NTT Comが“ロマンティックデジタル”で解決する2030年の社会課題とは?
情報通信会社のNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が、自社の強みであるデータ流通とDXによって社会課題の解決を目指すプロジェクト『日本版Smart Society』。このプロジェクトの目的はデジタル技術によって民意の可視化を行い、2030年の社会課題をビジネスで解決すること。まずは防災をテーマに「デジタル避難訓練」の実証実験を今年度中に実施予定です。本プロジェクトの概要や想い、そしてどのようなパートナーさまに参画して共創いただきたいのかをプロジェクトメンバーにじっくり伺いました。(文/QUMZINE編集部、永井公成)
実際の人の動きを基にした防災対策が立てられる
角:NTT Comのイノベーションセンター(デザイン・デジタルテクノロジー・ビジネスプロデュースを組み合わせた中長期的な新規事業創出部門)で、自社の強みであるデータ流通とDXによって社会課題の解決を目指すプロジェクト『日本版Smart Society』が組織されたそうですね。このプロジェクトの第一弾として「気候変動/大規模水害」をテーマに防災・減災実現を目指した実証実験を企画されているとお聞きしました。今年、静岡県の熱海で発生した「令和3年7月伊豆山土砂災害」を受けて、国土交通省が日本全国の盛り土の総点検を始めるなど防災への意識と関心は高まっていますが、この企画はそれ以前からすでにスタートしていたんですね。どのような実証実験を予定されているのでしょうか?
上村:今年度は東京都の江東5区をモデルに「デジタル避難訓練」を通じた実証実験を計画しています。この地域は海抜0m地帯が多く、2019年の台風19号レベルの規模においては、広域避難が必要とされることが明らかになっている地域です。
角:江東5区全域が災害に対しての危険が高い地域ということなのでしょうか?
上村:そうですね。荒川や隅田川に囲まれているので、決壊のパターンによっては全域とならない場合もありますが、多くの地域は浸水することが予測されています。
江東区ウェブサイト 江東5区大規模水害ハザードマップより引用
角:そうなのですね。実証実験の内容についても詳しく教えてください。
上村:市民の方がバーチャル空間上で災害が起こるシーンを体験していただき、実際に災害が起こった時に適切な行動がとれるようにシミュレーションする「デジタル避難訓練」を行います。また、その時のデータに基づいて、各企業や自治体が事前に有効と思われる対策が打てるよう役立てていただきたいと思っています。
国土交通省が、災害発生時にどんな行動をとればいいのかを予め把握しておくために「マイ・タイムライン」を作ることを推奨・啓蒙していますが、これも意識しています。しかし自分ごととしてとらえている人はそれほど多くありません。それを身近なものにしていく場になればいいと思っています。
角:このプロジェクトで作られているバーチャル空間は、どういったものが再現されていますか?
赤松:バーチャル空間では精緻に街並みが再現されていますが、それだけではありません。NPC(編集部注:NPCとは、Non Player Characterの略称。バーチャル空間でプレイヤーが操作しないキャラクターのことを指す。)がバーチャル空間を縦横無尽に動きまわり、その世界の中に自分がはいっていくニュアンスでつくりこんであり、街並みの他に人流も再現されています。
角:これまでにもこうしたシミュレーションはある程度行われてきたと思うのですが、それらと今回のプロジェクトでは何が大きく違うのでしょうか。
上村:参加者自らが街に参加することで気づきを得られ、また企業や行政の方は学術モデルによるシミュレーションではなく、実際の人々の動きをもとにビジネスや防災計画を立てられます。リアルな人の心理に基づいた再現ができるところが、これまでのシミュレーションと大きく異なるところです。
「2030年の社会課題をNTT Comはどうビジネスで解決するのか」から始まったプロジェクト
角:なるほど。自らデジタルな街に参加でき、またたくさんの方が参加することで、人の心理すら反映されていくようなリアリティのあるデジタルな街が再現されているわけですね。
NTT Comさんは情報通信の会社として知られていると思いますが、そのNTT Comさんがなぜ防災に取り組まれているのでしょうか?
