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地域金融機関が成長企業を支えるために求められる『目利き力』とは

関東財務局前橋財務事務所が主催する第8回群馬活性化サロンが、2020年9月29日に群馬県庁32階の動画スタジオ「tsulunos(ツルノス)」にて収録されました。日本政策金融公庫中小企業事業本部新事業室東日本新事業・ベンチャー支援センター長の宮口浩幸氏、株式会社東和銀行リレーションシップバンキング推進部長の飯島裕司氏、株式会社ジャングルデリバリー代表取締役の三田英彦氏がそれぞれテーマスピーチを行い、株式会社フィラメント取締役COO兼CFOの渡邊貴史が「成長企業を支えるためのファイナンスリテラシー」と題した基調講演を行いました。
基調講演で渡邊は、「成長する中小企業を一番最初の部分で支えるのは地方銀行、信用組合、信用金庫であるため、地域金融機関は中小企業の支援のために事業性評価を行うことを期待し、特に『人の目利き』、『技術の目利き』、『ビジネスモデルの目利き』を三位一体でできる力を持つことが重要である」と述べました。本記事では講演の一部をご紹介します。(文/QUMZINE編集部 永井公成)

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少し軸足をずらすことで中小企業でも成長企業に

成長企業というとGAFAなどを想起しがちですが、日本の中小企業でも、日本国内から軸足をずらして海外で勝負することで、成長企業になっているケースがあります。「DG TAKANO」という会社は、50年続いている東大阪の町工場の会社で、元々は業務用のガスコックや調整つまみをつくっている典型的な中小企業でした。現社長の高野雅彰さんはより面白いチャレンジを目指すためにご尊父様から祖業を継ぐことなく、技術だけを継承し独立しました。

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Bubble90」は水道用のバルブですが、洗浄力が高く、水道の利用料が90パーセント削減できるという優れものです。飲食業界を中心に活用され、日本国内のみならず、世界中で注目されているプロダクトです。自分たちの技術を少し技術移転し軸足をずらして付加価値をつけたビジネスをやっていくと、商品の価値が大きく変わります。例えばガスのバルブだと、1個300〜400円の世界ですが、このバルブだと1個6万円ぐらいなので、価値としては15倍も変わってしまいます。このバルブは2009年「超モノづくり部品大賞」を受賞し、国内外の見本市でも注目されました。

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ただ、営業の面が立ち上がるまでには非常に時間がかかるものです。メガバンクはなかなかお金を貸さないので、地銀はこの目利きの部分をもっとして欲しいと思います。

赤字には成長のためにどうしても必要は設備投資のための赤字と、営業赤字の2種類があります。営業赤字にも意味のある営業赤字がありますので、それは金融に詳しい地銀の方に精査していただいて、「ここは今頑張っているからもう一段階踏みとどまるためにも融資をしてあげましょう」というかたちで考えていただきたいです。特にコロナ禍では、そういう中小企業が増えていますので、そこの部分で支えて欲しいです。DG TAKANOの場合は累積赤字が今年解消予定とのことですが、立ち上がるまでには5年かかっていますので、地域金融機関は地域の経済を守るという観点からも是非5〜8年の長期的目線でサポートしていただきたいと思います。

Money follow the vision

もう1社、月面探査機のローバー(探査車)を作っているスタートアップの「ispace」をご紹介します。

もともと米系のコンサルファームにいた、宇宙やスターウォーズが大好きな袴田武史社長が、Googleが月面探査レースを開催すると発表した際に、「ホワイトレーベルスペース・ジャパン」というispaceの前身の会社を始められました。しかし、お金を集めるのは大変で、ご自身の資金を持ち出しながらやっていくのには限界があります。満足なスポンサーもつかずに進めていくと資金ショートでどうにもならなくなります。たくさんいた仲間が離れていくことを無理に引き留めることもできず、しかし事業を進めていくなかで、どうしようもなくなった時に、袴田さんが出演していたテレビを偶然に見ていたエンジェル投資家が、偶然に連絡をしてきて、サポートしていただけることになりました。

