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“Rubyの聖地” 島根県に全国のRubyエンジニアたちが集結! ~『Ruby biz Grand prix 2022』表彰式レポート~

全国八百万の神々が出雲の国に集まる神在月(旧暦10月)。
まつもとゆきひろ氏によって開発されたプログラミング言語「Ruby」の聖地として知られる島根県に、全国のRubyエンジニアたちが集結しました。

2022年11月9日に島根県松江市の「くにびきメッセ」で開催された『Ruby biz Grand prix 2022』の表彰式。ビジネスの領域においてプログラム言語「Ruby」の特徴を活かして、新たなサービスを創造し世界へ発信している企業、団体及び個人を対象としたグランプリです。
2020年・2021年はコロナ禍でのオンライン開催となった同コンテストでしたが、第8回を迎える今回は遂に2年ぶりのリアル開催が実現。QUMZINE編集部も現地会場へと足を運び、熱気と興奮に包まれた栄えある表彰式を取材しました。また、まつもとゆきひろ氏への単独インタビューも敢行し、Rubyを支えるコミュニティの存在とその重要性について伺いました。(文・写真/QUMZINE編集部・平井征輝、土肥紗綾)

「Ruby」とは、日本のソフトウェア技術者まつもとゆきひろ氏によって1995年(初版のリリースは1993年)に開発された“日本発”のプログラミング言語です。また日本で開発されたプログラミング言語としては初めてIEC(国際電気標準会議)で国際規格に認証され、現在では日本のみならず世界中のエンジニアに使われ、愛されています。

そんな日本が生んだ世界的プログラミング言語の「Ruby」ですが、なぜその頂点を決めるビジネスコンテストの表彰式が島根県で開催されるのでしょうか?

実は島根県は、松江市在住でもあるまつもとゆきひろ氏の「Ruby」を中心に、「ソフト系IT産業の振興」を県の施策として掲げています。その目的は、多様化、高度化する顧客ニーズに対応できる情報産業群の形成に向け、IT技術者を育成するとともに、大都市からの業務の獲得を支援し、県内のソフト系IT産業の技術開発力・競争力の強化、ビジネス拡大を目指すこと。これが島根県が“「Ruby」の聖地”と呼ばれる由縁、そして2015年から『Ruby biz Grand prix』が開催されてきた背景です。まさに日本を代表するITの地・島根県なんですね。

冒頭挨拶

・Ruby biz Grand prix実行委員会 実行委員長、一般財団法人Rubyアソシエーション 副理事長、しまねOSS協議会 会長 井上浩 氏

2020年、2021年のオンライン開催を経て、今回の『Ruby biz Grand prix』は第8回目、初めて島根で開催されることとなりました。エントリーは22企業22事例です。

当グランプリではRubyで開発されたこれから広がるサービスを検証することを目的としており、第8回目に至るまで累計232事例の中から既に多くのサービスが事業として拡大しています。もちろん、関係各位の先見性とご尽力の賜物ではありますが、そこを支えるRubyの実力も無視できないであろうと考えております。

最近のまつもとさんの講演でもよく取り上げられておりますが、スタートアップ企業を時価総額で比較すると、Rubyにより開発されたサービスの比率が高くなっています。これは経営に対し多くの点で有利であることを示唆しているのではないでしょうか。本グランプリ開催により世の中の多くのサービスがRubyで構築されていくきっかけになることを願っています。
結びになりますが、当表彰式が皆様にとってビジネス拡大の契機になりますこと、また明日からの『RubyWorld Conference 2022』盛会のはずみになりますことを記念して、開会の挨拶とさせていただきます。

・島根県知事 丸山達也 氏(ビデオメッセージ)

皆さん、こんにちは。島根県知事の丸山達也です。
新型コロナの感染の影響を受けまして昨年、一昨年とオンライン開催をしておりました『Ruby biz Grand prix』が3年ぶりに、そして島根県での開催という意味では初めての開催となります。開催に当たりご尽力いただきました井上実行委員長を始めとする関係者のみなさまに厚くお礼申し上げます。

島根県では若者に魅力ある雇用の場を提供するために、IT産業の支援に力を入れております。この『Ruby biz Grand prix』はRubyの特徴を生かした優れたサービスを表彰し、Rubyの優位性をアピールすることだけではなく、受賞された皆様と県内のIT企業の皆様の交流を通じたビジネス拡大の機会としても開催をしております。今回応募いただいた事業はいずれもRubyの特徴を生かした独創性、将来性のあるサービスであり、さらなるビジネス拡大を確信させるものであります。今後進んでいくDXを支えるサービスとして、ますます磨き上げられることを期待致しております。

結びになりますが、『Ruby biz Grand prix』がRubyのさらなる発展と新たなビジネス展開の大きな契機となり、本日ご出席いただいたみなさまにとって実り多いものとなりますことを心からご祈念申し上げまして、開催に当たりましてのご挨拶とさせていただきます。本日はご盛会まことにおめでとうございます。

