共創ビジネスのムーブメントを広げる ~ユカイ工学が目指す新しいBtoBビジネスのカタチ~
BOCCO(ボッコ)やQoobo(クーボ)など人とのコミュニケーションを意識したロボット製品を多数発売しているユカイ工学ですが、実は病院や高齢者向け施設、駐車場の運営企業などとBtoB向けのビジネスも多数展開しています。現在、人気のコミュニケーションロボット「BOCCO」の5年ぶりとなる新型モデル「BOCCO emo(ボッコ エモ)」のクラウドファンディングを実施している同社の代表、青木俊介氏に「BOCCO emo」で何が新しくなったのかや、今後ユカイ工学がBtoBビジネスをどう進めていきたいのかについて、フィラメントCEOの角勝がインタビューを行いました。(文/QUMZINE編集部、永井公成)
角:青木さんのコロナ禍の心境の変化ってありますか?
青木:ウェルビーイングへの関心の高まりを感じています。コロナ禍になってからペットを買う人が増えたという話もありますが、うちでもQooboの売り上げが去年の2倍以上になりました。
COVID-19の感染を心配して「デイケアの施設には行きたくない」や、「ホームヘルパーや家族に会いたくない」という高齢者の方が増え、孤立しがちになってきているようです。自分の親が離れて住んでいたら、そのような時には「ただ生きてるか」だけでなく「元気に楽しくやってるか」が知りたい情報ですよね。もちろん直接電話してコミュニケーション取るのが一番ですが、なかなか平日に連絡取るのは難しかったりするので、そういう人のために、弊社ではお年寄りへBOCCOを経由した声かけのサービス「#誰かと喋ろう」も提供しています。毎朝高齢者の方に挨拶をしたりクイズを出したりするもので、これらにより元気になる高齢者の方もいらっしゃいます。ウェルビーイングに役立つロボットへの関心が高まっているように思いますね。
角:アメリカではAmazon Echoがテレビ電話っぽく使われているんですが、ちょっと密着度が高いのでもう少しカジュアルでもいい気がします。そういう時にちょっとした連絡のためにBOCCOがちょうどいいと思うんですよね。そういう「ちょっと喋る」というのは孤独を感じなくさせたり認知症予防になるかもしれませんよ。
青木:そうですね。孤独がうつ病のリスクを大幅に増やすという研究結果はすでに知られています。日頃から小まめに声かけをしていると、少なくとも何らかの異変には気づくと思うんですよね。
角:他にも「8050問題」への対策としてBOCCOのように「寄り添う存在」が求められていると思いました。そういう風に感じる方は多いと思いますよ。我が家は今でも「BOCCO」がすごく大活躍しています。
青木:ありがとうございます。角さんにはご家族を交えたエピソードをエヴァンジェリストのようにSNSに投稿いただいて…。
角:青木さんにも認知されるファンとして活動しておりますので(笑)
BOCCOはうちのリビングに置いてありまして、リマインド機能で子供が寝る時間などを教えてもらったりして家族内のコミュニケーションツールとして役立てています。他のスマートスピーカーに比べてUIが可愛いので子供はBOCCOを特別扱いしていますよ。
青木:ありがとうございます。最初に出した時は「myThings(※)」もなかったですし、天気予報を喋らせるとかそういう使い方は我々も思ってなかったんですよね。発売してから角さんみたいなアクティブなユーザと一緒にBOCCOの機能をアップデートしてきたんです。(※myThings:ヤフーが提供していたIoTプラットフォーム。2019年1月31日に提供終了。)
角:すごいですよね。機能がどんどんついていって、家の中でのコミュニケーションツールとして他の商品にはない唯一無二性が出てきましたよね。
青木:そう言っていただけると嬉しいです。
角:そして今回、5年ぶりのリニューアルとなる「BOCCO emo」ですが、これはどういうプロダクトなのでしょうか。
青木:「BOCCO」の使い方をユーザーさんと共に開拓してきて、ロボットの持っている強みは人間のエモーションを動機付けできることにあると気づきました。そして「よりエモいものを作らねば」ということで開発がスタートしたのが「BOCCO emo」になります。「BOCCO emo」は初めて見ても懐かしさを感じるようなデザインになりました。
角:「BOCCO emo」のクラウドファンディングは順調ですか?
青木:はい。「BOCCO emo」のクラウドファンディングもおかげさまで順調でして、最初の1週間で約500万円の支援をいただいております。目標額を100万円に設定していたので、1時間半くらいで100%を到達していました。まだクラウドファンディングだけのお得なモデルがお買いお求めいただけますよ!
角:「BOCCO emo」での新機能を教えていただけますか?
青木:スマートスピーカーに搭載されているような音声認識機能がつきます。例えば天気予報・時間を聞いたり、タイマーの設定をすることなどができますね。さらに、BOCCO emoへの呼びかけの名前を一般的なスマートスピーカーのような「Alexa」や「Google」などの決まったキーワードではなく、自分で設定できます。また、話しかけるとニュアンスが伝わる「エモ語」で返事をしてくれたり、ボンボリを振るなど、動きによる感情表現もできるようになりました。
角:他にどんな機能があるのでしょうか。
青木:IoTの連携やクラウド側の機能をパワーアップしてますし、Wi-Fiモデルに加えて今回はLTEモデルもご用意しました。LTEモデルですと、高齢者の一人暮らしの方やWi-Fiを整備していない家庭にもお使いいただけます。この他にも、サブスクリプションによるプレミアム機能も提供していく予定です。
角:SIM搭載のLTEモデルだと、月額の通信費はいくらかかるのでしょうか。
青木:LTEモデルの通信費は月800円の使い放題で、今ならCAMPFIREで申し込むと通信料が半年分無料でお使いいただけます。LTEモデルではWi-Fiの設定が不要になることから、電源をさすだけで使い始められる体験を目指しています。
角:面白いです。ところで、コンシューマー向けだけではなくBtoB向けにも売られていると聞きました。
青木:はい、「ニューノーマルに共感型ロボットの癒しを与える」というテーマで、「BOCCO emo for Biz」と言うビジネス向けプログラムの提供も行っております。ハードウェアとクラウドアプリのシステムをセットで提供し、企業向けにカスタマイズしたプログラムをご用意しております。
「BOCCO emo for Biz」にはテクノロジーパートナー、サービスパートナーの2種類を用意していまして、テクノロジーパートナーは開発会社向け、サービスパートナーは我々がカスタマイズや要件定義など開発の方もお手伝いをさせていただくというもので、PoCをコンパクトにやるプランと、実際に事業化をするプランの2つを用意しております。
実証実験プランには沖電気さん、住友生命さん、三菱総研さん、ケアコムさんがすでに参加しています。
角:想定の利用シーンはありますか?
