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イノベーションの源泉は「好き力」にあった!? ~ベンチャーキャピタリスト・蛯原健氏と語る自己発見と成長の法則~

ビジネスにおいても教育においても重要なのものは「好き力」で、エリート教育のリバースエンジニアリング的手法の対極にあるのも「好き力」!?
蛯原健 氏(リブライトパートナーズ株式会社 代表/フィラメント 顧問)と角勝(フィラメントCEO)が「好き力」の本質に迫ります。自己発見と成長のために、「好きなことを見つけ、それに没頭する」にはどうすればよいのでしょうか。「好き力」を育む方法や、何に対して「好き」という感情を抱くかについての分析など、「好き力」について多角的に議論を繰り広げます。(文/QUMZINE編集部・土肥紗綾)


エリート教育の成功をハックすることは真の学びなのか

蛯原健 氏(以下、蛯原): 最近、ビジネスで会う人たちと教育について話をすることが多いんです。僕が最近見聞きしたり勉強した中で言うと、教育の最高峰であるイギリスのオックスブリッジやアメリカのアイビーリーグに合格する方法を考えるときに、どういう子たちが受かっているかを逆算するというものです。

角勝(以下、角): おお。

蛯原: 勉強ができて点数がとれるというのは当たり前で、その次に課外学習です。ボランティアやスポーツをやってますとか、リーダーシップを発揮してますっていうものですね。この部分が徹底的に分析されていて、そのための塾や課外活動みたいなものをサポートをするといったものもあって、それは本末転倒ではないかと僕は思うんですよね。

角: うーん、僕も蛯原さんが仰ったリバースエンジニアリング的な発想が「教育」だとは一瞬も思わなかったですね。

蛯原: そうなんです。教育じゃなくて合格のためのハック術じゃないですか。要するに本末転倒です。 幸せになるために幸せを度外視したことをやるみたいな話になってしまっている。

角: 良い教育を受けるために教育じゃないことをやってるみたいな話になっているように感じますね。

蛯原: でね、僕が思ったのは、そのハック術の対極が「好き」なんじゃないかというものなんです。
帰納法と演繹法みたいなもので、たとえば、「昆虫が大好きで論文まで調べて、果てには新しい種や理論を見つけました」みたいな子がハーバード大学に合格するとします。それを見て、「ハーバードに合格できるから、好きでもない昆虫のことを調べなさい」ってのがハックなんですよ。そうなると前者の「ただ単純に好き」が絶対に強いんです。
だけど問題は、なにかを好きになる力、いわゆる「好き力」が人類的に減っていると僕は思ってるんですよ。

「好き力」を高める方法と「嫌い力」

角: たとえば、運動が好きな子がいるとして、その子がすべてのスポーツを極められるわけではないですよね。でも、いろんなスポーツをやってみて、自分をオープンにして、「とりあえずやってみると楽しい」「でもこれは違うな」って体験することを散々やってみて到達するのが多分本当の「好き」なんだと思うんですよね。

だから、 いっぱい挑戦してみないとわからないみたいなことがあるかなと思います。僕が蛯原さんの言う「好き力」を認識したのは、就職してからなんですよね。大阪市役所に就職して最初に配属されたのが固定資産税係で、色々な家を見に行って、自分はこういう家が好きだなと認識していったんです。

蛯原: さっきまで僕が言っていたことって、「子どもや学生は好きなことを見つけたら勝ち。それが強い。それが素晴らしい。だから見つけなさい」っていうことになると思うんですけど、これって押しつけになるんですかね?うーん、でも好きなものが自然と見つからなかったとしても、努力して好きなものが見つかるんだったらいいのか。①先天的に好き、②たまたま後天的に好きなものが見つかる、③努力して好きなものを見つける、の3パターンかな。

角: 僕は、「自分がそれを本当に好きか」っていうのは正直ずっとわかっていないんですよね。たとえば、僕は世界中のあらゆる家のデザインを見ているわけじゃないのに、自分が見たことのある家のデザインの中からこの家が好きって言ってるわけじゃないですか。
ただ、それは服でもスポーツでもすべてのジャンルでも言えることなんですけど、それでも自分の「これが好き」というレイヤーを重ねていく中で、初めて自分の「好き」が見えてくる気がしています。

蛯原: あえて言うと、僕が言ったさっきの「③努力して好きなものを見つける」のパターンに近いですよね。

角: そうですね。先天的だけでも努力だけでもなくて、両方ですね。

蛯原: なるほど。ただ、やっぱりね、角さんは「好き力」が高いんだと思います。

角: 僕の「好き力」が高い?

