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インナーブランディングこそ顧客志向の原点 ~ヤッホーブルーイング・井手社長と木村石鹸・木村社長に聞く、ファンを巻き込む共創型のブランド作りの秘訣~(3/3)

こんにちは、フィラメントの宮内です(しつこいようですが、原稿を書いているのは超優秀な弟子の本田恵理さんです笑)。

さて、ヤッホーブルーイングの代表・井手直行さんと木村石鹸・社長の木村祥一郎さんの対談、いよいよ最終回です。「ファンベース」「熱烈なファン作り」の話から、KPIの考え方や組織のあり方の話にまで発展しました。そう、ファンベースや顧客志向の考え方は、実は組織活性やチーム作りと直接つながります。そんな実例の数々や、お二人の深くて優しい経営哲学を感じました。(取材・文/QUMZINE編集部、本田 恵理)

イベント実践による、社内外におけるプラスの効果

角:イベントに来られたお客様のその後について、実はライフタイムバリューが上がっているとか、売上面で何らかの効果指標は追っていますか?

井手:まだ追えていないので、今その仕組みづくりをやっているところですね。たとえば、5,000人規模のイベントをやると、1日数千万円の赤字になるんですが、回収の仕方がまだよくわかっていないです(笑)。

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ただ、初期の頃は楽天市場のネット通販のお客様が、数10人〜100人規模くらいのレベル感のイベントによく来てくださっていて。その方達の動向は、追えるんですよね。すると、弊社の商品を買ってくれているし、口コミもしてくれている。効果が上がっているのが、目に見えてわかったんです。今となっては数千人の方がイベントに来ますが、結果だけ言うと、我が社は15年連続増収増益で、IT企業みたいな成長が出来ているんですね。そういうところを見ると、きっとイベントに来てくださった方たちの何割かがファンになってくれてて、熱狂的に買い続けてくれているのだろうと。

角:きっと、そういうことなんでしょうね。

井手:イベントの度に、そういったメンバーの方が増えていくのを、肌で感じていますね。

角:そういう場に行くのが、お客様としても楽しい。

木村:「交流」という価値もあるんでしょうね。

井手:ファン同士の交流も、社員との交流もありますね。あとはイベントでの顧客満足度などのアンケートは取っていて、データを蓄積するようにしています。毎年その満足度的な部分をより向上させていこう、という試みはありますね。

ただ、そのデータを売上との関連性に結びつける分析や追跡はまだ出来ていないので、そこを追えるように、投資をして組み立てているところです。それが出来上がったら、もっと効率的に追えるんでしょうけどね。今は、過去の経験則から「きっと売上につながっているに違いない」という希望的観測による英断で、イベントを続けている感じですね。

木村:最初にやる時は、勇気がいりますよね。

井手:最初はそうですね。けれど、全部スモールスタートなんです。まず、メールでの非効率なコミュニケーションからでも、効果があることがわかって。イベントも、最初は40人のファンを集めて、10人くらいのスタッフで手作りするところから始めて。

最近はリアルイベントをやると5,000人、今年はリアルでは出来なかったですが、オンラインイベントで2日間合わせて10,000人のファンが来てくれたんですよ。そうしたらその後、因果関係こそ明確ではないけれど、売上は遅れてつくんで。明確に見えないながら、きっとさっきの希望的観測は当たってるんだろうと思ってます。

角:木村さんのKPIや、大手との差別化戦略はどのような形なんですか?

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木村:うちもKPIは、特にないですね。強いて言うなら、各個人に自分で出させています。自分の目標として、次の半期や1年で何をやるのか? たとえば自社ブランドの担当なら、自社ブランドで何をやりたいか?といった感じで。会社から押し付けているものは、ないですね。会社の経営理念にさえ合致してればいいですし、ここで働きたいと思って来てくれているのだから、間違ったことをする人はいないだろう、という信頼関係の前提がありますね。社員で、ブランドの立場を悪くしようと思う人はいないだろうと。むしろブランドをたくさんの人に知ってもらって、自分たちの商品をいいものだとわかってもらおうとする人しか、いないはずなので。