上村:実は今回の施策は、そもそもが防災ソリューションをつくろうという話から始まったわけではありません。もともとは「2030年の社会に向けて、社会課題の解決と我々のビジネスを両立させるために、どんな社会課題が2030年に残っていて、それをNTT Comはどうビジネスで解決するのか」というところから考え始めました。
角:なるほど。よくある新規事業を小粒でスタートさせるアプローチとはちょっと違って、高邁な理想からスタートしているんですね。こういった取り組み方ができるのはNTTグループさんならではだと思います。一方で、短期スパンではビジネス化が難しいのではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
上村:NTT Comでは、「Smart World」と銘打ち、その中に「Smart Workstyle」、「Smart Healthcare」、「Smart Factory」など分野ごとに7つの推進室を設置し、それぞれ2、3年後を捉えた課題に取り組み事業を行なっています。我々「日本版Smart Society」は、プロジェクトを通じて得られた情報を社内で共有し、各推進室の事業に活かしつつも、もう少し時間軸を中長期にとった形で取り組んでいます。様々な社会課題がある中で、災害は発生後の経済的損失が大きく、近年日本ではそのリスクも高まりつつあるのが明らかになっています。したがってビジネスとしても非常に直近で可能性が高い領域だと思っています。そこで我々としても先を見据えつつも、まずは防災というテーマから入っていったわけです。
NTT Comウェブサイトより抜粋
角:なるほど。たしかに一度災害が起こったら、その被害額は莫大ですもんね。そういったことを踏まえると、マーケットのサイズ感が非常に大きいというのはよく分かりました。
今回の取り組みの中で、特に情報通信会社であるNTT Comさんの技術的な強みが活かされているところがあればぜひお聞かせください。
テ:中小企業から大企業まで、幅広いお客さまとの接点があるところ、そして情報通信企業ですので、通信インフラが強みだと思っています。
「ロマンティックデジタル」で民意を反映させる
八塩:この『日本版Smart Society』の活動においては、「ロマンティックデジタル」という標語を掲げています。
角:初めて聞いた言葉ですが「ロマンティックデジタル」とはどういう意味なのでしょうか。
上村:「ロマンティックデジタル」は私たちの造語です。デジタル技術を使って新たな人と人との関係性が作られますが、この新たな人と人の繋がりがロマンティックだということでこの言葉を作りました。
デジタル化や自動化が進むことで、技術面での課題は解決されますが、多様性の求められている社会の中では正解がないものが今まで以上にたくさん出てきます。そこを乗り越えていくためには、結果的には人と人とのコミュニケーションをどうやってはかっていくかだと思います。みんなにとって心地いい、ちょうどいい点がどこにあるかということですね。そこで我々にとっては、社名にもついている「コミュニケーション」という部分は強みですし、我々が担うべきところだと思っています。
角:なるほどね。デジタルだと、とかくロジックに偏りがちな感じなんですけど、そうではなくロマンも大事なんだと。だからロジックとロマンのベストミックスを探す、というところでしょうか。
大貫:ロマンティックは元々「(古代)ローマの」という意味でもあったかと思います。古代ローマは共和制だったわけですよね。君主制じゃなくて共和制をひいた帝国としては最古にして史上最大だったのかなと。誰かが決めるのではなく民意が最大的に反映される「究極の共和」みたいなものを、この「ロマンティック」という言葉に込めたいと思っています。
角:いいですね。古代ローマに民主主義の原点を見て、そしてその民主主義が栄えるための仕組みという意味で「ロマン」の語を繋げて考えていらっしゃるということですよね。
大貫:そうですね(照れ笑い)
ロマンティクデジタル(リーフレット表紙より抜粋)
民意を可視化して課題解決
角:防災というテーマがこのビジネスで直近に目指されているところだと思いますけど、今後どういう方向に伸ばして行くか、展望の部分もお聞かせいただいてよろしいでしょうか。
大貫:我々がやりたいことは、2030年頃に立ちはだかる課題、なんとなく減衰していく未来に対しての課題解決です。例えば今後の外交次第では食料不足になる可能性、水害等を中心とする災害に対して引き続き個別最適化がはかられていてとか、対応が後手後手とか。そうした立ちすくむ未来が予見されます。その一方で、まだまだこの国は頑張れるという希望も多分にあると思うんですよね。ただそのためには、個人や企業の想いや力の統合が必要だと思います。
シミュレーターによって、情報の秘匿性を保ったまま民意を可視化し、それによって様々な課題を解決していくことができるのであればそれが理想です。
ただ、民意が可視化されたからといって解決できないこともあると思っています。そこにこそセンターB(企業)とかセンターG(行政)の人々が、「ビジネス/適正分配の観点も含めて」にて参加いただければと思いますね。
収益と社会課題解決のどちらも重要視したい
角:具体的にはどんなところと一緒作っていきたいと考えておられますか。
赤松:一緒に作っていく相手としては、例えば、昨今の気象災害増加で保険金のお支払いに苦慮されている保険会社の方々であったり、防災/減災をテーマに研究されている方々、そして住民の安心安全を考える行政ですね。直近ではそういったところと連携して、完成させていきたいと考えております。
それから、防災の分野に限らず、地方創生の課題や食料問題も同等なのですが、「いいサービスやプロダクトを提供しているけど、本当に必要な人に届いていない」ということも多いと思います。消費者が本当は必要なんだけど、それが届いていない、必要性がわかっていないようなことですね。そういうことを我々は解決したいと思っています。
角:なるほど、防災に直接関係する事業者や行政はもちろんですが、それだけではなく、既存サービスやプロダクトが消費者にうまくマッチできていないところにも入って欲しいということですね。
上村:今の社会はビジネスを軸に各社はマーケティングをおこなって事業を展開していますが、社会課題を軸にするためには、見えてきた民意に対して自社だけではカバーできない領域が多々あると思います。我々の取り組みに賛同していただいたパートナーたちが必要に応じていろいろ手を組み、必要な人たちへカスタマイズして提供できるような、そういう志を持ったパートナーさんとぜひやっていきたいです。
角:チームのみなさんと一緒に同じ未来を目指してビジネスをつくっていきたいという方に、ぜひパートナーとして来ていただきたいという感じですか。
大貫:はい。CSV=Creating Shared Value(共有価値の創造)として、収益と社会課題解決のどちらも重要視する新規事業の部署の方々にぜひご参加いただきたいです。我々が本プロジェクトを通じて目指しているものは、CSRではなくCSVということを強調しておきたいです。
角:なるほど。分かりました。最後に、このプロジェクトに取り組んでいての意気込みなど、何かコメントをそれぞれメンバーから一言ずつ頂戴したいと思います。
赤松:このプラットフォームでやりたいことの1つは、「民意の可視化」です。今まで見えていなかった市民の考えを可視化できる、つまり今までとは異なる深さのマーケティングデータを収集できるというのは、ほかの企業様から見ても魅力的な点だと思いますし、NTT ComとしてもCSVに繋げられる意義のあるテーマだと感じているので、ぜひ頑張りたいと考えております。
角:ありがとうございます。
テ:ビジネスの観点も大事だと思いますが、使うのはユーザーなので、ユーザーである市民が使いたくなるようなもの、役立てるものをつくっていきたいと思います。頑張ります!