Ruby biz Grand prix 2022概要

Rubyは島根県松江市在住のまつもとゆきひろさんが1993年に開発し、常に進化し続けている柔軟でスピーディーな開発が可能なプログラミング言語です。開発思想には「開発者が楽しければきっと世の中が楽しくなる」「プログラミングを楽しくしたい」「思いをわかりやすく伝えたい」という内なるモチベーションが込められています。

島根県では、Rubyを産業発展に向けた地域の資源と位置づけ、Rubyを軸としたIT産業振興に積極的に取り組んでいます。今回で8回目の開催となる『Ruby biz Grand prix 2022』はRubyを活用してビジネスの領域で新たな価値を創造し、さらなる飛躍が期待できるサービスや商品を表彰するグランプリです。本グランプリはRubyがもたらすパワーとイノベーションを国内外に広く発信し、IT産業全体の振興に貢献していくことを目的としています。

受賞者発表

2022年度は国内から22事例のエントリーがありました。この中から審査員によって選ばれたグランプリ2点、特別賞3点、ビジネスコネクション賞4点の発表と表彰が執り行われます。
また、賞状は島根県の西部石見地方に伝わる石州和紙が用いられています。重要無形文化財、ユネスコ無形文化遺産に登録された石州半紙の伝統技法をもとに天日乾燥にて仕上げられたものです。

ビジネスコネクション賞

ビジネスコネクション賞はデータとテクノロジーで事業価値を創造し、社会課題の解決に果敢に取り組む企業に贈られます。

e契約®(weee株式会社)

このような賞をいただき大変嬉しく思っております。
昨日から松江に伺っておりまして、
非常にきれいな松江の街に感動しています。この表彰式の前までたくさん写真を撮っていました。この喜びを会社のメンバーと写真を眺めながら振り返っていきたいと思っております。

trocco(株式会社primeNumber)

「trocco」はデータエンジニアの方のあらゆる工数削減であったり、より戦略的な仕事をしていただくことを目指すプロダクトです。データエンジニアの方をターゲットにしたプロダクトがこのようなエンジニアが関係するイベントで評価をいただけたことはすごく嬉しく思います。今後もデータエンジニアの右腕になれることを目指して、引き続きプロダクトを成長させていきたいと思います。

Linkers for BANK(リンカーズ株式会社)

弊社は、BtoBビジネスマッチングシステム「Linkers for BANK」というSaaSを、主に地域の金融機関向けに導入しております。ちょうど2ヶ月前には、こちらの地元である山陰合同銀行様にも導入されまして、現在31行、この1年以内には40数行まで上がる予定です。
今、年間数万件の商談と数万件の成約が実現しております。いずれは国内のみならず海外にも展開して、全世界でBtoBのコア領域における多くの商流を作っていきたいと思っております。Rubyの技術を使ってプラットフォームをより磨いていき、より地域に貢献できればと思っております。今後ともよろしくお願いします。

Owner WEB(株式会社Casa)

「Owner WEB」はいわゆる不動産DXと言われる中でも、不動産を保有しているオーナー様に焦点をあてた賃貸経営のシステムです。不動産業界はまだまだレガシーなところが多いですけれども、そこに焦点を当てていく本サービスにこのような素晴らしい賞をいただけたことを嬉しく思います。
この賞に恥じないように今後もサービス展開をしていけたらと思います。

特別賞

JOLLYGOOD(株式会社ジョリーグッド)

弊社は「JOLLYGOOD」という医療福祉の教育を支援させていただくソリューションを展開しています。プロダクトローンチから約1年の間にさまざまな機能実装をしてきております。
弊社の特性上、かなり開発サイクルのスピードが早く、それを支えているのがRubyなのではないかなと強く感じております。
また、この場をお借りしまして、今まで開発に携わっていただいているエンジニアの皆さんに御礼を申し上げます。

ルクミー(ユニファ株式会社)

弊社では保育施設向けのICTサービス「ルクミー」を展開しています。創業当初からRubyを活用しており、過去にもこちらの『Ruby biz Grand prix』にエントリーをさせていただいてまして、その際も評価をいただきました。今回も続けて評価いただけたということで、これも日々開発を頑張ってくれているメンバーはもちろん、常に我々のプロダクトを届けるために頑張ってくれているビジネスサイドのメンバー、社内でサポートしてくれているコーポレートのメンバー、そして何より現場でお使いいただいている保育士や保護者の皆様のおかげです。
さらに、今回それらを評価いただけたということで、改めてまつもとさんを始めとした審査員の皆様にお礼を申し上げたく思います。これを励みとして更に良いプロダクトを提供していけるように頑張っていきます。

Money Forward Pay for Business(株式会社マネーフォワード)

株式会社マネーフォワードは2015年にもマネーフォワードクラウドシリーズで『Ruby biz Grand prix』にて賞をいただいております。今回は「Pay for Business」という事業者向けのキャッシュレスサービスという新たな領域にチャレンジし、このような賞をいただくことができて、本当にありがたく思っております。
これからもRubyをはじめとしたテクノロジーの力を使って、お金に関する課題を解決していきたいと考えております。

