コロナ禍における鉄道会社の実証実験をジャンルごとにまとめてみました
コロナ禍による社会変化の影響を大きく受けている鉄道業界ですが、密を回避したり、テレワークを支援したりとこのご時世に合った実証実験を行なっているようです。今回は、コロナ禍となった2020年、2021年に入ってから行われている鉄道会社の実証実験をジャンル別にまとめました。
テレワーク系
電車やバスの車両内でテレワークを行う実証実験や、ワーキングスペースのチケットが購入できる実証実験が行われました。
2021年2月1日から26日まで、JR東日本は東北新幹線の1両を「リモートワーク推奨車両」と設定しました。auがWi-Fiルーター、Think LabがJINS MEME、ヤマハから会話漏れを防ぎ情報漏洩リスクを下げるための「スピーチプライバシーシステム」を提供し、効率的にWeb会議や電話を含めたリモートワークが行える環境を整備しました。
2021年1月、東急電鉄は「DENTO」というサービスの実験を4月28日まで実施しました。田園都市線郊外と渋谷駅・東京駅を結ぶ通勤バスのチケットや、相乗りハイヤーのチケット、東急線沿線のワーキングスペース利用チケットなどが購入できるスマートフォンサービスで、東急線の通勤定期券を所有している人にはより特典が利用できる仕組みです。
2021年2月、東急バスは混雑した電車を避け、仕事をしながら通勤ができる「オフィスバス」の実証実験を4月28日までの平日に実施しました。ルートは、横浜市港北区のニッパ営業所、田園都市線市が尾駅、たまプラーザ駅を経由し渋谷駅・東京駅です。バスの車内ではWi-FiやUSB充電が利用できました。
ワーケーション系
ワーケーション実施時に鉄道を使ってもらうことを支援する実証実験が行われました。
2020年6月、JR東日本スタートアップ株式会社と多拠点コリビングサービス「ADDress」を運営する株式会社アドレスは、ウィズ・アフターコロナ時代のニューノーマルな暮らし方を提案する「ワーケーション/多拠点居住 応援プラン」の実証実験を行いました。この実証実験は、ADDressを利用する際に、JR東日本のえきねっとでJR東日本エリアの特急券・乗車券を購入された方にえきねっとポイントを還元し、移動コストを低減するというものです。JR東日本スタートアップ株式会社は、プレスリリースで「ワーケーションや多拠点居住の更なる推進に寄与するとともに、お客さまのニーズを把握し、With/Afterコロナ時代の関係人口の創出を実現していきます。」と述べています。
密回避系
車両やルート、駅、飲食店などでの混雑を避けるための実証実験が行われました。
2021年3月、東京メトロは、上野グリーンソリューションズ株式会社と共創し、列車混雑状況のリアルタイム提供を目指すべく、鉄道業界で初めてデプスカメラとAIを用いた列車混雑計測システムを開発しました。2019年9月から東西線東陽町駅、2020年11月から丸ノ内線新宿駅において、列車の駅出発時に車両側面をデプスカメラで撮影し、列車混雑状況を人工知能(AI)に機械学習させることで、号車ごとの列車混雑状況をリアルタイムに計測する実証実験を実施し、技術検証が完了。今後は列車混雑計測システムを東京メトロの複数駅に展開し、2021年度をめどに列車混雑状況をリアルタイムに乗客に提供することを目指します。
2021年6月、NTT東日本は、新宿駅東口エリアにAIとカメラを利用した新型コロナウイルス対策・防犯対策の実証を行っています。具体的には、新宿駅の東口エリアにおいて、NTT東日本が開発中の映像AI解析サービスにて19台設置されたカメラの映像をリアルタイム解析することで、AIによるフィジカルディスタンスの状況把握とマスク装着有無の検知等を行うとともに、暴力行為・不審物の放置等をAIが検知し防犯対策を強化します。この実証は2021年3月15日~2022年3月31日の期間実施予定です。
2021年6月、京浜急行および京浜急行バス、NTTドコモは横須賀・三浦エリアで混雑・密を避けた新しい旅行体験の提供を目的とした観光型MaaSの実証実験を7月21日まで実施しました。実証実験専用のアプリ「みうらよこすか MaaS」の中で「デジタルみさきまぐろきっぷ」を販売するほか、様々な交通手段の一元的な検索、予約に加え、観光施設や飲食店、バスの混雑状況が確認でき、混雑や密を避けながら観光できます。また、ユーザーの位置情報や好みに応じたオススメスポットの情報をリアルタイムに配信し、より充実した旅行体験を提案します。
この他にも、現在と翌日の車両内混雑度を利用者に通知し、混雑回避を促し、また車両混雑度に連動したデジタルクーポンを発行し、消費行動を活性化する「しずおかMaaS」を三菱電機と静岡鉄道が2020年10月に実施していたり、同様に混雑状況に応じたクーポンの発行や混雑を回避してルート検索をレコメンドする実証実験を日立製作所と西日本鉄道が2021年3月に実施していました。
非対面・非接触系
2021年7月、近畿日本鉄道株式会社、京王電鉄株式会社、東急電鉄株式会社、南海電気鉄道株式会社、西日本旅客鉄道株式会社、阪急電鉄株式会社、東日本旅客鉄道株式会社の鉄道事業者 7 社 は、AI を活用した案内の実証実験を連携して2021年7月7日から9月30日まで実施しています。実施場所は新宿駅、渋谷駅、大阪駅、梅田駅など多くの人が利用する15駅で、それぞれのソリューションを用いて地図や乗り換え情報、観光スポットやお土産などを案内します。
