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「組織の境界」の融解が、大企業の新規事業開発の追い風となる  ~国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)研究ワークショップ『デフレーミング戦略から読み解くアフターコロナの企業運営』レポート~

2020年8月28日、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)が、研究ワークショップ『デフレーミング戦略から読み解くアフターコロナの企業運営』をオンラインで開催しました。シリーズ2回目となるテーマは「コラボレーション・共創・イノベーション」。政府・経営主導による働き方改革の推進とCOVID-19によるテレワークの加速により、企業の存在価値やワークスタイル、コミュニケーションが変化する中で、ウィズ/アフター コロナ時代において、イノベーションをどう起こしていくべきなのか、デフレーミング概念によって読み解きました。

本記事では『デフレーミング戦略』の著者で、東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授/国際大学グローバル・コミュニケーション・センター主幹研究員の高木聡一郎氏、株式会社フィラメントCEO角勝の講演の模様をお届けします。(文/QUMZINE編集部、永井公成)

新型コロナウイルスの感染拡大によって、多くの企業でテレワークが導入され、企業によっては恒久的な制度とするところも現れました。これまでのように企業に直接訪問して打ち合わせすることが困難になり、外部と連携することも難しくなると思われてきましたが、実際はオンラインシフトが起きたことで、「個人の時間のモジュール化」や「個人のコネクティビティの強化」が起こり、社外の人と繋がりやすい状況となっています。大企業が新規事業を開発するには、外部の刺激が必要となりますが、こうした状況は追い風とも言えます。

高木聡一郎「デフレーミングとコラボレーション・共創・イノベーション」

IT化による取引コストの削減を背景として「デフレーミング」という概念があります。デフレーミングは「伝統的なサービスや組織の枠組みを超えて、内部要素を組み合わせたりカスタマイズすることで、ユーザのニーズに応えるサービスを提供すること」と定義されます。そして、デフレーミングには「事業ドメインの分解と組み替え」、「ビジネスモデルの個別最適化」、「組織運営や働き方の個人化」の3要素があります。この中でも、特に「個人化」がこれからの共創やコラボレーションに寄与すると思われるので、本日はそこに特にフォーカスしてお話しします。

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「個人化」は、企業という枠を超えて個人が活躍するということです。多くの企業では、主要事業に最適化された形で組織文化がありますが、新事業を行う際には障害となり、うまくいかない原因となっています。プロジェクトに適した組織文化に細分化していくことが必要です。

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個人間取引を行うプラットフォームも多数登場し、フリーランスや兼業・副業が増加してきました。従来であれば組織のトップにいないと情報が入ってきませんでしたが、今は個人でも情報が集められるようになりました。最近では、YouTuberのように個人でもTV局に類似するサービスを作ることができるようになりました。創造性を活かすには、他人の目や評価が大きなドライバーになっているため、会社に代わる新しいコミュニティが必要になっています。そこでコワーキングスペースが一つの可能性となってきます。コワーキングスペースせ提供される機能は、場所によってコラボレーションの場や互助的機能など様々です。

エキスパート個人と大企業とのコラボレーションという文脈では、NTTコミュニケーションズの「NeWork」の事例があります。

これは、社外有識者として及川卓也さんが助言し、2ヶ月で商品化にめどをつけました。社外のエキスパートの個人とうまく連携することで、自社の事業を画期的にドライブすることも可能だという事例です。他にも、LINEやYahoo!でも兼業・副業人材を活用しています。

論点を整理すると、まずIT化による取引コストの削減を背景に「デフレーミング」が起こり、組織の境界が融解し、所属、居住地、ワークプレイスが多様となってきました。兼業や副業が増加し、居住地やワークプレイス、メンバーの関係の多様性が発生しています。そこで協働が前提となっていない関係性で、どうチームビルディングしていくのか、誰がリーダーシップを持つのかが課題となります。そこでは、コーズやビジョンが改めて重要になるでしょう。また、チームビルディングのために、個人側に加え、企業側の社員も各自の役割やスキルを見直すべきです。その一方で、個人側の収入の安定性について企業側もある程度のコミットメントも必要でしょう。

角勝「これからのオープンイノベーションや共創の在り方」

大企業の中での新規事業開発の難しさはイノベーションの難しさとほぼ同じだと考えています。そして、イノベーションの難しさとは、既存の知を掛け合わせて新しい価値を生むことの難しさと考えます。一般的には、新規事業担当者が有形無形の社内アセットと結びつけ、外部の刺激と結びつけることで新規事業のアイデアを作り、社内調整を経て事業化し、事業として成立したら事業担当に譲渡します。そのため、新規事業担当者には社内アセットの熟知、外部刺激の摂取力、アイデア発想力、社内からの信頼といった多様なスキルが必要です。そのようなスキルを持つ人は僅少であるため、そこがボトルネックになっています。

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そこで、社外を巻き込んで「関わる人」を増やす日本の「オープンイノベーション」がこれまでなされてきました。まず社内のアセットを社外に公開し、スタートアップなど社外の提案者が社外のアセットを用いて新規事業アイデアを提案します。しかし、それらのアイデアは「社外アセット寄り」であり、社内アセットの本質を理解していないものが多く、企業からすれば選別コストが高いものです。事業化しようにも、仮説検証など複雑かつ難度の高い調整過程が必要で、その調整コストが高くなり、事業担当への移管が拒否されることもあります。最初から事業開発に銀の弾丸はないということを意識して取り組むべきです。

