人事院橋本賢二さんが語る、人生100年時代のキャリア構築法!〜人はどうしたら変われるのか〜
人事院で国家公務員の採用関連の仕事を担当されている橋本賢二さん。キャリア教育や人生100年時代構想に関連した人材育成、「人生100年時代の社会人基礎力」の策定などに従事されてきました。「信頼の下駄」「強迫と共感」といった、パワーワードも多数飛び出した、フィラメントCEO角勝との人生100年時代のキャリアに関する対談を掲載します。(文/QUMZINE編集部、永井公成)
広く視野を持ち、繋げる
角:まず橋本さんのお仕事を説明してもらってもいいですか。
橋本:国家公務員をしています。人事院で、大学生に公務員の魅力を伝えて、国家公務員採用試験を受けてもらうようにするのが私の本業です。
角:大学を回って話をされたりするんですか?
橋本:はい。大学にも行きますが、単に大学に行って「試験を受けてください」と言っても受ける気は起きないと思っています。例えば、企業や役所が学生に対して課題を提示して、学生が解いたものを評価する「PBL」という授業にも参加しています。大学で単発の登壇もしてるんですが、そこで役所仕事をやっちゃうと、参加者層が「公務員しか志望していない人」に固定されますよね。「どうせ役人的なつまらない話でしょ」と思われた瞬間にアウトなんです。
角:いかに役所っぽくなくするかというところが大事なんですよね。
橋本:はい。おっしゃる通りです!なので、私の場合はキャリア論も交えながらお話するんです。半分ぐらいは公務員らしくない話をするよう心がけています。
角:いいですね!でも、今時公務員に興味持ってくれます?今もう日本最大のブラック企業みたいな見られ方をされるじゃないですか。
橋本:はい。でもそこは私なりの決め台詞があって。それが「俺がやらずに誰がやる」ということなんです。やらなきゃいけないことが生じたらそれは絶対的にやらなきゃいけない。そこでやる力があるのは公務員だし、それを担いたいと思うんだったら民間よりも公務のほうが社会へのインパクトが大きいですよね。
あと私は「信頼の下駄」と呼んでいるんですが、公務員は期待されているからこそ信頼されています。中身さえ持っていれば話を聞いてくれる人たちはたくさんいます。それだけ責任のある仕事だと思いますし、そういう自覚を持てると、いろいろなものにアンテナを張れるようになって、物事を深く、広く知れます。民間の人と話をしてても、「国は~」とか「社会は~」といった風にマクロ視点で課題を見ると「視野が違う」とよく言われるので、こういうのは公務のスキルなんだと思います。
そして、こういう目線で働いていると、全然違うところの話が「これあっちで応用できるかも!」とひらめく時がありますよね。各省庁でどんなことがホットイシューなのかをチェックするんですけど、それが意外とキャリアにも繋がったり、「あの施策とこの施策って、もしかして繋がるかも?」みたいに見えてくる世界があったりします。
角:それって、オープンイノベーションにすごく適した思考が育まれると思うんですよ。橋本さんはいろいろなところを俯瞰して見るようにして、ホットイシューが何かとかいうのも探ろうとされている。民間の中でのそういう振る舞い方をするポジションってあんまりないんですよね。経営層とかにいたら違うんですけど。
橋本:たしかに。経営企画の人たちがやれているかどうかですかね。
角:そう。その人たちは、大体自分の会社を中心に置いて考えているじゃないですか。でも橋本さんの場合は、各省庁のどこにも属さずに国全体のことを見ながら、その中のパーツの1つとして各省庁を見ている感じがするんですよ。
橋本:人事院の場合は「人事」という切り口でもあるし、私がたまたま採用担当で、各省の仕事も含めて魅力を伝えなきゃいけないポジションなので、そういうことができているのかもしれないですね。
まずは自分の行動を変えよ
角:橋本さんが作られたこの資料ですけど、この働き方が変わる話はすごくいいなと思っていたんですよね。
橋本:これは入山章栄先生の著書『世界標準の経営理論』を参考にしてまとめさせていただきました。
角:フィラメント顧問の入山先生ですね(笑)。ちょっとご説明いただいてもよろしいでしょうか。
