見出し画像

“カルチャープレナー”が日本の文化の価値をアップデートする ~BIOTOPE佐宗さん・石原さんと語る「文化起業家」の希望~【後編】

こんにちは、フィラメントのチーフ・カルチャー・オフィサー(COO)の宮内です。BIOTOPEの佐宗さん・石原さんと語る「カルチャープレナー」についての対談、後編です。文化におけるアントレプレナーであるのが「カルチャープレナー」の意味です。後編では、文化をいかに価値向上・リブランディングして産業にしていくか、という話題になりました。

前編はこちら

フィラメントCCO宮内(以下、宮内):これからインバウンドで外国人観光客も戻ってくると思いますが、日本はどういうアクションを取っていけばいいでしょうか?

佐宗邦威(以下、佐宗):先日、訪日向けのメディアをやってるMATCHAの青木優さんと話したんですが、やっぱり観光って1日〜数日のかなり短期の消費なんですよね。でも短期の消費ばかりが増えると観光地も疲弊しますから、2週間〜1か月くらいの長期で、半分住むような形で長期滞在をして、その地域に住んでいる感覚になれる体験をいかにつくれるかっていうところが勝負なのかなと思います。

観光名所はひと通り巡ったような観光客が、その地域の人とつながろうとか、体験をもっと楽しもうとかいった滞在。そんな体験が増えれば、基本的には客単価も上がるし、エンゲージメントも上がる。そこから、もしかしたら本当に移住とか。より深い関係になっていく可能性も高まっていく。だからマスで安く販売するモデルから、長期滞在でより客単価の高いモデルになることが持続可能なひとつのポイントだと思うし、何がそこで体験できるかが重要になってきますね。

フィラメントCXO佐藤(以下、佐藤):ちょっとずつ増えてきましたよね、そういう場所も。最近知ったのは富山の「ベッドアンドクラフト」とかね。泊まるだけじゃなくて、職人に弟子入りしてクラフトも体験できる。

宮内:クラフトっていうのも、カルチャープレナーの重要な要素だと思うんですよね。安西洋之さんに教えてもらったんですけど、イタリアのアマゾンは「MADE in ITALY」というストアを全世界でブランディングしていて。

https://www.amazon.co.jp/b/?node=4403536051

それが発展してイタリアのアマゾンには「Handmade」っていうカテゴリーがあるんですよ。要するに少量生産で手でつくったクラフトは、別のカテゴリーにして、高く売ってるんですよね。日本もそれができたらいい、むしろそうすべきだよね、みたいな。

佐宗:日本のアマゾンにはDIYならあるけど、クラフトやHandmadeはないですね。

佐藤:近い形でキュレーションしてるのは、「中川政七商店」ですよね。僕は奈良なので友達もいっぱいいるんですけど、彼らと喋っているともう全然違う軸でブランド化しているなって感じがします。旧来型の工芸品に、新しいデザイナーを入れて一新させたりとか。

石原:僕は原研哉さんの『低空飛行』とか、柳宗悦の「日本民藝地図」とかを思い出しました。

「日本民藝地図」:「日本現在民藝品展」のために柳宗悦の依頼で芹沢銈介により制作された https://books.mdn.co.jp/pickup-news/54783/

東西南北に長い国土で、四季も気温もそれぞれ違うひとつの国に各地の風土や生活が色濃く反映されたさまざまな民藝品が息づいている。その多様なヴァナキュラー文化が日本の良さだな、と。

数年前に星野リゾートの星野佳路さんが「マイクロツーリズム」を提唱されましたが、それに近い形で、ヴァナキュラーな文化にどっぷり浸かる観光の形が生まれていくと面白いと思います。

宮内:日本って戦後に財閥解体が行われたので、「ノブリス・オブリージュ」的な、文化に対して投資するという考え方が途絶えてるのも課題ですよね。

石原:いわゆる「パトロネージュ」ですね。地域おこし協力隊みたいな座組みで、デザイナーやブランドディレクターを地域に送り込んでいくとか、小さなアクションを一つひとつ積み上げて行くのも大事ですね。

佐藤:地域おこし協力隊のクリエイティブ版みたいな感じ。いいですね。

石原:「LURRA°」の宮下さんと話していたら、最近「デスティネーションレストラン」がすごい増えているっていう話にもなりました。

佐藤:鶴岡が観光キャンペーンをやったり、ジャパンタイムズがアワードを実施したりしていますね。

石原:京都に行ったついでに「LURRA°」に行くのではなくて、「LURRA°」に行くために京都に行くっていう考え方。食ってそれだけ引力があるコンテンツだと思います。レストランを介して人が集まったり、提供されている食材や使っている器を翌日店舗や生産者のもとを訪れて買ってみたり、いろいろな広がりが考えられます。

佐藤:多分、みんなでいいものを買いましょうっていう売り方は、今の分断社会では限界があると思うんです。結局はスーパーやホームセンターに行ってしまうし。

宮内:高い価値にしていくラグジュアリーマーケティングって、30年も日本はデフレ政策をやっているので、僕らが一番忘れちゃってることかもしれません。それを広げていくにはどうすればいいでしょうか?

