JETRO主催「Beyond JAPAN」プログラムでアメリカへ飛び出そう!〜ジェトロ・ロサンゼルス、経済産業省:津脇慈子さんインタビュー〜
社会実装されたキャッシュレス決済
角勝(以下、角):津脇さん、ご無沙汰しております。早速なんですが、津脇さんは20年近いキャリアの中で注目施策をバンバンやられてますよね。近年だとキャッシュレスの施策もされていて、大変そうだな、すごいなと思って見てました。
津脇慈子(以下、津脇):キャッシュレスについては色々ご批判もいただいたんですけど、結構皆さんキャッシュレスを使われるようになったと感じています。タクシーや小さなお店でも少額決済をキャッシュレスにしようという最初の勢いはついたんじゃないかなと思います。
角:今はどのお店でもどの地域でも使えますし。レジ前に◯◯ペイのロゴがいっぱい並んだプレートがあって、その中の◯◯ペイであれば使えますってなってるじゃないですか。こういう状態を絵に描いて、それがこうやって実際に社会実装されていくんだってビビりましたもん。
津脇:そう言っていただけると嬉しいですね。ちょっとでも成功の要素があったとすると、私たち役所側が全ての絵を描き上げるというよりは、民間の企業の皆さんが普及させればさせた分だけ支援するという、各社の自主的な取り組みをプッシュする形にしたのがよかったかなとは思ってます。「こういうやり方をしたら支援します」というよりは、「利用者が使った分だけ2パーセント、5パーセントを支援します。あとは皆さん(民間企業)で自由に展開してください」とさせていただきました。
角:なるほどなるほど。
津脇:「 広告費も広報した分のちょっとだけの割合で支援するので、あとは自分で広告を展開してください」としたので、広告の展開も全部それぞれの民間企業が独自におこなっていったのがよかったのかなと思ってます。
キャッシュレス決済のデータ分析から始まったGo To キャンペーン
角:その後に取り組まれたのがGo To キャンペーンですよね?
津脇:そうですね。キャッシュレス化が政策検討にもすごい役立ったんですけど、データをもとに業界分析をすると、どの業界の売り上げが上がったか下がったかというのが全部見えるんです。そこで、飲食店や観光業界がどれだけ冷え込んでるかとか、航空業界やイベント業界がものすごい大変だというのが見えてきたんですね。であれば、「どこでもキャッシュレスで使った分だけ5パーセント」よりも、辛い業界にフォーカスを当てた方がいいんじゃないかと考え、そうした業界を束ねたGo To キャンペーンを実施する方向性を関係省庁さんと一緒に検討しました。本当はそれもキャッシュレスでやれたら良かったんですけど、「スピーディーにやる」、「各自治体さんの自主性を重んじる」という点を重視しました。
角:紙で受け取るタイプの旅行クーポンもありましたね。でも、キャッシュレスに慣れていない方もいらっしゃるし、しょうがないよねってなりますよ。 すごくよくわかります。Go Toキャンペーンは、津脇さんが先程の分析を経て発案したということなんですよね?
津脇:関係省庁の皆さんも同じように考えたり思ったりしてらっしゃった中、それを束ねて命名させていただいた感じです。「名前どうしようかな、いろんなものに繋がるからGo Toにしよう!」って。
角:いやあ、津脇さん、エピソードがすごい多いですよね。普通の人からはちょっと聞けないエピソードがたくさんで、話のスケールが大きい!(笑)
現地滞在型長期プログラムBeyondJAPANとは
角:続いて、7月10日から募集を開始する起業家・新規事業/海外展開責任者向け 現地滞在型長期プログラム「Beyond JAPAN」について教えてください。
津脇:まさに今、政府として『スタートアップ育成5か年計画』を作って、スタートアップをどれだけ大きくしていくか、投資を増やしていくかということをやっています。その3本柱の1つのプログラムとしてやろうとしています。
角:具体的にはどんなプログラムなんですか?
津脇:国内の課題を国内で解決していくモデルをどれだけ作っていくかというのも重要ですが、次の日本を担う大企業となるスタートアップを育成していくこともまた重要だと考えています。そのために、スタートアップや今後海外展開を志向する人材をシリコンバレーに連れて行こうというプログラムは今までもあったのですが、業態によってはシリコンバレー以外にも適した場所が北米にあるんです。
そこで、今回はロサンゼルス・サンディエゴ・オースティンの3地域を対象にしてそこに進出したいと思っている、エッジの効いた技術やアイデアを持っている企業やスタートアップの皆さんをカスタマイズして支援する現地滞在型のプログラムを作らせてもらった形になります。
角:なるほど。シリコンバレーに行って修行するといったプログラムはたくさんありますが、それとはやっぱり場所も中身も異なるプログラムということになるんでしょうか?
