ヤフーの検索データから「ダウンジャケット専用の洗剤」を作ったら中国でバカ売れした話
台風一過と休み明けの需要をデータから読み取りマーケティングに活かす
角:「洗濯」の年間検索推移のスライド覚えています?これすごいですよね。2017年の台風一過の時が10月23日で多分これが検索数が伸びた原因だろうという感じになっているんですけど、洗濯を多くの人が調べるのは休み明けというか、洗濯ものが溜まった日なんだと分かったのがこれですよね。
木村:台風の後とか休み明けは需要があがるので、買う気があがっているタイミングでプロモーションかけたほうが良いのだろうなと、このデータからヒントをもらいました。
2019年の正月明けに1回プロモーションかけたことあるんですよ。いつもは年末に売上があがって、1月は全然駄目なんです。でもこのデータからいうと連休明けに需要があがるかもしれないということで、広告とクーポンを出すというのはやった気がします。
ちゃんとデータで調べていたわけではなかったんですが、結構良い結果だったみたいですね。ただ、このデータなどをきちんと現場が理解をしていたわけではなく、僕の思いつきみたいな感じでやったので継続性はないんですけど(笑)。
角:なるほど。データサイエンティストの田村さんは、このデータを出す時に発見とかありました?
田村:推移を出すのは一番はじめにやることなんですけど、このデータでは、まず3つの検索ピークがあるなところに目がいきましたかね。2つは連休明けというのがまずわかりました。でも、最後のやつがカレンダーの情報だけだとわからなくて。調べてみると、台風通過後だとわかりました。
角:隠された謎が、このイベントで分かったみたいな感じですかね。
ユニクロのダウンジャケットを自分で洗いたい需要に気づいた
角:「洗濯 〇〇」みたいな検索キーワードで〇〇の部分の季節変化を見てみるスライドです。これでユニクロとか出てきたんですよね。出てきた結果についてはどう思われました?
田村:そうですね。私がもともとそんなに洗濯とか服のことに詳しくないんですけど、ここにもある通りユニクロがめっちゃ強いなというのはありましたね。
角:このスライドでは特徴的なやつを載せてもらっていますけど、毎回1位のやつとかって排除しているんですよね。羽毛布団とか。
田村:そうですね。ここにあるものはランキングじゃなくて、1月に強いという意味で出してますね。
角:やっぱりユニクロが出てくるのは1月が多いんですか?
田村:そうだったと思います。でもユニクロって、年間として結構あるにはあるんですが、洗濯に悩む系のものは冬場に特に多かったと思いますね。Tシャツとかは洗えばいいので悩まないと思うんですけど。
角:悩まないね。これがキムショーさんが「これは、ビジネスになるかも!」とビビッときたやつでしたよね、たしか。
木村:そうですね。ダウンジャケットがきたというより、ユニクロが影響を与えるんだなというのがまず大きくてですね。ダウンジャケットって洗い方を気にする人は当然いたとは思うんですけど、ユニクロがダウンジャケットを安く出したことが結構大きな影響を与えているだろうなとは思っていて。
普通ダウンジャケットって洗わずクリーニングに出すものなんです。そしてクリーニングに出したら大体3000円とか4000円かかったりする。安くても2000円台は多分かかると思うんですけど、ユニクロのダウンジャケットの安いやつだったら5000円以下で売っていたりとかするわけで。そうすると、買ってクリーニングに出すんだったら買い替えるか、みたいな感じになるだろうなと。
そうすると、失敗してもいいから洗ってみようという欲求も出やすくなるのかなと思って。だから洗濯とダウンジャケットが増えたんじゃないかなと思ったんですよ。ここに載ってる「カシミア」も多分ユニクロだし(笑)。ユニクロの登場と同時に洗濯の仕方への関心が増してるんだなと思って。
ダウンジャケット洗剤みたいなアイディア自体は、昔からあったのはありました。ただ、それがそこまで必要か?と言われると、正直ニッチすぎるだろうと思っていたんですよね。でも、これはユニクロが売れているんだったら商品になるんじゃないかと思って。
で、ちょうど中国のバイヤーさんにユニクロやダウンジャケットの話をしたら、中国でもすごくユニクロやダウンジャケットが流行っているということだったので、「そういうのがあったら絶対売れると思う」という話になり、商品化したら実際にめちゃくちゃ売れましたね。
角:これすごいですね。まずユニクロがダウンとかカシミアみたいな高級衣料を低価格化して大量生産することによって、普通の一般人の洗濯だったら、「カシミアやダウンだったらクリーニングに出しますよ」という安全志向な人間が持っているアルゴリズムを変えたんですね。そしてそこに気づいた木村さんが、これをウルトラライトダウン、ユニクロ用洗剤みたいなのを出したら実際に売れたと。ちなみにまあまあいい売上があった感じなんですか?