大賞

Shippio(株式会社Shippio)

まずはじめに私はRubyが大好きな、Rubyistルビイスト の一人として、この賞をいただけたことをすごく嬉しく思います。ありがとうございます。
「Shippio」はRubyを用いて国際物流をより良くしていく様々な取り組みをしているのですが、エンジニア部門だけではなく様々なコーポレートやバックオフィスの方、セールスの方、実際に物流事業を担っている様々なメンバーの力によってビジネスを大きくしていけているのだと思っています。この場をお借りして感謝申し上げます。
この度はありがとうございました。

楯縫プロジェクト(JUKI松江株式会社)

大変素晴らしい賞をいただき、本当に驚いております。
JUKI松江株式会社では工業ミシンを開発生産しておりまして、最近、カタログ商品では満足していただけない要求が出てきており、付帯装置をつけて対応しています。その制御に島根県企業ということもあり、プログラミングにRubyを使わせていただきました。
本当にありがとうございます。早くプロジェクトのみんなに知らせたいと思います。

総評

最後は審査委員長のまつもとゆきひろ氏から、本グランプリの選考結果について説明がありました。

受賞された皆様、おめでとうございます!
今回の審査は本当に困難を極めました。例年そうなんですが、今年で言えば、ミシンのコントロール化に始まり、海外との取引のDXであったり、保育園の支援であったりと様々なものがありまして、同じものさしで測れないんですよね。そういうこともあってどうやって決めようかと審査員同士で相談をしながら審査していきました。今回賞を差し上げられなかった企業さんの中にも僅差で賞を差し上げられなかったところもあったことを申し添えておきたいと思います。

今回応募いただいた企業の皆さんはどれも本当に素晴らしいものばかりで、ビジネスの観点からRubyの応用を見せていただいたことを本当に感謝しています。

世の中のソフトウェアの大部分がインターネットに進出していて、インターネットのサービスがどのようなテクノロジーで実装されているのかが見てもわからなくなっています。となると、企業が明示的に「JavaScriptで作っています」とか「Rubyで作っています」などと発表してくれないとわからないですよね。しかし、本グランプリに応募してくださった企業さんは間違いなくRubyを使っているからこそ応募いただいているわけです。

我々審査員にはアーキテクチャみたいなものを見せていただきましたので、どうやってRubyを使っているのかを見せていただきました。
こうしてRubyに真摯に取り組んでくださっている企業さんに本当に感謝しています。
ただ単にRubyを使っているだけではなく、ビジネスやテクノロジーに工夫があるとか、コミュニティに貢献しているといったプラスアルファの部分まで見せていただいた上で、賞を選ばせていただきました。
今回賞を差し上げた企業さんは手放しで本当に素晴らしい。そして残念ながら賞を差し上げられなかった企業さんについても大変素晴らしかったです。

Rubyを使った素晴らしいビジネスをしてくださっている企業の皆さんに心から感謝しています。複数回受賞されている企業さんもいらっしゃいますので、来年もぜひご応募ください。Rubyを使って力強くビジネスを発展させていただくことを心から期待しています。本日はありがとうございました。

まつもとゆきひろ氏 単独インタビュー

―――QUMZINEでは新規事業やビジネスアイデアのヒントになる情報を発信しています。そこで、まつもとさんから企業で実際に事業やサービスを作っている方たちに向けてアドバイスをいただけたらと思っています。Rubyのようにたくさんのファンの方に愛されるプラットフォームを作っていく上で、プラットフォーマー側は何を考え、何を意識すべきでしょうか?

まつもと氏:Rubyの場合だとコミュニティの存在が重要だと思っています。
Rubyを作っている私たちとRubyを使っていらっしゃる皆さんのコミュニティ、それからRubyを使っている人たちのコミュニティもそうです。そのために私たちはオンラインでのフォーラムを重視しています。ちょうど明日から『RubyWorld Conference 2022』も開かれますが、Rubyに関係する企業さん、ユーザーさん、それからRubyを作っている私たちが集まって交流する場というのは重要だと思っています。コミュニティの優劣というよりも、人と人とのつながりが最後の決め手になるんだろうなと考えています。
「たくさんあるプログラミング言語の中でなんでRubyを選んだか?」という問いに、「Rubyにこういう機能があるから」という技術的に優れているといった話ではなく、むしろ「コミュニティで育ててきた共通資産が揃っているから育っているから」「困っている時に助けてくれる人たちがいたから」という人間と人間のつながりから生まれてくるものが最終的な決め手になっているような気がします。
そうすると、プラットフォーマーとしては技術的に優れたものを提供するだけでは十分じゃなくて、その関わっている人たちのつながりを強めて、つながりという資産を蓄えていくことで、コミュニティそのものが決め手になっていくことが多いのではないかなという気がしています。


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