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角:なるほど、その考え方いいですね。

木村:大手との差別化の話でいくと、僕らはヤッホーさんの規模よりもっと小さいので、もっと肉弾戦ですね。今でも完全に個別対応ですし、SNSでも1対1で、ずっとやり取りしています。規模は小さいながら、バスボムやルームスプレーなどを作るようなワークショップもたくさんやっているんですが、参加人数は10人、多くても20人とかですね。費用対効果でいったら、その場でみなさんが商品を買ってくれたとしても、赤字なんですよ。
それでも、やっぱり僕らも因果関係ははっきりしませんが、続けていると、たしかに自社ブランドの売上は伸びていってる。なので、結果的にはファンの獲得に繋がってるんじゃないかな、と思っていますね。

角:やっぱり希望的観測なんですね。

木村:ファンって、可視化されるファンが多いと、増えていくものだと思うんですよね。
ファンが可視化されると、「あなたもファンだったの?」みたいに、隠れファン同士が繋がって、より強いファンになってくれる気がする。
そこを意識しているので、SNSでも、うちのことが好きだって言ってくれる方をピックアップして取り上げるんです。それによって「この人もファンなんだ」ってことがわかると、「自分もファンなんです」って言い出してくれる人が増えるんですよ。なるべくファン同士が「見え」たり、「繋がれる」場作りを心掛けていますね。それをゲリラ的に、効率は無視してやっています(笑)。

角:バスボム作りなどのワークショップは、夏休みにお子さんの研究とかでもやられたりしますよね。そういう光景は見るだけでも微笑ましいし、実際に参加されてる方以外への波及効果もありそうですね。

木村:そうですね。実際の現場もそうなんですが、そういうワークショップを実施したことの熱量って、記事などに載って広がって伝わるんですよね。さらには、それが会社の姿勢として伝わっていくんです。すると、「そういうことをされている会社なんですね」っていうイメージで、商品を買ってくれる方もいるんですよね。
実際現場に携わるスタッフも、直接お客様と会うと気分が高まるので、モチベーションも上がりますよね。今年はコロナでなかなか実践出来ないですが。

角:部下から「費用対効果の面ではどうなんですか?」って聞かれたら、どう説得するんですか?

木村:ヤッホーさんはもはや社内文化になってるから、そういうことをいう人はいないんじゃないですか?

井手:今はいませんが、多額な費用をかけた時には、みんな心配そうにしています(笑)。特に初期の頃は半年くらいでネットで「元が取れる」ということの検証が出来たので。スモールスタートで、最初にデータを取れるうちに取っておくと、規模が大きくなって来ても、「過去の結果を見れば、いけるんじゃないか」とポジティブに変換できますよね。
あとは、実際にイベントに参加すると、やっぱりスタッフのモチベーションがあがるんですよね。「自分たちは、社会のためにいいことをしてるんじゃないか」って。

木村:僕が戻ってから採用した新しいメンバーは、そういう実践をやりたい人が多かったので前向きに取り組んでくれてますが、一部の古株からは、批判的な声があがりましたね。中には、自社ブランド事業にさえ反対する人もいました。「OEMは一度にまとめて注文来るし、まとまった売上が立つけど、自社ブランドとか、1つ売っていくらになるの?」みたいな。
実際にベテランの人達が、イベント担当の人達に「そんなことやっていくら儲かるの? 意味あんの?」って言ってしまったり。けれどそういう意見の人達には、怒るわけじゃないですが、個別に話してましたね。「そんなこと言っていたら、何も新しいことは出来ない」と。わからなくても、やってみないといけないことって、あると思うんですよ。それを潰してしまったら、新しい人も、何も出来なくなってしまう

社員を自社のファンにする、インナーブランディングの方法

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角:会社全体を巻き込むのって大切ですよね。

木村:ブランディングの中でも、まずはインナーブランディングをすることって大切だなと感じています。まず、社員が会社を大好きになることですね。ヤッホーさんはその辺がすごく上手いなぁと感じます。社員が皆同じ方向を向いてますよね。

