NECの越境デザイン人材・安浩子さんが伝えたい「DXの姿」(2/2)
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NECの越境デザイン人材・安浩子さんが伝えたい「DXの姿」(2/2)

大企業のDX推進という言葉を耳にするようになりましたが、現場ではどのような実践がおこなわれているのでしょうか?
今回は、NEC Digital eXprience Design Group(デジタルエクスペリエンスデザイングループ)グループ長・安浩子さんにフィラメントCXO佐藤がお話をお伺いしました。
ビジネス・デザイン・テクノロジーの分野から構成されるDXDグループについて、そして現在携わっているプロジェクトとそのマネジメント方法まで迫ります。(文/QUMZINE編集部、土肥紗綾)

現在携わっているプロジェクト

佐藤:プロジェクトはどんなものですか?

安:これピンキリで、何からいきましょうかなんですけど。NECの製品でみなさんの目に触れやすいもので言うと、コンビニエンスストアの銀行端末や商品の注文端末やPOSだとか、最近だと、成田空港にDXDのメンバーがデザインした税関の自動セルフチェック端末というものがあるんですけど。大きなプロジェクトでいうと大体インフラです。

佐藤:空港ゲートなどですね。

安:そうです。あと今は顔認証がメインになってきていますけど指紋認証だったり、フライトインフォメーションって飛行機の時刻が変わっていくサイネージみたいなものとか。こういうものは一連全部、導線で一式提案するんです。最近は空港だけじゃなくて空港全体を町ととらえて、まちづくりから空港の導線や全体を設計しましょうという感じです。

南紀白浜のプロジェクトでは、NECとして「町全体にテクノロジーを活用して地域活性」を提案しました。モノだけを提案するというのは最近あまりなくて、社会そのものやまちづくりを含めたルール設計などもデザインするような感じです。南紀白浜以外の町でも、そもそもの仕組みの話とかのデザインをしています。
DXのプロジェクトでは、顔情報や買い物の行動履歴などのデータ収集されるいろいろな情報を扱うことがほとんどです。そこの倫理観みたいな部分をどうするのかとか、どういうルールで情報を扱っていくのかを考えないといけません。基本的にNECは個人情報は個人の持ち物であるというスタンスで、利用者の人に安心してもらいながら、利用者にとって役立っていくためにはどうしたらいいのかみたいなことをデザインしています。
どの部分をデザインしているんですか?と言われるんですけど、こういう全体や仕組みをデザインすることも最近は多いですね。

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佐藤:スマートシティとかDXとか最近言われているけど、そのずっと前からやっているんですよね。ちゃんと。

安:そうですね。あまり知られていないのが反省点ですが・・・。こういったデザインアプローチは、だいぶ昔から当たり前にやっている感じで、最近、急にスマートシティとかDXが取り上げられてるなって感じです(笑)。

お客様起点型からエコシステム型への変化

佐藤:こういうプロジェクトがスタートするきっかけとか、どこからお仕事がやってくるのかを教えていただけますか?

安:最近は結構変わってきています。以前はお客様起点だったんですよね、先ほど言ったコンビニエンスストアの銀行端末のようにお客さんドリブン。今のように空港で扱うデータのルールみたいな感じになると、空港と航空会社、省庁がたくさん・・・という具合に会社や組織が横断しちゃうんです。横断的に考えなきゃいけないといいますか。1社ではできないものがほとんどになってきているので、サーキュラー型とかエコシステム型とか言われるようになっています。
このように「共創」をしていくためにまずビジョンを描くところから始めます。コンソーシアムというかたちなど共創する座組みをつくって、ビジョンに賛同してくれる協力者を募って、その協力者で何ができるかということを描いて世の中をデザインしていくというものです。
金融APIエコノミーという事例は記事にしていただいているのでご覧いただくとわかりやすいかもしれません。

佐藤:最初にビジョンをつくって合意をとっていくのもデザイナーの仕事なんですね。

安:そうなんです。仲間集めとかロビー活動みたいなことまでがデザイナーの分野になってきて、一体私は何者だろうみたいな感じにはなりつつありますが(笑)。

佐藤:僕思うんですけど、そういうことってデザイナーじゃないとできないと思うんですよ。全体を見渡してデザインするときに、デザイナーの柔軟さが活かされる。

安:そうですね。デザイナーだけでもできないけど、ビジネスマンとテクノロジーの視点だけでもできないですね。ビジネスマンとテクノロジーからの視点に、デザイナーの「人の価値観で物事を見ていく」という視点をあわせるというか。
それぞれの人の視点でいろいろな物事を読み解き具体化する。だからヒューマンセンタード・デザイン(人間中心設計)が非常に大事で、これが皆を繋げる肝という感じです。

