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ロゴドリブンで行こう! ~「ロゴデザイン」と共に成長してきた3年間のブランディング秘話~

QUMZINEを運営する株式会社フィラメントでは、「QUM」のブランド名でイベントやカンファレンスを実施してきました。QUMのロゴマークは、権威ある国際的なブランド賞「German Brand Award 2020」にて作品のクオリティ等が評価され、「Excellence in Brand Strategy and CreationBrand Design」賞を受賞しています。
今回は「QUM」のDNAを受け継ぎ生まれたオウンドメディアQUMZINEの編集長 平井 征輝が、「QUM」ロゴマークを制作したBalloon Inc. CEO 志水良さんにインタビューを敢行!ロゴ誕生秘話からブランドを成長させるロゴマークまでお答えいただきました。(文/QUMZINE編集部、土肥紗綾)

グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、UI・UXデザインとの関わり

QUMZINE編集部 平井征輝(以下、平井):本日のゲストはDesign consulting studio|Balloon Inc. CEO 志水良さんです。
志水さんにはQUMZINEのシンボルマークについてデザインをしていただきました。本日はQUMZINEシンボルマーク誕生のきっかけや現在のお仕事であるデザインコンサルティングについてお話をお伺いしたいと思っております。

志水良(以下、志水):よろしくおねがいします!緊張してます!

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平井:まずは、簡単に志水さんの自己紹介とBalloon Inc.について教えて下さい。

志水:三重県出身です。高校は普通科で大学からデザインを学び始めました。入学した名古屋市立大学 芸術工学部はちょっと変わっていて、当時は「デザイン思考」という言葉はまだありませんでしたが、社会課題をデザインでどう解決するかというアプローチを学びました。学部ではグラフィック、修士ではプロダクト専攻です。
修了後は所属していた研究室の先生である川崎和男先生のOUZAK DESIGN FORMATIONというデザイン事務所に就職しました。その後30歳でOUZAK DESIGN FORMATIONを退職し、株式会社キーエンスに入社したという感じです。

平井:キーエンスにもデザインの部署があるんですね。どのようなデザインをされていたのでしょうか?

志水:UIデザインを主にやっていました。画面遷移やアイコンデザインのディレクションなどをやっていて、toB向けの仕事がほとんどでした。自社CMを作るというお仕事もやりましたね。代理店さんからのプレゼンを聞く機会があって楽しかったです。特に、キーエンス創業者であり、当時の社長だった滝崎武光さんと話す機会があってすごく勉強になりました。自分が知っているボスは川崎和男先生1人だけだったので、新鮮な体験でした。お話していて、主張が一貫しているなあと感じたことが印象に残っています。
キーエンスのデザイン部に2年間勤めたあと、プロダクトとグラフィックの両方がカバーできるデザイン組織を作りたいと思い、Balloon Inc.を創業しました。

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影響を受けたデザイナー

平井:グラフィック、プロダクト、UIからCM作りに至るまで様々なかたちでデザインに携わってこられたと思うのですが、志水さんが影響を受けたデザイナーっていますか?

志水:そうですね・・・。やっぱり師事していた川崎和男先生ですね。「ちゃんとデザインに関わっていこう」と思うようになったのは事務所に入ってからですし、川崎先生に薫陶を受けたのが大きいです。「デザイナーとはこうあるべきだ」ということを学びました。
専門的な分野にはリテラシーが必要だと思うんですが、デザインの見方をはじめとしたリテラシーを教えてもらえたことは自分にとってすごく大きかったです。

平井:仕事としてデザインに関わっていくきっかけとなった師匠なんですね!では続いて、好きなロゴデザインを教えて下さい。

志水:このデザイナーさんが作るものが好きという選び方になってしまうんですが、ポール・ランド氏がデザインするロゴが好きで、デザイン集を手元に置いています。

ジョブズがAppleを出たあとに作った会社のNeXT、それからIBMのロゴなどを手掛けた方です。

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ロゴマークって普遍的で力強いものを目指すことが多いと思います。一方で、シンプルなものだけを目指して削ぎ落とすことばかりだと記憶に残りづらい。ポール・ランド氏のロゴマークのデザインは、普遍的でシンプルながらも、ちょっとした遊び心や手触り感があってたくさんの人に愛されるデザインだと思います。

平井:ポール・ランド氏のお名前は初めて聞いたのですが、手がけられたロゴマークはIBMはじめ見たことのあるロゴマークばかりです!
では次に、志水さんのロゴデザインのプロセスを教えてください。

200〜300個のスケッチを描いて数個の候補が生まれる

志水:基本的に、コンセプトについて「頭(言語)で考える作業」と「手(スケッチ)で考える作業」を並行して進めています。
依頼をいただいた時点で具体的なイメージがある場合とそうでない場合があります。イメージがぼんやりしていている、つまり、言語化が終わっていないときはヒアリングしながらその場で手描きのスケッチを進めていったりもします。
具体的なものから抽象的なものまで手描きで200〜300個くらいスケッチを描いていると、「これいけそう」というのが2〜3個出てきます。それをイラストレーターで50ミリ角で清書したあと、相手に見せてフィードバックをもらって、細かいディティールを詰めていく作業に入ります。

平井:ロゴマークをデザインするたびに200〜300個のスケッチを描かれているんですね。
相手に見せてフィードバックをもらう時、相手の方はデザインのプロではないケースもあると思うのですが、デザインについての判断はできるものでしょうか?

