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常石グループが描く、環境ビジネスの新潮流〜「瀬戸内海で叶える再生可能エネルギーの未来」セミナーレポート〜

2024年12月3日、広島県福山市のコワーキングスペース「tovio(トビオ)」にて「瀬戸内海で叶える再生可能エネルギーの未来」セミナーが開催されました。本セミナーの主催である「ひろしま環境ビジネス推進協議会」は広島県が事務局を務め、広島から環境・エネルギー分野における新事業創出を目標に掲げ、2012年に設立されました。現在約300の企業・団体が参画し、新規事業開発と海外展開を主軸に活動を展開しています。新規事業開発では、定期的なセミナーの開催や地場企業と全国のスタートアップのマッチング、さらに補助金を通じた事業創出支援を行っています。一方、海外展開では、国内で生まれた事業モデルを海外市場へ展開することで、より大きな成長機会の創出を目指しています。

本記事では、「瀬戸内海で叶える再生可能エネルギーの未来」セミナーでの常石商事株式会社 代表取締役副社長 津幡 靖久氏による講演「常石グループが見据える環境ビジネス」をレポートとしてお届けします。講演では、造船や海運とシナジーのある再生可能エネルギーを軸に、地場の企業とも連携しながら新規事業の拡大を見据える常石グループの戦略や課題、そして未来像まで多岐にわたるテーマが登場しました。環境・エネルギー分野での新たなビジネスチャンスの創出と、地域経済の活性化につながるセミナーレポートをお楽しみください。


常石グループの5つの事業とグループ構成

 津幡 氏:常石商事株式会社 代表取締役副社長の津幡 靖久と申します。本日は「常石グループが見据えるエネルギー事業の可能性」をテーマにお話させていただきます。もしかすると「常石グループではエネルギー分野での新たなビジネス構築がうまくいっている」と思われるかもしれませんが、まだまだ乗り越えるべき課題は多くあります。セミナーにご参加くださった皆さまと、今後何かご一緒させていただけるようなことがあれば協業などを検討していく機会にしたいと思っています。本日はよろしくお願いします。

私は2015年にツネイシホールディングスに入社しました。主にベンチャー投資と新規事業開発を担当しています。
常石グループは、2023年より「未来の価値を、いまつくる。」というスローガンを掲げています。従業員をはじめ、社内外のステークホルダーに対して、常石グループが社会に価値を提供する企業であり続ける意志を伝える言葉です。

現在、常石グループでは5つの事業を展開しています。海運、造船、商社・エネルギー、環境、ライフ&リゾートです。

創業は約120年前で、石炭輸送の1艘の船から始めた海運事業が祖業です。現在は日中間の定期航路や倉庫業なども運営する国際物流サービスを展開しています。海運事業で使用する船を自らつくろうと立ち上げたのが造船事業です。現在はグループの主力事業で、国際輸送に最適な中型ばら積み船を中心に製造しています。海外にも製造拠点を設け、生産量のおよそ8割をフィリピン、中国の海外拠点で担っています。

私が担当する商社・エネルギー事業は戦後に立ち上げ、今年1月に3社を合併して再編しました。環境事業は産業廃棄物処理をメインに行っており、広島県をはじめ国内外に複数の拠点を運営しています。

ライフ&リゾート事業は瀬戸内を中心に観光サービスを展開し、「ベラビスタ スパ&マリーナ 尾道」「LOG」といったホテルや、「みろくの里」という遊園地を運営しています。こちらがグループの歴史において最も新しい事業となりますが、立ちあげたのは約50年前です。その間に新たな事業を創出できていないという経営課題をグループとして持っています。

常石グループの構成は、持ち株会社のツネイシホールディングスの下に、約40社の連結子会社があり、売上構成では海運事業と造船事業で80%以上を占めています。しかし、この分野は為替などの影響で業績の変動幅が大きいため、他の事業セグメントや新しい事業での売上・利益を伸ばすことが課題です。また、主要事業が二酸化炭素排出事業であるため、2050年に向けてカーボンニュートラルの実現を目指すことも課題となっています。

常石商事は、今年1月にグループ会社の3社(エネルギーとモビリティを扱うツネイシCバリューズ株式会社、船用資機材などを扱う常石商事株式会社、ベンチャーキャピタルのツネイシキャピタルパートナーズ株式会社)が合併しました。この合併により、ベンチャーキャピタルの情報収集力やスタートアップとのアライアンスを活かして、オープンイノベーションの実現を目指しています。

ビジネスの2本柱である「鉄」と「油」が生み出す利益とリスク

 現在の常石商事では、ビジネスの柱と収益基盤ともに“鉄”と“油”に依存しています。船の鋼材やパイプの取り扱いが1つ目の収益の柱で、もう1つはガソリンや船舶用重油を中心とした油の販売です。いずれも環境負荷が高いことから社会的に縮小傾向にあり、将来的な事業継続リスクを感じています。なかでもエネルギーとしての“油”は将来、ゼロに近づくのではないかという危機感があり、当社では3社合併によって組織体制を強化し、新たな事業を模索しています。

また、世界的な脱炭素の流れを受けて日本でも欧州のように炭素税などの負担が増えれば、グループ全体で年間230億円のコスト増になる可能性があります。

そのような中で現在、常石商事は、新たな事業として電力事業に注力し始めています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展によって今後10年はデータセンターを中心に電力消費が増えていく見込みで、将来的には水素を活用した発電手法も確立されるかもしれません。多様な発電システムと、電力需要の変動予測技術を組み合わせることで、電力が当社事業の収益の柱になるかを検討している段階です。