井手:楽天さんからいろいろ学んで、最初は顧客志向でやり始めたんです。けれど、その顧客志向を追求していく過程で、チームビルディング研修に出て、顧客志向とチーム作りは別だとわかりました。
でも、みんなで顧客志向を追求していると、だんだん組織が良くなっていくんですよね。
手作りのイベントなどをやっていると、ファンの方々もだんだんやっていることに共感していってくれて、ファンとスタッフの垣根がなくなってくるんです。すると、うちがやろうとしていることに、共感する仲間が広がっていく感覚になる。ファンの方がイベントを主催してくれたり、お揃いのTシャツを着ていたりするんです。
だから僕らのやり方は、社員がまずはいいチームを作って、顧客志向を考え尽くしながら、手作りで進めていくというものですね。これは大手だとなかなか出来ないことだと思います。社員が自ら、お客様に喜んでもらおうと努力して、初めて出来るやり方ですよね。

木村:指示・命令方式だと、なかなか出来ないですよね。

井手:うちは、顧客志向とチーム作りが会社の文化として根付いているんですよね。

角:井手さんは社員マインドを、どうやって育ててきたんですか?

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井手:1つあるのは、失敗を責めてはいけないということですよね。失敗をリーダーの目線から責めてはいけないし、もっと言うとそれを失敗と思わないことですね。新しいことをやろうとすれば上手くいかないこともありますし、そういう時に「残念だったね。どうしたら上手くいくだろう?」と、何がダメでどうしたら達成できるかを考えながら、みんなで前を向く。僕自身、率先して失敗するようにしています。けれど、これは上手く行くためのステップなんだよ、ということを背中で見せるようにしています。

木村:うちもそれに近いですね。あと、僕が大切にしていることは「社員を信じる」ということですね。然るべき採用プロセスできちんと選んで来ている社員は、会社に貢献したいし、いい仕事したいし、お客様に喜んでもらいたい人が入ってくるものだから、そういった社員達の思いを信じなさい、ということですかね。
たとえば、不正をした人に基準を合わせたメッセージを発信してしまうと、全体を通して、社員達を信じてないことになるので。信じることで、しっかり自分で考えて、1人1人がいいことをすることに繋がっていくんじゃないかな、と思っています。だから社員を信じてないルールは外していくようにしていますね。

角:今日は、いいお話を聞けてよかったです。ありがとうございました!

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【プロフィール】

【株式会社ヤッホーブルーイング】井手 直行

井手 直行(いで なおゆき)
株式会社ヤッホーブルーイング  代表取締役社長

1967年(昭和42年)生まれ
ニックネームは『てんちょ』。国立久留米高専を卒業後、電気機器メーカー、広告代理店などを経て、1997年ヤッホーブルーイング創業時に営業担当として入社。地ビールブーム終焉の後、再起をかけ2004年楽天市場店の店長としてネット通販事業を軸にV字回復を実現。2008年より現職。フラッグシップ製品『よなよなエール』を筆頭に、個性的なブランディング、ファンとの交流にも力を入れ、現在まで15期連続増収増益、クラフトビール国内400社の中でシェアトップ。『ビールに味を!人生に幸せを!』をミッションに、新たなビール文化の創出を目指している。著書に『ぷしゅ よなよなエールがお世話になります』(東洋経済新報社)

■ヤッホーブルーイング公式Twitter
https://twitter.com/yohobrewing

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木村祥一郎 (きむら しょういちろう)
木村石鹸工業(株) 代表取締役社長

1972年生まれ。1995年大学時代の仲間数名とIT企業を立ち上げ。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月、家業である木村石鹸工業株式会社へ戻り、2016年9月、4代目社長に就任。

自律型組織を目指し、稟議書の廃止や「自己申告型給与制度」の導入、社員自らが組織づくりを行う「じぶんプロジェクト」等、様々な施策を通じて組織改革を行っている。
事業では、OEM中心の事業モデルからの自社ブランド事業への転換を進め、石鹸を現代的にデザインしたハウスケアブランドを展開。2020年より三重県伊賀市での新工場「IGA STUDIO PROJECT」の稼働も開始。

■木村石鹸公式Twitter
https://twitter.com/kimurasoap


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