木村:1シーズンというか、いっても3か月ぐらいですよね。売れていたのって数か月だと思うんですけど、ウチから送っている時点で1千万以上あって多分その何倍も売れているので。いっても1000円ぐらいの商品ですけど。
角:これは日本でも売るとかそういうのってあるんですか?
木村:日本でも実はOEMでやっているんですよ。中国と同時に日本でもOEMでやっている会社さんがあってですね。ただ、日本の場合はそこまで売れていないんです。数としては中国のほうが売れています。
角:なんでなんですかね。母数が多いところもあるのかもしれないですけど。
木村:どうなんでしょうね。プロモーションの仕方の問題とかもありそうな気もしますし。あと、ちょっと日本からすると高いかもしれないですね。中国も高いんですけど、高めのラインナップで売られているんですよね。
「ダウンジャケット用洗剤」と言ってはいますけど、最終的に商品化したのは、ダウンジャケットの襟や袖の黒ずみや汚れを落とせるスプレータイプの洗剤です。
ダウンジャケットは洗濯しようと思うと、普通のおしゃれ着用の中性洗剤で洗えるんです。洗剤よりも洗濯の仕方が難しいんですね。なので、浸け置きタイプは諦めて、スプレー型の商品になったんです。スプレータイプではあるけど、中身は中性洗剤に近いものなんですけどね。
だから開発側からすると、「わざわざダウンジャケットに特化した汚れ落としスプレーっているの? 中性洗剤でいいんじゃないの?」という感じなんですけど、中国側の商社のマーケティング担当の人が、「いや、絶対に専用の洗剤があったほうが飛びつくよ」と。
ダウンジャケットの襟汚れの落とし方とか「スポンジにおしゃれ着用洗剤つけて叩く」とか、ノウハウはいっぱい書いてあるんですけどね。
そんなものよりも分かりやすくダウンジャケット専用の洗剤、絶対そっちのほうが売れるんじゃないの?と言われて。実際そうなったんですけどね。
角:なるほどね。マーケティングの妙というか、そういうのもあるわけですね。
木村:あとめんどくさいのもあるんでしょうね。どのおしゃれ着用洗剤をどのくらいの量使うのかとかね。書いてある情報にも差があったりするし。ダウンジャケット用洗剤は何も考えずに、スプレーして拭けばいいだけなんで。分かりやすいということもあるんじゃないでしょうか。
角:たしかに。それは言われてみないとおしゃれ着用洗剤でダウンジャケットの汚れ落とすとか、そんな気持ちにならないですもん。
木村:ですよね。分からないですよね、普通はね。
角:だからそこらへんをうまく訴求させたところが偉い気がしますね。
田村:私のすごいと思ったポイントは、洗濯に関するサーチXのイベントを2回やったと思うんですけど、2回目の時にすでに製品ができていた気がするんですよね。そのスピード感が半端ないなと思ったんですけど、1回目のイベント後の何日後ぐらいにプロトタイプというか、製品ができていたんでしょうか?
木村:あまり覚えてはいないんですけど、洗剤を新たに開発するとなると、できる・できないは結構すぐ判断できるんですよ。「できそう」というところから開発して、1週間ぐらいで目途は立てられるんです。時間がかかるのは仕様確定のほうですね。
田村:もの自体はわりとすぐできるということですか?
木村:はい。今回で行くと、最初、浸け置き型の洗浄剤で検討してて、それだとダウンジャケットなら表面はナイロンかポリエステルがで、中身はダウンかフェザーか、綿だとか、だとすると、そういう組み合わせから、おしゃれ着用洗剤っぽい処方になるだろうことはすぐ決まるんです。
でも、浸け置きだと、結局、使い方とか洗い方の影響が大きいので、そこを注意事項とかでカバーできるのか云々を考えていくと難しい、リスクがあるなと。
そのうちに、ダウンジャケットって襟袖の黒ずみ汚れが一番気になるし、それに特化して、スプレーで拭き取るタイプにしたほうが普段使いに良いんじゃないか、とかって仕様が変わっていったんですね。 そういう仕様確定には時間かかるんですが、素材や汚れの組み合わせから、こういう方向の処方になるだろう、みたいな目途は比較的早く立てられるんです。
角:なるほどね。すごいですね。そういうふうな感じで、わりとパッと判断ができるものなんですね。
木村:できるのはできます。でも失敗も結構ありますね。
全然関係ないんですけど、掃除機のホースを洗うやつをつくっていたんです。掃除機のホースって、中めっちゃ汚いんですよ。最初に洗ったらめっちゃ汚れが出てきて、「これはすごい!」となって。
それで、あれをうまく掃除するのにどうしたらいいだろう?って、ロングチューブを突っ込んで泡でシューっとやって、泡がなくなると泡の水分で汚れがバーッと出てくるみたいなやつをつくったんですよ。やったらめっちゃ汚れが出てくるし、めっちゃ気持ちいいんですよ、ホースの中に泡が満たされるのが(笑)。これは絶対売れるぞといって、通販番組とかに持って行こうといってテストしていたら、掃除機が全部潰れた(壊れた)んですよね(笑)。
角:え!?