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自分たちは、これに対して、「新規事業公募制度のリデザイン」というアプローチで取り組んでいます。企業の新規事業公募制度が人材開発部門のアリバイ的制度となっている現状を再設計し、新しいことをやりたい人が報われるようなものにするもので、従来の新規事業開発とオープンイノベーションのいいとこ取りをすることができます。

プロセスとしては、まず社内のアセットを使い新規事業アイデアを考える人を社内から募集し、外部刺激や社外アセットに幅広くつながる自由を確保します。事業開発に関わる人材を増やすことができ、適性のある人材発掘、育成の機会となります。社内で発想するため、アイデアの精度が高く調整コストが下がります。

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社内提案者のモチベーションを高めるためには「マインドリフト」をコンセプトとして掲げています。新規事業のためには、「パッション」と仮説検証を行う「学び」の2つの資源と事業の判定基準するための事業目標が必要と考えており、マインドリフトは、この3つの要素の関係性から新規事業の失敗原因を理解し、成功確率を高める新規事業開発コンセプトです。パッションは有限であり、時間の経過や周囲との温度差、意義の喪失で減少していきます。ゼロになると継続できなくなり失敗します。

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一方、学びは事業アイデアの仮説検証を繰り返すことで増加します。事業立ち上げ初期の事業目標は学びによって計測するとわかりやすいです。

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パッションがゼロになる前に、学びが事業目標に到達すれば新規事業は成功と判定されます。

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事業開発の成功率を上げるために、パッションと学びの初期値を高めることに注力します。例えば、外部の物差しで評価することでパッションを維持し、展示会に出すなど学びの蓄積を加速することで学びを増加します。

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マインドリフトで一番重要なものは「面白がり力」です。言い換えると、社内外の情報を面白がってポジティブに収集して引き出しを増やす力、物事を面白がってポジティブに掘り下げ、切り口を増やす力です。イノベーションは既存の知の組み合わせなので、組み合わせのための「知の引き出し」や繋げ方・組み合わせ方のアイデアの「切り口」が多いほど有利となります。

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そのため、フィラメントは「面白がり力強化プログラム」という独自開発のワークショップを社内のインキュベーションプログラムのサポートの最初に実施しています。

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最近のコロナ禍によって、ビジネスやマーケットにどのような影響が出たかについてもお話ししましょう。

世界経済の流れを河に例えると、コロナ以前はレガシーな経済領域とデジタルな経済領域が同じ河の中を等しく流れていましたが、ウィズコロナの時代には、レガシーな領域がコロナに阻まれ、デジタルな領域になだれ込んでいるという見方ができます。

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アナログ・オフラインからデジタル・オンラインに急速に変化し、テレワークシフトが起こりました。かつては、オフィスという場所の制約があったことで時間が固定され、活動も固定され、「仕事をしている風に見える仕事の仕方」をする必要があったとも言えます。テレワークになると、オフィスから解放されたことで、時間の自由が得られ、活動の自由へと繋がりました。周りの目を気にする必要がなくなり、「今日はオンラインセミナーがあるからそのために時間を調整する」ということもできるようになりました。会社単体だけでなく社会全体でこの変化が起きました。これによってこれまで周りの目を気にして動けなかった人が、勤務時間中でも色々な人と繋がってビジネスのつながりも広げていけるようになりました

フィラメントでは、以前は週2で大阪から東京に出張を行い、メンタリングやワークショップを行なっていましたが、3月からフルリモートワークに移行しました。オンライン番組の配信やオンラインインタビュー取材、オウンドメディアの立ち上げなど様々なオンライン接点を模索しています。また、オンラインで社員が雑談をする「フィーカ」を開始し、雑談しながら企画を練っています。また、社内だけでなく社外のゲストも巻き込んで雑談しています。

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最後に、ニューノーマル時代の展望についてお話しします。コロナ禍によりテレワークが増え、オフラインでの接触が相対的に高コスト化し、オンラインでの接触機会がオフラインの3倍に増えました。オンラインが初見というのも普通になりました。社会全体でオンラインリテラシーが高まったことで、オンラインイベントの開催やnoteでの情報発信、各種SNSによる情報拡散など入口戦略にオンラインを活用することでローコストで効果を最大化することができるようになりました。

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また、テレワークによって通勤や移動などのスキマ時間がゼロになり、余剰時間が創出されました。組織内の管理の対象が時間ではなく成果となり、個人の活動が周囲の目から解放されました。「個人の時間のモジュール化」が進んだと言えます。

さらに、社会のオンラインリテラシーが格段に向上したことで、オンラインイベントやセミナーが急増し、これによって参加者同士がつながる機会が増えました。SNSを通じて情報の継続的なキャッチアップや接続性が維持できるようになったことで、「個人のコネクティビティが活性化した」と言えるでしょう。

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人々がオフィスから解放され、個人がオンライン上で社外の人と自由につながれるように社会が変化したことで、大企業にいる人でも個人単位で外部とつながれるようになりました。これは大企業が新規事業開発を行う際に必要となる外部とのつながりを獲得しやすくなったと言え、まさに「追い風」の状況と言えます


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