津脇:そうですね。実際に私は今、ジェトロ・ロサンゼルス事務所に来ていて、日本から海外進出したいというご相談も受けたりしているんですが、相談内容は多岐にわたります。「まずマーケット調査をしたい」、「そもそもサービス内容をどう変えていくか」、「もう拠点をこっち(海外)に作り始めていて、どうやって販路開拓をしていったらいいのか」といった様々なフェーズの相談があります。
あともう1つ、アクセラレーションプログラムに参加した場合に英語力の部分で苦しんでいる方もいれば、座学よりももっと具体的にビジネスを進めていきたいという方もいらっしゃいます。今回のプログラムでは「実際にビジネスをしたい」、「現地の雰囲気を感じてみたい」といったそれぞれの事業フェーズに合った形に対応できるカスタマイズされたプログラムにできればなと思っています。
海外でお客さんを見つけて戻ってくるのもアリ
角:シリコンバレーに渡航するプログラムって、僕も大阪市役所時代に作ってやってたんですよ。1週間、どう過ごすかのカリキュラムがみっちり組み込まれているんですね。一分の隙もなくずっと勉強し続ける感じです。ベンチャーキャピタリストに向けてピッチをして、アドバイスを貰って、あとはスタンフォードに見学に行って……ってやってたら仕事する時間ないじゃん!みたいな感じで、完全にターゲットはプレシードくらいの人たちなんです。
今の津脇さんのお話で言うと、実際に現地で商談をしたり、法人を立ち上げるための法律やルールを学ぶといったアクションがありますよね。やっぱり、ビジネスとしてのアクションがいっぱいできるっていうのが強みなんじゃないでしょうか。
津脇:ありがとうございます。問題意識として、ジェトロで支援をさせてもらってる方から「アクセラレーションプログラム以上の別のニーズ」を聞くことが多々あるので、まさに実際にビジネスをしたいと思われてる方をサポートさせていただくための、導入編よりちょっと先のプログラムにしたいなと思っているんです。
「 プロダクトもサービスも持ってます。だけど、まだ海外には行けていなくて、どうやってコミュニケーションして売っていけばいいかわからない」という方には、コミュニケーション中心のサービスをします。「英語はできるんだけど、 まだモック段階です」という方には、どうやって現地のマーケットを調べた上でどうやって形にしていこうという支援になると思います。「北米で本格的にビジネス展開中・展開予定」という方は、販路開拓や拠点作りの段階だと思うので、もう少し実務的なご相談をさせていただいて、 あとはお好きにビジネスを展開してくださいっていう形にしたいなと考えています。
角:日本のスタートアップって、「デジタル化が進まない」みたいな国内の課題を解決したり、痒いところに手が届くようなサービスを作って日本国内で広めていくところが多いと思うんです。国内の課題解決に特化したスタートアップが多い中で、大きな課題に腰を据えてチャレンジするというのはまだ少ないなという気がするので、このBeyond JAPANをきっかけに、もっと大きな課題、人類の課題に挑むみたいなことが増えたらいいなと思います。
津脇:そういう意味で言うと、日本国内でまだお客さんがつかないとかマーケットがないっていう方も、 実は海外に行くとお客さんがついて、その後また日本に戻ってこられるってモデルってあると思うんです。例えば、「環境にすごくいい素材を作ってます」といった場合に日本だと価格交渉から始まることもあると思うんですが、海外だと「本当に良いものだったら投資をしたい」って思う企業さんがいたりします。そうやって海外でお客さんをつけて、価格帯も販路も出来上がった上でもう1回日本に戻ってくるっていうのもアリかなと思います。
角:なるほど。
津脇:最初から本当に良いアイデアやプロダクトがあるんだったら、それを試してみるのも良いんじゃないかなと。
…でも、英語ができないとマズイですよね?
角:ちなみにこのプログラムは英語できなくても大丈夫なんですか?
津脇:うーん、最低限の英語は必要になりますね。
「ちゃんとプロダクトを持っています。最低限、片言でも自分の思っていることを言えます」であれば、そこから先は、いっしょにVC宛にメールを書いていきましょう、そのメールを書くためのテンプレートは現地で起業している人などが手伝ってくれますという形です。
角:そういうのもやってもらえるんだ。めっちゃいいじゃないですか!
津脇:メールを送っても返事が来ないとかは普通なので、そういうのを肌で感じてもらったり、ピッチをするときに英語が正しいかを相談できるメンターをアクセラレーションプログラムとは別に用意しています。
角:それはかなりハードルが下がりますね。最低限の英語というのは、日本で語学教育を受けてるんだったらある程度行けるよね、みたいな感じですか?
