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NTT Comの新規事業チームはいかにコロナ禍を乗り越えてサービスリリースへと漕ぎ着けたのか? ~チームの「パッション」と「学び」が死線を分ける~

新規事業の成功には、チームの「パッション」が重要な資源として挙げられます。約4年という長い時間を経て、オンラインリモート環境下のコロナ禍の逆境を乗り越え、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の新規サービス「みまもりおせっかいサポート」が事業化を果たしました。その背景には、どんな要因が影響していたのでしょうか。この過程で得られた「学び」は、チームや新規事業にどのような影響を与えたのか。プロジェクトリーダーの竹葉さんの実体験を基に、大企業が新規事業創出に挑む裏側を探ります。(文・写真/QUMZINE編集部 永井公成)


「みまもりおせっかいサポート」とは?

角:この度は事業化おめでとうございます。4年前にこの事業アイデアについてWeWorkで対面のメンタリングをしていた頃が懐かしいですね。まずは改めて「みまもりおせっかいサポート」について教えていただけますか。

竹葉:「みまもりおせっかいサポート」は高齢者が暮らしている部屋にスマートフォンをとりつけ、そのカメラで撮影した映像を、映像解析AIによって解析します。高齢者が転倒した際は素早く検知し、見守り者のスマートフォンへ連絡します。見守り者は離れた位置からでもすぐに転倒事故に気付くことができ、医療機関や関係者へ連絡することができます。AI解析を使うので、高齢者の普段の生活におけるプライバシーが守られたまま、事故発生時のみ映像データを記録して参照できるようになっています。

角:メンタリング時はシーリングライトのように部屋の天井にスマートフォンを取り付けるということをお話ししていましたけど、製品版では突っ張り棒で取りつけることになったんですね。

竹葉:そうなんです。介護施設でこのサービスを使用する際、入居される高齢者によって見守りたい人がどんどん変わってきますので、その際にデバイスを簡単に移動できるようにこのような仕様となりました。また、死角をなくすという意味もあります。高齢者の体調によっては入り口すぐにベッドを置くこともあるのですが、その場合、転倒した時にカメラの死角に倒れてしまうと判定ができなくなります。そこで、シーリングライトに固定するのではなく、死角にならないところに都度設置する場所を変えていただくことになりました。

角:スマートフォンのカメラを使いつつも、利用者のプライバシーに配慮しているところも肝ですよね。

竹葉:そうですね。こういったカメラを使ったサービスについて、今年7月に日本総合研究所が厚生労働省の補助事業で調査したレポートが公開されました。およそ1000施設に調査を実施して、約3割の施設では既にサービスが使用されていました。残り7割の使っていない施設が回答した「使用しない理由」としては「プライバシーが気になること」、「価格が高い」でした。我々のサービスはAIの映像解析技術を使用しますのでプライバシーは守られますし、スマートフォンを使用しますので、専門的なカメラよりも廉価にご購入いただけることがメリットになると思っています。

角:取りつけの手法は変わりつつも、スマートフォンでとらえたカメラ映像をAIで解析するという、サービスの原型は4年前から変わらないんですね。

竹葉:はい、カメラがついていて通信機能がついている安価なデバイスとなると、スマートフォンが一番良いということには違いありませんでした。

個人的な原体験が、事業化の使命感へ

角:このプロジェクトを立ち上げたきっかけや、背景について教えていただけますか。

竹葉:もともとは孤独死を迎える人たち向けのサービスを考えていました。住宅のベンダーさんやそういう会社に保険を出す損害保険会社さんと意見交換をして、「このサービスは必要だ」と仰っていただいて、ニーズがあると判断し、開発を進めていくことができました。

角:孤独死が発生すると、事故物件となってしまうため、そもそも高齢者の方へ賃貸の物件を貸し渋るということがあり、その対策にもなるんじゃないかという話をしていましたね。そこからいろいろなピボットを経て今回のサービスに行きついたわけですが、サービス開発を突き進めるためのモチベーションの源泉はどこにあるんでしょうか?

竹葉:このサービスを企画する1年くらい前に私の祖母が高齢者施設の中で転倒・骨折し、それが原因で寝たきりになり、半年後には亡くなってしまったということが原体験としてあります。同じような辛い思いをする人がいたら絶対にいけないと思っていました。そして、こうしたサービスを必要とする人がどれくらいいるのかということを調べていく中で、同じような課題を感じていらっしゃる方が非常に多いことがわかり、損害保険会社さんや介護施設さんなどに共感いただいたことで、自分の執念が消えずに燃え盛っていきました。皆が必要としているものなんだから、これは絶対、どれだけしんどくても世に出していこうという使命感となりました。

角:なるほど。チームの皆さんも同じような使命感を感じていらっしゃったんでしょうか。

竹葉:メンバー3人のうち1人が私と同じような原体験を持つメンバーでした。もう1人のメンバーは、当初は本当にこのサービスが必要かどうか疑問を持っていましたが、社外の人々と話をする中でサービスに対する反響の大きさを実感し、これは世の中に必要だと感じて、チーム全体が一丸となりました。

角:なるほど。DigiCom(NTT Comの社内ビジネスコンテスト)で2位を受賞されて、一気に「これはもう行けるんじゃないか?」みたいな気持ちになられたのですか?