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志水:自分がいいと思っているロゴマークについての意見や理由は伝えるようにしていますが、多くの場合相手が気に入ったものをベースに進めることが多いですね。
意思決定のプロセスに関係なく、多数決をすると誰も嫌いじゃないけど誰も愛着を持っていないデザインが選ばれます。「みんながいいと思ったやつ」になるとどこにでもあるものになってしまうので、意思決定者の人がロゴデザインに愛着を持って推してくれるほうが進めやすいし、そうじゃないとなかなか進まないことが多いです。

QUMロゴ誕生秘話!?

平井:続いて、QUMZINEの前身とも言える(※)QUMのロゴマークについてお伺いします。「QUM」のロゴマークの制作過程について教えて下さい。

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※QUMZINEを運営する株式会社フィラメントでは、QUMのブランド名でイベントやカンファレンスを実施してきました。QUMZINEはこの「QUM」のDNAを受け継ぎ生まれたオウンドメディアです。(https://qumzine.thefilament.jp/n/n5366b9f50526

志水:QUMZINEを運営しているフィラメントさんとは以前から仕事をさせていただいていて、2018年に「QUMカンファレンス」というイベント用のロゴとして作り始めました。
依頼をいただいた時点でコンセプトがはっきりしていましたね。100年後に見たときにシンプルだけどフィラメントのアイデンティティを踏襲してることが伝わるようなロゴマークを考えようと思いました。
最終的に「QUMカンファレンス」というイベント名を全部使うのではなく「QUM」という文字を使ったロゴマークになりました。我ながら、イベントらしからぬいい感じのロゴになったなと思います(笑)。

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平井:言われてみれば、QUMの部分だけがロゴマークとして使われているんですね。あまり違和感を感じませんでした。このロゴマークのコンセプトを現在のQUMZINEに至る2021年まで使うと思っていましたか?

志水:正直、ここまで使ってもらえるとは思っていなかったです。
一般的に、要素が少ないものでつくれば汎用性が高まり、長い期間使えるものになります。だから、なるべくシンプルにすることで汎用性を高めようと思いながら制作していたので、その意図と結果的に整合したと思います。

平井:このQUMのロゴマークのように、ベースのブランド(ロゴマーク)があって派生していくという事例は他にもあるのでしょうか?

志水:中西元男さんの事務所PAOS(パオス)さんが手掛けた”ぴあ”のブランディングですかね。
PAOSは日本のコーポレート・アイデンティティのデザインを牽引した事務所で、他にもニッセイやブリジストンなどを手掛けられています。
”ぴあ”はPAOSが何年か伴走支援をされていたようで、”チケットぴあ”などのように”○○ぴあ”として展開されました。エンターテイメントとしての親しみやすさや楽しさというアイデンティティを保ちながら事業展開ができるロゴマークとなっていて、事業展開に際してロゴがうまく機能しているなと思います。

ロゴマークは旗でありゴールである

平井:QUMの場合だと、QUMカンファレンス(イベント)→QUM BLOCS(イベント)→QUMZINE(メディア)と展開していますが、このようなアイデンティティを保ちながら展開していけるロゴマークというのはどのような役割を果たしているのでしょうか?

志水:一般的にロゴマークは「企業の顔」や「企業の声」と言われます。QUMで言うと、最初に開催されたQUMカンファレンスは、開催会場がオープンしてすぐのBASEQでこけら落としという意味もあって、すごく熱量のあるイベントだったと思っています。あのときの熱量や楽しさという良さが引き継がれているロゴマークでもあるなと思います。フィラメントさんのイベントは、毎回クオリティが高くてコンセプトがしっかりしているからブランドとしても強いですよね。

例えば、同じ企業に属している社員さんAさんとBさんはもちろん違う個性を持っています。あるいは、村上臣さんの『転職2.0』にもあるように、1つの会社にずっといるわけではなくなってきています。このように社員ひとりひとりは別人であるとか、ずっと同じ人が所属するわけではないとなったときに、変わらないロゴマークというのは社会に与えるイメージがブレないという特長があります。
イメージが一貫しているというのは、ブランディングの観点で、受け手にとっても会社自身にとっても良いことだと思います。

平井:ロゴマークがシンボルとか旗とかゴールみたいな役割を果たせているということですね!このように、ロゴですとか、もう少し大きく捉えてブランドというものを資産に変えていくためにはどうしたらいいのでしょうか?

