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内向きな大企業をオープンイノベーションのバブルから救うには?

今回は、JAPAN OPEN INNOVATION FES 2019で開催されたスペシャルコンテンツを記事としてお届け!
三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部統括の光村さんとフィラメントCEO 角がオープンイノベーションについて対談しました。
大企業の新規事業担当者は、オープンイノベーションを本当に理解できているのか?そもそもオープンイノベーションとは何なのか?今回の対談は本質的でとても重要な問いを立てるところから始まります。
大企業に蔓延する、「失敗したくない、内向きでありたい」という空気を変えることの重要性、そして、大企業が持つリソースの評価方法・活用方法まで2人がじっくり語り合う!驚異の1万字対談!!

*本記事は、2019年9月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。

そもそもオープンイノベーションとは何か

光村:本日は「ブームによる不協和音 本質的なオープンイノベーションとは」というタイトルで話してみたいと思います。
こういうタイトルが付いているということはつまり、今のオープンイノベーションを取り巻く状況の中に、「ブーム」や、ともすれば「バブル」と言うべきものがあるとか、本質的ではない動きが見えているのではないかという考えが、私たち2人の中にあるということを示唆しているわけですが、まずはしっかり言葉の定義をしておきましょう。
角さん、オープンイノベーションってそもそも何ですか?

角:辞書的な定義をさせてもらうと、自社内では起こせないイノベーションを起こすために、社外の会社や自治体、研究機関等と連携するための方法論だと思います。ただ、イノベーションと言っても、これも幅の広い概念なので、僕は新たな事業を創る、新規事業を生み出すための方法論というふうに考えています。

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光村:僕も概ね同意なんですが、一つだけ付け加えたいです。
僕は、必ずしも事業を創る、つまり新たなビジネスや売上を生み出すためだけにオープンイノベーションがあるのではなく、例えば既存事業の事業構造やオペレーションに付随する課題を解決するためのオープンイノベーションもあると思っています。

例えば三井不動産の場合、建物の運営管理は我々の本業なんですが、多くの業務を人手に依存しているという現実がある。将来的な労働力不足を考えると、これは大きなリスク、課題と考えられるわけです。となると、いかに業務を自動化、無人化していくかという話になるんですが、三井不動産は単独ではロボットやドローンを開発したり運用したりする能力を持っていない。そこで、これらの技術を提供してくれる社外のパートナーとオープンイノベーションをするという必要性が出てくる。

これは、必ずしも新規事業や新たな売上につながるわけではないけれども、必要な活動であると理解しています。

角:なるほど。今、オープンイノベーションが非常に盛り上がっている中で、オープンイノベーションでなければならない理由というのはあるんですかね?

光村:さっき、角さんは「自社内では起こせない」という定義をしたけれども、これも細かく見たほうがいいなと。

先ほどの例でいうと、三井不動産は本当にロボットやドローンを自社で作れないのか、という論点があります。新たな人材を獲得する、大きな予算をかける、長い時間をかける、こういうことをすれば、必ずしも不可能ではないかもしれない。しかし、それが現実的ですか?戦略的に正しい判断ですか?ということかと思います。

角:不動産会社である三井不動産がロボットやドローンという話だと、さすがに唐突感がありますが、似たような話は、特に技術力のあるメーカーであればしょっちゅうある。社外と連携しなくても、中にリソースはあるし、自分で開発すればいいじゃないかと。

しかし、外部の環境変化が激しいときに、時間をかけて内部だけで取り組んで、市場は待ってくれるんですか?競合に勝てるんですか?そこに人的リソースや資金を投入することが合理的ですか?という話です。加えるなら、本当に自社だけでその技術を完成させることができるんですか?という観点も必要です。

つまりオープンイノベーションには、時間を買う、コストを抑える、社外にあるリソースをある程度確実に手に入れる、という考え方が含まれているということですね。

光村:今、会場から「オープンイノベーションと業務委託は何が違うのか?」という質問が出ました。これに答えるとするならば、「お互いのリソースを持ち寄る」と、「不確かなものに挑戦する」という要素が、オープンイノベーションにはあるのだと思っています。

