公民共創のはじまりはイシューの発見から ~新プロジェクト「公民共創イシューファインダー」キックオフ座談会~
企業版ふるさと納税で企業と自治体が長期的な関係性を構築
角:まず僕から、「公民共創イシューファインダー」をプロジェクト化するに至った背景からお話しさせてください。
元々フィラメントは、2015年に大阪市役所出身の僕(角勝)が創業した新規事業創出支援企業です。これまで主に国内外の大企業や新興企業を顧客として、オープンイノベーションによる事業創出の実績を積んできました。
僕は、20年にわたる地方公務員としてのキャリアを持っていますが、当時と変わらず地域での課題解決を強く意識し続けています。昨年来の、コロナ禍が世界中に大きな打撃を与えている中でもフィラメントはいくつもの公民連携事例を生み出し、一定の社会貢献を果たすことができたのではないかと自負しています。
フィラメントは今後も、こうした成果をさらに広げ、一層の社会貢献を果たしていくべく、公民連携による共創の推進を目的として、先進的な取り組みを行う地方自治体の首長の課題意識に寄り添い、その解決策を探ることを目的として本プロジェクトを始動しました。
一同:パチパチパチパチ(拍手)
角:ではさっそくですが、今日はプロジェクトのキックオフ座談会ということで、僕から最初のお題を投げ込みますね。
実は最近、「企業版ふるさと納税(※)」に注目しています。寄付金の用途が自由で、9割が税金の控除対象になるんですよ。だから1,000万円寄付したとしても、そのうちの900万円は控除の対象になるから100万円しか実際には目減りしないということですね。そして用途を指定できる。例えば「こういう仕事に従事する職員の人件費にあててください」ということも多分できるんですよ。例えば「公民共創事業部門の職員の人件費にあててください」みたいな感じです。こうすれば、その人件費があてられた職員を寄付した企業側に出向させるのもできるかもしれない。 これ面白くないですか?
村上:面白いしなんかすごいね。
角:これをどう使うかをいろいろ考えています。例えば自治体と共創に取り組みたい企業が50個の自治体に1,000万円ずつ寄付する。そして、その人たちを出向させると地方の自治体出向の人たちが50人集まった部門ができちゃうわけですね。その人たちに「僕達(出向先の企業)と一緒に何がしたいか考えて」と言う。そうすると50個の事業ができるかもしれない。しかも事業1個つくる単価が100万円ですむ。そしてまたその人が派遣元の自治体に帰って行ったらその人を起点として自治体内部の人たちと仲良くなれる。とすると企業から出向として人を出すより全然コストも安いし効果も高い。これ、どうでしょう。
伊藤:ありだと思います。そういう繋がりをつくりたいと思っている企業はいっぱいありますよね。
角:そうなんです。自治体サイドの意思決定ロジックを知っている人が企業に出向して来て実践的な知識を教えてくれると、周りも役に立ちます。企業側から人を出すとその人だけしか知ることができない。そう考えると全然こっちのほうがよくないですか。
古里:総務省も、積極的に企業版ふるさと納税を推進していると聞いていますので、担当の方を紹介頂き、それが可能かどうか確認とりますね。
村上:ヤフー時代の宮坂さん(現・東京都副知事)が石巻とかで拠点をつくって震災復興をやっていたのは、まさにそれ(自治体との長期的な関係構築)を自力でやっていたんだと思う。「ツール・ド・東北(※)」についても、「とりあえず10年はやり続けるんだ」と言っていた。
角:例えば自治体の人がヤフーに出向で行って、ヤフーの人たちと繋がりをつくって、しかも関係性がずっと維持されるようになるのであれば、その提案に賛同する自治体もいっぱいあると思うんですよね。かつてはヤフーの社員が美瑛に行って自治体の課題発見・解決をやったりもしてましたね。
古里:まさにwin-winですね。
関係”法人”人口で東京一極集中の解消を目指す
角:僕、これやり続けると「関係人口」ならぬ「関係法人人口」ができるんじゃないかと思っています。関係人口って1人だったら1人じゃないですか。しかもその場にいないんだから、実際は「0.XX人」みたいな感じになるはずです。でも関係法人人口だったら、5万人社員がいたらその5万人と一気に関係をつくれることになる。
伊藤:しかも継続的な関係をつくりやすくなるよね。その会社の事業と紐づいている何かが生まれて。
