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決断を迫るPitchに「言い訳」は要らない。

日本初のアクセラレーターとして知られるデジタルガレージのOpen Network Lab(以下、オンラボ)が、ピッチで人を動かすためのノウハウをまとめた書籍Pitch ピッチ 世界を変える提案のメソッドを2020年7月27日に発刊しました。これを記念して、デジタルガレージの松田信之さんと旧知の仲でもあるフィラメントの渡邊貴史がZoom上で対談を実施。後編となる今回は、お二人が印象に残っているピッチや大企業の社員が行うピッチの問題、オンラボのこれからについてお聞きしました。(取材・文/QUMZINE編集部、永井公成)

ピッチで世界が変わる

ーーお二人はこれまでいろんなスタートアップのピッチをご覧になってきたと思うのですが、国内外問わず印象に残っているピッチがあれば教えてください。

松田:私がストーリーラインの作成などを支援した、あるスタートアップが印象的でした。もともとそのスタートアップの代表者はプレゼンが得意ではありませんでしたが、ボイトレに通ったり、舞台裏で練習を繰り返したりと自身で努力を重ね、ピッチを完璧にやり遂げました

しかし、自分のプレゼンが終了後、質疑応答を受けることなくいきなり帰ろうとしてしまい、会場がざわつきました。そしていざ質疑応答となると、これまでのプレゼンの下手な状態に戻ってしまい、うまく答えられないような状態になってしまいました。それくらい、自分を変貌させてまで必死に取り組んだ7分間のピッチはとても印象的に見えました。

渡邊:このスタートアップは偶然にも松田さんと知り合うきっかけにもなったスタートアップで、当時私もこのチームメンバーと一緒に事前に汗だくになってスライドの準備をしていました。FAQも10個ほど用意して、一通り模擬質問も行ってきたはずなのに、当日はまともに答えられていませんでしたよね。ちょっとした伝説になりましたね、これは(笑)

松田:それだけ7分間のピッチへの一刀入魂力が強かったんですよね。

渡邊:印象的なピッチというと、ICCの「スタートアップ・カタパルト」がわかりやすいかもしれないですね。ピッチとしても綺麗ですし、ストーリーラインも通ってるのでわかりやすいし、印象度は高いと思います。

また、ピッチではありませんが、やる意義を感じさせてくれたのは、1月に開催された日経ソーシャルビジネスコンテストでのシュークルキューブジャポンですね。すごく印象的でした。6分間のピッチに対して、どうしてもスライドが詰め込みがちになってしまうので、当初50枚ほどあったものを25枚ほどに短くしました。実際、所与の時間に対して、枚数は多いので、話し切れるかというプレッシャーとの格闘になり、ギリギリまで舞台袖で練習していましたね。ただ、その分、いいピッチをして、2位になりました。やったことはやっぱり裏切らないんだな、と思いました。

スタートアップにとっては、ビジネスコンテストの賞金よりも大企業とのリレーションが取れることが重要です。最初は彼らの後ろ盾となる会社の看板を求めます。与信になりますんで。その次に、スジのいいVC、キャピタリストとやっていきたいと考えます。どこまでそのキャピタリストが伴走してくれるかによってその会社の成長軌道はガラッと変わっていきますしね。

松田:「ピッチで世界が変わる」というのはあながち間違いではありません。アクセラレーターに採択されたり、賞を獲ったりした後は周りからの見られ方が大きく変わります

渡邊:誰も相手にしなかったスタートアップが大企業やキャピタリストと伴走することで一気に成長するというのは大きいです。誰と繋がれるかが大きく、その部分の入口となるのがピッチです。だからピッチは世界を変えます、それだけで(笑)。松田さんの言う通りですよ。

松田:しかし残念ながらスタートアップに与えられる時間は5分程度なんですよ。いかにそこに一刀入魂して、見向きもしない人に振り向いてもらうかというのが本当に重要です。

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大企業によるピッチ(新規事業開発プレゼン)の問題は「言い訳」

ーー大企業もスタートアップのピッチから学ぶべきことはたくさんあると思います。情報を詰め込みすぎて「時間切れ」や「言いたいことが伝わらない」ケースもありますよね。

松田:大企業のピッチ(新規事業開発プレゼン)が詰め込みすぎて長い理由は、ほとんどが「言い訳」だからです(笑)「これがやりたいんです。だけど、こういうリスクがあって難しいんです。」と。言い訳、つまり、上司などから突っ込まれた時に説明できる情報を用意しようとするから、長くなるんです。こうした不要な説明を全部取り除けば事業の魅力は5分で十分伝えられます。スタートアップと大企業との決定的な違いは、大企業の場合、失敗しても上司から怒られるか部署異動するだけですが、スタートアップの場合は失敗すると会社が潰れるということです。スタートアップは言い訳したって意味ないんですよ。

渡邊:大企業とスタートアップでは、「なぜ自分がそれをしなくてはいけないか」という使命感の有無にも違いがあります。大企業の人でも使命感を持っている人はいますが、持っていない人の方が大多数です。その差は大きいでしょう。

また、大企業では、新規事業のアイデア発案者がチームリーダーになることが多いんですが、このリーダーが人事異動で抜けてしまったあと、チームを引き継ぐというケースもあります。こうした場合、チームとしてのハコはあったとしても、中に魂がこもってないから回りません。熱量を持った人がいなくなった後のチームがもぬけの殻になってしまって、チームが解散してしまうといったこともあります。

