MBS敏腕プロデューサー・田中良氏による「心をつかむコンテンツの法則」イベントレポート
■PR女子多め、裏話多め、取れ高多めでイベントは盛況!
「バラエティから情報番組まで、ヒットメーカーが伝える「心をつかむコンテンツの法則」が共創スペースTHE DECKで開催されました。その模様を早速リポート。
あまり想像できていませんでしたが、参加者は結構広報担当者が多め。いわばPRしたい側と、いいPRを受けて番組に生かしたい側のマッチアップといえます。
まずは田中良さんのプロフィールから。コブクロを発掘した話はひと晩話せると軽く笑いを取りつつも、その経歴が本当にすごい。報道局社会部から東京支社テレビ制作部にうつり、『世界★バリバリバリュー』『情熱大陸』などのヒット番組を担当。その後2008年に大阪に移り『痛快!明石家電視台』を手がけた後、さらに東京に移って2年前まで『プレバト!!』のプロデューサー。ゴールデン木曜日で関西だと視聴率15%くらいの番組を手がけ、さらに『林先生が驚く初耳学』も世に送り出した。
2年前に報道に移り、報道番組『VOICE』、そして『Newsミント!』を立ち上げ。毎日3時間のニュースバラエティにて、特集コーナー10分くらいのコーナーを担当されています。つまりはMBSが誇るスーパー・プロデューサーというわけ。
さっそくフィラメントCEO・角とのトーク。関西流(?)にビール、ドリンクの乾杯からスタートしました。
田中さんの経歴で興味深いのが、最近まで学生をされていたということ。京都造形芸術大学のしかもMFA(Master of Fine Arts)である。
山口周氏による『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』がヒット書籍になるように、従来のMBAのようなアクチュアルなスキルでは、いまの時代に求められるコンテンツは生み出せない。「学位としての価値が逆転しつつある」といい、情緒の差別化を学ぶために大学院に通ったのだという。まさに大人の学び直しである、素晴らしい。
■思わず膝を打つ。視聴率が低迷する昨今のテレビ業界の構造
田中さんのネタがいちいち面白い。
視聴率が20%を超えると、電車の中で「昨日見た?」と誰もが知ってる話題になるレベル。それが10〜20%だと、飲み屋での会話に止まるレベルだという。それだけの「話題性」を生み出してきたテレビだが、最近は徐々に視聴率が下がってきている。
田中さん「昔だったらテレビ番組の競合は他の番組だった。それがいまはスマホやNetflixのような動画サービスになっている。翌日には視聴率がビデオリサーチから届きます。だけどスマホが何%とかはわからない。高齢者もいまのスピード感のあるテレビ番組について行けず、下がり始めている。いまは10%がヒット番組といわれていて、危機ですね。これまで1分の動きをおっかけていた時代から、もうそれでは追いつけないレベルになってきた」
「でもスマニュー、グノシーはテレビCMでサービスを広げていますよね」と角が質問。
田中さん「テレビはいまもリーチ力は強いです。世代関係なく誰もがテレビを持っているから」
角「誰もがアクティベートされた状態のデバイスってことですね。それで言うと、テレビってコンビニの棚みたいなものだな。興味を持ついちばん身近な存在だと思う」
田中さん「あと信頼・信用の部分はまだ強いです。テレビCMの考査もけっこうチェックしていますし、視聴者からも期待されている部分が強い」
■テレビ番組はいかにして、面白くなるのか?
ではどんな番組が面白いのか。ここで田中さんが出した法則は「腐りかけが面白い」。どういうことか?
田中さん「終了する番組の最後の4週くらいってめちゃくちゃ面白い。番組って視聴率に左右されます。視聴率がいかないと、9月か3月で終わる。1.5か月前には撮っているので、例えば番組が3月に終了するかどうかは、12月には決まる。すると4回くらいが残りのチャンス。そこまでいくと現場でやりたいことやれ、となるんですよ。終わるのは決まっているんだから好きなことやれ、と。だから終了する番組、腐りかけが面白い」
視聴者に媚びて作った番組は、既視感のあるものになる。だからつまらない。プロデューサーが作りたくて作ったものは、挑戦的で見たことのない企画になる。なので残り物が面白いというわけだ。
これってまさに「イノベーションのジレンマ」と同じですね。
角「それはまさにMFAですね」
田中さん「アートなスキルが必要。新しいものはリスクがあるんだけど、当たるとブルーオーシャンなんです。『プレバト!!』の俳句もそう。形式を俳句に変えたときは視聴率も6%くらい。ぎりぎりだった。それをどうやって延命させるか。社内政治も含めて、絶対当たるっていう信念をもってやったわけです」
一方で、番組からスターを生み出せるかどうかも重要だとか。『世界★バリバリバリュー』ではマリエというセレドル(セレブのアイドル)を生み出し、『プレバト!!』では夏井いつき先生というスターを生み出した。
田中さん「ぶっちゃけ番組の形態だけでは引っ張れなくて、この人を見たいということになるんです。だから有名でなくてもスターを作れるかどうか」
さらには、このスターを見たいという番組づくりの話から、若者の視聴率低下の話、そしてテラスハウスの話へ。
田中さん「テレビを見ているのが100人だとすると、M3・F3層(50代以上の男女)が55%ぐらい。CMのスポンサーがリーチしたいF1層(20-34歳台)って7%くらいだから、100人中7人しかいないんです。だから『テラスハウス』は若者に人気があるといっても視聴率は3%台だった。でもあの番組をいまNetflixが買った。だから、もっとも大事なのは、とにかくいい番組を作るということ。で、その成果指標がこれまで視聴率しかなかったのが、他社に売れる番組を作るってことにもなってきた」
この辺りの展開、めちゃめちゃ面白すぎます。
■「FAXが最強」「AなのにZ」「離れている上にギャップがある」、パワーワードが連発!