現在は当社が運営する太陽光発電設備で発電した電力の自家消費を推進しています。しかし、再生可能エネルギーは発電すればいいというわけではなく、適切に貯めて使うことが重要です。最近では、自家消費型の法人向け設備の販売を開始し、太陽光発電の余剰電力を他の事業拠点に振り分ける仕組みを構築しようとしています。さらに、蓄電所の設置や太陽光以外の再生可能エネルギーの調達も検討していますが、これらの実現にはまだ時間がかかりそうです。

2030年に向けたエネルギー事業の新たな展開

 エネルギー事業の新たな展開として、ほかの取り組みもご紹介します。まず、石油以外のエネルギー源として、メタノールの調達などを常石造船と協力して進めています。さらに、電力の分野では、グループ内でのエネルギー効率化と新たな事業機会の創出を目指しています。現時点では投資に対して経済性が成り立たない部分もあるのですが、国の政策なども後押ししてくると判断しており、2030年にはビジネスとして確立できるのではないかと想定しています。

「瀬戸内海って潮流発電できるかもしれません」

また、常石グループでは、新たな取り組みとして潮流発電に注目しています。この着想は、弊社のメンバーが瀬戸内海の潮流発電の可能性に気づいて「瀬戸内海って潮流発電できるかもしれません」と話をもってきてくれたことから始まりました。瀬戸内海は世界有数の急流海域であり、波が穏やかで台風も少ないため、メンテナンスの面でも有利だと考えられます。特に、しまなみ海道周辺など、島が密集している場所では潮流が激しく、潮流発電に適しているのではないかと注目しています。

2024年に瀬戸内海で潮流調査を実施し、海中に機材を設置して潮流を測定し、既存の潮流発電装置を使用した場合の発電量シミュレーションも行いました。しかし、調査の過程で課題も明らかになりました。調査自体が大変で費用がかかること、漁業関係者や関係省庁との調整に時間がかかること、既存の大型装置が瀬戸内海には大きすぎて採算が取れない可能性があることなどです。これらの課題を踏まえ、オープンイノベーションプログラム『HIROSHIMA GREEN OCEAN BUSINESS BUILD 2024』にホスト企業として参画し、「瀬戸内海の潮流を活かした環境に優しい再生可能エネルギーの創出」をテーマに掲げ、パートナー企業を募りました。審査の結果、パートナー企業を採択し、新たなエネルギーソリューションの社会実装を目指して取り組みを推めています。

将来的には島や港湾の電力を潮流発電で賄うという大きな目標を掲げていますが、現状では実現が難しいため、まずは補助的な電源としての位置づけを想定しています。グループ企業を中心にバーチャルパワープラント(※)のような仕組みを構築し、そこから他の地域の需要にも対応できるビジネスモデルへと発展させることを中長期的には考えています。

※バーチャルパワープラント
(Virtual Power Plant〈仮想発電所〉とは分散型のエネルギーリソース〈太陽光発電所、蓄電池、電気自動車の充電設備など〉を情報通信技術によって仮想的に統合し、1つの発電所のように運用する)

常石グループは「地域、社会と共に歩む」という価値観のもと、瀬戸内海をエネルギーの先進地域にすることを目指しています。地域特性を活かしたクリーンエネルギーの開発と、それに伴う雇用創出を通じて、持続可能な地域発展に貢献したいと考えています。潮流発電はその取り組みの一つとして、今後も検討を続けていく予定です。

質疑応答

Q.潮流発電の環境価値や産地証明などはお考えでしょうか。「瀬戸内海産の電力」は魅力がありそうかなと思います。

A.
それはあまり考えていなかったのですが、すごく面白いですね。地産地消のイメージだったので、外に対して価値があるという目線はたしかにありますね。今後検討してみたいと思います。ありがとうございます。

Q.エネルギー事業で課題になるのは、実際に装置を設置する時に例えば岸壁の使用権といった話があると思います。潮流発電においては装置の置き場所などは制約があるのでしょうか?
 

A.
かなり制約があります。海の中だから海面よりも設置に際する関係各位との調整が進めやすいということはなくて、調整コストは他のエネルギー事業と同じように必要です。

常石グループでは造船事業を通じて、地域の漁業組合をはじめとした方々との連携体制をすでに構築しているので、海中での発電を実証実験する際には随時ご相談させていただいています。そのような対話を通じて、常石グループの考えをご理解いただいており、長い歴史で培ってきた信頼関係のおかげでご相談しやすく、進めやすかったと感じました。



本セミナーを通じて浮き彫りになった課題と挑戦は、地域の未来を形づくるカギとなるはずです。常石グループが描く環境ビジネスの新潮流、その一端に触れる機会として、多くの示唆に富む講演でした。これからも持続可能な社会を実現するための常石グループの挑戦に期待が高まります。


【プロフィール】

津幡 靖久(つばた・やすひさ)氏
常石商事株式会社 代表取締役副社長
 
早稲田大学商学部卒。
フォーバルテレコム取締役やサイボウズ副社長、2011年にヤフーの子会社となったフィードパス社長などを務めた。15年にツネイシホールディングスにコーポレート本部経営管理本部付部長として参画し、16年に経営管理部執行役員を経て、22年に人事戦略部取締役に就任。16年CVC子会社のツネイシキャピタルを設立し、社長を務めながらグループ全体のM&Aによる新規事業開発、ベンチャー投資事業を兼務。23年にグループ内合併で常石商事の代表取締役副社長に就任。


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