先ほどのロボットの例ばかりで恐縮ですが、三井不動産が建物の運営管理に役立つロボットを社外と連携して開発しようとするときに、私たちは私たちで開発会社に対して管理に関するノウハウを提供しているわけです。私たちが知っていて、彼らが知らないことがあるならば、それを提供して前に進めましょうという考え方です。

角:一方のリソースを使うだけでなく、相互にリソースを持ち寄る発想ですね。

光村:また、まだ誰もやったことがないようなプロジェクトの場合、開発のプロセスが不明確で、進行する中で想定外のことが多く起きる。わかりやすく言うと、事前に作成する見積書に表せないようなことが頻発する。受発注の関係だとこういうときに身動きがとれなくなってしまう。

角:仕様書で決めきれない不確かなものを、ともに創りたいと願う人たちが一緒になって創っていくということですね。

オープンイノベーションはバブルなのか?

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光村:そんな形でオープンイノベーションの定義ができたところで、本題に入りましょう。
角さん、ズバリ聞きますけど、今の日本の状況ってバブルですか?

角:バブル気味な状況が一部あるとは思いますね。本質を捉えず、形だけ踏襲する人が多いように感じます。

光村:どういうことでしょうか。

角:よくあるパターンが、会社の中でたまたまオープンイノベーション部とか新規事業部のような部署が設立され、そこにたまたま異動してきた人たちが、よくわからないまま周囲のモノマネをしているようなやつですね。

光村:オープンイノベーションという言葉が一般化して、だいたい5〜6年くらいでしょうか。多くの大企業でそのような部門が立ち上がっているのは確かですね。

角:昔は産学連携のことをオープンイノベーションと言っていたんですね。それに対応していたのがナインシグマさんのような会社で、技術探索や技術マッチングをサポートされていた。しかし、オープンイノベーションで求めるものが技術だけでなく、ビジネスモデルや人材など多彩になり、相手先も大学や研究機関ばかりではなくスタートアップなどにも広がってきた。そして、それをサポートするという仕組みもどんどん増えています。フィラメントもBASE Qもその一部かもしれないけど。

光村:そうですね。

僕がそういう状況の中で気になっているのが、大企業の「丸投げ」とも言える態度です。オープンイノベーションを支援する会社に対して、よくわからないけど丸投げしたり、彼らが提供するプログラムに乗っかっているだけ、という姿を見ることがあります。これは、まず上手くいかないでしょう。

BASE Qでも大企業の支援プログラムを提供していますが、僕らは常に「伴走者」であると言っています。つまり、大企業の担当者が当事者意識を持って取り組んでくださいと。そうであるなら、伴走者として支援しますという言い方です。

角:そもそも、なんのためにオープンイノベーションをやるのかという整理が曖昧な会社が多い。なぜ今、自社でイノベーションが必要なのか、そこからどんなことを生み出したいのか。そもそもオープンイノベーションだって、イノベーションを起こすための選択肢の一つであり、先ほど話したとおり、オープンにしないでやることだってあり得るわけです。「オープンイノベーションをやる」ということ自体が目的化し、教科書に書かれているメソッドをなぞることを目指しているような動きが目立ちます。

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光村:この問題は、大企業という組織レベルだけでなく、そこで行動する個人レベルにも共通するものだと思っています。率直に言って、大企業でオープンイノベーションを担当している人の中で、「やりたいこと」を持っている人がどれくらいいるのだろうか、という疑問があります。そこが曖昧だと、当事者意識は育たないんじゃないかと思ってるんですが。

角:日本のサラリーマンの課題ですよね。

そもそも、新規事業部やオープンイノベーション部に、自ら希望して異動する人って珍しいじゃないですか。

光村:僕は「志願兵」ですけどね。

角:それがそもそも珍しいわけですよ(笑)。

嫌々とまでは言わないけれども、特に目的意識がなく異動してきて、在籍している間にも目的を見つけられないという人も多いんじゃないですか。少なくとも、このような部署に異動してくることが、「勝ち組」「出世ルート」とは思われてないのが現状ですよね。