橋本:「キャリアは自分と社会との間で決まるもの」というのが私の考えです。どんなにやりたいと思っても、社会が認めてくれてなかったら実現できません。社会との関係で考える必要があります。また、「社会」は変えにくいですよね。でも「自分」はコントロールしやすい。だから越境とか、自分の行動を変えるということはできます。
「変わらなきゃ」と思うとすごく大変だけど、でも変わるきっかけって実は「埋め込まれた繋がり」にあるんじゃないの?って思うんですよね。
こういうところから意味づけが変わると、多分変化を起こしやすいのかなと思います。
角:なるほどね。
橋本:また、『LIFE SHIFT』の著者であるリンダ・グラットンさんが「3ステージモデルからマルチステージへ」と言われているように、働き方やテクノロジーの進化、世の中の変化が早くなっているので、働くということ自体がもはや定常状態ではありません。
だから学びとか多様な働き方も重要になるし、家庭を持ったらパートナーのキャリアとかも考える必要が出てきて、どのタイミングで自分がアクセルを踏むとか、もしくはスピードを落とすとか、そういうのはいろいろな関係性によって決まってくるので、常にトップスピードで走れるような状況じゃないですよね。
角:まさにそうですね。
橋本:だから、柔軟な働き方を目指す働き方改革や知識やスキルをアップデートする学び直しが今必要なんです。変化が激しいから、学び続けないととてもついていけないです。
角:本当そうだと思います。僕の感覚でいうと、公務員はもう辞めちゃいましたけど、自分がこれまでに培った知性の大半って、多分公務員の時に形成されているんですよ。公務員としての仕事の仕方、事象の抽象化、解決すべきところを発見して提案することなど、それができていたことのありがたみはすごく感じるんですよね。
角:この無形資産の部分とかもすごく面白いですね。
橋本:最後の変身資産のところは入山先生が紹介されていたEmbeddedness理論と同じようなことだと捉えています。変わろうと思って変わるのってすごく大変ですけど、外堀を埋められるかのように変わらなきゃいけないきっかけが溢れていると、多分変われるんです。それがネットワークなんじゃないかと思うんですよね。
角:橋本さんのおっしゃるとおり変わろうと思っても人間なかなか変われないんですが、明確に「これやったら絶対変わる」ということがあるんですよ。
それは「感化」です。自分がすごく好きな人がいて、「その人みたいになりたい」という願いが原動力だと素直にその人を真似するようになるんですよね。そして行動習慣と思考習慣がナチュラルに変わっていく。
橋本:おっしゃる通りです。
角:自分を変えるというのはその状態までどうやって自分を誘うかっていうことだと思うので、さっきおっしゃった「ネットワークの中で」というのはまさにそうだなと思いました。ただ多くの場合、外に出て行かない人だと、「自分がこうなりたい」という対象が見つからない、探す行為をそもそも放棄していたりとかするので変われないんですよね。だから外に出て行って情報をちゃんと見て、リスペクトできる人を探せるといいのだと思います。
橋本:そうですね。
角:橋本さんは多分大学生と接して、役人らしくない面白い人だという感じで認知されていると思うんですよ。そこから学生さんが「この人(橋本さん)みたいになりたいな」って思ってくれて、その子が思考習慣とか行動習慣が変わって、結果的に、公務員の試験を受けにくるってそういう流れですか?
橋本:そうですね。迂遠ですけど(笑)。
角:なるほど。だから橋本さんがやっている仕事の本質は、学生向けの変身資産の提供なんですね。
橋本:そうかもしれないですね。
当事者意識を持たせるには「強迫と共感」
角:人生100年時代でいうと、人生100年時代とVUCAの時代という話が同列に語られたりしていないと思うんです。人生100年時代は人生100年時代だけ、VUCAの時代はVUCAの時代だけ。あと終身雇用が崩壊したという話はまた別にあるんですけど、これら3つはみんな一緒にきているはずです。変化が早くて、働く期間が長期化して、しかも雇用不安定化している。
若者と接する機会が多い橋本さんからするとどうでしょう?若い人はVUCAや人生100年時代、終身雇用の終焉を認識しているように思われますか?