いろいろな視点を持ったメンバーが組むための共通言語をつくる

佐藤:プロジェクトでの安さんの実際の動きのところの話をお聞きしたいんですけれども、組織の中の「縦の統制」と「横の統制」をコントロールしているのかなって僕は思ってるんですけど。

安:私がすべての仕事を担当しているわけではなくて、メンバーそれぞれが担当したり、担当になったマネージャーやメンバーが自分で語れるように社内教育しています。私が出ていくプロジェクトは、私が端から見ていてファシリテーターをする感じですね。

佐藤:母親視点みたいな。

安:そうそう。お母さんみたいですね。社内教育のためにまずは共通言語がなきゃいけないということで、フレームワークとか教育教材をしっかり準備するようにしています。

佐藤:先ほどおっしゃっていた「最初は共通言語がないから組むためには訓練が必要」の部分ですね。

安:そうです。私たちはNECのデザイン思考というフレームワークを用意しているんですね。国内において一般的なデザイン思考と呼ばれているものはビジネスの側面が全然ないことがほとんどですが、私たちのデザイン思考ではビジネスプロセスとそのPoint of Viewである評価指標と業界ナレッジなどを組み合わせて提供します。

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ビジネスの側面がないものを社内でやってもただの研修になるだけで、ビジネスは起こらないんですよね。だからちゃんとビジネスプロセスとかビジネスフレームワークに則って、これをこういうふうにやりましょうという、ある程度の基準を決めています。それから、おおよその手順も。デザインなのでいったりきたりするんですけど、検討深度の基準を決めていて、それをお客様含めてみんなができるような簡便さや仕組みをつくっているかたちです。いろいろな手法の総合格闘技みたいになっています。
たとえば教育教材の中に「最初にトップからコミットメントを得るための宣言シートを作成する」というのがあるんですけど、これは長年私たちがやってきた経験の積み重ねに加え、グローバルで成功している企業のやり方を取り入れたフレームワークになっています。

佐藤:トップのコミットについてはものすごいよく分かります。

安:トップのコミットをとらないプロジェクトで成功するものはないので。これは「FORTH Innovation Method」というやり方を取り入れています。ビジネスモデルキャンバスの日本のファシリテーター認定がとれる「BMIA」という認定制度を持っている法人があるんです。そこが「FORTH Innovation Method」を推奨していて、その定義の中で最初に出てくるのが「宣言をする」です。この部分を取り入れてます。トップに直接押しかけて6つぐらいの問いを投げかけて、「このプロジェクトでは何を成し遂げたいのか」ということを定義していくという。まあ、オーナーのコミットですよね。それをちゃんと記録しておく感じです。
プロジェクトビジョンは「オーナーの思い」とはちょっと違って、「社会価値や利益を享受する人に共感されるビジョン」を組み立てていくので、その辺りの前提合わせはフレームの中で丁寧にやるようなプロセスになっています。そういう前提となる部分をきちんとやってから中身の検討に入るというプロセスで業務をやっている感じです。

佐藤:ちゃんと基準として残すというのはすごいなと思います。オーナーに事前インタビューはするけど、そこに対して「インタビューを残しておく」以外の手法ってあまりないんですよね。

安:そうなんです。そこについてのデザイン手法がないんですよね。だからどっちかというとこの部分についてはビジネス手法だと思うんです。
「FORTH Innovation Method」ではアサインメントシートというものがあるんですけど、経営者に手書きでサインしてもらうんです。「自分はここにコミットする」という契約書なんですよ。
方針がふらふらしてゴールが変わってしまったり、どこに向かって走っているのかわからないとみんなのモチベーションが落ちてしまいます。実際変わってもいいんだけど、ピボットしたとかどこからどこに軸を動かしたということがきちんとわかるということがすごく大切だと思っています。

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経営層や現場のマインドセット

佐藤:クライアントの経営層や現場のマインドセットを変えるためにやっていることもあるんですか?