光村:日本のサラリーマンって、会社が示す戦略や方向性を忠実にトレースすることが「優秀なサラリーマンの条件」だと考えてきたわけじゃないですか。しかし、こと新規事業やイノベーションというテーマになると、そもそも会社自体がなぜ、それをやらなければならないかを言語化できていない現状がある。

大企業の経営者は、「自社のビジネスモデルが限界を迎えている」「このままでは潰れてしまう」という危機感は持っていると思いますが、それを乗り越えて「どんな社会を目指すのか」「その社会において、自社はどんな貢献をするのか」というビジョンを語れなくなっていると思うんです。ゆえに、イノベーションとか新規事業についても「潰れたくないからやる」という、ビジョン不在の取り組みになっちゃってる。だから、会社として戦略や方向性を示せないし、そこに配属されたサラリーマンも右往左往するだけになっちゃう。

角:そこで、せいぜい成果を出さなければという意識から、支援会社に丸投げしたり、方法論をモノマネするような話になっちゃうんですよね。

僕は、イノベーションを起こす、オープンイノベーションに取り組むというとき、個々人のwillがもっとも重要だと思っています。会社が戦略や方向性を示せないということは、逆に言えば、自分のやりたいことをやるチャンスですよ。

“家畜”が増えすぎた日本の大企業

光村:どうすれば、そういう人が増えるんでしょうね。

角:さっき、光村さんは優秀なサラリーマンは会社の戦略をトレースするのが上手いって話をしたじゃないですか。僕はそれに加えて、そもそも日本企業には「社畜と家畜」という問題があると思っています。

光村:お、なかなか刺激的な言葉が(笑)。

角:いやいや、別に馬鹿にしてるわけじゃないんですよ(笑)。

社畜って何かと言うと、自分を滅してでも会社の利益に貢献したい人です。これはすごく立派なことです。実際、どんどん考え、動き、バリバリ働いて会社の利益に貢献しますから。

一方の家畜は、あまり物事を考えず、黙々と給料を貰うだけの人。

光村:わー(笑)。

角:大企業が歴史を重ねる中で、どうやったらもっと稼げるか、儲けられるかということを考える人が減っちゃったという問題意識です。過去の人が敷いたレールの上で、黙々と働いて稼ぐというだけじゃなくて。社畜にすらなれない家畜が増えたことが、日本企業の活力や稼ぐ力を失わせたと思ってるんです。

光村:なるほど、そういうことですか。

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角:例えば、工場で毎日クルマを組み立てる仕事がある。これはもちろん、重要で尊い仕事です。しかし将来、クルマがなくなる社会がくれば、この仕事もなくなるし、会社も立ち行かなくなってしまう。それじゃ、あまりに悲しいじゃないですか。そうならないように、今からできることは何か考える。打てる手は打つ。そういうマインドを、もっとみんなが持つ必要があると思うんです。

光村:そのためには何が必要なんでしょう。

角:やはり社外の価値観に触れることでしょう。「クルマ?いらないよね」という声は、なかなか自動車会社の中からは聞こえてこない。外に出て、そういうことを当たり前に言われる中で、考えるきっかけを作っていくんだと思います。

光村:そういう意味では、オープンイノベーションって、別に新規事業部の専売特許じゃなくなってきますよね。

角:そうです。僕はもっと、オープンイノベーションが当たり前に行われる時代になってほしいと思っているんです。新規事業部も既存事業部もスタッフ部門も、みんなオープンイノベーションが必要なんですよ。別に、経営企画部や新規事業部がスタートアップに出資したりM&Aしたりすることだけではないんですよ。

光村:そういう体験を通じて、マインドとか考え方を変え、強い危機感と当事者意識を高めていく。そうすれば自ずと、自分のやりたいことが見えてくる。で、そこから自分や自社がやれることとやれないことを整理し、やれないことは社外と連携してやっていくと考えれば、これはもう自ずとオープンイノベーションになると。

