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視点をリフレーミング! タムラカイ氏とフィラメントCXO佐藤啓一郎が語る「デザイン思考の誤解」

2020年、富士通のニュースを聞かない週はない昨今。
そんな中、今でも新しい試みをどんどんやり続けているタムカイさんの貴重な過去インタビューです。

大企業・富士通に勤務する現役デザイナーでありながら、組織を作ったり、書籍の出版、イベントの開催など、社内外で活躍するタムラカイ(タムカイ)さん。タムカイさんのインタビューをフィラメントCXOの佐藤がSNSでシェアしたところ、「デザイン談義しましょう!」と盛り上がり、今回の対談が実現! 前編では、今回の対談のきっかけとなった「デザイン思考」についてディスカッションします。(聞き手:宮内俊樹)

*本記事は、2019年2月に㈱フィラメントのコーポレートメディアで公開された記事の再掲です。

デザイン思考はビジネスの武器になりうるか

――最近、『「デザイン思考は使えない」と言う前に』というLinkedInでのタムカイさんのインタビューを読んで、フィラメントCXOの佐藤とデザイン談義したらきっと面白いよねってのが、今回のきっかけでして。あの記事はすごくタムカイさんの想いが凝縮されていました。

タムラカイ氏(以下、タムカイ):僕はあの記事で話した通り、こんなにデザインが注目される時代になったのはとても喜ばしいことだと思っています。その一方でデザイン思考がお金を稼ぐためのツール、マーケティングツールになっちゃってるところは危惧するところでありますね。

佐藤:単純に新しいビジネスメソッドとして捉えてる人が多いよね。

タムカイ:デザイン思考はメソッドではない。僕の解釈では思考とかマインドセットぐらいのものだと思っています。

佐藤:僕らはもともとデザインを仕事にしてきたので、いまのデザイン思考を取り巻く言説にはちょっと違和感がある。デザイン思考自体が悪いわけじゃなくて。僕も4年ぐらい前に当時の部内でデザイン思考のワークショップをやって分かったのは、確かに言語化されてる、体系化されているっていう思いがすごい強かった。誰も語ってこなかったけど確かにこういう思いでデザインをしているし、新しいことやろうとするときにこういう体系化って必要だよねっていうのは、納得感があった。

タムカイ:最初にデザイン思考に触れた時、「そうそう、確かに俺らってこうやってデザインしてきたな」っていう感触がありましたよね。デザイン思考としてではなくデザインを学んできた中で、自然とああいう思考法に至っていたみたいなところがありました。

佐藤:学校で勉強してるときは一生懸命考えるから、デザイン思考的なことはいろいろやるんだけど、仕事としてデザインをやると作る方ばっかりになっちゃうから、一旦忘れちゃうんですよ。なのでデザイン思考っていうフレームワークを、デザイナーが再発見するみたいな形なんでしょうね。

タムカイ:だから学生時代のほうが、ああでもない、こうでもない、本当に求められるものは何なんだろうってずっと考えていた。会社に入ってからはウェブ系のデザインをしていたんで、いかに早く、多くの人が「おおっ」ていうグラフィック表現をするかっていう仕事ばかり。会社の仕事って装飾系のものばかりで、デザインじゃなかったな、みたいな。

佐藤:僕はもともとプロダクトデザインだから、素材とか、新しい図面の引き方で新しい造形をつくり出すとか、そういう方向に行ってしまう。若いうちは覚えることが多すぎて、特にプロダクトデザインってノウハウがすごい多いんで、思考するよりはとにかく手を動かすんです。そうなると、手を動かしてる方がえらいみたいな感じにどんどんなっていく。一日にスケッチで何案描けるかとか。

タムカイ:大企業が一時期陥ってしまったのは、インハウスデザインでは新しい発想のものはつくれないから、外から権威のあるデザイナーを連れてきてプロダクトを作る。日本のデザインの文脈がそういうやり方に寄っちゃった時期が確実にあって。確かにいいものも出てきたので、それを否定する話ではないんだけど。

佐藤:80年代後半から90年代ぐらい。スターデザイナーに頼ると、会議が通りやすい。実際、依頼するお金もあった時代ではありますね。

タムカイ:で、ある時、俺らがやってきたデザインって実はいろいろなことに使えるなってことに気付くんですけど。デザイナーはビジネスが分からないってのが結構ボトルネックだったんですけど、佐藤さんのSNSでのコメントでもありましたが、デザイン思考はそのための武器になるっていう。