志水:難しい質問ですね・・・(笑)。逆に、ロゴやブランドを資産に変えていくと考えたときに、じゃあそれがうまく資産になっていっていない状態というのはどんなものだと思いますか?僕は、コーポレート・アイデンティやブランドについての戦略がうまくいっていない状態、言い換えれば、外見と中身が一致していないような状態だと思います。「モダンでイノベーティブなアイデアを提案します!」って外部発信しながら、自身のウェブサイトや組織の内部が旧態依然としているみたいな・・・(笑)。
それって、目の前の仕事を裁くことに意識が向いていて、ブランドへの投資が後回しになっているとも言えます。

先程ご紹介したPAOSの中西さんは、本人がロゴマークをデザインをされるのではなくて、まずその企業の課題を抽出して、必要に応じてロゴをデザインするということをされていました。
もちろんロゴマークだけが解決策ではなくて、課題に応じて変化させる部分は変わってきますが、とにかくどの方向に向かっていくかを決めてディスカッションをして、変える理由と目的を決定した後はみんなで目標に向かって走ります。ユニフォームを作ってジッパーはここまで上げるというのを決めるとか、そういう細かい部分まで詰めていきます。これはあくまで一例ですが、このように目標を決めたり合意形成をして中身を変えたうえで、それを形にしたものがロゴマークだと思います。

ここでやっとさっきの「外見と中身が一致していない」の話につながるんですけど(笑)、見た目や表面だけ変えても中身が変わらなければ意味がないということです。むしろ、不一致だと信頼されないことさえ起こり得ます。

平井:なるほど!外見を繕うためのロゴマークではなくて、中身が変わって、その結果それを象徴するロゴマークも変化するという感じですね。
ロゴマークを変えた結果、中身も変わってくるということもあるのでしょうか?

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志水:
うーん、これも難しい質問です(笑)。ロゴマークを変えたら中身も変わったというのは理想ではあるんですけど、やっぱり外見と中身が同時に進行していくというのが現実的じゃないでしょうか。
社長が社員に向けて「ロゴを変えました」とだけ伝えるだけではなく、社長も社員も「なぜロゴを変えたのか(こうしたいから変えた)」というのをわかっていないと意味がないものだと思います。

ブランドを成長させるロゴマークとは

平井:現在は新卒で就職した会社に一生勤め上げるというわけでもないですし、こうやって多様性が増してくると、なおさらロゴマークって難しいものに思えてきました。でも、まだロゴマークに助けられている部分は多いですよね。スーツに会社のバッジがついていることで捗る部分も少なからずあると思います。
最後に、志水さんが考えるブランドを成長させるロゴマークについて教えて下さい。

志水:1人でも多くの人が、そのロゴマークに対して「自分のものだ」と愛着が沸く余地や余白があることですかね。そのためにはプロセスも大事ですが、完成したロゴマークに遊び心やわずかな不完全さがあるといいのではと思います。
そういう不完全さに人間味を感じるというか、アレオレで乗っかりたくなるというか(笑)、このロゴマークには自分が関わったと思える人が多いほうがいいのではないでしょうか。
僕もたくさんの人に愛されるロゴマークを作っていけるようになりたいですね。

平井:最後に良い締めをいただきました(笑)!本日はありがとうございました!

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※インタビュー内のQUMロゴマーク画像はBalloon Inc.Webサイトからお借りしています。


【プロフィール】

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志水良
Balloon Inc. CEO & Art Director

2001年名古屋市立大学 芸術工学部 視覚情報デザイン学科卒業後、名古屋市立大学大学院 芸術工学研究科 入学。2003年、同大学院修了後、OUZAK DESIGN FORMATION入社、川崎和男氏に師事。企業C.I.構築、商品企画、インターフェースデザイン、プレゼンテーション、広報・広告デザインなど、多岐にわたるクライアントとのデザイン業務を通じ、商品開発段階から最終的な販売計画に至るまで一連のプロセスに携わる。2007年からはSenior Designerとして、プロジェクトマネジメントを併せて担当し2010年まで在籍。2007年から2009年まで大阪大学招聘研究員。
2010年7月より株式会社キーエンスにてデザイングループに所属。ユーザーインターフェースデザイン、グラフィックデザイン、プロダクトデザインのほか、社内向けユーザーインターフェースガイドラインの策定などに携わる。
2013年Ryo Shimizu design officeを設立。プロダクトデザインとグラフィックデザインを軸としたブランディング、C.I.構築などの他、プレゼンテーションコーチング、イベント設計、主催・運営等を手がける。
2012年よりTEDxKyoto創設にデザイナーとして参加。メインビジュアル、ポスター、ブローシャーデザインなどを手がける。2014年にはShowチームディレクターとして、ホール内運営、ボランティアマネージメントなどを務める。
2018年よりFounder & CEOとしてBalloon株式会社を設立。2019年より大阪市立デザイン教育研究所にて非常勤講師を務める。JAGDA・JIDA正会員、World Design Consortium メンバー。German Design Award、A’ Design Award、Graphis Brandingなどを受賞。

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