竹葉:その当時、副社長だった丸岡さん(現NTT Com代表取締役社長・丸岡亨氏)にDigiComのDemoDayで「このサービスは本当に世の中に必要なものだからぜひ事業化する姿を見てみたい」というお言葉をいただき、そのことで私が所属している組織の管理者の人たちにも、「推進すべきサービスだ」とスイッチが入って背中を押していただきました。

  • かつてのチームメンバーからもコメントをいただきました。

ーーチーム(竹葉さん・宮原さん・秋葉さん)のどんな思いが「事業化」への執念を突き動かしていたのでしょうか?

宮原拓磨さん:「自分のつらかった原体験の解決」が信念でした。竹葉さんに声をかけてもらってチームに参画する前年に、祖母を孤独死で亡くすという経験をしました。脱衣所で倒れて亡くなっていたため、ヒートショックが原因と見られますが、詳細な原因は今も不明なままです。こういった経験のある方は共感していただけると思いますが、「あの時にこうしていれば、こうなっていたら」という後悔しかあとに立たず、やりきれない思いでいました。
そんな時に「みまもり おせっかいサポート」のアイデアを竹葉さんから説明を受け、解決したい課題・実現したい世界観に深く共感しました。我々のチームは単に「新たな技術を使ってサービスを作りたい」という思いだけでなく、真に解決したい社会課題・助けたい人々が見えておりゴールが定まっていたため推進力があったのだと思います。

秋葉陽一さん:一言でいうと「熱意の伝染」だと思います。竹葉さんの体験談をベースとした本サービスの必要性に対する熱い想いから始まり、宮原君のチャレンジ精神・秋葉の好奇心にもに火をつけてチームとしての大きな使命感に代わり、徐々に社内外の関係者へも熱意が伝わっていったと感じています。

コロナ禍の事業開発

角:4年前というと、いわゆるコロナ禍が始まる頃だったように思います。プロジェクトを進めるにあたってコロナ禍は影響しましたか?

竹葉:ありました。DigiComで準優勝して周りも応援してくださり、介護施設からも「このサービスの実証実験をぜひ一緒にやっていきたい」というお話をいただいて、僕らも「ぜひやりましょう」という話をしていたのが2019年の12月ぐらいでした。しかし、その後コロナ禍となって全ての介護施設が実証実験を見送ることになり、実証できる機会が全くなくなってしまったんです。

角:2020年の1月、2月ぐらいから、ずっと進みませんでしたよね。

竹葉:そうなんです。2,3社を相手にPoCを数か月やって精度が向上したら商用版のアルファ版を出していこうというスケジュールを立てていたんですが、それが全部まっさらになってしまって、「どうしよう」と。

角:その止まった状態はどれくらい続いたのですか?

竹葉:結局2年くらい経って、フィラメントの方に「特別養護老人ホーム つるかめの縁」さんをご紹介いただいたところから動き始めました。その間1年半くらいは直接介護施設でPoCするのは難しいので、フィラメントさんに損害保険会社さんや自治体さん、スタートアップなどをいくつかご紹介いただき、意見交換させていただきました。直接は無理にしてもBtoBtoXモデルでそういう施設に出すことで付加価値をつけて外に出せないか模索をしていました。

角:あの時は我々も「何かないかな」と思っていましたもんね。

竹葉:そのときは「あ、こんなに紹介していただけるんだ。しかも、こんなにいろんな業種や業態に」と思っていました。

角:あの時は大変でしたよね。

竹葉:そうですね。ただ一方で、コロナ禍が長期化する中で介護施設側の環境も変わってきたんです。介護施設の中で働かれるスタッフの人も、コロナに感染してしまうことによって、なるべく非対面での介護を行うであるとか、人が少ないので機械で高齢者の見守りを行わないといけないといった機運が、コロナを経てじわじわ高まっていきました。

角:なるほど。人手不足に対応しなくちゃいけないというニーズが顕在化するタイミングでもあったということですね。

竹葉:はい。だから、試練の時ではあったんですが、介護施設向けにこのサービスを提供するという俎上が、 コロナの時に出来上がったとも言えます。痛いところもあったんですけど、メリットでもあったと感じてます。

  • かつてのチームメンバーからもコメントをいただきました。

ーーコロナ禍のリモート環境の中で、NTTコミュニケーションズの会社の仕組みやオンライン業務/ツールの強みはどんなところで役に立ちましたか?