松田:大企業の場合、熱量を持っている人は10人に1人くらいでしょう。その1人がチームを率いています。その人が部署異動になったりすると組織の熱量が落ちますからね。

一方で、スタートアップはそういう人が創業からずっといます。また、「自分が経営している薬局で非効率を目の当たりにして、それを変えなくてはならないと思った」といった、その人ならではの原体験があるケースがすごく多いです。

渡邊:似たようなことで困っている人は他にも沢山いて、それに気付けないとスジの良い課題設定はできません。それが上手く定まれば、やり方さえ間違わなければ成り立ちます。

これは『Pitch』に書かれている7項目のフレームワークに大体当て嵌まります。

(わたしのアイデアは)
・誰の
・課題を
・解決する
・なぜ今
・既存代替品
・市場規模
・なぜあなた

それが大企業で働いている人にはあまりありません。しかし、大企業でも「それをやりたいからそこに入った」という人は稀にいるので、そういう人がサービスを作ると良いサービスになります。そうした場合、よくよく聞くとそうした原体験を持っている人が多いです。

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ーースタートアップに共通して言えるのは、自分にとっての原体験を持っている人が多いという点でしょうか?

松田:①原体験をベースに起業したいという人②自分で事業を成功させたいという人③自分の技術や経験を生かしたいという人、の3パターンが多いです。

渡邊:3パターンのうち2つを持っている人が多いですね。全部持っている人はあまりいない感じです。

松田:その欠けたところを補うのがアクセラレータープログラムであり、それを整理するのがフレームワークですね。

大企業もこの王道をきっちりやることが重要

ーー『Pitch』を大企業の人に読んでもらうなら、どんなところを学んでもらいたいですか?

松田:「なぜ自分たちがこれをやるのか」がベースにあると強いです。大企業の場合はそれが後付けになることが多いと思いますが、ぜひ見つけていただきたいです。アンケートなど、数字で整理するケースが多いですが、その前に対象となるお客さんの生の声を丁寧に拾うべきでしょう。

また、この本に書かれていることは王道です。世の中の本には「これさえやれば絶対成功するメソッド」などと謳っているものがありますが、実際はそういったものは存在しません。スタートアップはちゃんと地道なことをこつこつやっているから成功するのであり、近道はありません。しっかりと課題を見つけて事業としての価値に転換し、言い訳せずに5分で語れるところまでクリスタライズすることが重要で、それを伝えていきたいですね。

渡邊:「何を解決するためにこれをやるのか」が重要で、これをまとめきれないと、何をやってもスジが通らないでしょう。その結果、「社業に役立つ」ということも言えるかもしれません。また、社内で応援してもらえなくても社外で応援してくれる人はいるかもしれません。究極的には退職して起業するという選択肢もあります。それくらい肚を据えて考えた方がいいですよ、とこの本は言っているように思います。新規事業開発について、シンプルでわかりやすい本だと思いますよ。実例がいくつか入っておりイメージしやすいのは他の本より良いですね。

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松田:紙になった本で改めて読んでみると、ここに書いてあることを実際にやるのは大変ですよね(笑)でもスタートアップは実際にやっていること。新規事業ってそんなものなんですよ、大変です。

渡邊:王道がゆえに実行するとなると結構辛いですが、やれば成功する確度は絶対上がると思います。

松田:本として世に出す場合、売ることを考えるので、「簡単にできますよ」というトーンになりがちだと思うんです。でもこの本の場合、Amazonレビューを見ていると「とても使えると思うのだけれども、私には手に余るノウハウだった。」と書かれた方がいて、本当に実行する目線で読むと難易度が高いリアルな内容に仕上がったんだなぁ、と思っています。

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オンラボのこれから

ーー最後にこれからのオンラボの展望についてお聞かせください。

松田:オンラボはスタートアップエコシステムと位置付けています。そういう意味でシードアクセラレーターとして起業からプロダクトを作るところまでアクセラレートするプログラムもあれば、プログラムができた後、大企業や自治体を巻き込んで社会実装するものもあります。

まだできていないところはグローバルです。グローバル・インキュベーション・ストリームという名前で取り組んでいます。世界のアクセラレータ同士での結びつきやグローバルな投資家同士のネットワークを使って日本のスタートアップが世界に出ていくお手伝いや、世界のスタートアップが日本に入ってくるときに投資して支援したいと考えています。グローバルレベルでスタートアップエコシステムをオンラボを中心として作っていきたいです。

ーー本日はありがとうございました。

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【プロフィール】

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松田 信之(まつだ・のぶゆき)
株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部長

東京大学大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するベンチャーを共同設立。卒業後、株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品/サービス開発に係るコンサルティングに参画。スタンフォード大学への留学時にシリコンバレーのスタートアップエコシステムについて学び、現在は株式会社デジタルガレージにおいて、スタートアップ投資およびアクセラレータプログラムを軸とするスタートアップ支援に携わる。


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渡邊 貴史(わたなべ・たかし)
株式会社フィラメント 取締役 COO 兼 CFO

日系大手ITコンサルティングファームや日米のコンサルティングファーム、日系PE、プレIPOスタートアップ等を経て、2019年6月よりフィラメントに取締役 COOとして参画。2020年2月からCFO兼任。 2019年5月より中小企業庁のスマートSME研究会委員。2020年7月より国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構 技術経営アドバイザー / NEPカタライザー。 その他、スタートアップの顧問/アドバイザーとして複数社の経営戦略支援(事業計画・資本政策・資金調達・営業・採用・労務・広報の各支援)を行っている。

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