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東邦レオ社長・吉川稔さんの雑談力と多彩な活動がすごすぎる ~雑談王+α~(前編)

リモートワークに必要な「雑談」や「ファシリテーション」のノウハウについて、各界のキーパーソンに聞くシリーズ。第四回のゲストにお越しいただいたのは、さまざまな活動を通じたコミュニティ醸成を行う東邦レオ社長の吉川稔さん。吉川さんが社長を務める東邦レオおよび関連会社のNI-WAは、都市緑化や建築・施工をメイン事業としつつも、東京九段にある築93年の歴史的建築物をリノベーションした「kudan house」や、大阪中津の築54年のオフィスビル「西田ビル」地下駐車場での「ハイパー縁側」というコミュニティ広場を企画運営するなど、コミュニティ開発に関わる数々のイベントやプロジェクトを立ち上げています。そんな吉川さんの多彩な活動について、文字通り“雑談形式”で語っていただきました。(取材・文/QUMZINE編集部、岩田庄平)

好きなものがないから、全部取り入れられる

角:リノベーションされたビルで、クラフトビールづくりを通じたコミュニティ醸成を行う「Nakatsu BREWERY」もそうですけど、吉川さんが取り組んでいるイノベーションって、異なる要素やその土地には本来ない異質のものを掛け合わせていますよね。それは無意識でされているんですか?

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西田ビルの地下駐車場にある、コミュニティ広場「ハイパー縁側」 https://hyper-engawa.com/

吉川:僕はアイデアが湧いてくる天才型ではなく、型がベースにあるんです。だから、0→1を作っているものは、ほとんどないです。音楽でいうとDJに近いですね。
子供のころから勉強が大好きで、経営の本もよく読んでいたし、あと、アートも含め文化的なことにも興味があったから、いろんなことを吸収してきたかな。そして得た知識を頭の中で編集するんですよ。例えば「この掛け合わせは、本来自然ではないし、もう少しいくと大外しだけど、ちょっとおしゃれ感がある」みたいに。異質な組み合わせをギリギリのところで合わせています。

例えば、クラフトビールづくりの事例も、古いビルに醸造所を作ろうと最初から考えていたわけじゃないんです。たまたま別でビールに関するプロジェクトが動いていて、「古いビルとビールを掛け合わせたら面白いんじゃないか」という発想から始めたんですよ。それがDJと同じで、場の環境やオーディエンスを感じて、掛け合わせをどんどん変えていった。ある人からは「絶えず3,4人が頭の中にいるみたい」と言われました。

角:引き出しが広くないとできませんね。

吉川:という意味では、僕、好きなものがないんですよ。ずっと。アパレルを長くやっていたんですけど、好きな服がないですし(笑)。

宮内:逆の発想ですね。なんでも吸収しちゃうやつですね。

吉川:この考えって服や音楽といった文化性のものだけじゃなくて、経営の仕方でも同じなんです。僕は、経営の仕方も「この人が師匠だから、その人の型を持ちたい」という意識もなくて、それぞれのいい部分をケースバイケースですべて組み合わせているんです。だから、本当は全部好きなのかもしれない(笑)。

角:嫌いなものってあるんですか?

吉川:経営者の引き際、引退のタイミングって、新しいものを見たときに、「これってどうなんだろう」と価値判断ができなくなる瞬間なんですよね。だけど、僕は全部に興味を持っているので、嫌いなものはないですね。
セレクトショップをずっとやってきて思うことがあるんですけど、事業を作ることって、セレクトショップを作ることと同じだと思うんです。僕はバイヤーで、ブランドを作るデザイナーではない。そうすると、主観的ではなく客観的に見てセンスがいいもの、尖ったものをどれだけ組み合わせることができるかが大切なんです。
でも、トレンドな商品を並べるセレクトショップをやっていると、たまに変なものがでてくるんですよ(笑)。だけど、自分は絶対着るし、取り入れていました。
バイヤーをやっている人達って、おしゃれに着こなしてるイメージあるじゃないですか。でも、僕は何を着てもダサくて(笑)、「吉川が着ると全部普通になっちゃうじゃん」と言われていました。けど、それってひっくり返すと自分のほうが強いんですよね。どんな服も異質のものとして見ていないので、服に着られることなく、全て自分の中に取り入れられる。
これって、今やっている事業でも言えることで、僕はビールの事業をしていますが、クラフトビールが好きなわけでもないんです。

