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コロナ以降の組織マネジメントとは? 人・組織のプロ志水静香さんに伺いました 1/2

コロナ禍をきっかけに、企業では強制的にテレワークの導入を迫られ、経営者も従業員も多くの人が困惑する状況となりました。今回は、人材育成アドバイザーとして活躍される株式会社 Funleashの志水静香さんにご登場いただき、これからのマネジメントや組織のあり方について伺いました。
まず前編では「緊急事態に対応できる組織と、対応できない組織」について、そして後編では「withコロナ・afterコロナで求められる人と組織」について、フィラメントの角勝・佐藤啓一郎と一緒に語り合いました。
(取材・文/QUMZINE編集部、本田 恵理)

「緊急事態に対応できる組織、対応できない組織」

角:今日は、2つのキーワードを立てて掘り下げていきたいと思います。
まず1つ目は、「緊急事態に対応できる組織と、対応できない組織」について。志水さんの考えを聞かせてください。

志水:「緊急事態に対応できる・できない」という部分と、「自律」というキーワードには、とても相関性があると思っています。フリーでやってこられたような方というのは、こういう事態になっても「特に状況はあまり変わらない」って仰るんですよね。
一方で、事態に対応できていない会社というのは、会社が各社員に対して「全部やってあげている」側面が強いんです。各社員への権限の持たせ方を見た時に、「子ども扱い」している。今の事態に対応できる会社か否かは、社員を「子ども扱い」しているか、「大人扱い」しているか、という違いだと思っています。

結構ここ数年、各メディアやイベントで出てくるキーワードに「自律」とか「自主性・主体性を重んじる」といった言葉が出てくるんですけど、その実、いろんな会社さんの仕事の仕方とか、評価・制度の仕組みなどを見せてもらうと、「全部会社が決めてあげている」現実があるんですよね。日本って、子どもの頃からずっとそういう風になってますよね。先生が、時間割やら持ち物やら全部決めていて。で、やっぱりそういったスタイルは、大きな組織になればなるほど「楽」なんだと思います。けれど、やっぱり矛盾を感じますよね。「自律して欲しい」と言っている割には、自律させないような仕組みになってしまっている会社が多いように感じます。

佐藤:管理職側も、「管理していろいろ指示するのが仕事」だと思ってますよね。

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志水:だから今回のコロナをきっかけに、管理職、つまり「リーダー」の役割を見直さないといけないと思いますね。大事なことは、メンバー各々が「自分で決めて、やってみる」こと。これができる風土がある組織とそうではないところで差が出ている気もしますね。

角:大事なのは、決裁権が下に降ろされるということですか?

志水:決裁権だけではなくて、仕事の捉え方も重要だと思うんです。よく、仕事においては「must」「will」「can」の3つが重なってる領域が多いと良いと言いますが、私は少し違うと思っていて。一番比重が高いのは「will」だと思うんです。「これをやっていきたい」、「これが私の強みだから伸ばしたい」という気持ち。会社だから、「must」つまり「やらなきゃならないこと」もあるけど、そこをいかに効率よくできるか。「must」になるべくエネルギーをかけずに、少しずつ少なくしていって、「will」をしっかりやっていくための時間やお金を確保する。けど、「will」をやるためには、やっぱり「can」がないといけない。その3要素のバランスは、何も均等なバランスである必要はなくて。これからはやっぱり、個人の「will」の時代だと思います。「can」の部分のスキルを身につける研修やセミナーはたくさんあるんですが、「will」というものこそ、きちんと各々が理解して表現できるようにしていかないといけないと思いますね。

フリーでやってらっしゃる方って、ご自身の強みや経験を活かしてお仕事されてるわけです。だから「自分がやりたい仕事」と「やりたくないけど、お金のためにやらなきゃいけない仕事」のバランスの取り方が、絶妙に上手いんです。それは、自分の専門領域や強みがわかっていて、「自分がこれをやったら付加価値を出せる」というものをよく知ってるから。そういう仕事の組み立て方を、組織の中でもやれるようにしていくことが大事かなと思いますね。

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佐藤:だいたい日本の会社って、管理職がマイクロマネジメントで管理を行いがちだし、それが評価される文化があるんですよね。だから、自分で自分の意見を言える外国の方や帰国子女が敬遠されがちなんです。

志水:私は、評価もまず自分でやらせていいと思っていて。自分で自己評価をして、昇給率やボーナスに関してもプレゼンテーションをしてみる。すると、認識のズレが生じないように、より上司が部下のことを「見守る」ようになりますよね。上司が一方的に「決める」のではなくて。

佐藤:なぜ、そうならないかと言うと、管理職の人たちも、「決められたモノ・コトに従う」という風に育てられてきているからでしょうね。

志水:日本は、年齢と勤続年数で管理職が決まる制度がいまだ主流なのです。だから、管理職も立候補制にするといいんじゃないかと思います。先ほどお話ししたようなことを、「管理職の新しい定義」として定めて。それで、「その大変な仕事にコミットできないんだったら、管理職はやらないでくれ」って。管理職の仕事は、チームの人たちのサポートをすること。彼らの力や個性を引き出して成果につなげていくことなんです。若くても、年齢に関係なく、そういうことができる人材が、管理職に就けばいいと思う。

「熟練」と「成長」「発達」

佐藤:日本の会社だと、「あの人も、そろそろ管理職にしようか」というのが基本スタイルなんですよね。でも本人は絶対嫌がるんですよ。管理職って、会社から無茶振りされる役職に映っているんです。だから、なってはいけない人がなったりするんですよ。なるべき人は全然別。自分の意思で動いていたりとか、仲間作りが上手いとか、そういう人がなるべき。

