現富士通・タムラカイ氏と元シャープ・佐藤啓一郎。大企業を知る2人によるデザインと組織論
2020年、富士通のニュースを聞かない週はない昨今。
そんな中、今でも新しい試みをどんどんやり続けているタムカイさんの貴重な過去インタビューです。
大企業・富士通に勤務する現役デザイナーでありながら、組織を作ったり、書籍の出版、イベントの開催など、社内外で活躍するタムラカイ(タムカイ)さん。タムカイさんのインタビューをフィラメントCXOの佐藤がSNSでシェアしたところ、「デザイン談義しましょう!」と盛り上がり、今回の対談が実現! 後編では、シャープでUXデザイン部門を立ち上げ、人材発掘も行っていた佐藤と、「組織」について語ります。(聞き手:宮内俊樹)
*本記事は、2019年2月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。
会社の中に「ギルド」をデザインする
――例えばデザイン思考について、後輩であったり、部下の若い人たちであったりが陥りがちなケースとかって何かありますか?
タムラカイ氏(以下、タムカイ):最近は逆にできる子がめっちゃ増えてきたんで。危機感をちゃんと持ってる子も多いし、いい意味で冷めた目で見てるっていう子も多い。だから、若い子が陥りがちなのは変な上司にあたっちゃって染められちゃうことですよ。
佐藤:世の中にちゃんと向き合ってる子が増えましたね。昔は本当に自分の趣味の世界があって、こうやりたいとかそういう子が多かったけど、もっと社会的に課題とかもちゃんと分かってるとか。タチの悪い上司は、自分の型にはめようとするんですよ。俺らのときはこうだったからとか、黙って3年間は修行しろとかね。
タムカイ:だから、僕ができるのは下を守るっていうこと。僕自身がいい上司に守ってもらったように、下を守るってことなんだなと思ってます。
佐藤:僕も結局シャープ時代のいちばん最後は、組織をデザインするっていうことをやってきたんですよね。出世とか管理職になるって全く興味なかったんだけど、あるときに組織を作らないと駄目だなと思ったんです。今って割とそういうお年頃じゃないですか、タムカイさんは。(笑)
タムカイ:なので、マネージャーになるんじゃなくてもできるんじゃないかなってことで、会社の中にチームを作っちゃった。それが「グラフィックカタリスト・ビオトープ」です。あれ、会社としては、いわゆる部活のかたちなんですよ。だけど会社の仕事として受けてるものもあれば、外からの仕事もやっているし。いわゆる雇用の組織ではないのでギルド的なものですね。全て、今の会社組織に対するアンチテーゼとしてデザインしてみたんですよ。
始まって1カ月目ぐらいかな。若い男の子が「タムカイさん、この仕事やっていいっすか」って聞いてきたんで、「俺は決めない。社会善だと思ってやりたかったらやれ」って話しましたね。ここは意思決定機関ではないっていうのを明確に言うようにしたら、なんか愉快なことになってきたって感じです。
佐藤:それはいいですね。
タムカイ:いわゆる日本の大企業のマネージャーで楽しそうな人がいないっていう問題がありますよね。もちろん中には楽しそうな人とか必死な人とかもいるんですけど、全体の雰囲気として。
佐藤:そうなんです、そこが問題。であれば、楽しそうなマネージャーになるっていう方向性もあるんですよ。あえていろんなことをやって、あの人の組織だからしょうがないよねって言わせるやり方。結局マネージャーなるっていうのは、予算と人をとる権利を持つってことなので。僕もまずマネージャーになって最初にやったのは、それ。
タムカイ:ビオトープは予算がないので、なんかあったら僕のポケットマネーを使ったりする。
佐藤:それは上で守ってくれる人がいるからできるんですよ。その人がもしいなくなったらどうしようってことはやっぱり考えなきゃいけない。