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事業にいかに意味があるかの評価をし、手伝いが求められるところでエンジェルが必要となりますが、最初期は1、2千万円で事業が継続できるため、1億円、2億円といった大きなお金がいきなり必要な訳ではありません。給料に関しても、後払いの支払スキームを作ることもできます。このため、どうしても事業開発に必要な最初の資金をつくるところを、例えば地銀が一緒に相談に乗っていただけるよう頑張って欲しいと思いますし、もっとも期待される機能でもあります。このエンジェルがそういう目線を持ってサポートできた理由は、エンジェルが元々都銀のバンカーであり、かつ、東大阪の町工場担当で銀行員人生を始められたということがあります。その中で、ずっと培ってきた知見やナレッジから、「こういう会社は育てないといけない、守らないといけない」と思われ、銀行がリスクを取ってでも、事業者に負担をかけず、事業に集中してもらう環境作りを手伝い、会社を育てることにしたそうです。だから、実際に無担保・無保証で融資をして、会社を支えることを銀行時代にもしていたそうです。もちろん、1件も回収不能にならず、回収できたとのことです。

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みなさんが応援したい会社はたくさんあると思いますが、地銀ならではの、企業の強さ、資質をどう見極めるかというところを是非強めていって欲しいです。また、無担保・無保証で出資あるいは融資をするとなると、「最後は経営者に責任を負わせるのではなく、投資家サイドとして目利きがしきれなかったとして、お互いに頑張ったと讃え合えるようになった方がいい」と先に述べた投資家の方はおっしゃっていました。そうしたメンタリティがいま地銀のバンカーに欠けていることをすごく心配されています。先に述べたエンジェル投資家は「Money follow the vision」という言葉で、いかに実現したい世界を持っているかが大事で、お金はあとでついてくるということをおっしゃっています。先にお金のことを気にしすぎると世界観も小さく終わってしまうので、事業が育たないとおっしゃられていました。ここの部分を大事にして、実際に投資や企業の目利きをしていただきたいと考えています。

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企業の成長は2種類

企業の成長には「持続可能な成長」と「急激過剰な成長」の2種類があります。前者はある程度、実を伴った成長をしているので、必要な資金にはある程度目算がつきます。地銀はこれに寄り添う形でサポートすることが非常に重要となります。後者は上場ゴールをするような形になりがちですが、当然に常に資金需要も発生します。しかも、急な形で資金需要が発生してしまうので、銀行サイドも非常に手当てがしにくい部分があります。そういうところは基本的にエクイティ(株主資本)で、経営者たちも経営権を削ってでも一気にグロースしていくことを考えます。この部分についても、規制があるものの、是非とも地域金融機関の皆様にもサポートに入って頂きたく考えています。

ただ、基本的にはどんなスタートアップも、持続可能な成長をしています。1年後、2年後、3年後などのそれぞれのタイミングで必要な資金を予測して進めていくことになります。経営をサポートすることに慣れている地域金融機関の担当者はこれに整合性があるかをちゃんと見て欲しいですし、成長軸の方で評価して欲しいです。いわゆる金融機関のデューデリジェンスはどうしても過去実績を見てしまいますが、ファイナスのデューデリジェンスは未来の成長可能性を見ていきます。先ほどの「Money follow the vision」ではありませんが、どういうふうになりたいかというところに関して、必要な資金を投じると考えて欲しいです。そうすることでより確実な成長に繋がると思います。

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「ファイナンス」とは、広い概念としては資金調達のことを意味しますので、間接・直接金融の双方のものになります。地域金融機関は基本的には業法上融資、「デットファイナンス」を中心に行います。そして、資金調達は株式調達による「エクイティファイナンス」もあります。最後に「アセットファイナンス」。大きくはこの3つがあります。地域金融機関は「地域のCFO」として頑張って欲しいと思います。特に、融資の部分で地域経済の発展の要としてその活躍が今後重要になってきますし、コロナ禍においては非常に苦しんでいる中小企業も多いので、より一層の支援策を考えて欲しいです。今は経済産業省が持続化給付金などの制度融資でサポートしていますので、ここでも地銀にはご活躍いただきたいと思います。