佐藤:企業の中ってすごい業務が細分化されてて、デザイナーは仕様が固まったあとのスタイリングだけをやるみたいな感じにどんどんなっていきましたよね。それに対して、デザイン思考をやるともっと上流から入っていかなきゃいけないってことが分かってくるし、実際それで解決できることがあるし、デザイナーはもっと部外とと関わりを持たないといけないって分かってくる。

タムカイ:一方で、デザイナーってのは基本的にはちゃぶ台は引っくり返してなんぼだと思ってまして。特にデザイン思考のプロセスを回してると、ちゃぶ台を引っくり返す結果になる。それですげえ、あいつらがいると面倒って言われたりもする。だから人間力ですよね、最後は。

佐藤:あとはむやみに「デザイン思考」って言わないっていう工夫も必要ですよね。僕もデザインだからとか、デザイン思考だからとか言わなかったんですよ、絶対に。

タムカイ:デザイン思考について語るデザイナーは、「デザイナーの僕がデザイン思考を皆さまにお伝えしてあげましょうか」みたいな上目線が伝わってしまう人がやっぱり少なくはない。お互いにリスペクトしてできるプロセスであって、僕たちはこういうことをやってきたし、皆さんのものをくださいっていう姿勢が大事。

佐藤:結局、上流工程をやってる人たちと同じレベルに立たないと絶対一緒に仕事できないからね。

タムカイ:だからちゃんとデザインができる人は、ビジネス側にたって今こうしなければいけないということもちゃんと理解できるし、でも本当はこういうことが求められてるんじゃないかっていう指摘も提示できるし。そういう人は「やっぱりデザイン思考ですよね」みたいなことはあえて言わない。

デザイン、人材育成、組織論を掛け合わせて思考する

――「デザイン思考は使えない」っていう批判の、類型みたいなのってありますか?

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タムカイ:「それがありゃ、なんかうまくいくんだろ」みたいな誤解ですよね。魔法の杖パターン。デザイン思考があればイノベーションが起きる、みたいな因果関係を断言している人とかがいて。だからイノベーションが起こせなかったらデザイン思考は使えないじゃんってなってしまう。

佐藤:あとは次の流行が出てくると、「もうデザイン思考は終わった」みたいな感じで、次の流行に飛びついていく人。

タムカイ:素敵なデザイナーだなと思う人はデザイン以外のことをいろいろ知ってたりとか、勉強している。経営ができたりとか。

佐藤:そもそもデザイナーってすごい世界が狭い。専門能力は高いけどほんとにそこしか分からないし、興味もないみたいな人が多い。好きでやっている職人的な人が本当に多いんで、そこがどうしても成長のボトルネックになってる。

タムカイ:職人の世界的なところはありますね。特にプロダクトデザインとかに入っちゃうと、きゅっと狭くなっていく。

佐藤:職人化しちゃうのも別に悪くはないんだけれども、もっといろんなことを知ったら、あなたのその仕事ももっといい仕事になるのにって思うことはよくあります。

タムカイ:なので、僕の仕事はデザインっていう文脈で今まで来ていますが、同時に例えば人材育成とか、組織論とかが好きになったりとかして、掛け合わせでいろんなものが作れていく。デザイン思考は、僕の人生のすごくベースにあるってずっと思っているタイプではあります。

――記事の中にも出てたけど、デザイン思考はPDCA回すんだろっていう誤解。これも類型ですよね。

タムカイ:例えばPDCA(Plan・Do・Check・Action)と、OODA(Observe /観察・Orient /状況判断、方向づけ・Decide/意思決定・Act /行動)で何が違うっていう言ったら、別に特に違いはなくて。本当にPをやらないとDに行かない人は、PDCAすら使えてないはずなんですよね。

佐藤:そこの捉え方はデザイナーとそうじゃない人は結構違っていて。デザイナーは普通1発目から完璧なものを作れって言われて育ってきてるんですよ。なので、まず途中を見せたくない人が多いんです。プロセスを絶対見せたくない。

タムカイ:職人ですから。

佐藤:最後にこれしかないっていうやつだけ見せたい。そういう人たちにとってPDCA回せっていわれるのは、すごい苦痛なんですよ。

タムカイ:あと、そういうタイプに限って批判に弱いというか、穴が開いてたりするの指摘されるとキレるみたいな。

佐藤:逆ギレ、あるある(笑)。

「察する」の中にもいい気づきがある

タムカイ:僕は大学のときはプロダクトデザインだったんですけど、グラフィックデザインにはまっていって、ちょうどウェブが出てきたときに趣味でやっていたのが、会社に入ってからも仕事になった。GUI系ですね、ウェブや携帯電話、スマートフォン。

