見出し画像

いま、日本には文化を武器に戦う“カルチャープレナー”が必要だ ~BIOTOPE佐宗さん・石原さんと語る「文化起業家」の希望~【前編】

QUMZINE by Filament, inc.

こんにちは、宮内です。フィラメントではCCO(チーフ・カルチャー・オフィサー)を任じているワタクシですが、会社のカルチャー、支援先(クライアント)のカルチャーをつくることに加えて、社会全体のカルチャーにも貢献をしたいということで、この職名を名乗らせていただいております。そんな中、Forbes JAPANのNo.97「インパクト100」を読んでいたら、BIOTOPEの佐宗邦威さん・石原龍太郎さんが「カルチャープレナー」について紹介する記事が目に留まりました。文化を事業課題とした起業家(アントレプレナー)が「カルチャープレナー」だそうです。これは面白そうだ、ということで「文化」「カルチャープレナー」をテーマに早速、雑談取材をしてみました。

フィラメントCCO宮内(以下、宮内):今回テーマにしたい「カルチャープレナー」って、石原さんの関わりが大きいって聞いています。

石原龍太郎(以下、石原):2020年にBIOTOPEにジョインする前は、Forbes JAPANという経済誌で編集者をしていました。当時は社会的にテックドリブンのイノベーションを掲げる起業家にすごく焦点が当たっている状況で、誌面でも取り上げられることが多かった。それはそれですごく素晴らしいことなんですが、一方でなんとなく違和感があったんです。取材している中で、テックドリブンでなくとも、それこそ文化を武器にして戦っているスタートアップとかに個人として共感する部分がすごく強くて。それで当時の編集部の仲間たちと一緒に「30 UNDER 30 JAPAN(※)」というアワード企画を立ち上げたりしました。

※Forbes JAPAN 30 UNDER 30:テックにとどまらず、研究者、スポーツ、文化、芸能など多彩なジャンルで30代以下の30人を選出するアワード

宮内:「30 UNDER 30」って、非常に幅広い分野の若手が毎年選出されて、いまやForbes JAPANの名物的なアワードになっていますよね。アワード企画立ち上げの後にBIOTOPEにジョインされたんですよね。

石原:編集という仕事の可能性を広げていくために、佐宗さんとお話しをしてジョインさせていただきました。現在BIOTOPEでは、主に企業のビジョンデザインや組織文化デザイン、ブランドデザインなどの領域で仕事をしています。また行政との仕事もいくつかあり、例えば京都市と「カルチャープレナー」についてのプロジェクトにも関わらせていただいてます。経済と文化、ビジネスとカルチャーってなんとなく両端にあるものとして扱われがちなんですが、異なる文脈の共通項を探り、うまくくっつけて新しい価値をつくり出していくのが、まさに編集的な行為だなと感じています。

宮内:素晴らしいです。そもそも「カルチャープレナー」という概念に行きついたきっかけを伺いたいです。

佐宗邦威(以下、佐宗):いろんな企業のビジョンをつくる仕事を7年ぐらいやってきていますが、基本的にはテックドリブンで新しい価値をつくっていこうという企業が多い。一方で世界の目線で日本の一番ユニークな価値ってなんだろうと考えると、例えばデザインがすごく注目されているし、あとは食、アート、観光、そして伝統工芸のような手づくりの価値みたいなものがすごく認められている。

そうしたソフトパワーとして認められているはずの文化資源は結構あるのに、いまの日本は意外と使えていないのではないかと。テックのスタートアップと同じようにエコシステムができていけば、日本のこれからを担う産業になる可能性を秘めていると思ったのが1つです。

宮内:まったく同感です。

佐宗:例えば中国では、2030年に向けて、アジアにおける文化というものに着目しています。でも、文化は一朝一夕につくれるものではないので、日本は日本の強みを生かして中国を超えるような文化の産業をつくっていくというのが、ビッグピクチャーとしてあります。