佐宗:そこは本当にこれからの課題ですね。ただ値上げをすることが目的ではなくて、もっと高い価値を提供することに重点を置くべきだと思います。モノそれ自体を研ぎ澄ましていくことはもちろんですが、発信の仕方や体験のつくり方そのものに対して投資していくとか。デザインやブランディングに投資することで、その価値が一気に数倍に上がるような世界を目指していくべきです。

宮内:その価値を感じ取る能力がある人を増やしていかないといけないんでしょうね。

佐宗:以前BIOTOPEでは長野県白馬村とサーキュラービジョンをつくる仕事をしていたのですが、白馬村には欧米やオーストラリアの外国人観光客が多く、彼らが滞在にかける単価って全然違うらしいんです。中国人、韓国人と比べても全然高い金額を使うと。だから単価が高い人向けの価格帯、体験、ブランドをつくっていく、高価格帯のプロダクトラインっていうのをつくっていく必要があるんだろうなっていうのは思いますね。ラグジュアリーラインというか。

宮内:僕は京都に頻繁に行くんです。ホテルもこの3年間ぐらいは安かったんですが、いまはめちゃくちゃ高い。でも外国人向けにはもっと高く値段設定していいじゃん、なんで一つの値段にしてるんだろうって現地の人と話したりしてました。

佐宗:いまは記録的な円安なので、海外目線では記録的なバリュー、価格帯になってるでしょうね。倍ぐらいにしても本当はいいはず。

佐藤:中国に行くと外国人料金と、中国のドメスティック料金は違うんですよ。ダブル料金になってる。

佐宗:ワンプライスだと結局ローカルの方々楽しめなくなるデメリットも出てくるので、やっぱりラインを明確に分ける。ローカルにはローカルのプライスで、グローバルにはグローバルのラグジュアリーラインで、みたいなマーケティングが必要ですね。

佐藤:よく日本酒でも、この種の話が出ますね。日本酒が安すぎるから、外国人が買ってくれないという。

佐宗:ですです。

宮内:では最後に、今後の活動の抱負を、ぜひみなさんから。

佐宗:この「カルチャープレナー」って考え方や言葉はまだ本当に言い始めたばかりで。でも日本の未来にとって、何かの希望になるんじゃないかって思っています。いまは、それに共感した人が集まって盛り上げていくとか、本当に実現しうるのかっていう「ブループリント」をつくっていくフェーズなんですよね。そういう意味で、共感できる人がいたら、ぜひ仲間になって欲しいです。

宮内:そのブループリントと、実際の成功事例がどんどん増えていけば、文化に直接タッチしてないような企業でも、考え方が変わったり、「意味のイノベーション(※)」に近づけたり、結構いいことづくめなんじゃないかな、という気がしますね。

※意味のイノベーション

佐宗:そうだと思います。僕のイメージは三層構造ぐらいになっていまして。大企業がいきなり「意味のイノベーション」に取り組むというイメージはなくて、まずは起業家サイドでそういうことをやる人が素早く動いて、そことコラボする形で大企業が参加してくる。そういう動きが起こってくると、文化資源のあるローカルに人が行く、最終的には移住するっていう流れが起こっていくんだと思っています。

石原:それに付け加えると、「カルチャープレナー」はまだまだ未成熟な言葉だと思っています。いわゆる起業家だって文化をつくっているじゃないかと言われると、素直に「そのとおりです」となる。文化は何らかの営みの結果として生まれるもので、つくるものじゃないという考えもそのとおりだと思います。なので、まだ生まれたてのこの言葉に100%賛同してくださる方だけでなく、それは違う、もっとこうだと思う方々とも一緒に議論し、考えていきたいなと思います。

佐藤:いいですね。なんか、新しい哲学みたいな感じがします。これをオカズにしてぜひ呑みたいですね。

宮内:以前、フィラメントの顧問でもある入山章栄さんと、佐宗さんが京都市でカルチャープレナーについてのイベントをやっていましたね。あんな感じで、イベントでもいいかもしれませんね。今日はありがとうございました!

前編はこちら

【プロフィール】

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE
CEO / Chief Strategic Designer


東京大学法学部卒。イリノイ工科大学デザイン学科(Master of Design Methods)修士課程修了。P&G、ヒューマンバリュー社を経て、ソニークリエイティブセンター全社の新規事業創出プログラムの立ち上げなどに携わったのち、創業。ハイテクR&Dのコンセプトデザインやサービスデザインプロジェクトを得意としている。大学院大学至善館特任准教授・多摩美術大学特任准教授。著書に『直感と論理をつなぐ思考法』『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』

石原龍太郎(いしはら・りゅうたろう)
株式会社BIOTOPE
Editor / Trend Researcher


編集者。ライターとしてカルチャー・ライフスタイル誌などで執筆。DeNAを経て、経済誌「Forbes JAPAN」の編集部で勤務。各領域で活躍する30歳未満の30人を選出する「30 UNDER 30 JAPAN」特集や、オフィス家具メーカーのオカムラと共に働き方の未来を考える雑誌「WORK MILL」などの企画・特集を主に担当。異なる文脈や思想をつなぎ合わせて新たな価値を生み出す「編集」の視点から、ナラティブデザインやブランディング等のプロジェクトに携わる。


QUMZINEを運営するフィラメントの公式ホームページでは、新規事業の事例やノウハウを紹介しています。ぜひご覧ください!

QUMZINEの最新情報は株式会社フィラメント公式X(旧Twitter)でお届けしています!