また、凸版印刷は、「BotFriends® Vision」と「BotFriends® Vision+」を高輪ゲートウェイ駅、大阪梅田駅、東北4県ターミナル駅に導入します。これらは非接触型の多言語AIサイネージで、利用者からの様々な質問内容をAIに学習させることで、精度向上を目指すとともに、「乗換案内」「駅構内や駅周辺の案内」などを中心に、問い合わせに対し適切な案内ができているかを検証します。
貨客混載系
コロナ禍による輸送需要の減少や、人口減少による輸送需要の減少で、電車やバスに貨物も混載する「貨客混載」の実証実験が全国の鉄道やバス会社で行われています。JR東日本、JR北海道、JR九州、JR西日本の新幹線、近畿日本鉄道、東武鉄道などの特急、JRバス、京王バス、神姫バス、ウィラーエキスプレス、西東京バス、西肥自動車、大阪空港交通などの高速バスや路線バスなど多くの業者が取り組んでいます。
たとえば、近鉄では名阪特急「アーバンライナー」を使用した貨客混載事業を福山通運の協力で実施しています。近鉄では2020年3月に車内販売を中止し空きスペースとなっていた車販準備室を利用するため、車両の改造は不要。近鉄側から見ると、今回の貨客混載事業の収益は「プラスしかない」といいます。
鉄道では新幹線や特急などが多く使われていますが、JR西日本など普通列車を利用している業者もあるようです。貨物の内容としては野菜、魚介類が多いようです。ytvによると、JR北海道は、北海道から東京方面へ農林水産品が中心ですが、将来的には逆方向への輸送も目指しているとのことです。報道によると貨客混載には、赤字路線の赤字幅の縮小、トラック輸送のドライバー確保難による代替、CO2排出量削減など複数の狙いがあるようです。
今回はコロナ禍における鉄道会社の実証実験をテーマとしてジャンル別にまとめました。掲載したものは決して網羅したものではありませんので、本記事に掲載されていない実証実験も多数あると思われます。そして、貨客混載は、その地方の交通手段や課題に応じてそれぞれの業者が試行錯誤しているような報道をよく目にしました。また、AIを使った案内などでは、個々の技術はコロナ禍となる前から準備されてきたもので、コロナ禍となったこのタイミングで非対面などの点でよりその効果を発揮できるようになったという経緯もあるようです。
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参考文献
・財経新聞「新幹線をリモートオフィスにする実証実験 JR東日本」2021.1.27
・東急電鉄DENTO
・日本経済新聞「鉄道もテレワーク支える JR東や東急が実証実験」2021.2.2
・NHK「混雑の電車避け仕事しながら通勤「オフィスバス」実証実験開始」2021.2.15
・PR TIMES「With/Afterコロナ時代のニューノーマルな暮らし方 「ワーケーション/多拠点居住 応援プラン」モニター会員募集 ~「鉄道利用×多拠点居住」の実証実験開始~」2020.6.19
・「業界初!デプスカメラと人工知能(AI)を用いた列車混雑計測システムを開発」2021.3.1
・NTT東日本「新宿駅東口エリアにおけるAI+カメラによる新型コロナウイルス対策・防犯対策の実証実験について」2021.6.18
・NTTドコモ「横須賀・三浦エリアで「観光型 MaaS」の実証実験を実施~ICT の活用による混雑・密を避けた新しい旅行体験を提供~」2021.6.21
・三菱電機「「しずおかMaaS」においてアフターコロナ社会を見据えた実証実験を開始」2020.10.8
・日立製作所「日立と西日本鉄道がニューノーマル時代の安全・快適な移動と経済の活性化の 両立に向け、公共交通機関利用者の行動変容を促す実証実験を開始 日立独自のナッジ応用技術を活用し、持続可能な公共交通モデルを構築」2021.3.10
・近畿日本鉄道他「AI を活用した「非対面」や「非接触」でのお客様案内の 実証実験を鉄道事業者7社で連携して実施します!」2021.7.1
・凸版印刷「凸版印刷、鉄道事業者7社連携によるAIを活用したお客様案内の実証実験に参加」2021.7.30
・ytv「【特集】「客がいない…空気よりモノを運べ!」コロナ禍で鉄道・バスに広がる“貨客混載”の可能性とは?」2021.5.15
・LIGARE「西東京バスとヤマト運輸が貨客混載を本格開始 バス事業者では関東初の総合効率化計画認定」2020.12.11
・日本経済新聞「普通列車で貨客混載 JR西・岡山支社が実証実験」2021.1.29
・Responce「JR伯備線で貨客混載事業「産直便マルシェ」 ヤマト運輸とJR西日本など、7月29日から本格化」2021.7.18
・神戸新聞NEXT「バスで農産物輸送「貨客混載」本格スタート 高齢化地域の課題克服へ 三田」2021.5.19
・LNEWS「福山通運、JR西日本/山陽新幹線で貨客混載輸送事業化検討」2021.7.6
・PRTIMES「高速バスを活用した「貨客混載」による「飛騨のあばれ鮎」の輸送・販売を7月30日(金)から開始します!」2021.7.27
・ベストカー「鮮魚をバスで輸送! ?バス・エア・バスのリレーで佐世保から大阪へ、実証実験開始!」2021.8.8
・Sankeibiz「新幹線での荷物輸送「貨客混載」、博多-熊本間でも実証実験」2021.8.25