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デジタル時代の住みよい街づくりとは?『NEC i EXPO KANSAI 2019』パネルディスカッションレポート

ICTの技術を使って、住みよい街づくりをする「スマートシティ」の取り組みが日本各地でも行われるようになってきた昨今。2019年7月12日(金)、グランフロント大阪にて開催された『NEC i EXPO KANSAI 2019』でも、「デジタル時代の住みよい街づくり」と題するパネルディスカッションが行われました。4名のパネリストたちが登壇し、海外のスマートシティの事例や、技術やセキュリティ面、これからの課題についてなど、様々な角度からスマートシティについて考察。今回は、その内容を詳しくお伝えします。モデレーターは、フィラメントCSO村上臣が務めました。(文:野村真帆)

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【パネリスト】
下條 真司氏:大阪大学サイバーメディアセンターセンター長・教授
長井 伸晃氏:神戸市企画調整局つなぐ課 特命係長
嶋田 悠介氏:関西電力(株)経営企画室 イノベーションラボリーダー
榎本 亮氏:NEC 執行役員兼CMO

【モデレーター】
村上 臣:フィラメントCSO(LinkedIn 日本代表)

■効率性と豊かさの関係 

村上:まずは、スマートシティの取り組みによって、人の生活がどのように変化するのか、神戸市の姉妹都市・バルセロナのスマートシティ事例について長井さんにお聞きしたいと思います。
(写真:フィラメントCSO・LinkedIn 日本代表 村上 臣)

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長井:バルセロナは市として、多様性を上げると、街の力が上がっていくのではないかというビジョンで街づくりに取り組んでいます。神戸市はそのバルセロナ市と連携のワークショップも企画しました。

バルセロナでは、バルセロナオリンピック前後で観光客が4.5倍に増えて、街の発展と同時に市民の生活が脅かされた時期がありました。車の増加や騒音などの公害が問題になったんです。それで、都市を生態系(エコシステム)として捉え、データ分析をして、住みよい街にしていくという「スーパーブロック」をスタートさせました。

スーパーブロックでは、街中の実証実験エリアに設置したセンサーのデータに基づいて、徐々に道路の規制を進めました。最終的に、実証実験エリア内では時速10kmの速度制限を行い、エリアのまわりに通常速度で運転できる道路を走らせるようにしました。これによって、人が集まる公共空間を少しずつ増やして多様性を上げて、イノベーションを起こそうとしたんです。

面白いのは、あまりお金をかけず行っているところですね。実証実験当初はまず、元々信号だったものにゴミ袋をかぶせているだけといった具合に、あまり細かいことは気にせず、スピード感を持ってスタートしていました。
(写真:神戸市企画調整局つなぐ課 特命係長 長井 伸晃氏)

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村上:スーパーブロックで公共空間を増やして、街に人が増えたということは、明らかに豊かな街になっていると思います。
このように実証実験をする自治体や企業が、日本でも増えてきていますよね。関西電力の嶋田さんも大阪城などで実証実験をされていましたよね?

嶋田:はい。大阪城西の丸庭園で、時速5kmで走行するモビリティ『iino』の実証実験をしました。
今まで街は、A地点からB地点までいかに効率良く行けるかというのがポイントだったと思います。でも自動走行が入ってきたからこそ、ちょっと寄り道というか、街の気づかなかった面白いところに気づける機会になったり、道路を舞台にしたりするなど、エンタメ化することもできると思います。
(写真:関西電力(株)経営企画室 イノベーションラボリーダー 嶋田 悠介氏)

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村上:ニューヨークでも、車がバンバン通っていたところが、今では歩行者天国になっていて、観光客も増えた。バルセロナもそうですが、街の中にゆとりや場を設けることで、コミュニティができるのかなと思います。
榎本さん、ICTの技術で街が豊かになる例はあるでしょうか?