角:企業側も事業のために出すっていうポジションになって、ある程度関係ができてきたらその事業を継続するためにどうすればよいかを積極的に考える必要が出てきます。その中で、その企業とどうやって事業を一緒にしていくか、その事業を継続するためにどうすればいいかを模索して、企業の持っている強みを自治体の中でどう展開するかを考える職員が増えていくわけですよ。これ、めっちゃ面白くないですか。
その結果、企業版ふるさと納税を自治体の中で事業として展開していくパターンがどんどんストックできると思うんですよ。気がついたら企業版ふるさと納税の「さとふる」みたいな感じでカタログみたいになっていると思うんですよね(笑)。ノウハウがとんどんたまっていって、知恵の引き出しができあがっていくというのが目指したいところでして。
大阪にいて思うのは、東京の企業が圧倒的に多いし強くて、結果綱引きに負けてお金が東京に持っていかれているというパターンですけど、でも別に企業は普通に企業活動しているだけで、地方のお金を吸い上げようみたいなことを思ってるわけじゃないんですよね。日本の90%ぐらいは田舎なわけですから、そっちで事業をどんどんやりたいって思っている会社もいっぱいあると思うんです。そんな企業が本当に地方に散って関係法人人口として結びつきを強めていくと、結果的に東京一極集中じゃなくなるんじゃないかなと。
伊藤:その可能性はあるよね。コロナ禍になってから、別にどこに住んでもいいし、今の会社にずっといるって感覚じゃなくなっている人がめちゃめちゃ増えているから。だから関係人口よりもさらに前に普通に移住するみたいなところが流れとしてきているし。だから関係法人人口も増えるけど、そもそも人口が増えるみたいな可能性はめちゃめちゃあると思うんですよね。
角:多分、例えばヤフーと島根県出雲市がそういう関係法人人口になったとしたときに、関わりがあった社員は出雲市に移住すると思うんですよ。だから関係人口から定住者、移住者を増やすための導線としても成立するんじゃないか。
村上:だから関係法人から普通に個人として関係人口になって、その中からⅠターン的な流れっていうのはあるよね。もともと地縁がないのが一番の移住のハードルなわけであって。
角:そうですよね。でも「会社が繋がった!」みたいな感じで、そこから行くっていうのはアリですよね。
村上:コロナ禍で転職希望者数は増えているんだけど、実際の転職数はそれほどでもないんだよ。
伊藤:それは時間差でくるんじゃなくて?
村上:そこはまだ分からない。ただやっぱりそこには希望しているポジションとかロールと、実際転職が起きていることとのギャップがあって、コロナ禍でそれが増えたんだよね。だから転職したいけどできない人が増えたっていうのが正しい。あとは移住の文脈でいうと、マクロ的には東京一極集中が加速しています。一都三県の中の三県が増えていて、東京が減っている。今までの国道16号線周辺に住んでいる人たちが都内に引っ越してきたという職住近接の流れが戻ったという感じ。
伊藤:テレワークになってきたから一都から三県の周辺に行っているっていう動きになっているのかしら?
村上:そう。多分ワーケーションなどが移行期としてあるのかなと。
関係法人人口ができることによって、今どこの町にもコワーキングスペースってできているから、まずはそこで働くのだろうなと。移住するとなると、結局東名阪と福岡なんですよ。分野によっては地方の国立大でも強いところはあるんだけれど、総じていうと皆東京の大学を目指すんだよね。だからファミリー層というのはやっぱり東京近県から出ないっていうことになる。その一方未婚世帯は増えているので、彼らはより自由度があがるんじゃないかと見ている。
伊藤:そこの人たちは自由に動けるから。彼らをどれだけ取り込めるかだよね。
ワーケーションで関係法人を通じた関係人口の増加させる
角:企業版ふるさと納税を地方自治体のワーケーション推進事業に適用したらどうなるかってちょっと考えてみました。例えばJRとかANAとかJALとかが2,000万円くらい寄付するとします。でも9割控除になるので実質200万円の負担ですよね。「そのお金でワーケーション施策に使ってください」と言うんですよ。そう考えると、「この飛行機は貸し切りで、ワーケーション客だけを募集する」というサービスをつくったりできると思うんですね。
山形県が、ワーケーション新幹線というのをつくったんですが、企業版ふるさと納税でも同じことできるんじゃないかと思うわけです。そうするとANAは2,000万円出すけど実質200万円負担でいい。しかもANAの路線を使ってお客さんを集めてもらって、そして実際に送り出すことができる。そして送り出した先ではその人たちが2泊とかして、地元ならではの体験をしてもらう。
古里:面白い!