佐藤:ウェブの人でもプロダクト思考が強い人もいるし、いろいろです。

タムカイ:だから僕の学生時代は、日本のデザイナー教育が美大にしかないっていう状況で、普通学部にもデザインってあるんだみたいなことがまだ言われていた頃でしたね。やっぱり偏った人間しかデザイナーになれなかったし、ならなかった。

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佐藤:僕はさらに特殊例ですね。美大じゃなくて、地方国立大教育学部で美術の先生になるコースだから。会社入ったときは、デザイン部門で美大以外の人ってまずいなかった時代。

タムカイ:僕もちょっと亜流で筑波大学なんで。一応美術、デザインのコースだったりはするんですけど。ガチの人たちのガチ感ってありますよね。やっぱプライドがすごい。俺たちはデザインをやってきたんだ、みたいな。

佐藤:筑波大学出身者の傾向は自分の印象ではデザイナーの中でゼネラリストタイプなんですよ。純粋じゃないからな、みたいに言われがち。

タムカイ:だから技術力とか、匠の技としてのデザイン力としては低いという位置づけをずっとされてました。

佐藤:僕は80年代末から働いてて。当時は急激な円高で輸出産業が落ち込んだせいでバブルの恩恵にあずかってないんですが、その頃は逆に危機感で結構面白いことやってたんですよ。企画的なこともいっぱいやってて。出版社と組んで人気雑誌と一緒に部屋づくりやる中で、ここに合うモノをデザインしよう、とかですね。たまたま担当がオーディオ機器だったんで趣味性が強いじゃないですか。ライフスタイル感が強いんで、企画しながらやっていた。その前は海外に行って訪問リサーチして、そこの生活に根ざしたオーディオセットを作るとか。昔のほうが幅はもっと広かったかもしれない。

タムカイ:だから多分、日本が経済的に発展していった時期から、国際化していく中で変わっていった過程があって。これは別にデザインだけの話ではないですよね。

佐藤:デザインだけじゃなくて、そのあとの90年代っていろんな会社のルールができた時代なんですよ。ガバナンス、統制ブームがあり、業務範囲がきちっと決められた。会議に上げるときはこんだけのハンコもらわなきゃいけないとか。ゆるゆるだったのがすごい厳しくなったのが90年代から00年代。

タムカイ:僕は03年入社なんで、入ってからそれこそ5年ぐらいはガバナンス体制ガチガチのところで仕事していることが多かったです。でもウェブの仕事はまだちょっとふんわりしていて。

佐藤:まだネット周辺は固まってない時代だもんね。

タムカイ:大きいシステム入れた会社にフックとしてウェブサイトを持ったらどうですかみたいな提案をしていた頃だったんで、いろんな実験もできたんです。僕はそういう意味でいうと、ガラケーの死とスマホの立ち上がりをどちらも経験しました。

佐藤:僕もそこ、経験してる。

タムカイ:なかなかな時代でしたね。

佐藤:なかなかハードな時代でした。

タムカイ:いまだにデザイナーって超残業する過酷な仕事なんでしょって言われることがあるですけど、確かにあの頃はそうでした。僕はまだ携帯のコンテンツの方だったんで、もうちょっと好きにできたんですけど、ハードの人たちは大変そうだった。

佐藤:でもソフトも大変でしたよ。ガラケーの時代なんか、タムカイさんもそうだったと思うけど、毎回5,000個のアイコンをつくり直すっていうのを4半期ごとにやって、地獄でした。メンタルやられる人も出てくる。普通にやるともう無理なんで、僕のときは一生懸命システムを考える。どうやったら効率的に量産できるのかっていうのを。それまでのデザインとは違う脳を使うという意味では鍛えられたけどね。

タムカイ:デザイン思考とはほど遠い時代ですね。

会社の仕事って期日が決まっててこれとこれをやれなので、デザイン思考的なものはいらないんですけど。学生時代なんか、人の生活を豊かにする情報サービスをつくれ、みたいな課題の投げ方をされるから、豊かとは何かとか、情報とは一体何が情報なのかとか、誰が使うのかとか、まあ全部考えるわけですよね。

佐藤:根源的なところから始める。

タムカイ:それってなぜ走るのかっていうのも考えるし、走るんだなって思えば走るし。みんなが走れ、っていってる中で、これは走らなきゃいけないのかとか、本当はそこは水じゃないのか? とかって考えると、今度は泳ぐに変わんなきゃいけない。ちょっと抽象的なんですけれど、デザイン思考ってそういうことだなと思います。みんながそうだっていってるときに、そうじゃないかもっていうことだってある。