角:もちろん、人によって向き不向きはあるだろうし、興味の方向性も違うと思いますよ。新しいものを考えることが好きな人もいれば、今あるものの改善に取り組むのがいいって人もいるわけで。それぞれが、それぞれのやりたいことを持って、取り組めばいい。

光村:これ、「鶏が先か、卵が先か」みたいな話なんですけど、日本のサラリーマンが社外に出ていくときに、何もやりたいことがないと自己紹介にすら窮する、みたいなとこありません?社名と部署名と名前しか言えることがない、みたいな。やりたいことを見つけるためには、まず外に出なければならないけれど、外と上手く付き合うためにはやりたいことがないと難しいという。

角:僕、公務員時代からSNSで結構発信してたんですよ。

光村:珍しいですよね。

角:うん、珍しい。基本的には歓迎されないので。

でも、そこで情報発信を続けていると、他の人がやらないだけに、わかりにくい行政の世界を説明してくれる人として重宝されるようになった。そうすると、外から人が来てくれるようになるんです。だから、いきなり「私は○○がやりたいです」みたいな大げさな話じゃなくても、自分が知っていること、書けることを、外に発信するというだけでもいいと思うんですよ、最初は。

光村:最初から肩肘張る必要はないと。

角:あと、例えばLinkedInのプロフィールを全部埋められるようにするとかね。

最初は難しいと思うし、書いたり発信したりしても、なかなか外には伝わらないことも多いと思う。でも、そういう失敗をして学べば、次はもっと上手く発信できるようになるわけだから。

(参考資料)フィラメントCEO角がこころがけているSNSメディア戦略の骨子。公務員時代から心がけている、事故を起こさずに読む人を増やしていくための戦略、敵をつくらずに味方を増やしていくための心得とその事例についてのスライド。

失敗したくない、内向きでありたいという大企業のリアル

光村:大企業内のリアルな話をすると、新規事業部に行く人に対する社内の微妙な感情というものがあるような気がします。

これはある方から聞いた話ですが、この方はいわゆる既存事業のエースだった。で、自分で志願して新規事業部に行くことになった。自分でやりたいことがあったんですね。ところが、上司や先輩から心配されたらしい。「せっかく出世ルートに乗っているのに、新規事業部に行くなんてもったいない」「新規事業に挑戦して失敗したら、お前のキャリアに傷がつく」と。

角:そんな忠告をする人がいるんですか?

光村:いるらしいんです。

その方は、そんなことを言われても意に介さずなんですが、大企業内にそんな空気があるとすれば、やりたいことがあると声を挙げるのも簡単ではないのかもしれない。

少し話が飛びますが、僕、働き方改革をめぐる社会の動きって、順風満帆とは言えないけど良いことだなと思ってるんです。本質的な生産性向上に関する議論が置き去りにされたまま、残業削減とか時短とか表層的な取り組みばかり注目されるのはダメですよ。でも、少なくとも意味のない長時間労働はダサいことであるとか、それを強要することはNGなんだという空気は広まったじゃないですか。

イノベーションとか新規事業もそれと同じで、少なくともそれに取り組む人間の足を引っ張っちゃいけない、できれば応援すべきという空気になってくれればいいのかなと。そういう空気を作り出せればと思って、こういう場で発言したり発信したりするようにしてるんです。

角:大企業内の空気という話でいうと、これだけオープンイノベーションと言われながらも、本音では内向きでありたいという部分があるんじゃないかと思っています。

光村:本音ですね。

角:そう、本音。

最近、若手や中堅の社員が積極的に社外と関わろうとする動きが盛んじゃないですか。これはある会社であったことなんですが、若者が上司にそういう活動をしたいとお伺いを立てる。そもそもそんなこと、上司に相談するなよという気がするんだけど(笑)。で、上司は「社外とつながることも大切だけど、大企業には社内に眠っているパワーやリソースがいっぱいあるんだから、それを活用することをまず考えては」と答えたらしい。