伊藤:絶対いいよ。
角:ワーケーションだと地元の企業とか文化にふれる時間があるじゃないですか。だから関係法人を通じた関係人口の増加に繋がってくるんじゃないかなと思います。
村上:これいいじゃないですか。
伊藤:僕は出張しても用事が終わったらすぐ帰っちゃうんですよ。ところが、「ワーケーションだよな」という認識があって「サブスク契約してるからホテルに泊まり放題だよな」となった瞬間、福岡でひと仕事した後、「よし!じゃあ帰り熊本に朝寄ってから帰ろう」ってなるんですよ。
だからワーケーションとか、どこで働いてもいいとなれば、そういう地元の文化にふれるのも増えてくるんだろうなって思う。
村上:「もう1泊してから帰ろう」とかね。選択肢がちょっと広がりますよね。
伊藤:出張だとそれもなかなかできないけど、ワーケーションとなると別に明日もそこで働いてもいいよねと。
古里:なるほど。ちょっと切迫感がやわらぎますね。
伊藤:やわらぎますよ。それで、残る問題は「移動」なんですよ。移動がちょっとサポートされると行きまくれる。
角:自治体の予算だと来年度の話になってしまうけど、企業からお金がもらえるとなれば、もっとクイックに動けるかもなという気はちょっとしています。
村上:たしかにね。
角:皆さんいろいろな会社を知っているので、いろいろやってみたいなと思います。あとはちゃんと動くようにサポートし続けることですね。例えばFacebookでグループをつくって僕らが市長に「困っていることないですか?」と普段からやっていたら、どこかで詰まっちゃったときとかにもそれを解消することもできると思うんですよね。
東京を解体して、日本全国を東京に
角:最後に新プロジェクト「公民共創イシューファインダー」への抱負を一人ずつお願いします。まずは都知事を目指しているという伊藤さんから。
伊藤:普段東京に住んで、仕事して、家族といて、友達と語らっても、「この国をこうしたいよね」という話が全然ない中で、まずは役所の人とメディアの人と、それから市民とが、みんなで「こうしたら面白いよね!」と話せる場所をつくらなきゃいけないとすごく思っていて。
そこでなんで「都知事になりたい」と言ったかというと、そういうふうに俺が言ったら、他にも「俺も政治頑張る!」という人が出て盛り上がると思うんだよね。でも、話が盛り上がるだけじゃ何も変わらないから、こういう感じで「ワーケーション行こう!」とか、ワーケーション行って面白かったら「引っ越しするか!」という感じになれば面白いなと思います。様々な地方で、いろいろなことを知れて、面白いことができたら俺らも嬉しいなと、今日話していて思いました。
角:嬉しいですね。たしかに政治の話ってしづらい雰囲気がありますもんね。
伊藤:そうそう。「俺は政治の話はしない」とか言ってね。今日話した話ってさ、働きやすさっていう側面もあるけど、最後詰めていくとやっぱり少子化の問題とかの話になっていくわけですよ。いきなり「我が国を!」とかっていっても何も変わらないけど、「ワーケーションどうする?」とか「関係法人人口こうやろうぜ」とかからはじめて、「人を増やさないとまずいよね」という話になっていくと、僕が話したいことに繋がってくる感じがするんですよね。
角:いやあ、うれしい!!ありがとうございます。じゃあ臣さん。
村上:今日の一番のフレーズは、やっぱり「関係法人人口」だね。
今までやっぱり「移住者増やしたい」とか「関係人口を増やそう」という話はあったんだけれど、たしかに法人経由の「BtoBtoC」みたいなアプローチはこの世界になかった。このスキームによってそれが生まれるというのはすごくワクワクする話だなと思います。
教育についていうと、地方にワーケーションなど法人経由で人が来て、学校でデジタルの授業をするとか、職業についての教育をするとか。あるいは、大人のリスキリングの文脈でいうと、マーケティング講座を月に10時間のコースで毎回入れ代わりで職種の違う会社の人たちがやるようになったら、地方にいながらにして最新の技術を学んで、普通にリモートワークで仕事できるわけじゃないですか。そういうエコシステムが広がると、すごく可能性あると思います。
そうすると、DXとか少子高齢化という日本の課題の解決策にもなるし。地方の若者が東京の大学に進学するという課題は、「地方にデジタルの職がないから東京で働きたい」という人が多いからなので、その引力が壊れるんだったら、多分地元の方が家賃がかからなくていいという人もいるはず。これは1つ、ブレイクするきっかけになるかもしれないね。
角:東京を解体してどこでも東京にするというイメージですね。最後に古里さん。
古里:地方の課題って、どこの地域にも同じようにあるんですよね。それをブレイクスルーするようなリソースがないわけでもないと思うんです。行政にもすごい優秀な人たちがたくさんいらっしゃって、地方企業の中でも中小企業含めて結構パワーがあって、すごく「思い」のある方もたくさんいるんですよ。でもそこが繋がっていない。地域の中でも繋がっていなくて、うまくそういうものを引き出せていないことがずっとモヤモヤとしているんですよね。
こういう公民連携のプロジェクトがあることで、それを繋いでいくものがきっと生まれると思うんです。そして模倣できる1つのパッケージができていけば、インパクトが出せるんじゃないかと思ってすごく期待しています。
角:そうですね。事例ができたら、「じゃあこれもいけるんじゃない?」とみんな考え出すと思うので、その先駆けの部分をつくりたいなと思っているんです。
本日はありがとうございました。
【プロフィール】
株式会社フィラメント/Filament Inc.
「未来と今を誰もが面白がりながら成長できる社会」の実現をビジョンとして、新規事業創出のための閃きと行動を引き出す伴走型アイディエーションファームです。前職地方公務員時代に多くのオープンイノベーション実績を持つ代表角勝のもとに様々な経歴を持つメンバーが集まり、官民合わせた多彩なネットワークを活用して事業アイデアの展開発展を支援。また、独自のプログラムで新しいアイデアを出し育てる人や組織の環境づくりもサポート。
代表角勝はCNET Japanにコラム連載中。