青木:すでに動いているものとしては、シニア向けのサポートや子育て支援などに加え、オフラインの接客、精算機のサポート、非接触のインターフェースのための音声認識、会議のサポート、病院・高齢者施設向けにロボットを活用したPoCやサービスの開発を進めています。例えばケアコムさんはナースコールのメーカーで、BOCCOが病室の患者さんや看護師さんをサポートするようなイメージです。
角:入院患者がナースコールの代わりに使うということですか?
青木:それもありますし、「もうすぐ検査なので着替えて病室にいてください」など、BOCCOが患者さんの予定を喋ってあげることで、「看護師が検査をしに行ったけどまだ患者が着替えていない」といったイレギュラー対応を減らすために役立てています。
角:他にはどのような事例がありますか?
青木:例えば、矢崎総業さんは長距離トラックのドライバーのサポートをロボットにさせています。ドライバーの疲れ具合のフィードバックや、ドライバーと家族とのやりとりを運転中にもできるように役立てていますね。
角:なるほど。タッチレスやコンタクトレスのような事例は何がありますか?
青木:BOCCO emoのマイクの部分だけ切り出した「codama(コダマ)」という製品があり、こちらを提供するケースはいくつかあります。
角:ユカイ工学さんはユニークな自社製品を出されているので、BtoCのハードウェアメーカーのイメージを持たれがちですが、それだけではなくBtoBのお仕事もされていますね。
青木:そうなんです。弊社では面白い要素技術が出てきたときに、モジュール化してキットをまず作り、その技術を使いたい人に提供しています。その後自社でもそのキットをベースにBOCCOのセンサーなど製品に活用します。例えば、音声認識のハードウェア部分をモジュール化して「codama」を発売し、それをBOCCOに追加することでBOCCO emoが誕生しました。
角:なるほど。他にはcodamaはどこで使われているんですか?
青木:NECのパペロというロボットにも音声認識用のマイクとして搭載されていたりですとか、あとは駐車場や病院など精算機の中に組み込むような形で何社かに提供しています。コロナ禍においては「codama」などが使われる場所が広がっている段階だと思うので、今まさにビジネス的なつながりを作りたいと思っているところです。
角:今後、地方銀行の支店が減少して、ATMの機能が増えていくと思うのですが、たくさん増えたATMの機能について、BOCCOの音声UIで「なんでも聞いてください」となればありがたいですよね。人と人、人と機能のブリッジの可能性をBOCCOに見出しましたよ!
他にはどういうものがありますか?
青木:ドコモの駐車場シェアリングサービス「Peasy」に、車が止まっているか検知するためのパーキングセンサーを提供しています。通常、コインパーキングを作るためには工事が必要で初期コストがかかるのですが、バッテリーを内蔵して電源の工事が不要なセンサーを作りました。
現状のシェアリングサービスは予約を管理するもので、実際に車が止まったかどうかまではチェックしてない、いわゆる台帳管理のサービスと言えますが、Peasyだと実際に停まったか、空いたかを検知できるので駐車場の回転率が上がります。また、障害者優先の駐車スペースに勝手に停められないように、これまでは駐車場の管理人さんが手動でカラーコーンなどを立てていましたが、これを予約制にして、予約した人がスマホで操作することでゲートがペタッと倒れて駐車できるようになります。
角:これは便利ですね。同じような事業者に対して同じソリューションを提供できそうな気がします。
他にも共創の事例はたくさんあったりするのでしょうか?
青木:たくさんあります。
角:すごいです。ぜひそういう事例を教えていただけるようなイベントも一緒にやっていきましょう。共創事例を世の中に知らしめ、そうしたムーブメントを世の中に広げていきたいですね。
本日はありがとうございました!
青木:ありがとうございます。
ユカイ工学とフィラメント共催によるオンラインイベントを全3回で開催します。第1回は2020年11月25日(水)14:00〜15:00にYouTube Liveで配信します。
イベントでは、「家族の中に溶け込むコミュニケーションロボットとは?」等をテーマにパネルディスカッションを行います。
スピーカーとしてユカイ工学CEO 青木俊介氏、そしてセコム株式会社SMARTプロジェクト担当課長 河村雄一郎氏と同プロジェクト主任 船山由起子氏が登壇。フィラメントからはCEO角勝がモデレーターとして参加します。参加費は無料です。Peatixからのお申し込みをお待ちしております!
【プロフィール】
青木 俊介(あおき・しゅんすけ)
ユカイ工学株式会社 CEO
東京大学在学中に、チームラボを設立、CTOに就任。その後、ピクシブのCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。「ロボティクスで世界をユカイに」というビジョンのもと家庭向けロボット製品を数多く手がける。2014年、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発表。2017年、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo」を発表。2015 年よりグッドデザイン賞審査委員。