フィラメントCXO佐藤(以下、佐藤):いいですね。中世のヨーロッパの陶磁器の柄は、日本の柿右衛門がルーツだったりしますから、それの現代版になるかもしれませんね。

佐宗:じゃあその担い手って誰なのかというと、いくつかのパターンがありますが、やはり大企業だけでそれができるとは到底思えない。さらにいまは円安ですし、これからインバウンドも回復していくので「観光」が重要です。ただし日本にある文化を単に消費するのではなくて、もっと立体的で手触り感のある文化として体験して持って帰ってもらうようにしていくのが、観光産業の延長として必要だと思います。またラグジュアリー文化もそのひとつかもしれません。そこにオポチュニティーがある。

宮内:それが「カルチャープレナー」というワードにつながった、と。

佐宗:でも、その担い手である伝統産業って、つくり手がなかなか儲からない。商売として報われないから、跡継ぎがいないみたいなことになりがちです。それをもっと高い価値に変えて、海外に発信していけるような起業家が出てくれば、追い風になるんだろうと思うんです。

そうした文化に根ざした起業家って、日本の地方に結構いる気がしています。いまはエコシステムが整っていないので、そういう人たちが1人1人で頑張っていくしかないんですが、長期的なお金や寄付、投資が流れていく仕組み、インキュベーションの場といったエコシステムができていけば、日本における新しい価値の見出し方になるんじゃないかって思います。そうしたスケールを求めていないが故に個人活動しているように見えている人たちに、「カルチャープレナー」という、テックの起業家とは違った新しい名前を与えたいというのが、僕の個人的な思いです。

宮内:素敵です。Forbes JAPANでは、「TeaRoom」や「シーベジタブル」「KINTO」といったスタートアップを「カルチャープレナー」の例として紹介されていましたね。石原さんはどうですか?

石原:僕はもうちょっと身近な話をしますと、カルチャープレナー的な人ってかっこいいなっていう素直な気持ちがあります。私の実家は130年ぐらい続いた豆腐屋でして、祖父が亡くなって一旦途切れてはいるんですけど、それまでは年間350日は店に立って豆腐をつくっていたような人でした。そうやって身を削って何かをつくっている、自分の手でものを生み出したり表現しているのがすごくかっこいいし、尊いなって思っているんです。

一方で、良いものだからといって必ずしもお金になるとは限らないのが現実。魂を削って良いものをつくっている人になかなかお金がついてこない社会って、あまり健全じゃないなと思っています。なのでカルチャープレナーというタグをつけて発信したり、エコシステムをつくっていくことで、おこがましくはありますが、そういった方々に経済的なメリットが生まれていく状態が理想だと思っています。

宮内:日本の起業文化って、シリコンバレーを真似する感じでずっと来ましたけど、もはやIPOで一攫千金が狙えるとかでもないですし、いろいろなスタートアップのあり方があっていいなと僕も感じます。特にコロナ禍で、文化が不要不急みたいに言われたりした状況は、すごい悔しくて。

石原:友人のアーティストは、生きることさえ否定されてる気持ちになったと言っていました「表現すること=生きること」である彼らの存在が否定されるって絶対にあってはならないし、そういった方々の表現の価値がしっかり認められて、お金が回っていくためにどうすればいいかっていうのは壮大な課題だと思います。

佐藤:一方で、コロナ禍では結構多くの人が「家の中を見直す」ってことをやっていたと言われてますよね。うちも新しく絵を買ったりとか、うちの奥さんが生花を再開したりとかもありました。そういう意味では、必ずしも全てが不要不急だったわけではなくて、日本人は割とやるなぁ、という感覚もありましたね。

宮内:散歩して、自分の町を見直したり、自分が住む町のあり方を見直したりもしてましたよね。確かに日本人はタフで、案外レジリエンスがある。

佐宗:幸せに生きるためには文化は不可欠なもの。コロナ禍でなくなったものの代表例って、スポーツとエンタメですよね。それがなくなった社会がいかに味気ないかってことがわかりましたし、健全には生きられないんだなっていうのはすごく感じました。日本におけるウェルビーイングも成熟してきているので、心の健康という目線で考えた時の文化は、実は必要不可欠なものだし、コロナ禍でそぎ落とされたからこそ、その重要性はますます高まっているのではないかと個人的には思ったりしていますね。

宮内:それをエコシステム化していく際に、必要なものって何でしょうか?