宮原拓磨さん:
コロナ蔓延前からリモートワークの仕組みがあり、環境が整っていたため特に苦労することなくリモートに移行することができました。具体的には、PCを自宅に持ち帰って使用してもセキュリティ面で問題がないように以前から整備されていたこと(セキュアFAT)、オンライン会議に使用するツールを全社員がデフォルトで利用できる環境にあり以前から使っていたこと(Teams)が挙げられます。とはいえ、最初のころは「いま誰が何をしているのか」が不明になり仕事の分担に苦労したことがありますが、NTT Comがコロナ禍でリリースした『NeWork』により、まるでオフィスにいるかのような形で気軽に話しかけることができるようになり、かなりストレスなく仕事を進めることができるようになりました。

秋葉陽一さん:コロナ禍におけるニューノーマルとして導入された社内制度(勤務体系やテレワークツール等々)によって、安全な勤務体制確保や柔軟な勤務実現によって我々のプロジェクトとしては完全停滞することなく、着々と水面下では開発や挑戦を継続していくことができました。

本気の態度を示して巻き込む

角:高齢者施設では命を預かっているので、一般的には相当保守的になると思うんですよね。でもこの先進的な取り組みに「協力しますよ」と言ってくださったり、まだコロナ禍が明けきっていない時期に「実証実験をうちでやっても良いよ」と言ってくださったりしたんですよね。なぜそのように話を進めていけたのか、心当たりはありますか?

竹葉:山形の介護施設の方も、今の介護の状況をなんとかしなきゃいけないという課題意識を常に持っています。しかし、それを解決するためのソリューションを自分で作ったり、コロナ禍で自分で探したりすることがなかなかできなかった時に、フィラメントの方を通じて我々のサービスを見ていただくことで、「ちょっと協力してもいいかもしれない」と感じていただけたのだと思います。実際、コロナ期間中に私たちも抗原検査をしてマスクを二重にして介護施設に入らせていただきました。今も続いていて、そういうところに足しげく通うことで、「本気だな」と感じていただけているのではないかと思います。

角:すごいですね。ちなみに何回くらい山形には通われているんですか?

竹葉:もう十数回は行っているかと思います。

角:それはすごいですね。やっぱり本気でやりたいんだという人がいたら応援したくなるもんなんだと思います。逆に言えば、そういう人は少ないのかもしれませんね。

未来の介護のコミュニケーションを変えていく

角:これから進めていきたいことは何ですか?

竹葉:今はドコモグループとの連携によって、日本全国の小さな介護施設にもこのサービスを届けるための販売体制づくりをしています。また、今は介護施設をメインに話をしていますが、実は病院でも2年前くらいから実証実験をしています。高齢者施設に入る前に医療的な処置が必要な方が日本全国の病院にはいらっしゃいます。そこでも転倒リスクはあるので、病院の方から「このサービスをちょっと使わせてほしい」とのお話をいただいて実証実験を行い、病院でもニーズがあることを確認しています。

角:なるほど。来年の今頃には「もうめちゃくちゃに売れて大変なんです」という話を聞かせてくださいね(笑)

竹葉:そうですね、この一年はちょっと頑張っていく必要があると感じています(笑)

角:最後に、将来的にやっていきたいことについてお話いただけますか。

竹葉:近い将来でいうと、一人暮らしをされている高齢者の見守りを実現させることがゴールだと思っています。それにむけて住宅仕様にAIを改善する必要があると思うので、来年、再来年には一般家庭向けの見守りサービスを提供することで、このサービスを見守りの社会インフラとして仕立て上げていきたいです。そして、日本と同じような高齢化社会を迎えている中国や韓国、シンガポールも同じような課題を抱えていると思うので、そういったところにも差し込んでいければと思いますね。やりたいことが増えてくると、スマートフォンを使って実現するサービスではなくなってくるかもしれませんが、ドコモグループで未来の介護のコミュニケーションを変えていきたいと思っています。

【参考サイト】
みまもり おせっかいサポート


【プロフィール】

竹葉良太郎
NTTコミュニケーションズ株式会社
プラットフォームサービス本部 コミュニケーション&アプリケーションサービス部
第二サービス部門 主査

入社以来、法人営業、人事、企画等、様々な業務に従事。
2019年社内新規ビジネスコンテスト「Digicom」において検討したみまもりサービスが準優勝を獲得。兼務として商用化に取り組み、コロナ期間を経て2023年サービスリリースを実現。
2019年以降、毎年社内新規ビジネスコンテストに参加。過去5年間で4度予選を通過し、ピッチ大会まで進出した実績は「Com内で唯一」と評価を受けている。
現在、「みまもりおせっかいサポート」プロダクトマネージャー

角 勝(すみ まさる)
フィラメント CEO

新規事業開発支援のスペシャリストとして、上場企業を主要顧客に、前職の大阪市職員時代から培った様々な産業を横断する知見と人脈を武器に、事業アイデア創出から事業化までを一気通貫でサポートしている。オンラインとオフラインを問わず、共創型ワークショップや共創スペースの設計・運用にも実績を有する。経産省の人材育成事業「始動」のメンターも務めるなど、関わった人の「行動の起点をつくる」ことを意識して活動している。CNET JAPANにて「新規事業開発の達人たち」「コロナ禍で生き残るためのテレコラボ戦略」連載中。1972年生まれ。関西学院大学文学部卒。

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