木村:あれの中って、電気が通っているんですよ。電極がむき出しだったりするものがあって。
角:むき出して電気が通っているんですか?
木村:そう。で、水分がそのまま残った状態で通電すると潰れちゃうんですよ。それを知らなくて。会社の掃除機やテストした人の掃除機がどんどん潰れていったっていう(笑)。
角:それは…意外な話ですね。
木村:ちゃんと乾かしたらいけるんですよ。完全に乾かしたら。ですけど、完全に乾かす前にやったら潰れちゃうっていう(笑)。
角:それは危険すぎて売れないですね。
木村:そういうテストしていて、物もつくって、「さあやるぞ」ってなった時に気づいた感じでしたけどね。
角:それはなかなか痛恨な感じですね。
木村:そうなんですよ。だからダウンジャケットも言い出したら、フェザーがいっぱい入っているやつは洗うと結構毛が立っちゃって駄目なので、そういうやつは駄目とか条件をつけていかないといけないんです。ちなみにユニクロは綿が多いのでいけるんですよ。
角:意外ですね。ポーランドに渡ってくるなんとかグースのここのところしか使っていませんみたいな話じゃないんですね。
おへそ専用石鹸が開発される!?
角:こちらは検索キーワード「臭い」と「匂い」で一緒に検索されるワードにどんな違いがあるのか調べてというスライドです。「エアコン」とか結構出てくるんですね。これでは新しいものを開発できない感じですね?
木村:う~ん、匂いのほうでいくと頭皮とか足とかはコンプレックス系のやつとしてありえるので、人気なんだなっていうのは分かりました。……ヘソはね(笑)。「ヘソ 臭い」ってのはすごいなと。でも今思い出したけど、「ヘソ 臭い」っていいですね。
角:何が?(笑)。
木村:なんか商品として成立しそうな気がします。
角:本当ですか?
木村:いやー、こうやって検索しているんだったら、気にしている人がいるんだろうなと思って。忘れていました。
田村:「おヘソ用せっけん」みたいなことですか?
木村:そうです。おヘソとかありえるんじゃないかなと。今だと例えばデリケートゾーン用のソープをある方と一緒に開発したりしているんですけど。デリケートゾーンの匂いとか乾燥を気にするので、それ専用みたいな。おヘソも結構特殊といえば特殊なので、ありえるなと思って。
角:なるほど。このインタビューからまたもう1回商品開発に繋がりそうな感じですか。
木村:スライドを見て思い出しました(笑)。
角:それいけたら面白いですね。
中嶋さん-----
今でこそサーチXのリピーターの人からしたらこのイベントがどういう趣旨のものであるか分かると思うんですけど、2017年にやったこの1回目って「ヤフーが持つ膨大な検索データを、そのテーマの専門家をお招きしてディスカッションするイベントです」と言っても、視聴している皆さんも最初ピンとこなかったと思うんですよね。
でもテーマが、「洗濯」という身近なキーワードで分かりやすかったことと、洗濯の検索のボリュームゾーンみたいなところから説明がはいったのが、自分も運営としてうしろから見ていて「あ、こういうイベントなんだ」と、すごくピンときました。
「ヤフーの、自分たちが普段使っている検索ツールが、こんな使い方もできるんだ」みたいな、新たな発見があったテーマだと思うので、1回目としてもすごく良かったと思います。Mix Leapも170回ぐらいいろいろなイベントやってきましたけど、その中の看板イベントに成長できたのも、この1回目があったからかなと振り返ってみて思いました。
中川さん-----
このイベントがあったことで、木村社長が新しい商品を出すにあたりデータが背中を押す一事例になったのかなと感じています。成果のひとつとしてはすごく良かったなと思います。
ヤフーが持っている情報をヒントに、いかに外の企業の方が新しい商品をつくっていただけるのかは、今まで誰もわからなかったんですよね。ヤフー社内でも「これはおそらく使えるだろう」というのは想定としてあったと思うんですが、実際に使って商品開発までした事例は当時はまだなかったと思うので。
今ヤフーのデータソリューションサービスの人たちは、このようなデータ活用事例を外に伝播させるべく頑張っているわけですけど、サービスやプロダクト開発の事例ができる前に、「もうそのデータを使って新製品ができちゃいました」となった案件だったと私は思っています。いい意味で「先行きすぎてる」って感じですね。サーチX自体はそんな新しい気づきや活用のきっかけになるイベントであってほしいとも思っているので、今回のような事例が今後もたくさんできるといいなと思っています。
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