安:お客様自身もNECもそうですけど、産業がものすごい発達した80年代ぐらいの時代やその前からいらっしゃった方って今の新規事業プロセスなんかは自然にできるんですよね。
で、後輩や次世代の経営者を育てていきたいという時に、どうやら自分たちのやり方では育たないということが分かってきて、デザイン思考のようなメソッドとかフレームワークが必要だということでお問い合わせをいただいて、お客様の事業の変革支援にいたるという感じです。私たちがチームとして参画するようなかたちで。

私たちは、「とりあえずワークショップやってみましょうか」みたいなのは絶対にやりません。お客様が事業を起こす気でやっているものとか、本格的にビジネスをやる気のものにしか入らない。
過去に「デザイン思考」という名前が日本に入り始めた頃に、「ポストイットをペタペタはってワークショップやったらいいんでしょ?」みたいな感じで「ファシリテーターだけやってください」とか「アイデア出ししたいんですけど」みたいなお問い合わせが結構多くて。今でもくるんです。「グラフィックレコーディングだけやってください」、「ワークショップだけやってください」みたいな。
楽しくアイデアソンみたいなのをやりたいというのは本質的な解決をしないので、基本的にビジネスの目標があって、投資判断をする方がちゃんといてオーナーがいてという、真剣なビジネスの場に参画させていただくようなかたちで進めています。

佐藤:僕らフィラメントもよくワークショップを頼まれてやるんですけど、たまに「デザイン思考のコンサルをやってください」と言われるんです。でもそこはやらないんですよ。デザイン思考はこういうものという色がついていて、それを求めてやっているのは本末転倒なので。

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安:そうですね。

佐藤:デザイン思考をやりたいわけじゃなくて、新しいビジネスをやりたいんでしょ?という感じで。

安:そうですね。「何かやりたいプロジェクトや目的がある上での一部分を担わせていただくほうが、多分体験がきちんとできるんじゃないでしょうか」というおすすめをさせていただいています。


佐藤:DXデザインコンサルの標準プランには、3か月60日のスケジュールでこれだけのことやりますというものが書かれていると思うんですけど、これを見た時のクライアントさん側の反応はどんな感じなんですか?

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安:お客様のメンバーの稼働50%はコミットしてくださいとかっていちいち書いていて、すごい上からで申し訳ないんですけど、ほかにも条件がいっぱい書いてあります。実際にお問い合わせいただくとそれらの条件を最初に確認させていただける方にアサインしていただく感じです。

佐藤:スタートの時点で目的を共有していることで、経営層の意思決定のスピードが遅れるような事態は避けられますか?

安:そうですね。誰に確認したらいいか分からないみたいなことは少なくともないですね。ただ、その方の判断で、これはもう芽がないということで止めることはありますけどね。そこの市場を探索しても市場規模に見合わないのでやめるというのもひとつの判断なので。

佐藤:最近、フィラメントの顧問にも就任いただいた早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が「バウンダリースパナー」、「越境人材」、こういう人たちが重要だねと言われていて。いろいろな部門とか会社間の垣根を超えてどんどんプロジェクトを動かしていく。そういう人をフィラメント/QUMZINEでも注目していきたいなと思っています。

安:「越境」というだけだったら、私結構自信があります(笑)。それが成功しているかどうかはちょっと置いといて、会社の中でもありえない部門は渡り歩いていますし、社外でもデザイナーに限らずいろいろな方とお話させていただいているので。

佐藤:社内で越境していると、社外でも越境している人と出会うんですよね。

安:そうですね。不思議な偶然は結構いろいろなところで体験したりしますね。

佐藤:そういえばこれ、めちゃくちゃよくまとまっている本ですよね。ちゃんと事例が載っているのがいいです。

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安:これは、ビジネスモデルジェネレーションの著者の一人であるBusiness Models Inc.のパトリックさんが出版された書籍です。海外では各国で翻訳されているのだけれども日本語版がなく出版をご支援させていただきました。デザインとビジネスの視点で書かれている本ってなかなかないですよね。

佐藤:本の中だと、グローバル企業の事例が多い中でNECの事例もかなり載っていますよね。

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安:出版社の方から「日本で出版するのに日本の事例がないと多分みんな分からないですよ」というふうに言われて、すごいいろいろ試行錯誤の過程なども捻出して載せました。身近に感じていただければ嬉しいですね。

佐藤:日本の仕組みの中でどうやってやっているのかなって気にする人は多いので、そういう意味でもすごくいいなと思いました。ウェブでも公開されている本の中身見本のページに安さんも登場されてますしね。

今日はいろいろなお話を聞かせていただきありがとうございました。

安:ありがとうございました!

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【プロフィール】

安さんプロフィール写真

安 浩子(やす・ひろこ)
NEC Digital eXprience Design Group(デジタルエクスペリエンスデザイングループ)グループ長

サービス・ビジネス・テクノロジーのデザインを越境して活動するデザインコンサルタント2018年NECサービスデザイングループを立ち上げ
2020年ビジネス・デザイン・テクノロジー3見一体でお客様の支援するDXDグループ立ち上げ
デザインオファリングサービスの体制・方法論の整備を行いお客様のデジタルシフトの加速ご支援のため日々、活動中。

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