タムカイ:それはそうですね。今はその守ってくれてる人が、本流で成果を出してる人と、亜流みたいな成果を出してる僕と、両方でプレゼンスを上げている。だから僕は彼に守ってもらってるし、でも僕は与えてるものがある。彼もこいつを自由にさせてるんだけど、その分使えるものがあるっていう、すごくいい関係だと思ってて。
佐藤:面白いな。個人と会社との関係っていう新しいとこにトライしてるっていうの、すごい面白いです。
タムカイ:でも僕は一応、エクストリームなんだぞっていうのをビオトープのチームには伝えていて。ただ、エクストリームでもこの辺までは行けるっていうところを見せとくと、広がるじゃないですか。たとえば人類って100メートルを10秒切るなんてことは不可能だって言われた時代が長かったじゃないですか。でもある1人がそのリミットを突破すると次々と10秒切るようになるんですよね。人間って自分で決めちゃった限界値みたいなものがあるんで、それをたまに思うときあります。ここまでいけるらしい、とか。
佐藤:僕はシャープ時代にあんまり切り開いた意識、ないんですけどね。楽しそうにはしてた。あと、自分の上司にやられて嫌だったことは自分の部下にやらない。
タムカイ:それは大事ですよね。
佐藤:人にもやらせない。結構、そこは意識してた。
センスは作れる、誰でもデザイナーになれる
タムカイ:僕の結論としては、もっとデザイン自体が開かれればいいなと思うし、今のデザイン思考よりももう少しでかいところにデザインはあるなと思っていて、それを伝えていければいいなっていうのは思ってますね。
佐藤:僕は無茶苦茶タムカイさんを尊敬するのは、「エモグラフィ講座」をやってることなんですよ。誰でも表現ができるっていうことをやってるじゃないですか。やっぱり、デザイン思考もそうだけど、表現は誰でもできる、っていうことが起点だと思うんです。
タムカイ:そこはありがたい話ですね。「エモグラフィ講座」は描くってことですけど、最近「オトグラフィ」ってカードを作りました。思ってることをポロッと出すっていうのも、表現することに含めて考えられる。
佐藤:表現するってことは描くことだけじゃなくて、いろんなやり方があるっていうことですね。僕も誰でもデザイナーにはなれる説なんで。
タムカイ:センスはみんなあって。
佐藤:水野学さんも言っているけど、センスはいくらでも作れるんですよ。そういう行動なり、訓練なり、ものごとの見方だったり。日常の中にそれを出していけるかどうかだけなんで。
タムカイ:例えば、椅子の角度をすっと2度変えたときに気持ちいいなって思うかどうかっていうの、意識してる人はしているはずなんですよね。ボトルのラべルはこっち向いて揃っていると気持ちいいな、とか。だからすごい気持ちいいスーパーと、気持ち悪いスーパーってのがあって(笑)、気持ちいいスーパーは「お客さんが来て気持ちいいってこういうこと」って意識している店員がいるんです。そこがさっきのデザイン思考でいう「意志」とも通じるかもしれない。
佐藤:みんなデザイナーとして入社したりするけど、たった4年間勉強してるだけなんですよ。それで30年デザイナーとして食ってるんです。普通に考えたらおかしい。だから、誰でもできるんですよ。態度なんです、そういう態度を持つかどうかだけ。
タムカイ:だから僕は態度の話をいつもしますね。「創造的態度」って呼んだり、「クリエイティブアティチュード」って呼んだりします。あとはデザインとは「志に基づく知性と感性による逸脱と統合」と言ってます。人間工学や行動心理学を勉強して、知性でいろいろ判断できたりするけど、それだけで全部組み立てられると面白くないんで、みんなはこうするかもしれないけど自分の感性でちょっとずらしてみたりとか。逸脱と統合って呼んでるのも、やっぱりイノベーションって今の仕組みから逸脱しなければいけない、でも何かが逸脱しちゃうと全体のバランスが崩れるんで、今度は統合をちゃんとしていく。僕はずっと常にそういうこと考えている。
佐藤:手を動かすことと、考えることと、あと教養がいるんですよね。
タムカイ:教養、いる?