そしていよいよ、いいコンテンツを作るには、そしていいPRをするには、何が必要なのかという話題に。田中さんの答えは、スライドどーん!
田中さん「お金、時間をかけてでも手に入れたいものかどうか。会場の広報担当者のみなさんはたくさんPR、プレスリリースを書いていると思いますけど、テレビマンはプレスリリースを月に1000枚は見ている。だからまずツールとしては、実はFAXが最強なんです。メールはいちいち開かない。パソコン立ち上げる、読むっていう2アクションが必要だから。郵便は封書切る、開ける、見るって絶対無理。FAXは来たものを読むだけ、これが最強」
FAXだから文字は大きく、写真はつぶれる、といった具体的なアドバイスも。ではどんなキーワードが強いのか?
田中さん「相反するキーワードですね。「自宅+プロレス」これ、なんだかわかりませんよね。プロレスを自宅でやった団体があるってことなんですが、文字を見たら気になる、あとでググりますよね。ギャップ、それを心をつかむ。ツカミといいます。それがないプレスリリースは正直すぐ捨ててしまいます。例えばでいうと…」
「還暦ホスト」。まさに離れている上にギャップがあり過ぎます。
角「これはなんなんですかね?(笑)」
田中さん「その方は調べていくと、還暦になってからホストになったわけではなく、30代で銀行を辞めてホストになった大ベテランらしくて。還暦の方になぐさめてほしい人が来るというアダルトな感じのホストクラブなんですよね。でもキーワードにギャップがあって強い」
田中さん「これをビジュアル化していくのが僕らの仕事。視聴者に疑問や興味が生じるかどうかが勝負。それでいかに時間を取るか、還暦ホストってだけで3分取れる、どういう奴が出てくるのかで何分、知人のコメントで何分、そうやって見ている人をどんな人?、どんな人?と焦らして、最後に登場のときはさらに足の下から映す、と。これはなんで?、なんで?の循環なんです。納得した瞬間に、視聴者に次の疑問を出していくんです」
つまり「AとZ」「○なのに □」と構造化できる。同様のケースでいうと「鬼フェス」を紹介。
■どうやったらテレビに取り上げられるか、3つの法則
いよいよイベントも終盤。話題はどうやったらテレビに取り上げられるかを、3つのポイントで解説した。
田中さん「今をあらわしているかは、ある意味ムーブメントになっているかということ。群となっているかは、1社だとPRになってしまうので、他にもいくつか同じ事象があるかということ。たとえば「樹木葬」ってのを取り上げるとしたら、その背景にはお墓の場所が確保できなかったり核家族化しているので、「墓じまい」をする家が増えてきているという事情に行き当たります。そうすると、他に何かないか調べろーってことになる。いろんなやり方があるよってことになると。「墓じまい」に関する事象を3つくらい見つけたら、番組として成立する」
そして最後の「本当であるか?」は昨今のテレビ局にとっては重要な問題。特に敏感な若者たちが、テレビを信用しなくなってきていることは脅威だとテレビマンたちは思っているという。
田中さん「小学生の子どもとかでも、テレビは本当かどうか疑問に感じている。言い方を変えるとコンプライアンスが厳しいってことですが、僕らは本当のことを教えてほしい。素人の人生の方が本当っぽいじゃないですか。そこで勝負するのが僕らの仕事として大事だと思ってます」
角「めちゃめちゃカッコいい!」
さらにいい番組を作る上で意識している、6つのTを具体例をもって解説。これはテレビ番組にとどまらず、いいコンテンツを作る上でとっても役に立つ「T」だと思います。
■クロージング。テレビマンからのメッセージは「ラクしたい!」
その後はQ&Aコーナー。その場でPRしたいことがないか、と会場からの質問を受け、田中さんがぶった切るというアドリブの展開に。
その際にも、「AとZ」「○なのに □」を意識して具体的なワーディングなどのアドバイスをする田中さん。例えば「東大卒なのにおさかなマイスター」を実践している女性から、「でも魚を使うと視聴率が落ちるってとある芸能人が話していたことがあって」というz悩みが出ました。
田中さん「知り合いのプロデューサーは、日本人は大抵イカが好きだからっていって、イカをテーマにした番組ですごい数字をとったことがありますね。だから「さかな」だと広すぎなので、絞りこむ勇気が必要」
非常に的確なアドバイスだ。参加者も深く納得していた。
ラップアップでは、田中さんからテレビマンが考えていることを披露してくれた。
それは「ラクしたいなあ」なのだとか。そりゃ、プレスリリースを月に1000枚も見なきゃならないとすると、そう考えたくもなります。同時に映像メディアなので「絵になるか」とか「その主人公は誰か」とか、そういう材料までPRする側が考えていただいて、「ぜひテレビマンをラクさせてほしい(笑)」と締めくくりました。
というわけで、なんとも濃密な2時間。第一線で活躍するテレビマンがそのノウハウをプレゼン形式で紹介していくというのは、ありそうでなかったイベントです。コンテンツのプロ中のプロが語るのだからよく考えたら、面白いに決まっています。
いかにイノベーションを生み出すか、そんなヒントになるイベントを業界をまたいで、今後もフィラメントから仕掛けていければいいなと思います。(文:宮内俊樹)
(19/05/07)