東川の社交場は田んぼの中の“魔法の”コーヒー豆屋 ~ヨシノリコーヒー轡田芳範さん・紗世さんインタビュー〜
---『田んぼの中のコーヒー豆屋: 東川町で起きた八年間の奇跡』、ご出版おめでとうございます!昨年12月24日に発売されたこちらの書籍ではヨシノリコーヒーの成り立ちだけじゃなくて、東川の生活のことについてもかなりのページを割かれてますよね。
轡田紗世(以下紗世): そうですね。東川に移住して8年ですけど、移住相談をされることがとても多かったんですね。なので、東川にどんな人が集い、どんな生活をされているのかちゃんと伝えないといけないなということも本を書くきっかけになっているんです。
---このインタビューを始める前の雑談のときから感じていたんですが、紗世さんって話し上手ですよね。
轡田芳範(以下芳範): 紗世さんがYouTubeをやりだしたんですね。(笑)もともと少しやってたんですけど、出版をきっかけにエピソードを短編にして流し始めたんです。ちょっとこう斜め45度に立ったりして。
紗世: 女優も目指しておりますの。(笑)
伝えるためのメッセンジャーの役割というのは意識してまして、ここヨシノリコーヒーは常に私の舞台だと思ってます。
芳範: なかなかこんなにしゃべれるコーヒー屋もないと思います。(笑)
---コーヒーを買って待っている間に移住や困りごとの相談が多いって聞いたんですけど、やっぱりそうなんですか?
紗世: 多いです。来訪の方だけじゃなくて電話もいただいたりとか。
芳範: 笑ったのは役場がヨシノリコーヒーさんに「聞きに行ったら?」とアドバイスしてたりして。
---移住相談窓口というか役場からのたらい回し。(笑)
紗世: うちはちゃんと対応して、一緒に土地も見に行っていくつか成約もしてます。マージン無しで。(笑)
芳範: たまたま、「あそこ空いてるよ」なんて情報が入って来たり、たまたま犬の散歩中にいい物件に通りかかったり。さすがに最近は不動産会社さんが動いてるのであまりなくなりましたけど。
紗世: 最近はお試し移住とか町の制度がいろいろあるので調べてみることもお勧めしてます。
---なんかRPGで酒場が情報の集積場所みたいのがありましたけど、そんな感じなんですね。
紗世: うちはそうかもしれないですね。社交場というかそれこそ本来のコーヒーハウスのようなスタイルが自然と出来上がっていったようなところはありますね。
芳範: 歴史をたどっていくとイギリスの方では新しい思想が生まれたり政治の話をしたりするところがコーヒー屋だったりしたんですけど、ここの場合は田んぼの真ん中ですね。
紗世: 東京の大手の会社の方々がここで出会って新しいことが起きるとか。町の中心部じゃないから安心して話ができるのかも。魔法のコーヒーなんて言われてますけど、コーヒーを飲むことによって心が解きほぐされて話が進んだり、この人と繋げますよみたいなことになったりということがどんどん起きるんです。ここがコンパクトシティだからこそ出会いが生まれやすいんだと思いますね。
---僕らもここ東川に来て東京で会うのが難しいような方々とお会いしてますし、出会いの質が高いと感じてます。
紗世: ほんと、すごい方たちが「紗世さん」って気軽に声をかけてくれるんです。
---もともとこんなに人が集まるような場所にするというのは想定してたんですか。
紗世: 私は想定してなくて、最近はなぜこの店にしても町にしてもミニマムな環境にみなさん集まるのかというところに関心を持ってお客さんと接するようにしてます。
芳範: もともとの旭川からこちらに来たときはちょうど人口が8千人になる頃でしたが、30年前は7千人を切るまで落ち込んでしまい、本当に何もなかったんです。
今でも何かあるというわけではないんですけど、今の松岡町長や町の人たちが30年かけて地道にやって来られたことが実を結んだんだろうなと思います。
紗世: いままではファーストステージで移住者の方が中心だったんですけど、最近は企業の方々が興味を示している感じがします。
