蛯原健 × KiNG × 村上臣(友情出演)× 角勝【緊急鼎談/テクノロジー思考とアート思考】#6/6
昨年立ち上がったLinkedIn(リンクトイン)編集部が主催するミートアップ、「これからの働き方、生き方」を通底のテーマにした、コラボレーション・イベント。 10/16(水)に丸ビル カンファレンススクエアにて、LinkedIn x Filament, inc.のミートアップが開催されました。
イベントは喧々諤々の質疑応答へ
角:いったんこのへんでトークは締めて、質疑応答をしたいと思うんですけど、どうですか? 質問のある方?
質問者A:さっきKiNGさんが「アートは脳みその数だけ、受容体の数だけある」っておっしゃっていました。例えばアートの集合体のようなものが文化って考え方でいいのかっていうのがひとつ目の質問。ふたつ目が、文化ってある程度の方向性だとか志向性が必要であるって考えているんですけど、だとするならば多様性のあるアートの集合知たる文化というものは、果たして今どういう方向性を向いているのかも聞いてみたいです。
KiNG:いわゆるアート、という言い方がちょっと漠然としているので。思うのは、テクノロジーを使ってデータ化して、把握をしたほうがいいと思っています。例えばウチの父は、建築家のあとにリタイアしてから仏師になったんです。そういう風に、日本全国でアートを手習い的にも個人で作ってる人たちも含めてとんでもない人数がいるはずなんですけど、把握しきれてない。例えばメルカリみたいなもので自分の作品を出すとか、そういうアート専門のプラットフォームがあってもいいのかなと思います。
村上:「先端と安定の振り子」の話なのかなと思っていて。R&D的に生まれたアートのムーブメントが、町人文化的に公的になって、やがて流行りになるじゃないですか。その流行りを捉えて、次の新しい若者が「あぁ、それかっこいいな。俺もやろう」とか「儲かりそうだからやろう」みたいに生まれてきて、次のR&Dになっていくっていう。そういう振り子があるので、多様性のあるアートがそのまま文化になるというよりは、やっぱりそれはどっちもあるなと思うんですよね。
蛯原:さっきのショパンの例で思ったのは、正統性の調達みたいなことじゃないですか、アートって。やっぱり人間は時間を超越した価値に最も憧れる生物なので。だから私のおばあちゃんがショパンの先生って言うと「すげえな素敵」って無条件に思う。その正統性を調達する手段がアートだから、絶対に絶やしちゃいけない。でも、そこにどうファイナンスをつけるか、それができていないのが問題ってご質問じゃないかと僕は解釈したんだけど。どうしたらいいですか? 文化庁長官だったら何をするんですか?みたいな。
村上:アートに対しては贈与税ゼロとかね。
KiNG:それぐらいやってかないと、今のまんまだと文化として残すのが難しいですよね。見立てと価値をつける人に投資すべきなんですけど、それが誰もいない。今は表面化したものに価格をつけているだけで価値はひとつもつけてないので、価値をつける人材育成ということですね。見えないところに価値をつけられる人。
蛯原:プロデューサーみたいな。
KiNG:そうそう、プロデューサー育成。とある有名なプロデューサーが言ってたんですけど、「アイドルなんて本人がやりたきゃ誰でもなれるよ。いいプロデューサーつければ」って言ってました。というか、やりたくなくても売れた子もいるくらいなので、実際。
村上:ある種のフレームワークと売り出し方。あとマーケットの作り方ってことですよね。
KiNG:そこを秀逸に作っていけるようなプロデューサー人材を、ものすごいお金を投じて作らないとですね。
蛯原:テクノロジーも同じですね。そこが弱いので海外に負けまくってる。
村上:ものづくり信仰で、基礎技術としては素晴らしいけど、それを組み合わせて応用してマーケットを作るのが日本は弱いって言われてますね。その話に近いのかな、と。
蛯原:そこで決定的なのはファイナンスなんですよね。だからロスチャイルドがアートと繋がっているってのは、まさに象徴的で。ファイナンスって基本的には空虚なものなので、精神的な正統性を調達してこないと自然人たる人間は精神がもたない。だからアートや文化。日本はどっちも弱いっていう情けない状態です。
村上:戦争に負けたせいだと思ってるんですけど、僕は。それですべてリセットされて、基本的にアメリカ主導で新たにフレームワークが作りなおされたじゃないですか。その前どうだったかっていうと、西洋とのコネクションが両方ともあった。
いわゆる「ノブレス・オブリージュ」だと思うんです。リベラルアーツが西洋にもともとあって、成功した人は文化に対して投資をしたり寄付をする。パトロンになることが、その人が貴族たるゆえんのひとつなわけです。
こういった志向は戦前の日本にはあったわけです。貴族にしても華族にしても、成功した人がお金を出してアーティストを育てて、ふすま絵を描かせたりとかしてるわけで、京都とかに残っています。1回リセットされて、そういう意識がなくなってきた。
KiNG:そうですね。もう1度なんらかの形で復活するのが正しいのか分からないですけど、もう一度なにかできたらいい。
村上:だから前澤さんはすごくいい動きなんですよね。バスキアの値段ばっかり注目されてますけど、骨董品とかいいものを買って保護してるわけです。ああいうのをもっと言えばいいのになと思うんですけど。
KiNG:そうなんですね。バスキアだけ言っちゃうから。
村上:日本の伝統を守る若手ナンバーワンなわけです。全然お金がつかないマーケットとか、あと基本的に売ってくれないもの。さっきの血統で買える人と買えない人が明確にいるような、主に京都周辺のものですけど。前澤さんは、南禅寺の一等地をひとつ買われたんですよね。それは何十年も通ってちゃんとそれを伝える意思を伝えて、ようやくお譲りいただけたような場所なんですよ。そういうのもちゃんと言うべき。
KiNG:そっちを言ったほうがいいですよね。あとご奉納精神みたいなのを増やしていったほうがいいんじゃないですか?