光村:ほう。

角:たしかにそういう側面はあるけど、じゃあ同時にやればいいわけだし、少なくとも外に出ようとする動きを止める必要はないわけじゃないですか。

光村:たしかにそうですね。

角:実際、大企業内にリソースがあると言ったって、そんなに簡単に使えるわけじゃない。冒頭に言ったように「自社でできない」という前提があるからオープンイノベーションという選択肢が浮上してくるわけだから。

たしかに、大企業内にはリソースがあります。それを本当に上手く活用できるなら、オープンイノベーションは必要ないかもしれない。でも、実際にはそれを阻害する要因がある。一番大きいのは「人」の問題。

光村:新しいことに取り組みたくない、リスクをとるのは怖い、という人の感情ですね。

角:そう。リソースを使うも使わないも、結局最後は人の判断ですよ。頼んだから貸してくれる、正論だから必ず通るというのものではないのが、大企業の今の現実でしょう。

これも日本の大企業の欠点なんですけど、日本の古い大企業って、おしなべて製造業が多いじゃないですか。なので、工場経営という感覚が、組織のあらゆる領域に残っているんじゃないかと思ってるんです。工場って、機械がどれだけ動けばどれだけ生産できるかが、きっちりコントロールできるじゃないですか。そこでは、人の感情のような非合理的な要素は排除されている。だから、そういう風土の大企業では、人がイノベーションの阻害要因になることが軽視されている気がするんです。

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大企業のリソースは「可用性」で評価する

光村:同じような問題が、最近流行のアクセラレーションプログラムにもあると思っています。

今行われているアクセラレーションプログラムって、概ね大企業がスタートアップとコラボレーションするために公募する形ですが、大企業側はスタートアップにアピールするために自らの持つリソースをPRすることがほとんどです。

角:アクセラレーションプログラムって、上手くいっているところはあるんですか?

光村:一部の企業を除けば、かなりお寒い状況なんじゃないでしょうか。

僕はスタートアップから相談を受けることも多いですが、どこそこの大企業のアクセラレーションプログラムに参加したけど、まったく意味がなかったという怒りの声を聞くことも少なくないです。

角:厳しいですね。

光村:要因としては、このセッションの最初のほうにも話したように、大した目的意識もないまま、モノマネのようにアクセラレーションプログラムをやったり、支援会社に乗っかっているだけの大企業が多いということがあると思いますが、リソースに関する問題もあります。スタートアップに聞くと、大企業がPRしていたリソースの多くは、実際には活用できることが確約されていないんですね。

角:でもPRしているわけですよね。

光村:大企業のリソースの多くは、既存事業に紐付けられていますから、その活用の可否を決めるのも既存事業部門であることが多い。一方、アクセラレーションプログラムは新規事業部門が主催することが多いですから、両者の間に温度差があるということです。

角:既存事業部も、どんな相手先とどのように活用するかが見えない中で、使えると確約するのは難しいですよね。

光村:それはそうです。ただ、アクセラレーションプログラムを主催するのであれば、そんな「出たとこ勝負」みたいな考え方ではダメでしょう。それに参加するスタートアップに対して失礼ですよ。アクセラレーションプログラムで自社のリソースをPRするなら、もっとシビアに査定するようにしなければ。

角:でも、そうするとPRできるリソースがなくなっちゃいそうな気もします。

光村:普通にシビアに査定するだけだと、そうなっちゃうでしょうね。ただ、そこが新規事業部門の腕の見せどころだと思っています。

再三の登場で恐縮ですが、さっきの三井不動産のロボットの事例。建物の運営管理ロボットを開発しようとすれば、実証実験を行う場も必要だし、開発会社に対してうちのノウハウというリソースを提供する必要も出てくる。既存事業部門の協力は不可欠です。

ただ、それを「コスト削減」という文脈で訴えても、おそらく協力してくれない。なぜなら、今会社は儲かっているから。本来、こういう考え方はよくないんだけど、コストというテーマが大きなペインになってないんです。ただ、人手不足自体はすでに現場でも実感し始めているし、事業の継続性を左右しかねない重大なペインです。だから、人手不足の解消に資する話であれば、協力してくれますよね、という持ちかけ方をする必要がある。こういう事前の工夫や調整を、ちゃんとやりきっているのか、という話です。