榎本:NECはICTの会社なので、デジタルの力でどうやってよりよい街に貢献していくかという観点から、我々のスマートシティ用のプラットフォーム「FIWARE」を適用しています。

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これを使うと、とある50万都市で片方が海に面していて、それに近いようなモデルのB都市、C都市があった場合に、最も効率的なゴミの集め方はどれだろう? ということをプロセスベンチマークできるんです。そうすると、行政を越えて最もよいやり方を、FIWAREを導入している都市間でお互いにベストプランを共有できる。こういうことを、日本全体でやっていこうという取り組みです。

また、海外のスマートシティの例で言うと、アルゼンチンのティグレ市があります。顔認証ではないんですが、街の混雑や、ひったくりにつながりやすい2人乗りのバイクを観察するセンサーを設置しました。2人乗りのバイクが向かった方向に、パトカーの見回りルートを変える。そうすることで犯罪率が下がったり、市のゴミが減ったりした。そして最終的に、街の観光収入が300%まで上昇したそうです。

このように、犯罪やゴミを減らすことは手段であって、街に住んでいる人とその街に来るインバウンドの利益を300%に増やせることが、我々のデジタルの力でスマートシティという文脈で貢献できる領域なのかなと思っています。今、いくつかの行政の方々と話をしながら導入に取り組んでいます。
(写真:NEC 執行役員兼CMO 榎本 亮氏)

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村上:デジタル化することで、今まで見えなかったものがデータ化されて見えるようになる。一番には効率が上がるということですね。例えば、ごみ収集だったら、グルグル回っていたものを、溜まったら持っていくようにしたら当然コストは下がる。行政からすると、コストを下げて、他に予算を割り当てられる。税収をよりよく使うということは、豊かさに直結する。

データを活用することで、犯罪率を下げるなど、手段として取り組むことで、全体で街の魅力を上げることができるというのはすごくいいことですね。そして、IoTは、手段として便利になって、人の行動を間接的に変えられる時代にさしかかっているんですね。どう使うかという点は考える必要がありますね。

■増え続けるインバウンドと共生するアイデア 

村上:下條先生にお聞きしたいんですが、色々なデータが、住人の住みやすさに影響するとか、どういう関係があるか明らかになっているんですか?

下條:これまで様々なトライアルが行われていて、効果があることがわかると思います。また、先日ヘルシンキの人が言っていたのですが、今はデータをとって、こう改善したらいいんだ、というやり方なんですけど、次は予測して、今後こうなるから、先に手を打つ方向に変わっていく。そういう意味では、データの蓄積が徐々に効いてくる。
(写真:大阪大学サイバーメディアセンターセンター長・教授 下條 真司氏)

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村上:都市計画をするときには、こうすればこうなるっていう予測がある程度できると、効率的に街づくりできますね。こういう成功事例は、IoTにできる領域なのかな。
スマートシティのように効率的なのは、便利だよねってことなんですが、人の幸せや住みやすさはどうやって測ればいいのか。何が住みやすさに影響するんでしょう?

下條:結局、システム的には効率化したいわけだから、指標が欲しい。最終的には幸福の指標が欲しいわけですが、なかなか難しい。
そこで、「スマイルデータ」。町中にキオスクがあって、笑ったらポイントになりますっていうのを見ていて、笑っている人が、どれくらいいるのかという点で、街の幸福度を測っている例もあります。いろんな指標があると面白いかなと思います。

村上:NECの顔認証では、笑っている人とか悲しんでいる人とかもわかるんですか?

榎本:もちろんわかります。表情やストレス具合もわかります。
最近、デルタ航空さんでNECの顔認証が採用されました。これにより、成田空港では、パスポートと本人を結びつけることで簡単にゲートを通れるようになりました。効率性を上げるために入れたんですが、空港のグランドスタッフの方に「顔認証によって搭乗が便利になったことを喜ぶ“お客さんの笑顔”が見られて嬉しい」と言ってもらっています。これは、おまけの付加価値なのかもしれませんが、とても意味のあることだと思っています。

村上:ユーザー体験が向上したということでしょうね。僕も出張が多いのでわかるんですが、パスポートがあるかないかがまず不安ですし、指紋の読み取りとかしていると緊張するじゃないですか。入国審査で何聞かれるかな、とか(笑)そういうストレスをテクノロジーで解決できるっていいですよね。