橋本:若い人は全部自分事にはなっていないですね。大人も含めてですけど、若い人はまずVUCAを知らないです。終身雇用が危ういというのはどうも気がついているけども、そもそも「働く」ということを理解していないので、自分事になっていない。人生100年時代についても、「なんか生きるの長くなるんでしょ」という程度ですよね。
角:なるほどね。そんな感じなのか。
橋本:ただ、さっき角さんが変わるきっかけとして、「共感することで感化される」っておっしゃったじゃないですか。私もそれと同じ感覚を持っていて、このままじゃいけないと強く思うことが大切だと思うんです。
私は、「強迫と共感」って言っていまして、まず強迫して、強く迫って現実を知り、その後に、それらにどう向き合うのかっていう手を差し伸べて、そうだねって共感が生まれると当事者意識が出ると思っています。
角:面白い。
橋本:角さんが出された3つのキーワードって、まさに強迫にあたる部分なんですよね。
でもそれが若い人にはまだ理解できていないから強迫にならないんですよ。そこをまずちゃんと教える必要があると思いますね。何がVUCAで、何が終身雇用で、なんで大変なことになっているのかっていう部分も解きほぐす必要がありますし。そうすると100年時代ってどういう意味を持つのかっていうのが初めて分かりますよね。
角:なるほど。
橋本:面白いことに、実は社会人向けに話す内容と学生向けに話す内容って、まったく変わらないんですよ。言い方を変えると、大人も学生も全然レベルが変わらないんです。考えなくても生きていけちゃうからだと思っています。外との繋がりを意識している人は、いろいろな視点から自分を客観視して「やばいよね」という気づきがあるんでしょうけど、何もしていない人はそういう気づきを得る機会すらないですよね。
角:そうですよね。たしかに。それってどうしたらいいんですかね。
橋本:外に出るのが一番手っ取り早いですけど、でもやっぱり最後は自分事にできるかどうかなので、外に出なかったとしても日頃の生活の中から気づきを得られるかどうかですかね。
角:そうなんですよねぇ…。
橋本:そこがもどかしいところですよね。その気づきの機会をいかにつくるのかが組織としての仕事になると思うんですよ。
角:なるほど。橋本さんみたいな外に出ていく、そして組織の中の自分だけじゃなくてもっと上の視座に立って組織の外を見渡すような視点を持っている公務員の方って、すごく少数派だと思うんですよね。橋本さんが思考習慣を形成できた理由はなんですか?
橋本:人事を仕事にしてから「キャリア形成って大切じゃない?」という問題意識はあったんです。また、経産省に出向して「人生100年時代の社会人基礎力」を担当しました。経産省での出向を終えて人事院に戻ってきた時に、「あの話をしてくれ」みたいな感じで依頼を受けるんですよね。その瞬間に殻を破ったんだと思うんです。経産省の人間ではなくなって人事院に戻ったけど、でもやっぱり「橋本」に話してほしいと言われてそれを引き受けたんですよね。
角:なるほどね。たしかにそれが役所の中だと異動してそれやったら越境行為だみたいな感じに見られがちですよね。
橋本:はい。本当は後任に引き継ぐべき仕事だと思うんですけど、でもなんで私にオーダーが来たのかっていうのを振り返ると、経産省時代も結構自分のオリジナルをいれていたからだと思います。やっぱり役所のスライドだけで後任でもできるようなことやっていたら伝わらないし、意味がないと思っていたので。
角:たしかに。属人化されるような仕事こそ価値がありますもんね。
橋本:そうなんです。
角:本当にグリットを持って仕事をした時に、「仕事」っていう部分を自分が超えちゃったんですよね。自分の持っている面積が仕事のテリトリーを超えて外側に染み出していってしまったという。
橋本:はい。そうですね。
角:いいっすね!僕は、そういう人が、その業界のいろいろなことを変えていくと思っています。すごくいいお話をお聞きできました。久しぶりに仲間を見つけたなみたいな感じです。
橋本:ありがとうございます。私も元気をいただきました。変人扱いなので(笑)。
【プロフィール】
橋本 賢二
キャリア教育研究家(人事院)
2007年人事院採用。出向先の経済産業省にてキャリア教育や人生100年時代構想に関連した人材育成、「人生100年時代の社会人基礎力」の策定などにも従事。現在は人事院に戻って国家公務員の採用関連の仕事に従事する一方、「キャリア教育研究家」として、子どもから大人までがそれぞれの発達段階を踏まえたキャリア・オーナーシップを涵養できるよう、教育委員会や学校法人などにおいて、これからの時代に求められる資質・能力の普及啓発やその育成のための具体的な行動変容を目的とした講演活動などを行う。
角 勝
株式会社フィラメント CEO
2015年より新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業において事業開発の適任者の発掘、事業アイデア創発から事業化までを一気通貫でサポートしている。前職(公務員)時代から培った、さまざまな産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、必要な情報の注入やキーマンの紹介などを適切なタイミングで実行し、事業案のバリューと担当者のモチベーションを高め、事業成功率を向上させる独自の手法を確立。オープンイノベーションを目的化せず、事業開発を進めるための手法として実践、追求している。