって、まだみんなあまり体得してないじゃないですか。二冊目の本や改訂版があるなら、そのあたりをメインにしていただきたいですね。

河原:今回の本を執筆した時点では、オンラインイベントはまだそんなにやっていなかったんです。祐司さんが何回かイベントをやったくらいの時期に校了したので。

宮内:実際、新型コロナウイルスの流行があって急いでオンラインの部分についてのコンテンツを入れたみたいなところもあったと思うんですけど、そもそも本を書くきっかけは何だったんでしょうか?

藤田:定期的に、あずさんとは自分たちの活動における状況の振り返りをしているんですけど。昨年の1月に、今まで溜めてきたノウハウとかナレッジを、そろそろアウトプットしたいよねっていう話をして。

河原:お互いに、パーソルキャリアさんがやってる、他人に目標を決めてもらうワークショップ「タニモク」のフォーマットで、起業家の若宮和男さんと3人で半期の目標決めをやってるんですけど。2人とも、次の目標を「書籍化」って出してたんですよ。それで、「2人とも書きたいって言うんだったら、むしろ共著にしたら面白いんじゃない?」ってなって。
伏線として、前年の12月に、とある党の国会議員さんの勉強会で、僕と祐司さん、ペアで喋りに行ったことがあったんですよ。 そしたら、2人の喋りの内容の相互補完が、ものすごくハマって。
僕はこういうカジュアルなノリだし、祐司さんはビジネスサイドや、行政にちゃんと刺さる言葉っていうのを持ってるから、その辺りの噛み合わせがすごい良くて。その経験があったんで、本でもうまくハマりそうだな、とお互い思えたんです。

角:そういう流れだったんですね。素晴らしい本でした。相当苦労してないと、書けないと思いました。なんか、サラリーマン時代のあずさんのお姿とか、滲み出るものがありますよね(笑)。自分のやってることの意義を理解してもらいたいけど、定量的な数字が使えないっていう時に「どうするか?」っていうノウハウとか。多くのコミュニティマネージャーとか、新しいことを会社内でやろうとしている人たちにとっても、すごく参考になると思います。やっぱり最終的には、どんな相手の方にどんな言い方で伝えるのか、といったコミュニケーションの話になってくるんだなと思いましたね。

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河原:あれはそれこそ、サンフランシスコ駐在時代からとても意識してきたことを全部詰め込んだ部分ですね。定量化しづらいけど中長期的にやらなきゃいけないことを、いかに会社の評価の中で測るか。目標設定の度に、あの手この手でそこを表現しようとするけど、評価者が変わった途端にプロトコルが合わなくなるんですよね。そうすると、別の言葉や別の数字を使う必要が出てきて。いろいろ試行錯誤した結果が、ああいう知見につながったっていう。

角:例えば理解ある上司がいなくなるケースに触れている部分もありましたね。そうした時に新しいマネージャーに、どうやって自分のことを理解させていくのか。コミュニティマネージャーをやる際にこれまでなかなか言語化されていなかったことが、本当に具体的に書かれています。
僕の中で、あずさんの本質だと思うのは、他の人が理解できないような、「人の面白さ」に気づいて、それをアンプやスピーカーのように増幅して、周りの人にも波及させていく力だと思うんですよね。

河原:「面白い方」っていうのは直感的にわかるし、それまでの常識を覆してくれるような瞬間には、僕自身すごく弱いところがあるんですよね。
あとはやっぱり、元々のバックグラウンドがイベントプロデューサーなので。僕がいたのが、どんなテーマでもイベントにする東京カルチャーカルチャーという場所で、つまり本質的には”面白いことをやっている、面白い人をフィーチャーする”っていう場所だったんですよね。だから「面白さのタネ」を短い打ち合わせや自分なりのリサーチの中で見出して、言語化して、ユニークな切り口で発信する方法を考える。そうした経験の積み重ねが、他者との違いになっている気はしますね。

「人を集める」「コミュニケーションを作る」企画二大軸のポイント

角:本の巻末に、イベントを盛り上げる101の神ワザ集があるじゃないですか。あそこに載っている項目は、一個一個がタスクとして分解されているから、実践しやすいですよね。さらに、見よう見まねで書いてある通りにやってみるだけで、気がついたら、企画力すらもあがっていくようになるんじゃないか、って思わせてくれますよね。

河原:結局、人をどう集めるかと、どうコミュニケーションを作るかの2つじゃないですか。人を集めるには、新規性のあるものやユニークなものを出したり、様々な趣向を掛け合わせるといい、っていうポイントはあります。けど、さらにもっと大事なのって、集めた上で、その後のコミュニケーションをどう作るか。その両輪を、いかに丸っと設計できるかっていうことだと思うんですよね。現場の中で培うスキルもあるんですけど、大切なのはある種の想像力じゃないですかね。例えば、あるイベントを立てた時、反応する人の層、起こり得るコミュニケーション、起こり得るトラブル。イベントが成立するパターン、不成立になるパターン。そういった線引きを瞬時に判断して形にする。そのためにはやっぱり経験値も多分に関わってくるのかなっていう気はしますけどね。