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金融機関の使命とは

資金調達の難易度を企業の業態別に合わせて整理をしたのがこちらの表です。

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一番最初のエンジェルラウンドやシードラウンドと呼ばれるような、入口の部分では私募増資ということになります。私募増資になると、どうしても出し手は個人が中心となりますし、事業体の評価として厳しい部分があるので、大きな金額が集まりにくいです。ただ、いいプロダクトやサービスがあるにもかかわらず、それらが評価されないのは非常に歯がゆいものがあります。投資家の方々に期待感やワクワク感を持ってもらうのが大事だと思いますし、地域金融機関の方に「この経営陣たちならなんとかなるでしょう」と思い、資金出し手としてサポートしてくれる人が増えて欲しいと思います。

融資についても、スタートアップ、中小企業が地銀からお金を貸してもらえないことは多々ありますので、ビジョンや事業計画を適切に評価していただいて融資に繋げ、実際に成長をサポートしていただきたいと思います。大企業であればメガバンクや地銀からすぐに借りられるところですが、スタートアップ、中小企業となると非常に厳しいところです。2016年に金融庁が事業性評価を実際に行うよう指針を出しているのですが、以前、融資については、過去実績をベースに評価するところになってしまうので、もう一段階“攻めの融資”というものに繋げていって欲しいです。リスクアピタイトとしてやる必要があり、金融機関も重い腰を上げるのがなかなか難しい部分も分かりますが、「事業性評価」という新しい切り口を政府サイドもガイドラインとして用意しているので、是非この新しいスキームを活用して地域金融機関のみなさまには地域経済を活性化を先導する担い手になっていただきたいです。

その中で、必要になってくる事業性評価というのは、「目利き力」になると思います。創業融資は基本的に無担保・無保証に近い状態でファイナンスしていますので、事業内容や人柄というところを見て欲しい。金融機関がずっと張り付きで見て、じゃあ最後「あなたがやるなら本当に信じれるからいいよ。お願いするよ」という意味で出してくれる金融機関がこれから増えていかないと、日本の経済成長や競争力は非常に厳しい部分がついてまわると思います。
その一方、ちゃんと伝えることができるCFO的な人が足りない部分は、ビジネスサイドの人間がもっと増えることによってできるようになるとは思いますし、民間の金融機関や、そこを制度的にサポートする官が連合してうまくやっていかないと経済は回っていかないと考えます。

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金融機関は資金供給者であり、産業を支える立場でもあると言えます。産業育成をしていけるようなかたちでの資金投入ができるのが非常に大事です。産業育成という観点で目利きができる人たちというのは、「こういう会社にはこういう人を繋げたほうがいい」ということが読み取れる人たちでもありますので、橋渡し役としてコミュニティをマネジメントするかたちで金融機関、特に地域金融機関にその役目・使命があると考えます。

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本日のお題である「成長企業を支えるためのファイナンスリテラシー」について最後にもう一度述べますと、やはり「成長企業の目利きをどれだけできるのか」が非常に重要だと思います。地銀はそこを担われていますし、一番最初の出だしの部分で支えるのがメガバンクではなく地銀、信組、信金です。これをできるところに地域金融機関の方は本当に誇りを持って欲しいですし、そのリスクを考えられるのは素晴らしい能力だと思います。そこの部分でファイナンスリテラシーは非常に重要になりますし、企業の価値をいかに評価していくかが重要となります。特に成長企業に対する「人の目利き」と「技術の目利き」「ビジネスモデルの目利き」を三位一体でできる力をつけて欲しいというのが今日のサマリーとなります。

(講演のアーカイブ動画は以下よりご覧いただけます)


【プロフィール】

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渡邊 貴史(わたなべ・たかし)
株式会社フィラメント 取締役 COO 兼 CFO
日系大手ITコンサルティングファームや日米のコンサルティングファーム、日系PE、プレIPOスタートアップ等を経て、2019年6月よりフィラメントに取締役 COOとして参画。2020年2月からCFO兼任。 2019年5月より中小企業庁のスマートSME研究会委員。2020年7月より国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術経営アドバイザー / NEPカタライザー。 その他、スタートアップの顧問/アドバイザーとして複数社の経営戦略支援(事業計画・資本政策・資金調達・営業・採用・労務・広報の各支援)を行っている。

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