佐宗:まず文化の担い手は地域にいるので、「自分たちがやっている活動が遠くに届いていく感覚」を持てるといいと思うんです。これは、スケールするって言葉ではあえて言っていません。やっぱり自分の好きなもの、愛情から始まるのがカルチャープレナーの特性だと思うので、それがちゃんと世の中に理解されるとか、ファンになって欲しい、その輪が広がって欲しいみたいな感覚が動機だと思うんです。だからカルチャープレナーは、必ずしもスケールを求めなくてもいい起業のあり方だとも思います。

宮内:いわゆる、ファンダム・エコノミー的なことでもありますね。

佐宗:あと必要な要素は、2つあります。ひとつはそれを高い価値に変えていく「ラグジュアリーマーケティング」。文化とは知的な生産物なので、基本的には原価はあるようでないようなもの。だからモノやプロダクトという目線、伝統工芸の目線になっちゃうと、比較的安く売ってしまう傾向になる。なので、その価値を上げていくための体験づくり、ブランドづくりっていうのはすごく必要だろうなと思います。

宮内:すごく分かります。

佐宗:もうひとつは、それを最終的には海外市場に届けていかないといけないということ。だから海外市場に届けるための展示場、マーケットプレイスのようなものが必要ですね。LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)やレクサスのように、世界に認められるシステムをどうつくるかってことですね。

石原:BIOTOPEのnoteで、hyogen代表の河野涼さんが書いていたことでもあるんですが、カルチャープレナーの役割っていうのは道を広げて、次の世代につなげていく。つまり道がなくならないことというのが役割だという話をしていたのが、すごく印象的でした。だからそもそも「規模の経済」ではないんですよね。受け継いでいくことが先にある。いま起業というと成長やお金から考えてしまうと思うんですけど、カルチャープレナーにとってはそれは結果論であって、自分たちが培ってきた文化を受け継いで魅力的に発信していくことが先にある。

・河野さんのNOTE

宮内:他方、受け継ぐということだと、事業承継の新しい形としてカルチャープレナーを捉えることもできますよね。秋田の「ヤマモ味噌醤油醸造元」のようにリブランディングに成功しているケースとか。

石原:僕の周りには「LURRA°」の宮下拓己さんとか、「renacnatta(レナクナッタ)」というデッドストックの布や端材使ったブランドを立ち上げた大河内愛加さんとか。身近に割とそういう方々がいっぱいいます。彼、彼女たちにカルチャープレナーについて話すと、「それって私じゃん」みたいな反応が返ってくることが結構多いですね。

宮内:私も大河内さんの西陣織マスク、持ってます(笑)。


後編に続く

【プロフィール】

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE
CEO / Chief Strategic Designer


東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&G、ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラムの立ち上げなどに携わったのち、創業。ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。大学院大学至善館特任准教授・多摩美術大学特任准教授。著書に『直感と論理をつなぐ思考法』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』

石原龍太郎(いしはら・りゅうたろう)
株式会社BIOTOPE
Editor / Trend Researcher


編集者。ライターとしてカルチャー・ライフスタイル誌などで執筆。DeNAを経て、経済誌「Forbes JAPAN」の編集部で勤務。各領域で活躍する30歳未満の30人を選出する「30 UNDER 30 JAPAN」特集や、オフィス家具メーカーのオカムラと共に働き方の未来を考える雑誌「WORK MILL」などの企画・特集を主に担当。異なる文脈や思想をつなぎ合わせて新たな価値を生み出す「編集」の視点から、ナラティブデザインやブランディング等のプロジェクトに携わる。


QUMZINEを運営するフィラメントの公式ホームページでは、新規事業の事例やノウハウを紹介しています。ぜひご覧ください!

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

QUMZINEの最新情報は株式会社フィラメント公式Twitterでお届けしています!