角:会社は、「全て決めてあげる」ことで、「判断がなるべく発生しない状況」を作ろうとしますよね。終身雇用や年功序列で管理職を決めている。誰がやっても同じ、という見方が根底にある。管理職に就くに至る「成長」というものの意味合いが、何年も同じ仕事をして慣れて、組織のやり方もわかっていて、コツを知っていること、と捉えられている気がします。それって、本質的な「成長」じゃないですよね。

志水:そうなんです。本来の「成長」という概念が、これまではあまりなかったと思います。今までのは、どちらかというと「熟練」になるということ。本当の「成長」というのは、「新しいものを学んで、実行していくこと」だと私は定義しています。

これまでは、成長した人じゃなくて熟練者が管理職に就いていたということですよね。新卒の時に目をキラキラさせていた子が、3年ぐらい経って会うと、入った組織によって全然変わるんですよね。得意なこと・やりたいことを年齢に関係なく上手にやらせている組織か、全て決められている組織か。後者だと、考えることをしなくなりますね。

佐藤:思考停止になっちゃうんですよね。

志水:「思考する」クセが取れてしまう。無意識的な、日々の作業のサイクルの中で何十年も過ごしていると、その必要がなくなるから。

角:「熟練」という言葉のニュアンスは、「同じことが、より上手にできるようになる」こと。それに対して「成長」は、「昨日できなかったことが、今日できるようになる」「今日思いもしなかったことが、明日はできるようになっている」ことだと思うんです。

佐藤:教育学でいう「発達」ですよね。できなかったことを、獲得していくこと。

志水:けれど、組織の中では「熟練」の人が評価されている。

角:それはなぜですかね。

志水:「熟練」は相対的に評価しやすいですよね。「発達」はその人の内部から生じるものなので、本来は絶対評価。「昨日の自分から今日の自分へ」という部分ですよね。けれど、日本の今の評価の仕組みってほとんど相対評価なので。だから、制度の変革の時に私が一番議論で白熱するツボがそこなんですよ。「なんで相対評価にする必要があるんですか?」みたいな。さっきの、「自分で自分を評価する」っていうのはそういうことなんです。自分がどういう風に発達してきたのかを、述べる。

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角:なんで絶対評価にできないのかというと、組織全体が、評価する際にいろんな判断をすることを、拒む仕組みになっているからなんでしょうね。

志水:年齢とか、性別とか、長くやっているから熟練してるとか、「あの人の方が給料高くあるべき」という、わかりやすく説得するための要素がありますからね。

佐藤:「自己評価」も一時期流行したので、日本企業ではどの会社も一度は取り入れてるんですけど、自分を過大評価したり過小評価したりする人がいて。「自己評価の基準」というものがないので。だからその差分を、直属の上司が1 on 1で対処したりするんですけど。

志水:上司にとっては、よく見てないといけない分、難易度が高いんですよね。けれど、世の中の流れがそうなってきていますよね。特にオンラインだと、自分のチームのメンバーの強みや特性、何をしていたらハッピーなのか、ご家族はどうなのか、といったその人を取り巻く要素も含めて、1人の人間としてより把握することが求められているのではないかと思うんですよね。管理のための把握ではなく、その人が自分のやりたいことに挑戦したり、自分を評価したりするときのために、納得性が高まるようにその人の大切な価値観や周囲の環境を知っておく、ということですね。

角:理解して尊重しようとする姿勢みたいなものが、すごく大事だと思いますね。テレワークになってくると、その人の家庭での顔や人物像みたいなものが逆に見えやすくなって、より「尊重しなくちゃな」という気持ちになることもあるんじゃないかなと思っています。

志水:私は米系の企業にいたので、生産性・効率重視だったんですよ。なので、決められた長さのミーティングの時間に、「では、今日の目的は」という感じでスタートしてたんです。そうしたら、アメリカ人の上司に、「それじゃダメだ」と。「まず最初にその人の状態を知ること」と言われました。一見「ムダ話」と言われるような話って、1つは心を解きほぐし安心・安全な場を作る効果もあるんですけど、もう1つは、「あなたに関心がありますよ」っていうことを示せるんですよね。まさにテレワークの状況では、「その人をより知ろうとする」っていうことが大事になってきますよね。

角:テレワークになった場合、コミュニケーションの関係性がドライな方向に振られがちなんですが、あえて余白を大事にして、お互いに相手に興味を持とうとすることが大切ですよね。組織の在り方自体が、そういう方向になって欲しいですね。

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【プロフィール】

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志水静香(しみず・しずか)
株式会社ファンリーシュ代表、元ランスタッド 最高人材開発責任者
大学卒業後、日系IT企業に入社後、米国赴任。外資系IT・自動車メーカーなどを経て外資系リテール企業に転職。人事ヘッドとして人事制度基盤を確立。複数の企業においてビジョン策定・浸透、企業文化の変革をリードし先進的な施策の導実績を持つ。
2013年、法政大学大学院政策創造研究科修士課程修了。最優秀論文賞受賞。
2018年 株式会社 ファンリーシュ設立。現在はスタートアップから大企業まで人事制度やシステムなどの導入、風土改革・組織開発・人材育成などのプロジェクトに関わる。経営の視点から「組織と人材」の可能性を引き出せるよう、外部支援を行っている
専門領域:戦略人事,リーダーシップ開発,組織開発, 変革,D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)・エグゼクティブコーチングなど。マインドフルネス, SLII, 組織変革認定ファシリテーター。
執筆・研究:ウルリッチ「人事コンピテンシー」, ウェインベーカー「ソーシャルキャピタル」などのビジネス書を翻訳。「キャリアマネジメントの未来図」共著。



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