芳範: 企業がダメというわけじゃなくて、志が高くて住民が望む形でバランスが取れて行ったらいいのかなと思いますね。東川の一番のメリットは首都圏と近いというところだと僕も思ってますから、ご家族で来られてだんだんこちらの時間を増やしていくとかがいいんじゃないでしょうか。実際に東京から朝一の飛行機で来て、9時にはパウダースノーで滑ってるなんて人もいるくらいですから。
紗世: 私も今度イベント出演(*注 記事末尾にてご紹介しています)のために東京に一週間滞在しますけど、何かあったらすぐ戻れる安心感はあります。
---凄い方々との出会いも含めて東川に居る間は時間の密度が濃いという印象があります。
芳範: そうですね。90分の飲み放題でもそれが終わってもみんな帰らずにずっと議論してますね。町のこととか。
紗世: いろんな町の会議に呼ばれるんですけどだいたい長いし集まりも多い。みんな東川への愛が強いんですね。(笑)
外から来た人も仲間として一緒にこの町を盛り立てたいという感覚はみんな持ってるんじゃないでしょうか。
芳範: 人が集まるところにはコーヒーが必要ですからね。なぜコーヒーを始めたかというと、いろんなところに刺さっていくからで、まずそこに興味があったんですよ。最近だとアパレルや美容室などにもコーヒーは入って行けるんです。コーヒー単体では成り立ちにくくなってるけど、いろんなところにくっつくことができる素材としておもしろい。
でもそれならいいコーヒーじゃないといけない、どうせやるんだったらスペシャルなコーヒーで上の上を目指していこうとなっていきました。
紗世: お客様にも知っていただいてて、特別な時はヨシノリコーヒーみたいな感じはあるようですね。
---本を読むと紗世さんはお店を始めたころはあまり乗り気じゃなかったということですけど、いまはすごく楽しそうですよね。
芳範: もともと紗世さんは人とのコミュニケーションは嫌いなタイプじゃなかったようなんですけど、人に助けてもらったりとかやりがいを感じでこうなったんだと思いますよ。
紗世: もともとうちのコンセプトは『better coffee , better life』って言ってるんですけど、良い暮らしの中にうちのコーヒーが入って行ってるということで、これはちゃんとしないといけないという自覚が出てきたというか。一生懸命やってる人のそばに居ると、自然と自分に何ができるのかって考えるようになって今に至るのかなと思います。だから本を書いたり人前に立ってお話しするのも苦手だと思ってたけど克服できたのがこの8年ですね。
---あまり宣伝とかされてませんし、看板もそんなに目立たないですよね。
紗世: 普通に宣伝とかしなくていいのとか言うと真っ向から否定されるんですね。「いいよしなくても」って。
芳範: 始めたころはたくさんお客さんに来られても困るし、扱ってるコーヒーには自信があったので、本当に好きな人は調べてくるんじゃないかと。コロナになってからは地元の方が増えましたし。戦略というよりもやっていくうちにそうなりましたね。全国のコーヒーの仲間の方々とコミュニケーションをとって勉強会を開いたりもしているんです。
紗世: コーヒー仲間の方々がオープンでいろいろ教えてくださるし、この人はそういう方を惹きつけるので。
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お二人の東川とコーヒーのあたたかいお話は尽きることがないですが、都内でもトークショーが予定されているのでぜひ訪ねてみてください。訪問チームはこのあとたっぷりとコーヒー豆を買い込んでヨシノリコーヒーをあとにしました。
『田んぼの中のコーヒー豆屋 東川町で起きた八年間の奇跡』轡田紗世著
ヨシノリコーヒー試飲コーナーも登場!2月19日(日)開催のイベント案内
【プロフィール】
「東川のひとびと」シリーズ第1弾はこちら
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