角:たしかに。やっぱり経験もないと、その想像力はリアルにならない気がしますね。

河原:祐司さんは、どちらかというと現場で学習していった感じなのかな、と。

藤田:僕はそうですね、仕事柄、いろんな人のいろんなイベントにまずは参加者として体験することを10年間ぐらいやってきました。だから、どういうイベントでコミュニケーションが破綻しやすいか、うまくいくのかが、それらの数多の経験によって自分の中にどんどんインプットされてきたんでしょうね。
だから、自分が必ずしもイベントをやらなくても、他の人がやってるイベントを経験することで、ある程度のところ自分なりにアップデートできるんじゃないかっていう気はしますよね。そういうアプローチは入門編としてはけっこういいんじゃないかな。

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角:祐司さんほどたくさんイベント見てる人も、そういないでしょう。

藤田:僕は、ジャンルが多い気がしますよね。Peatixってビジネス系だけじゃなくてエンターテインメントもあるし、ライフスタイル系とか、行政とかNPOとか、あらゆるジャンルのイベントがプラットホームに載っているので。
そういうのを見ていると、そのうちヨコの掛け算みたいなのが出てくるんですよね。他ジャンルのイベントを知ってるから、それをビジネス系にインプットしたらどうなるかっていうようなことが、できるようになっていくと思うんですよ。自分が興味あるちょっと外の世界のいろんなイベントに、無理やりじゃなく楽しめる感じで顔を出すと、そこに絶対ヒントはあるので。

角:素晴らしいです。実際そうして、あるジャンルのイベントを、全く別のジャンルに活かした事例って何かありますか?

藤田:それで言うと、本にも書きましたが、めちゃくちゃ上手いなって思ってるのが「移住ドラフト会議」。あれは多分、頂点かなって思ってます。移住系のイベントって一時期すごく多くて、世の中的には飽和してきてるなっていう感覚がおそらくあったんですよ。そこでまさかの、全く関係ない「ドラフト会議」っていうイベントを彼らは掛け合わせた。
あのイベントを見た時に「あ、なるほどな」と思って。やっぱり、いろんなインプットをしておくことってすごく大事なんですね。それがないと、想像も創造もできないはずなんで。そしてそれって企画だけじゃなくて、「どういう場所を会場に選ぶか」とか、そういうことにも影響してくると思うので。

河原:今日のテーマの「雑談」だって、結局はその人の引き出しの多さじゃないですか。人間関係も一緒ですけど、やっぱりいろんなジャンルの人を知ってると、オープンイノベーションって進みやすいはずなんですよ。その勘どころがある人ほど、異ジャンルのものを掛け合わせて、新しい結合ができるので。

藤田:あとは、そもそも「人が好き」とか「好奇心がある」って、不可欠な要素だと思います。別に人見知りでもいいし、喋るのがそんな得意じゃなくてもいいので。

宮内:わかります。そういう方々はいろいろな物事に対する許容量が、そうでない人よりもたぶん多いんだろうなと感じます。

角:いろんなジャンルのイベントに行く原動力って、まさに好奇心だと思うんですよね。何か新しいこと知りたいとか、これは面白そうだから行ってみたいとか。しかも今はリアルな物理移動の必要がない。オンラインでイベントをやろうとした時も、不成立だったらすぐに取りやめることができるじゃないですか。「好奇心旺盛な者勝ち」ですよね、今は。

藤田:そういう意味で、いい時代になってるような気はしますよね。


後編はこちら



【プロフィール】

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河原あず(かわはら・あず)
富士通を経て、2008年からニフティが運営する(当時)イベントハウス型飲食店「東京カルチャーカルチャー」のイベントコーディネーター就任。年間200本以上のイベント運営に携わる。2013~2016年、サンフランシスコに駐在し新規事業開発に従事しながら様々な現地企業とコラボレーションを重ねる。帰国後、伊藤園、コクヨ、オムロンヘルスケア、サントリー、東急などと数多くのコミュニティイベントをプロデュース。2020年春に独立し、ギルド制のチーム「Potage」を立ち上げ、コミュニティ・アクセラレーターとしてイベント企画、企業のコミュニケーションデザイン、人材育成などを手掛ける。
著書に「ファンを育み事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書」(藤田祐司と共著/ダイヤモンド社/2020年)
日経COMEMOのKOL(キーオピニオンリーダー)、LinkedIn公式インフルエンサー。

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藤田 祐司(ふじた・ゆうじ)
Peatix Japan株式会社 共同創業者 取締役・CMO (最高マーケティング責任者)

慶應義塾大学卒業後、株式会社インテリジェンス(現 パーソルキャリア株式会社)で営業を担当 後、2003年アマゾンジャパン株式会社(現 アマゾンジャパン合同会社)に入社。最年少マネージャー(当時)として、マーケットプレイス事業の営業統括を経て、Peatixの前身となるOrinoco株 式会社を創業。国内コミュニティマネージャーチームを統括したのち、営業、マーケティング統 括を兼務。2019年6月 CMO(最高マーケティング責任者)に就任し、グローバルを含めたPeatix 全体のコミュニティマネジメント・ビジネスデベロップメント・マーケティングを統括。
日経COMEMO キーオピニオンリーダー。 LinkedIn認定インフルエンサー。著書に「ファンを育み事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書」(河原あずと共著/ダイヤモンド社/2020年)

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