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敵をつくらず味方を増やす、さるぼぼコインを生んだ破天荒信組マン古里さんの仕事術!!

フィラメントCEO角勝がCNET Japanで連載している「事業開発の達人たち」シリーズにおいて、飛騨・高山地域の地域通貨として全国的にも有名な「さるぼぼコイン」の仕掛け人として知られる飛騨信用組合 古里圭史さんにお話をうかがいました。古里さんは2018年11月21日にフィラメントが開催した大型カンファレンス「QUM BLOCS」へご登壇いただき、その後紆余曲折のあった半生についてフィラメントのオウンドメディアでもお話いただきました(前編/後編)。今回はCNET Japanの記事には収まりきらなかった現在の古里さん個人のお話にフォーカスを当てて記事にまとめました。(文/QUMZINE編集部、永井公成)


転職後は丁寧なコミュニケーションに徹した

角:古里さんが大学卒業後に日雇いの肉体労働者になり、スクウェア・エニックスを経て飛騨信用組合に入られるという、ちょっと変わったご経歴は以前お聞きした通りだと思うんですけど、古里さんが飛騨信用組合に入られた時は課長補佐のポジションだったのですね。

古里:そうなんです。最初から管理職にさせていただいて。

角:これはなかなかあまりないパターンじゃないんですか?

古里:初めてだったと聞いていますね。おかげさまですごく仕事がやりやすくてありがたかったです。

角:でも昔からいる方からすると、とてもびっくりされたのでは?

古里:そうですね。田舎で、当時は今よりもさらにヒエラルキーの強い組織だったので、当初はなかなかきつい対応をされたこともいっぱいありました。

角:元々いた人からすれば、「ポッと出のが来やがった」みたいな感じですよね。そういう感じだと、ご自身がもともと持っている実力が発揮できないことも想定できると思うのですが、そういうことはなかったんですか?

古里:最初の頃は本当にあたりがきつかったですし、そもそも僕は実年齢より若く見えるものですから、「なんだあの若造は」みたいことはあったと思うんですね。でも、そこは力を発揮できるように自分で周りを固めていきました。具体的には、自分がいかにも正しいことを知っていてそれを押し付けるようなことをしたり、自分をアピールすることだけは絶対しないようにしていました。まずは自分の能力を周囲に分かってもらって、受け入れてもらえるような関係づくりをやらないと駄目だろうと思っていました。地元の人間とはいえ、地元で働いたことはないし、全然知らない地域社会や職場、業種の中に入っていくわけですから、とにかく周りの人を尊重することだけは意識していました。

自分で考えを言う前に、メンバーや上長の意見をちゃんと聞いたうえで、「こういうことをしたらどうかと思うんです」という言い方をするようにしたんです。それは今でもすごく大事にしているところです。あとは、人を呼ぶときに役職で呼ぶとか、「さん」付けで呼ぶとか、誰に対しても差をつけない対応をするとか、そういうことはすごく意識しました。本当に細かいところですし、当たり前のことなんですけどね。

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角:敵をつくらないということですね。

古里:そうですね。会議の中で意見を戦わせたり、本当にやりたい領域で自分の考えを押し通したりする時には、ときにはパワープレイが必要だと思うんですけど、それは信頼関係があるからできると思うんです。横柄な態度をせず、常日頃から「この人は攻撃をしてこない」と思われた上で意見をぶつければ、その人も素直に意見として受け入れてくれると思うんです。最初の頃はすごくコミュニケーションを一生懸命とることに時間を使っていたような気がしますね。

角:そのへんのスタンスは僕も気をつけているところです。敵ができていくのって、自分の振る舞いがつくる部分が大きいと思うんです。自分のあたりが強くなれば相手のあたりも当然強くなる。その一方で、自分が周りに対して丁寧にサポーティブな態度をとり続ければ、周りもサポーティブになってくれる。それは僕も前職の公務員時代に若い頃はわりとあたりの強いタイプの人間だったので良くないなと思ったんですよね。それを古里さんは若い時からやられていてすごいと思いました。

古里:ありがとうございます。でもそれは多分これまで色々な職場で色々な人と出会い、そこで試行錯誤したから気づきがあったんだと思います。昔は、第一印象で苦手だなと思ってしまうとそのあとずっと苦手で、その人と一緒にいるとパフォーマンスが上がらなかったのですが、だんだんと後からでも自分のやりたい仕事のパフォーマンスが発揮できるような関係性にしていくことができるようになったのだと思うんです。僕は若いときに色々な紆余曲折があったので、普通の人たちよりは遅れているキャリアだと思うのですが、いろいろな経験というのは、決して無駄じゃなかったとそういうところで思います。

角:いろいろな人との出会いを自分の体に取り込んで、自分の一部にしていくことで人間は成長していくんだろうと思うんですけど、まさに古里さんってそういう人生を歩んでこられた方なんだなと思います。