宮内:ビール好きじゃなかったんですか(笑)。

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吉川:あらゆるものに興味関心があって、世の中にある面白いものやいいものを編集することにも興味がある。だからビールとビルの事業も自分がイメージしている組み合わせで創った世界観、空気感を大切にしていて。ある意味、音楽DJが組み合わせる楽曲をパーツだと捉えるのと同じく、僕も組み合わせるものをパーツだと捉えていますね。

アーティストとして経営する

角:DJの中には自ら曲を作る人もいるじゃないですか。吉川さんも編集以外に、何か創らないんですか?

吉川:そういう意味では、最近始めたアート制作は自分のやりたいものをやっています。

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宮内:ついにアート制作を始めたんですね。

吉川:自分でアーティストだと言い切ってるんで。アート制作のときは、超ストレスですね。なんでやるって言っちゃったんだろうって(笑)。

角:なぜアートを作ろうと思ったんですか。

吉川:アート制作って自分と向き合わないといけないじゃないですか。自分の見られたくない内なる部分を見せなきゃいけない。だけど、見られることを意識するとちょっとお化粧して盛りたくなる。お化粧しちゃうとそれはアートにならないから、そこの葛藤がすごいですね。
その一方で、DJって情報の編集だから、世の中やマーケット、音源などを客観的に見る必要はあるけど、自分とは向き合わなくてもできてしまう。
余分なものを削いで本質を求めるアート制作と、パーツを足してその組み合わせで表現するDJのような編集とでは、まったく逆のアプローチなんで。だからストレスになるんですよ。
経営っていう意味でいうと、以前は編集型の経営が面白いと思ってやっていたんですけど、アートを作るようになってから、アーティストとして経営をすることに変えつつあって大変です。

角:編集型経営とアート型経営って全然違いそうですね。

吉川:アーティストとして経営することってつまり、自分の嫌な面や弱い面を全部出してやらないといけないじゃないですか。楽しいんだけど、楽しくない(笑)。

宮内:経営の中に自分の本質やコンプレックスすら取り込んでいくってことですよね。

吉川:多くの経営者の方もそうだし、今までの僕もそうだけど、結果を出すために最善の手を打っていくには、自分自身よりも情報やプロセス、経験から考えることが大切じゃないですか。だけど、アート型経営は編集型経営とは真逆で、「この方法は苦労するし、理解されにくいだろうな」と思うことであっても、本質的に絶対に大事だと思っていることはやる、ということなんです。だから大変だし、パワーもいるんですよ。回り道するし、コケることも多いし。

角:最近、経営者が弱みを見せるのが大事と言われることもあるじゃないですか。まさにそれをやられていますね。

宮内:心理的安全が高まりますし、自分のコンプレックスと向き合うことによって、本質的な課題に到達できるんですね。

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吉川:僕は、経営者は成功してアートを買うより、大変だけど、会社の経営行動をアート作品と捉えて、アーティストとして経営した方が絶対に面白い事業ができると思っています。アートって社会意義が高いし、価値観が競争ではなくて、好き嫌いだから。ある人には大嫌いなアート作品でも、ある人には感動だ、みたいなことだってある。企業もアートのように比較や競争だけじゃない役割になればと思っています。だから、僕はアーティストとして社会課題にチャレンジしているんです。

でもアーティスト型の経営をやって、それでも会社がうまく回っているのは、うちの会社が55年間借入を一度もしたことがない技術会社だからです。財務力、技術力があるので、新しいことを始めるときでも即決ができます。
だからコロナ禍になった瞬間にアルバイトも含めた全社員に国よりも早く10万円を給付しました。そういうことも、オーナーの会長と僕が立ち話で決めたんです。

角:東邦レオさんの会社の存在意義が、ローマ時代の「パトロネジ」みたいな感じがするなと思ったんです。ローマ時代って、パトロネジというパトロン(保護者)がクリエンテス(被保護)を庇護してあげて、土地それぞれの文化を作っていくといった概念があるんですけど、吉川さんがパトロンとして、まさにそれをやっているんじゃないかと思いました。

