NECの越境デザイン人材・安浩子さんが伝えたい「DXの姿」(1/2)
大企業のDX推進という言葉を耳にするようになりましたが、現場ではどのような実践がおこなわれているのでしょうか?
今回は、NEC Digital eXprience Design Group(デジタルエクスペリエンスデザイングループ)グループ長・安浩子さんにフィラメントCXO佐藤がお話をお伺いしました。
ビジネス・デザイン・テクノロジーの分野から構成されるDXDグループについて、そして現在携わっているプロジェクトとそのマネジメント方法まで迫ります。(文/QUMZINE編集部、土肥紗綾)
NECのDXデザインチーム「DXDグループ」とは
佐藤:最近デザイナーの間でも”DX”という言葉が取り上げられるようになりましたけど、実は「NECさんでは安さんが前からやっているからね」ってよく話していたんですよ。
安:ありがとうございます。私だけじゃないんですけどNECの人数がもとから多いのと、デザインの歴史は結構長いんです。
佐藤:NECグループでDXに関わっている方は今何人くらいいらっしゃるんですか?
安:昨今は、ほとんどの事業がDXに関わっていることと、デザインという括りでいくと、全国津々浦々に散らばっていてNECグループ全体では数えられないくらいいます(笑)。
佐藤:その中でもそれぞれ役割が細分化しているんですよね?
安:そうです。NECグループは1970年ごろからデザインセンターがあります。「PC-98」のような初期のパソコンとかそれ以前の大きな計算機とかの時代からあるデザインセンターです。
私のいる部門はデジタルビジネスに関する新規事業部門です。NECでは「コーポレートビジネスイノベーション」にデザインセンターがあり、ほとんどのデザイナーである100人ぐらいデザイナーがいます。DXDグループの所属する「お客様のデジタルシフトを担うデザイン部門」とはビジネスユニットがわかれています。私はコーポレートビジネスの事業イノベーション部門に属しながら、ここからちょっとスピンアウトした全社DX推進をおこなう横断部門に所属しています。Digital eXprience Design Group(デジタルエクスペリエンスデザイングループ。以下、DXDグループ)という名前です。
佐藤:デザインセンターとDX推進の横断部門。クライアント向けのこともやりながら社内の新しいこともやるっていう感じですね。
安:そうですそうです。全体としてはそんな雰囲気ですが今はDX推進中心に活動しています。
佐藤:DXDグループは何人くらいなんですか?
安:DXDグループ単体としては30人のチームで、構成比は①デザイン職と②ビジネス職と③開発が1:1:1という感じです。
ただ、ビジネス職と言っても「ビジネス職なんだけどデザイン思考を扱う人やデザイン思考ナレッジがある人」です。開発の人も同じで、デザイン思考のナレッジを持ちながらAWSとかGoogleの基盤とかプラットフォームを使ってその場でガンガンつくっちゃうような人たちですね。
佐藤:開発の人はプロトタイピングに優れた方たちなんですね。
安:そうですね。プロトタイプも然ることながら基盤も扱えます。うちは公共の空港などのセキュリティレベルのゲートとかをやっているんですけど、そういう結構高度なセキュリティに関するものもすぐつくれちゃうメンバーです。さらに、それをアプリとすぐ繋げられる関連会社のメンバーも私たちのチームと連携してくれています。飛び地に待機してくれているDX専属という感じですね。
佐藤:なるほど。
VRもプロトタイプするDXDグループ
安:たとえば、最新テクノロジーを使ってあんなことやこんなことができるみたいなことを横断的に話し合った上で、全体を俯瞰したビジョンの検討という抽象的な部分から、それはVRでできますかねみたいな具体的な実現手段の部分まで両方支援するんです。
ビジョンのほうはビジネスのメンバーも入りますし、「じゃあこれやってみますか」「データ集めてみますか」のほうはテクノロジーのメンバーとデザインのメンバーでささっとつくってみたりしながら、ビジネスの全体設計とそれぞれのプロダクトやサービスのデザインをしていきます。
やっぱりプロダクトみたいもなのをささっとつくって実際お見せすることには意味があると思います。
現在は、VRで非常時の訓練をやっているんですよ。いざその時にどう対応したらいいかみたいな。こういうのってつくって見せるとあっという間に体験できるんだけど、ないと全然イメージがわからなくて。
訓練をするのも結構大変なんですけど、訓練を体験しないとわからない部分は必ずあるので、そういうのをVRなどを活用してささっとつくってシミュレーションしていますね。
佐藤:いろいろなことやっていますね。
安:そうですね。雑多と言いますか・・・。
佐藤:いやいや。使える手段で即時に作って対応する。これが醍醐味だと思います。
安:「こういうタクシーの運転をしてみたい」なのを再現したりもしています(笑)。最近VRとかだとなんでもできるので。XR、VR、ホログラム頼みなところもあるんですが。
ただの紙を置いているだけよりも、空間をシミュレーションしてタクシーの風景が映っていたり、コンビニ店内をシミュレーションしているほうがイメージしやすいですよね。実際につくってみて、体験していただいたほうがみんなのアイデアをさらに引き出せます。
佐藤:データを持っているから全部できるんですね。
安:そうですね。これはテクノロジーのメンバーがいるのでできることですね。
クイックに、ありものであまりお金もかけずに、あたかも製品ができているかのようにつくっちゃうということをやっていて、基本的には楽しいです(笑)。
佐藤:こういう横断チームじゃないと、まず別部門に依頼してとかそうなっちゃうんだよね。デザインだけだと時間かけて綺麗につくろうとするし、エンジニアだけだと抜けの無い仕様書をつくりだすし。
安:そうなんですよ。なぜ特別にDXDチームをつくったかというと、やっぱりデザインのメンバーだけで固まっちゃうとできないんですよね。これが。
ビジネスのメンバーとデザインのメンバー、そしてテクノロジーのメンバーが組まないとできないというんですかね。ただ、組むためには訓練が必要なんです。最初は共通言語がないから。
また、共通言語や座学だけでもできなくて、私たちは"プラクティスを増やす!"、実践での協働経験を重要視しています。反復的に進めるプロセスでは、これによるあうんの呼吸がないとスピードとクオリティ出ないんです。
NECとIDEO=デザインシンキング!?