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まず自らが面白がり、裁量を与えて任せる

角:現在は、ご自身の公認会計士・税理士事務所をやりつつ、飛騨信用組合の常勤理事をやり、ひだしんイノベーションパートナーズの代表取締役をやり、最近では慶應義塾大学の特任准教授をされています。これだけのことをやるのはとても人間技じゃないというか、「時間をどうやって使ったらこんなにできるんだ」という感じですよね。

古里:去年はコロナに直面したこともあり、組合での総務部の業務がとても大変でした。組合の職員を感染から守ることだけでなく、お客さんにも感染をさせない環境を整えることに注力しました。そして、地域の金融という公的要素の強い業務を担っている組織ですから、非常時にも業務をしっかりと維持することが強く求められます。そのためのコンティンジェンシープランやBCP(事業継続計画)をつくっていました。すごく大変でしたが勉強になりました。めちゃめちゃ面白かったです。

角:BCPは僕も前職の市役所時代につくったことありますけど、あれつくるの大変でしょ?「こういう状況になったらこうする」みたいな場合分けもしなくちゃいけないし。

古里:そうです。細かなワークフローとか「こういう状況の時はここに連絡して」みたいなのを全部つくっていきました。そういうことも面白かったですね。総務とか人事の業務ってすごい奥が深くて。これは本当に楽しみながらやりました。

角:それを面白がれるところがすごいなと思います。やっぱり細かい仕事が多くなりがちじゃないですか。それを役員のポジションでおられながら、そこもきっちり見てつくられて、それをやりながらさらに「さるぼぼコイン」ですよね。
https://www.hidashin.co.jp/coin/

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古里:そうですね。でもプロジェクトチームの若手メンバーがすごく育ってきてくれています。チームは私が異業種から連れてきた中途の職員や営業現場から引き上げた職員がいたり、行政からの出向者がいたりと非常に多様性に富んでいます。基本的に彼らがさるぼぼコインとかクラウドファンディングのような私がずっと力をいれてきたところは、中心になってやってくれています。本当に大きなディレクションだけしていれば、あとはもう各自が自分で考えながら動いてくれるようになってきていますね。そうやってうまく任せてやっているんですよ。本当にみんなすごく優秀で(笑)。子会社も同様です。僕は何かおかしなことあれば「ここはこうだよ」と軌道修正するぐらいで、あとはずっと総務の仕事に注力させてもらっていましたね。

角:任せられるしっかりしたメンバーがいるチームになっているということですよね。

古里:そうですね。本当に大きな方向性とかデザインみたいなものはまだまだ口出ししちゃうんですけど、オペレーションの部分もすごい裁量があると思うので、彼らが考えて頑張ってやっていますね。自分たちのサービスがあるというエンゲージメントは今までの金融機関には持ちづらいと思うんですよ。売っているものとかサービスって、ある意味どの金融機関もやっていることですし、しかも目に見えないじゃないですか。「自分の金融機関がやっている投資ローンが好きで好きでしょうがない」という人はいないと思うんですよね。

角:いないですね(笑)。

古里:そういうことを考えると、僕らは自分たちのサービスのさるぼぼコインというものをちゃんと仕立てたことで、みんなにとってのマインドを変えられたんじゃないかとは思っています。さるぼぼコインはみんな愛していますもん。

なるほど、まず自らが仕事を面白がり、部下にも裁量を与えて自分たちでサービスを作っているからこそ愛を持って取り組み、結果として今までになかったようなすごいものができるということですね。非常に面白いです。

税理士・公認会計士でありながら、飛騨信用組合の常勤理事、ひだしんイノベーションパートナーズの代表取締役、そして慶應義塾大学の特任准教授と幅広くご活躍されている古里さん。そんな古里さんが2017年から仕掛けている飛騨高山の地域通貨「さるぼぼコイン」について、現状と今後の展望について、CNET Japanでの記事をご覧ください。



【プロフィール】

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古里圭史(ふるさと・けいし)
公認会計士・税理士
飛騨信用組合 常勤理事 総務部長
フィンテックプロジェクトチームリーダー
ひだしんイノベーションパートナーズ株式会社 代表取締役社長 
慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任准教授

1979年生まれ。早稲田大学卒業。2005年株式会社スクウェア・エニックス入社。
2007年有限責任監査法人トーマツ トータルサービス1部入所。上場企業・非上場企業の会計監査業務、ベンチャー企業に対するIPO支援業務、内部統制構築支援業務等に従事。2012年10月に地元、飛騨・高山にUターンし、地域密着のコミュニティバンクである飛騨信用組合に入組。融資部企業支援課長、経営企画部長を経て現職に至る。
ForbesJapanローカルイノベーターズオブザイヤー2018にてグランプリを獲得。


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