大企業がスタートアップから学ぶべき新規事業開発の“ネタ”
大企業で新規事業開発を行う際に、「スジがいい事業開発の構成要素」として挙げられるのは、①ヒト ②ソシキ ③ネタです。「ヒト」は通常のビジネスと同様に重要で、「ソシキ」は人をサポートするために切っても切り離せないもの、そして「ネタ」によっては世の中の必要性とずれてくる恐れもあるため重要です。これらがバランスよく集合すると新規事業が成立します。その一方で、逆に組織のヒエラルキーなどにより3要素がうまくいかないと、場合によっては会社を辞めてしまう人も出てきてしまうこともあります。
本記事では、2020年7月に㈱フィラメント COO兼CFO渡邊が三井物産㈱で行った講演をもとに、「スジのいい新規事業開発」における“ネタ”ついて解説します。(取材・文/QUMZINE編集部、永井公成)
ネタ:勝てる/勝てないスタートアップとは
勝てるスタートアップ、つまりスジのいいスタートアップの構成要素は、「経営者/陣」、「最先端すぎない技術」、「市場自体が参入障壁となるビジネスモデル」にあると考えています。またこれらは、メタファーとして新規事業開発にも取り入れられると考えています。
まず、「経営者/陣」は何といっても志があり、社会課題解決に対する動機が強く、リーダーシップやチームワークがしっかりしていることが必要です。また、現場に張り付き、現場感からの課題解決を図っている人はうまくいっています。誰も考えられないような切り口で社会課題を解決する人は面白いです。
「最先端すぎない技術」についてですが、技術が最先端すぎて市場が理解できないものは、いくら良いものでも受け入れてもらえないということです。また、ユーザのリテラシーに寄り添ったわかりやすいものである必要があります。過去に支援した企業でも早すぎて誰も相手にしてくれなかったことがありました。今はこれを教訓とし、気をつけるようにしています。
「市場自体が参入障壁となるビジネスモデル」については、産業構造上の課題を認知して、その課題を逆手に取ったビジネスモデルを作ることができると強いということです。
意外と身の回りにネタはたくさんありますので、視座を高くして興味深く、面白がって探してみると面白いサービスが思いつくのではないかと思います。
講演後には質疑応答の時間が取られました。
Q:新規事業開発に取り組んでいますが、世界を見渡すとすでに自分の考えていることと同じようなビジネスをやっている人が多くいます。どうやって差別化して行くべきでしょうか。
A:自分のやっていることがすでにやっている人が多いという問題については、「マーケットがある」とプラスに捉えましょう。そのビジネスモデルを構成する上で、キーファクタになるものが、自社のオリジナルであるかを考えるべきです。それを持っておらず、新しくやるということであればやめたほうがいいでしょう。M&Aをして小さな投資でできるなら良いですが、結局はビジネスモデルやビジネスプランのにらみ合いとなると思います。自社の強みを武器にできるものは、差別化につながるほか、コーポレートサイドの与信を取りやすいとも言えます。
Q:大企業のケースで、どのステップで何回にわけて審査を行うのか、ステップにおいて審査のメッシュは変わっていくのかお聞かせください。
A:実際に伴走している企業はある事業会社のレポートを参考にしており、そこには、「3段階でメッシュを切って進めていく」と書かれていましたが、それだと荒いと感じ、5段階にするよう言いました。
スタートアップはエンジェルラウンド、シード、プレA、A、Bといった段階がありますが、これと同じように考えるべきです。投資金額でいうと、エンジェルラウンドは5千万円まで、シードは最大1億円の投資金額、プレAは1.5〜2億円前後、シリーズAは5億円、シリーズBは3〜20億です。この事業規模が大企業でも当てはまるものの、この感覚は大企業にはあまりありません。これを当てはめると5段階となります。
これを終えて初めて事業化としたほうがいいとお伝えしました。スタートアップでは、完全に立ち上がる(キャッシュフローの安定化)は早くて3年、通常5年ほどかかりますが、大企業が本気で事業サポートすれば、1.5年ほどしかかかりません。なぜなら、大企業は使える道具や人脈などアセットが圧倒的にある分、サポートの仕方をを間違えなければスタートアップより強いと感じています。
このため、評価ゲートを設定し、ゲートごとにも育成期間を設定しておくと緊張感を保てますし、チーム稼働の打ち切りも冷静に行えます(撤退基準)。審査は課長クラス、部長、事業本部長に加え、外部のアドバイザにも入ってもらったほうがいいでしょう。
Q:専任チームを作ると良いという話でしたが、どういうチーム構成にすれば良いのでしょうか。
A:課長級もしくは次長級(兼務)がトップにおり、プレーヤーはやる気のある人だけでいいと思います。「取り立てて何かができるから」といった敷居を作るべきではないでしょう。情熱を持った人でないと後が続かないからです。
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「スジのいい新規事業開発」における“ネタ”、参考になりましたか?
みなさんの会社でも是非取り入れてみてはいかがでしょうか。
「スジのいい新規事業開発の構成要素」:ネタ
・現場感のあるからの課題解決ができるリーダーシップのある経営者/陣
・市場が理解できる最先端すぎない技術
・市場自体が参入障壁となるビジネスモデル
(前回の記事はこちら)
【プロフィール】
渡邊貴史
株式会社フィラメント
取締役 COO 兼 CFO
日系大手ITコンサルティングファームや日米のコンサルティングファーム、日系PE、プレIPOスタートアップ等を経て、2019年6月よりフィラメントに取締役 COOとして参画。2020年2月からCFO兼任。 2019年5月より中小企業庁のスマートSME研究会委員。2020年7月より国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術経営アドバイザー / NEPカタライザー。 その他、スタートアップの顧問/アドバイザーとして複数社の経営戦略支援(事業計画・資本政策・資金調達・営業・採用・労務・広報の各支援)を行っている。
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