蛯原: そもそも、なにかに挑戦してみても面白さを感じなくて挫折する人がほとんどじゃないかと思うんですよ。水泳でも乗馬でも好きなものを見つけなさいって言われて、時間やお金といったあらゆるリソースをかけて挑戦するんだけど、結局1つも好きにならないっていうことのほうが多いんじゃないかと思うんです。そんな中で、生まれながらにして「好き力」が高いお子さんがいるんじゃないかって話です。

角: だとすると、僕は「自分が好きなものを見つけたい」っていう気持ちが高いんじゃないかな。

蛯原: 「好き力」は高いけど、その好きの対象が何かがわかってないっていうことですか。
じゃあ、もう1つのテーゼとして、「嫌い力」はどうですか?「好き力」が高い人は、「嫌い力」は高くないんじゃないかと思ってるんですけど。

角: 好きなところを見出そうっていう感覚は強くあるので、そう言われるとそうかもしれないですね。
「敵を作らず、味方を増やす」ってフィラメント創業初期によく言ってました。敵を作ってもしょうがないんですよね。なんというか、敵を作ることは良策ではないんだろうなっていう感覚があるんですよ。他人を嫌だなと思ったとしても、それは結局、価値観が違うだけだよなって思ってますね。だから、相手に寄り添うとか、お互い開示しあって理解し合うのが大事だと思ってます。

「好き力」≒「面白がり力」

蛯原: 「好き力」が高い角さんが創業したフィラメントには、比較的「好き力」が高い人が集まっているんですかね?

角: どうだろう。「好き力」というかなんでも面白がってみるっていう姿勢を周りの人に見せていると、周りの人にも影響はある気がしますね。フィラメントでは「面白がり力」と言ってるんですけど、ワクワクして面白がっているとそれが行動として現れて、そうしているうちに、「なんかめちゃくちゃ楽しそうにやってるけどどうしたんですか?」って声をかけてくれる人が出てくるんですよ。これがフィラメントのクライアントの皆さんや共創メンターの皆さんです。

蛯原: 面白いだと形容詞ですけど、面白がるだと動詞で、主体性が加わっている感じがしますよね。客観的に見て面白いと他人が言ってるんじゃなくて、当事者が面白いと言っている。主体的かつ能動的な言葉ですね。

角: 面白いと感じる状態を作るために自ら行動して、そしてそれを再生産しているっていう状態だと思います。

蛯原: そうですよね。先程の「好き力」にもつながると思うんですけど、好きというのは主体的なものですよね。

角: うんうん。フィラメントの共創メンターに入ってきてくれる人は、さっき言っていた自分が何を好きかっていうパターンを突き詰めて考えている人が多い気がします。たとえば、「どんな家が好きですか?」と質問したら、「家だったらこういう家が好きです」ってパッと答えられる人が多いみたいな。

蛯原: 好きなものをよく考えてるからすぐに答えられるんですかね?

角: 多分ですけど、自分っていうものに向き合った時間が長いんじゃないかって思います。

蛯原: 内省的かどうか、自分と対話した時間がどれだけあるかってことですね。
僕は若い頃から、内省的っていうのは結構自分の中でのキーワードになってるんですけど、でも内省的なだけではなんか魅力的じゃないんですよ。表面的には矛盾するように聞こえるけれど、内省的だけど外に向かってるのが魅力的だと思うんです。

なんか今日はフレームワークを発見した気がしていて、「内省的かどうか」と「好き力が高いか低いか」ってやつです。内省的で「好き力」が高いってのが最強なんじゃないかって思いました。

角: 内省することと「好き力」が高いの掛け合わせですね。まずは何かを面白がってみることから始めてみるといいのかもしれませんね。


【プロフィール】

蛯原 健
リブライトパートナーズ株式会社 代表
フィラメント 顧問

シンガポールにて東南アジア・インドに特化したベンチャーキャピタルファンドを運用する リブライトパートナーズ㈱ 代表
インドネシア史上最大規模IPOやフィリピンスタートアップ史上最大M&Aエグジットをファーストラウンドにおけるリードインベスターとして創成する等の実績を有する
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
1994年 ㈱ジャフコに入社、以来一貫しスタートアップ投資及び経営に携わる
2008年 独立系ベンチャーキャピタルとしてリブライトパートナーズ㈱を創業
2012年 シンガポールに事業拠点を移し東南アジア・インド投資を開始
2019年 書籍 『テクノロジー思考 技術の価値を理解するための「現代の教養」』 -ダイヤモンド社- を上梓


角 勝
株式会社フィラメント 代表取締役 CEO

1972年生まれ。2015年より新規事業創出支援のスペシャリストとして、主に大企業において事業開発の適任者の発掘、事業アイデア創発から事業化までを一気通貫でサポートしている。前職(公務員)時代から培った、さまざまな産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、必要な情報の注入やキーマンの紹介などを適切なタイミングで実行し、事業案のバリューと担当者のモチベーションを高め、事業成功率を向上させる独自の手法を確立。オープンイノベーションを目的化せず、事業開発を進めるための手法として実践、追求している。

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