村上:奉って納めるわけですよ。僕はファッション好きだって話でいうと、ハイブランドの一次のものはめちゃめちゃ高い。高いんですけども、僕は好きなクリエイティブディレクターとかに奉納してるわけですよ。お布施ですから(笑)。
角:なるほど、なるほど。奉納だ、それは。
村上:二次まわりであるものは買わない。Hedi Slimane(エディ・スリマン)すごいと思ったら行く。ブランドに関係なく、彼が移ったら俺も移るわけですよ。クリエーションに対してのリスペクトなので、一生懸命頑張ってできる範囲で支えようみたいな意識があるわけです。
KiNG:ハイブランドが好きな人ってわりとそうです。自分の担当が移るとブランドも移るとか。
村上:そこの気が合うと、ホストやキャバクラみたいな話ですよね(笑)。永久指名。
KiNG:そういう流れをアートもちゃんと入れていかないとですが、すごい吸引力のある魅力的な人や人材がいないと難しいですね。
村上:全般的に日本は寄付税制が弱すぎだと思うんです。なんだかんだ資本主義社会なので、やっぱり余裕のある人が直接的なメリット、節税みたいなのは全然あると思うんですよね。じゃあ次。
知性的な言葉があふれまくったイベントもフィナーレ
質問者B:知性的な言葉がどんどんあふれてきてて洪水状態になってるんですけれども。私は日大芸術学部映画学科を卒業して映像方面にいこうと思ってたんですけれども、なかなか食っていけなくてですね。いろいろ巡り巡って最終的にはなぜか食品衛生の専門家になっています。
角:日芸から?
質問者B:そうですね。そこで見たのが、食品衛生の専門家の間ではすごく使える知識があるんですけど、実際に働くパートさん・アルバイトさんには全然伝わっていなくて。そこで自分はマンガにしたりアニメーションに換えて伝えることをし始めました。 もう5年になるんですけども、主要な食品会社さんには使っていただいていて、まだまだビジネスとして利益がでていない状態なんですけれども。お聞きしたかったのが、人を楽しませるとか感動させるのがアートだと思うんですけど、人に分かってもらうとか腑に落とすっていう作業も自分はアートなんじゃないかなって思ってるんです。そこらへんはどうでしょうか。
KiNG:おっしゃる通りだと思います。全体を見渡した時にここが脆弱性があるなということをいち早く見つけて、ほかの方が当たり前で気づかなかったところを見つけられたのがすごくアート思考というかアート視点だと思いますし、それを自分のスキルでどうやったら実装できるかってところまではやられている。素晴らしいと思います。そこに価格がついてないってだけだと思うんですよ。でも価値はあることじゃないですか。ただ単に、日本では価値があることに必ずしも価格がついてきていないっていう、そこが問題なのかなって思いました。
角:みたいな感じで言っていたら時間が。タイムオーバーというか
村上:じゃあ最後まとめをお願いします。
角:今日いろいろな気づきがあった中で、リベラルアーツの話もたくさん出てきたと思います。みなさんも結構いろんなことに興味持っていると思います。いろんなものに対しての共通点、コンテクストを常に探していくようにすると、何かふっとした時に気づきが得られて、そこから何か新しいものを作っていくきっかけになるのかもしれません。今日のイベントは、私にもすごく響きました。ご参加いただきありがとうございました。
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