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角:スタートアップとの協業という話でいうと、そもそも既存事業部門は数百億、数千億という規模のビジネスのオペレーションに責任を負っているわけだから、スタートアップと協業して数千万とか数億という話には興味を示しづらい。

光村:そもそも論、そうなんですよね。だから新規事業部門の仕事は、社内向けの調整も非常に重要になる。どうすれば協力を取り付けられるか。協力せざるを得ない環境を作れるか。

そういう地味で苦しい仕事もここにはあるわけだけど、それをやりきれるかどうかという観点からも、自分のやりたいことを持つことは大事だと感じます。それがあれば頑張れるから。

経験とナレッジを蓄積するためには

光村:しかし、今日話してきたような問題というのはこの数年、ずっと変わってないんじゃないですかね。僕らもいろいろなところで話していますが、どこか既視感がある話ばかりしている気がしてならない。

角:人事異動の問題があると思ってます。新規事業部に異動してきても、数年で異動しちゃうじゃないですか。だから個人にも組織にも経験とナレッジが蓄積されてない状態だと思うんですよ。

光村:その問題は大きいですね。僕はもう新規事業領域で6年くらいやっていますが、後から入ってきた方ですでに異動されている方は多いです。

角:やはり、長い期間コミットする人がいないと蓄積できないし、社外からも顔が見えないといい案件とも巡り会えないんじゃないかと思います。

光村:例えばオープンイノベーションに非常に積極的な会社の一つにKDDIがありますけど、会社としても∞Laboという取り組みを長く続けていますが、人の顔が見えますよね。今は異動してしまったけれども江幡さんという方がずっと長く担当されていて。江幡さんの後任の中馬さんも非常にキャラが立っている。

角:オープンイノベーションって、結局外部との信頼関係じゃないですか。信頼関係は人から生じるものだから、そういう取り組みをしていかないと、どうしても形式的になってしまう気がするな。

光村:ただ、人事制度を変えるって大変じゃないですか。変えられますかね。

角:一つ、いい流れがあるとすれば、本当の意味で終身雇用が終わりを迎えつつあるということですよね。経団連や大企業のトップから、そういうメッセージが発信されるようになった。働いている人たちの目線も変わっていくだろうし、変わらざるを得なくなる。

光村:自然、人事も変わらざるを得なくなると。

角:そして、オープンイノベーションという考え方が、新規事業のみならず、すべての事業領域で必要になっていくという流れだと思ってます。

光村:人によっては厳しい時代に見えるかもしれないけど、ワクワクする面白い時代であるとも思います。

【プロフィール

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)
三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 統括
1979年、東京都生まれ。 2002年、早稲田大学第一文学部を卒業し、講談社入社。 『週刊現代』編集部、『FRIDAY』編集部で編者として勤務。
2007年、三井不動産入社。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事(三井不動産ビルマネジメント出向)した後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。
2014年、新規事業の一環で日本橋・三越前にオープンイノベーションスペース『Clipニホンバシ』を開設。
2015年、全社横断的な新規事業部門としてベンチャー共創事業部の立ち上げを会社に提案し、同部署に異動。三井不動産の既存事業部門とスタートアップの連携を創出するオープンイノベーション活動に従事。
2018年、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。

角新

角勝(すみ・まさる)
1995年~2015年、大阪市役所に勤務し、「大阪イノベーションハブ」の立上げと企画運営を担当。2015年、大阪市を退職し、フィラメントを設立した。多くの企業で新規事業開発プログラムの構築・実行支援や独自設計したワークショップとコミュニティマネジメント手法を用いた人材開発・組織開発を手掛ける。2016年には企業アライアンス型オープンイノベーション拠点「The DECK」の立上げにも参画し、他のコワーキング・コラボレーションスペースのコンセプトメイキングや活性化にもアドバイザリーを提供している。

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