安:NECって1990年代にIDEO社とプロセスをつくっていたんです。それが今のNECのデザイン思考に継承されています。
佐藤:この前、IDEOのCEOティム・ブラウンさんと対談されてましたよね。
安:そうなんですよ。過去の1995年の日経デザインに当時のNECのデザインプロセスが載っているんですけど、それが今のスタンフォード大学のデザインシンキングのプロセスに影響を与えていることが掲載されています。
2年前にスタンフォートのデザインブートキャンプに行ってきたんですけど、私たちがやっているプログラムが3分の1ぐらいそのまま残っていて。「マシュマロチャレンジ(※)」も当時のまま残ってました。ただ、やっぱりすごい違うなというのは、ビジネススクールでやっているということですよね。日本の中で言われているデザインシンキングとは、ビジネス指標を取り入れらPoint of Viewを重要視している点がだいぶ違うなと感じました。
※マシュマロチャレンジ・・・乾燥パスタ、テープ、ひも、マシュマロ、はさみを使い制限時間内にいかに高い塔(タワー)を築き、いかに高い場所にマシュマロを置くことができるかをチームで競う
そんなことがあったので、NECでは2000年からエクスペリエンスデザインという取り組みをやっていたのと、2004、2005年ぐらいにはデザイン思考(デザインシンキング)という取り組みも社内外でやっていました。
佐藤:圧倒的に早い。
安:あと、デザイン思考から発展してバリュープロポジションキャンバスとかビジネスモデルキャンバスとか、今ではデザイナーも使うようになってきていますけど、そういったものも早くから取り入れていました。バリュープロポジションに関しては2000年ぐらいから、ビジネスモデルキャンバスはちょっと遅いですけど2009年ぐらいかな。
佐藤:こちらも圧倒的に早い。
安:ビジネスモデルキャンバスの書籍(『ビジネスモデル・ジェネレーション』)が日本語訳されたのが2012年ですからね。これは社内では日常的に使っていました。プロダクトデザインのメンバーはなかなか使うことがなかったかもしれませんが、私は2000年入社当初からインターネットビジネスやサービスデザインとかをやっていて、そういうメンバーはずっと使っていました。
佐藤:安さんはお仕事で海外に行かれる機会も多くて、先ほどの『ビジネスモデル・ジェネレーション』を出版した会社であるBusiness Models Inc.の台湾ブランチにもよく行かれてるんですよね?
安:はい、そうですね。なかなか日本でパートナーを探すのが難しくて。やっぱりサービスデザインができるデザイン会社がなかなかいないんですよね。探し方が悪いのか見つけられないんです。
佐藤:ないんじゃないかな。僕もシャープの時にいろいろ探したんですけど、やっぱり当初は国内になかったんですよね。
安:そうですよね。台湾だとイノベーションプロセスに応じたデザインアウトプットが当たり前のように出てくるんですよ。ちゃんとしたデザインリサーチからペルソナが出てきて、それも大量の良いデータに基づいたアウトプットが出てくるという。そんなこんなで、仕事をする時はお願いすることが結構あります。
あと「NEC台湾」という拠点が結構大きいですね。NECってグローバル比率が高くない日本企業なんですけど、その中で台湾が大きな拠点になっています。あとベトナム、シンガポール、インドにもちょっとあるんですけど、私が仕事をするときは台湾やインドのメンバーとお仕事することが多いです。
インドのメンバーも大体アメリカかヨーロッパのビジネススクールを出ていて、マーケティングやっているメンバーは全員デザインシンキングを知っているんですよね。現地の現場観察をする時はそういったメンバーに力を借ります。こういうことを特定したいという設計をこっちでやって、現地のメンバーにコーディネートしてもらう感じです。インドの田舎のほうに行くのに私たちはどうやって行ったら分からないし、何を聞いたらいいか分からないんだけど、特定したいのはこういうことですと伝える感じで。
佐藤:人集めをお願いしたりとかですよね。
安:そうですそうです。
佐藤:台湾行きたいですよね。
安:本当にもう台湾が恋しくて。
佐藤:仕事よりもプライベートで行っていたほうなんですけど台湾。
安:実は私もです。仕事も多いですがプライベートではそれを上回っています(笑)。
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【プロフィール】
安 浩子(やす・ひろこ)
NEC Digital eXprience Design Group(デジタルエクスペリエンスデザイングループ)グループ長
サービス・ビジネス・テクノロジーのデザインを越境して活動するデザインコンサルタント2018年NECサービスデザイングループを立ち上げ
2020年ビジネス・デザイン・テクノロジー3見一体でお客様の支援するDXDグループ立ち上げ
デザインオファリングサービスの体制・方法論の整備を行いお客様のデジタルシフトの加速ご支援のため日々、活動中。