佐藤:視点のリフレーミングなんですよね、デザイン思考って。

タムカイ:d.スクールの5つモードがありますけど(共感・問題提起・創造・プロトタイプ・テスト)、あの中に入ってないものがいくつかあることに実は気づいてて。なぜあの1モード目に「共感」が入ってるか、なぜあそこにわざわざ共感って入れるかって話をいつもするんです。あれが生まれた場所がスタンフォードのd.スクール、もしくはIDEOだとすると、彼らアメリカ人には本質的に「意志」があるんだなってことに気付くんです。意志があるからこそ、お前はそう思ってるかもしれないけれども「共感」が必要だぞってことなんです。だから意志なき共感なんてないわけで。アメリカ人って意志が強めの人が絶対多いけれども、逆に日本人は「共感」って得意じゃないですか。

佐藤:察する的なやつ。

タムカイ:その察するの中にすごくいい気付きがあったりする。さっきの視点のリフレーミングみたいなのも、そもそも自分はどうしたいという「意志」が日本だと強烈にはないから、そこを補って考えなくちゃいけない。もともと日本人が得意なはずの「共感」を意識化させられて、持っていない能力(としての「意志」)を落としてしまうとやっぱりデザイン思考はうまくいかない。その辺はデザイン思考の基本である「六角形」をありがたがりすぎちゃうと、いろいろ問題が起こっちゃうよなって思うんです。

佐藤:そういう文化でできている欧米と、ハイコンテキストな文化でできている日本との違いですね。

タムカイ:さっきの意志の部分は、それこそ大学で謎の課題を出されて、それでもやり続けるときにすごく感じる。やり続けているうちに、「俺ってこういうことがやりたいんだな」っていう確固たる意志が見えてくるんです。でも、下手すると会社員の多くは意志を持たないことが正義だった人が多いので、そこにいわゆるデザイン思考だけを持ってきてもやっぱりフィットしないって思う。

佐藤:ちゃんとデザイン思考やろうとすると、無茶苦茶考えなきゃいけないじゃないですか。あの考える訓練ってすごくいいんですよ。

タムカイ:最近話題になっているアート思考も、本質はいいものだと思うのですが、同時に今現在のデザイン思考を取り巻く状況と同じ危うさを感じるんですよね。バンクシーとかいろんなアートを見て、ああいう感じのものをつくればいいっていうメソッドになってしまうと、これはもう本末転倒というか、役に立たないけどなんか心がぎょっとするものをつくる思考になってしまう。

佐藤:本当アート思考は一番ざわつきます。アートの見方とか、そんな本ばっかり出てて、メソッド化しつつある。本当はそうじゃないはずなのに変に消費されてる。

タムカイ:LinkedInの記事の中でも話しましたが、意志っていうのは志を意識することだと思うんです。いま自分はどういう状態で、こうなりたいっていう志を意識しなきゃいけない時代なんだと思っていて。だから、あまりデザイン思考っていう話には触れすぎないようにして、僕は今の活動をずっとやってきています。

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【プロフィール】

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タムラカイ

2003年富士通入社、GUIデザイナーとしてキャリアをスタート。
大企業の恩恵と不条理の狭間で「個の軸」の必要性を痛感、紆余曲折の末に個人活動として2014年から「ラクガキ」という根源的な表現行動を用いたワークショップを開始。感情表現記法「emography®️」などオリジナルメソッドやツールによる非認知スキル向上プログラムをデザインし、企業・自治体向けに人材育成、チームビルディング、組織マネジメントなどの講演・講座を行なっている。
活動の実践の場として自らが中心となり結成した「グラフィックカタリスト・ビオトープ」で一般社団法人at Will Work主催「ワークストーリーアワード2017」を受賞。
「世界の創造性のレベルを1つあげる」をミッションとして、独立でも複業でもない、個を軸としたミックスによる「混業」というこれまでにないキャリアを創り出し発信している。著書に「アイデアがどんどん生まれる ラクガキノート術 実践編

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佐藤 啓一郎(さとう・けいいちろう)
株式会社フィラメント 取締役 CXO(Chief eXperience Officer) 兼 CHRO


1987年、シャープ株式会社にプロダクトデザイナーとして入社。AV家電、白物家電、通信機器、ビジネス機器、新規事業の製品および関連サービスのUXデザインを行う部門を立ち上げ運営。社内外とのオープンコラボレーションを推進するとともに領域を超える人材の育成発掘も手がけてきた。
2018年4月よりフィラメント参画。その経験を活かしてUX視点を用いた新規事業開発支援に取り組んでいる。 HCD-Net認定 人間中心設計専門家。

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