角:ありがとうございます。いい宣言ですね。
上村:NTTに入社した時から、人と人とのコミュニケーションに携わってきたわけですが、本プロジェクトは、多くのデータが流通する時代に合わせ進化し、新しい人と人との繋がりを実現できるプラットフォーム、そういったものに出来ると信じて取り組んでいます。
角:ありがとうございます。
八塩:私自身、江東5区に住む一住民として、今回のモデルケースである防災の取り組みについては危機感を持ちながら、より良いものを生み出せるよう日々試行錯誤しています。もちろん今回の防災例だけでなく、根本にある「皆さんの内なる声をどのように見える化していくか」について引き続き検討し形にしていきたいと思っておりますので、本取り組みにご関心を持っていただけたようなら、ぜひお声がけいただければと思います!
角:ありがとうございました。
本プロジェクトに関連した展示が、2021年10月20〜22日にオンラインで開催されるNTT Communications Digital Forum 2021にて展示されます。下記のサイトの「データ流通とDXにて実現する日本版smart society」からご覧いただけます。
【プロフィール】
大貫明人(おおぬき あきと)
NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター プロデュース部門
日本版smartsocietyPJリーダー
イノベーション推進PTリーダー
日本電信電話株式会社よりNTT再編成により転籍
法人営業、新規事業/技術開発等に従事
趣味は歴史探訪とトレッキング(下山後の温泉付き)
早稲田大学大学院修了(技術経営学修士)
<登壇情報>
NTT Communications Digital Forum 2021 登壇予定
NTT Communications Digital Forum 2021 講演一覧「DXセミナー」より引用
テ ナイトン(Thet Naing Htun)
NTTコミュニケーションズ株式会社
新規事業PO・アクセラレーター・ビジネスデザイナー
ミャンマー出身。2008年にマンダレー医科大中退後来日。
法政大学デザイン工学部卒、UXデザイン専攻。
2014年にNTT Com入社、C向け最大手プロバイダーのプロダクトマネジメントとしてキャリアをスタートし、2018年より社内新規事業創出プログラム「BI Challenge」初期立ち上げメンバーとして現職にジョイン。2019年経産省Innovator育成プログラム始動5期生として選抜。ミャンマー語、中国語、日本語、英語4ヶ国語精通。
八塩初奈(やしおはな)
NTTコミュニケーションズ株式会社
ExTorch Open Innovation事務局
2015年NTTコミュニケーションズ入社。
社内の人事給与システムの開発〜運用業務を担い、
2017年より現職の前身となる経営企画部ビジネスイノベーション推進室(現組織名:イノベーションセンター プロデュース部門)に異動。
スタートアップとの事業開発経験を経て、
2019年に初の全社オープンイノベーションプログラムをボトムアップで立ち上げ。
現在第二期となる「ExTorch Open Innovation Program」を運営中。
上村芳徳(うえむら よしのり)
NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター プロデュース部門
日本電信電話株式会社よりNTT再編成等を経て転籍。
約20年法人SI事業(PM/SE)に従事、2020年より現職にて新規事業創出PJに従事。
趣味はスポーツ観戦(バレー、バスケ)、ガンプラ作成、TVゲーム史。
赤松 寛夫(あかまつ ひろお)
NTTコミュニケーションズ株式会社
イノベーションセンター プロデュース部門
2012年 NTTコミュニケーションズ入社。
法人顧客の利用サービスを保守/運用をするオペレーションセンターでの業務の後、北関東エリアへの法人営業を経て、2020年より現職にて新規事業創出PJに従事。食料自給向上PJのリーダーも務める。
【参考リンク】
デジタル空間で展開する「NTT Communications Digital Forum 2021」を開催~顔写真で作成したアバターでイベントに参加、デジタル空間でのお客さま対応も可能に~
NTT Communications Digital Forum 2021
NTT Communications Digital Forum 2021 展示一覧