佐藤:教養いりますよ。結局、ものごとをどうやって見てるかっていうことなんで。
タムカイ:なるほど、自分に教養があるかっていうと全然ないんですけど、そういう意味ではめっちゃいりますね。
デザインでやってきたことはビジネスでも役に立つ
佐藤:いまはフィラメントで、ビジネスっぽい仕事してるんですけど、結局デザインでやってきたってことは、そのまま役に立ってるんですよ。人の行動であったり、文化性であったり、生活であったりというものを見てきたことが。
タムカイ:結局軸はなんでもいいんですよね。すごいトップ営業マンやトップマーケターに会うと実は同じこと言ってたりして。結構、被る部分が多いというか。
佐藤:トップ営業マンって、これお得ですよとか、言わないんです。これがあなたの生活にとってどういう位置付けになるか、こう変わりますよとか言う。その人にとっての生活に踏み込んで語ってくれるじゃないですか。
タムカイ:だからデザイン思考という言葉を語るときに、俺がなぜデザイン思考はいいと思うかといえば、自分がデザインによって今ここにいさせてもらってるからに他ならない。そういう側面が結構あるなってことに気付きましたね。それを抜きにして、「デザインこそが思考である」みたいなっちゃうと、それは絶対違うなと思う。
――デザイン思考で重要な「ユーザーセンタード・デザイン」も、ユーザーに向き合いすぎるとイノベーションが起きないといった誤解があったりもしますよね。
佐藤:ユーザーセンタード・デザインってユーザーにヒアリングしたり、アンケート取ったりすることだと思ってる人が無茶苦茶多い。でも、そうじゃない。だって、見たことないものにユーザーは答えようがないんだから。いかにユーザーの生活なり、行動をちゃんとその人の立場で理解できて、同じことを思って、それに対して創造的に新しいことを感じ取ることができるかっていうことが本質。なのにすぐアンケートや調査に出したがる。
タムカイ:ユーザーはこう言ってるじゃないかって言ったり。
佐藤:そうそう。本当に多いんですよ。
タムカイ:だからデザイナーの資質の一つに、めちゃくちゃ対象に入り込みながら、めちゃくちゃ客観的に見る、みたいなのはありますね。これって多分、得意な人と不得意な人が絶対いるはずで。
佐藤:あとデザイン思考の利点のひとつは、外に目を向けることができるんですよね。やっぱり会社員でいるとなかなか外に目が向かなくなっていくし、それが当たり前だと思ってしまいがち。今までデザイナーの中で俺はこれがいいんだって推してたクリエイティブが、全然違うんだっていう気付きも得られるし。そういう意味では、インハウスのデザイナーこそ、デザイン思考っていうのは恩恵があるんだろうな、と。実際はインハウスほど毛嫌いするんだけど。
タムカイ:あります。やっぱり自分の社内での存在が揺さぶられちゃうんですよね。本当はそうしたいのにできてない自分を。
佐藤:なんで俺たちがやってきたことをそんな外からいわれなきゃいけないんだ、みたいに価値基準が崩れちゃう。いいカタチを作って社内評価されてきたのに、そこが評価ポイントじゃないんだって言われるとぐらついちゃう。
――外に出るってこれからのライフシフト時代に合ってるとも思うんですよね。外の知識をしっかり得たうえで、会社を動かすこともできうるし。
タムカイ:僕がやっぱり会社を辞めない理由はそこですよね。そこにまだまだ全然、楽しいことがあったり、未来があるはずだし。
佐藤:僕も会社は辞めたけど、辞めるのを推奨する派ではないです。もっと会社使ってから辞めろよ、使い倒せよっていう気持ち。
タムカイ:今日やたら僕らが会社の話をしたのは、多分元シャープと現富士通っていう、いわゆる社会システムの1つとしての会社っていうものがとても生活の中心にあったり、離れたから分かることがあるからなんだと思います。これは大きい目で見ると、人間が社会生活をしていると、やっぱりどこかに課題だったり、ちょっと問題は起こっていて。それを解いていくことが大事です。それはデザイン思考って言葉ではなくて、1人1人がそれに対して何かをできる可能性があるんだよっていうことの方が、本来のデザイン思考っぽいなと僕は思う。世の中はどうしようもないと思うのか、世の中はなんとかしていけると思うのかの違いなんです。
佐藤:今日はタムカイさんとお話できて楽しかったです。またデザイン談義をしましょう!!
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【プロフィール】
タムラカイ
2003年富士通入社、GUIデザイナーとしてキャリアをスタート。
大企業の恩恵と不条理の狭間で「個の軸」の必要性を痛感、紆余曲折の末に個人活動として2014年から「ラクガキ」という根源的な表現行動を用いたワークショップを開始。感情表現記法「emography®️」などオリジナルメソッドやツールによる非認知スキル向上プログラムをデザインし、企業・自治体向けに人材育成、チームビルディング、組織マネジメントなどの講演・講座を行なっている。
活動の実践の場として自らが中心となり結成した「グラフィックカタリスト・ビオトープ」で一般社団法人at Will Work主催「ワークストーリーアワード2017」を受賞。
「世界の創造性のレベルを1つあげる」をミッションとして、独立でも複業でもない、個を軸としたミックスによる「混業」というこれまでにないキャリアを創り出し発信している。著書に「アイデアがどんどん生まれる ラクガキノート術 実践編」
佐藤 啓一郎(さとう・けいいちろう)
株式会社フィラメント 取締役 CXO(Chief eXperience Officer) 兼 CHRO
1987年、シャープ株式会社にプロダクトデザイナーとして入社。AV家電、白物家電、通信機器、ビジネス機器、新規事業の製品および関連サービスのUXデザインを行う部門を立ち上げ運営。社内外とのオープンコラボレーションを推進するとともに領域を超える人材の育成発掘も手がけてきた。
2018年4月よりフィラメント参画。その経験を活かしてUX視点を用いた新規事業開発支援に取り組んでいる。 HCD-Net認定 人間中心設計専門家。