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吉川:僕はもともとベンチャー起業やファンドの投資をやったり、金融機関での仕事もやったりしてたんですけど、世の中で本当に社会価値の高い事業をやろうと思ったら、ベンチャーでも、大手企業でも難しいんですよ。それを可能にするのは、地味で多くの人は知らないかもしれないけれど、マニアックなファンから絶大に支持されるような日本企業、しっかりした基盤がある会社だと思っています。
うちの会社がまさにそうで、先代オーナーは自らの判断で面白い事業や社会的価値のあることをしたいと思っていました。しかし、オーナー自身がそれをやると暴走になるし、そもそもそういうことに向いていないから、お金を使うことに長けた人間を社長にしようと決めていたそうなんです。そこで僕とたまたま出会いがあって。これまで取り組んできたラグジュアリービジネスの経営視点から、オーナーに代わって理想を実現できるんじゃないかと。それで「やってよ」という感じで30分くらいの話で決まったんですよ。
だから、僕とオーナーの場合は、オーナーがパトロンで、僕がアーティストなんですよ。このコンビでやっているから、なんでもできる。

角:普通は世間的な圧力もあって、すぐ結果が出ること、すぐ儲かることをやれって言われがちじゃないですか。そこから全く隔絶した違う価値観でできるっていうのはすごく楽しそうだなと思っています。

吉川:でも、社会的価値の高いことにお金を使う一方で、もちろん経営という側面もあって、僕が社長になってから会社全体の利益目標は高く設定しています。その結果、利益は3倍強の物凄い筋肉質で、特にキャッシュフローが破格に高い会社にしました。
社会意義が高いことをやるけれど、それで会社全体の収益が下がっていたらダメなんで、いろんなことをやりながら、最終的に会社の収益をさらに伸ばしてくためのイノベーションを起こしています。

角:どんなことをして伸ばされているんですか?

吉川:それは簡単な話で、一気通貫型でやっているんですよね。日本の技術会社って下請けや孫請けが多いじゃないですか。だからベンチャー企業は、そういう業界構造をITでどう壊していくかを考える。だけど、僕がいる建築業界って、モノづくりをやらない、中間マージンを取るだけの企業体も多くあって。僕はそれを分かっていたから、売上は下がってもいいので、下請けや孫請けの取引を減らしていったんです。その代わり、本当の発注者との直接契約を広げていく。うちの会社は自らデザイン・設計・コンサルティングをやっているので、プランニングをやりながら、自分たちの製品を紹介することもできるし、自分たちの製品以外でも、中小企業の面白い会社の技術を集めて提案しているから、ひと昔前の棟梁制みたいなスタイルでやっています。

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宮内:こういうことをしたいのなら、いい奴いるから一緒にやろうみたいな発想ですね。

吉川:ある意味、新しい時代の棟梁みたいなやり方で発注者と直接やり取りをするので、利益構造が、下請け孫請けの粗利益率水準から、劇的に変わりました。そうすることで、今までより案件あたりの売上規模が2桁ぐらい大きくなり、利益率が高くなるんです。

宮内:発注者との直接交渉って人脈がないとできないじゃないですか。吉川さんの人脈の広さにはいつも驚かされるんですけど。

吉川:もともと僕は、弊社に至るまでに、金融(ファイナンス)、ファッション(ブランディング)、飲食(コミュニティ)と衣食住に携わってきた経験があるので、そういうところからの人脈です。これまでのキャリアを元にして、住まいやオフィス、商業施設に、シェアの概念によるパブリック空間やクリエイティブなリノベーション等の新しい付加価値を創造し、「場」の賑わいづくりを行っています。

角:すごい! それ他では絶対真似できないじゃないですか。

宮内:だからこそ、アーティストなんですね。

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【プロフィール】

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吉川 稔(よしかわ・みのる)
株式会社 NI-WA/東邦レオ株式会社 代表取締役社長

1965年10月 大阪生まれ。89年 神戸大学農学部卒業、住友信託銀行に入社。2001年 株式会社リステアホールディングス 取締役副社長。 バレンシアガジャパン取締役。 株式会社リステアインベストメント(ゴールドマンサックスとJV) 代表取締役。10年 クール・ジャパン官民有識者会議委員。14年カフェ・カンパニー株式会社 取締役副社長。16年7月 株式会社NI-WA創立 代表取締役社長に就任、現職。 16年11月 東邦レオ株式会社 代表取締役社長に就任、現職。


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