津脇:「海外旅行初めてです」だとちょっと厳しいと思うんですけど、海外旅行に行って、現地でコミュニケーションがとれて、自分のサービスを片言でも説明できるのであれば、その部分の英語をビジネスっぽくしていくなどのお手伝いをしていきます。
発信力の高い多様な消費者が集うロサンゼルス
角:ロサンゼルス・サンディエゴ・オースティンってなんでこの3つの都市にしたんですか?
津脇:3都市それぞれに特徴があります。まずロサンゼルスは、多様な消費者が大量に集まり、発信力が高く高品質な顧客層が厚い場所です。メディア系やエンタメ系のサービスを考えているのであれば、マーケットとしても大きく、ユーザーに響けば一番広がります。
Plug and Playさんと組んだのもその点が大きいんですけど、 あえてロサンゼルスでメディアやエンタメに比較的特化したメンターを集めた拠点を作っていて、地の利としてはすごく強いかなと思ってます。シリコンバレーでギークな人たちと話すのもいいんですけど、消費者がいるところで試してみませんかという感じですね。
角:日本に開発チームがいて、アメリカをマーケットとして見た時にまず試してみたいトライしてみたいと思うのはロサンゼルスですか?
津脇:最も適していると思います。ユーザーからどういう反応が出るかが分かりやすくて、インフルエンサーと組むことやどうやってモノが売れてるかの調査がやりやすいので。
西海岸最大のライフサイエンス・クラスターであるサンディエゴ
津脇:次にサンディエゴですね。ライフサイエンス関係、医療機器関係が多く集まっています。サンディエゴの良いところは産業界や大学間も含めた連携が強い点です。それから、西海岸に位置していて日本との関係も近いですし、日本の大学もUCサンディエゴと結構連携しています。
メンターグループに加えて、西海岸関係の産業界グループの業界団体、それから現地のアクセラレーションプログラムと組んだ形での支援をさせていただきます。UCサンディエゴ(大学)とも、業界団体とも組めますし、サンディエゴ最大級のイベントに出ていただくこともできますので、結構良いネットワークが構築できるのではないでしょうか。あと、西海岸なので天気もいいですよ!(笑)
角:日本で医療系のスタートアップをやろうとしても、医療系にお金を出してくれるVCがあまりいないという話をよく聞いてたんです。そういう意味では、このサンディエゴがぴったりですか?
津脇:そうですね。医療系のスタートアップもVCも結構集まっていますし、そういう関係の方が集まるイベントに参加してもらうために今回のプログラムの滞在日程を少し早めたというのもあります。
角:すごいな〜!そこまで調整してくれてるんですね。そして最後は3都市目、オースティンについて教えてください。
シリコンバレー初期と同様の特徴を有するオースティン
津脇:オースティンといえばSXSW/サウス・バイ・サウスウエストの町。まさに「テック✕音楽」という感じです。シリコンバレーのようにだんだん地価が上がってきています。人口も海岸側からどんどん流入してきていて、特にコロナでそれが加速したんです。住民の平均年齢は35 才くらいなんですよ。
角:たしか2022年の日本の平均年齢が48才くらいなので、すごく若く感じますね。
津脇:そうですね。たくさんの若者が集まってきています。すごく先進的で面白い街です。
角:あと、シリコンバレーから移った会社も多いんですよね。
津脇:おっしゃる通りです。日本はまだ現地でネットワークを十分に構築できてないんです。だからこそ、今からシリコンバレーにアプローチするよりも、オースティンが「日本と仲良くしたい」と思っているこのタイミングでいっしょに次のエコシステムを作って行きませんかという感じです。
角:えー、それは一番良いじゃないですか!
津脇:そうですよね。サンディエゴとロサンゼルスって日本語で生きていけるぐらい日本人がそれなりにいるのでやっていきやすいんですよ。で、オースティンはそこまで日本人がいないので頑張らないといけないんですけど、逆に言えばみんな仲良くなりやすいですし、ポテンシャルは非常に高い場所なんです。
日本国内から飛び出して仕事をしたい方は、Beyond JAPANへ!
角:ロサンゼルス・サンディエゴ・オースティン、それぞれ全く異なった魅力があるんですね。では、最後に、どういう人に来てほしいかをお伺いしてよろしいでしょうか?
津脇:Beyond JAPANという名前にも込めたんですが、「日本国内からちょっとでも飛び出そう」という思いがある方のお手伝いしたいなと思っています。現時点では60名の方に米国に行っていただけるように準備をしています。
角:素晴らしいです。しかも、なんと、渡航費・宿泊費・プログラム費が全て無料!?
津脇:通販番組みたいになってる(笑)。でも、本当にたくさんの人にご参加いただきたいです。2023年7月10日から募集開始いたしますので、ご応募お待ちしています!
角:津脇さん、日本滞在中のお忙しい中、インタビューをお受けいただきありがとうございました!
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