■データ利活用におけるプライバシーの問題

村上:今は、1つの会社で20億人のデータを持っているという時代。これをどういう風に使っていくのか。技術的には、今思いつくようなことはだいたいできます。

中国では、国策としてデータをフル活用していくことを決定しています。AIやディープラーニングなど、今かなり進化しています。

とはいえ、日本を含む大多数の国はプライバシーというものを非常に重要視している。EUに関しては、データプライバシーに特にこだわりがあります。市民レベルで意識が高いんですね。ドイツやオーストリアなんかは、市民レベルで個人データの扱いに敏感でシビアです。というのも、ナチスドイツの反省があるんです。データが一箇所に集まって分析される気持ち悪さを感じていて、二度と悲しい歴史を繰り返さないという点で、EUは意識が高く、とてもシビアにデータについて考えています。

みなさんは、データ活用についてどのように考えていますか?

嶋田:iinoの実証実験のときは、損保ジャパンさんが監視するなどして、見守ってくださっているのですが、「観光地での画像データをどうするねん」と自治体とも問題になりました。僕らはお客さんが、このモビリティをどう見ているのか、などそういった点が見たかった。第一は安全ですが、第二に歩行者がどういう動きをしているのか。それによって迂回することになってしまったとか、そういうデータを見られたらベストだと思っていましたが、プライバシーなどを考慮し、データは破棄するという結論になりました。

村上:説明責任ですよね。事業者がデータを使って何かをするのは、便利になることですが、やりすぎると気持ち悪い領域になる。プライバシーの侵害など、最終的にはきちんと説明しないといけない。NECのポリシーとしてはどうですか?

榎本:ヨーロッパの動きもありますし、顔認証で有名ということもあるので、NECではきちんとしたスタンスを出そうと考えています。さらに、『AIと人権に関するポリシー』というのを7つの章立てでアナウンスしています。

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大事なのは、精神としての自由、『スピリチュアルフリーダム』。自分が何かを買おうとしたときに、実は意思決定がAIによってスマホの情報にバイアスをかけられている。AIの上手なレコメンドで買わされている。それはAIと人権の関係においてよろしくない。精神の自由、自分の意思決定をAIに侵されないようなことも含めて、人権を守ることはとても大切なことだと考えています。

村上:グローバルなIT企業はそういうスタンスが発展するようになってきて、透明性を大切にするようになってきましたね。どういう仕組みで動いているのかなど、「結果的になにがもたらされるのか、ちゃんと透明にしようよ!」というのが一般化している。これから機械と人間が、今までと違った形で関わるようになる。多分、効率の面でいうと大抵のことはAIの結果のほうが正しい。それを受け入れるが受け入れないかは人間の選択です。そういうことをオープンな場でディスカッションしていく必要がありますね。

長井:実際、バルセロナでは、行政サービスで発生したデータは市民のものだという観点で、あらゆるデータをすべて公開することを目標に取り組んでいます。

村上:やはり、相手にわかるように説明することが大切ですね。
下條先生、プライバシー問題で、他に論点になることはありますか?

下條:そうですね。データを活用していく中国、反対にかなり厳しいヨーロッパ。日本としてはどうするかが、課題だと思います。ヨーロッパのように個人がものすごく立った考え方というのは、日本では進まないだろうと考えています。黙って情報を取得してもOKだけど、顕在化しちゃうと嫌だという面がある。日本流の進め方というものがきっとあると思うし、逆に我慢できないこともあるかもしれない。今、大学でやっている研究でも、対話をすすめながら、なんとなくみんなのコンセンサスを得たところで進めていくという形で進めています。日本的にはそういうやり方ができるかな、と思います。

村上:今はクラウド前提の時代なので、クラウドで集めて分析が主流だと思います。GoogleやFacebookなんかもそう。一方でAppleは、別のアプローチをとっていて、個人データは集めず、全部エッジで処理をすることを、ずっとスタンスとして守っています。

ヨーロッパを取り巻く厳しさを考えると、遠回りをしているけれど、ある意味で結構正しい考え方をしているなと思っていて。

スマートシティをやる場合、街中に無数のセンサーがつくわけです。どこでどういう分析をかけているかが鍵になる。データを全部上にあげると、全部流されますし、個人データが含まれる。持っていること自体が企業のリスクになり得るということも論点になると思うんですね。

でも、Appleの場合は「持ってないです」、もしくは「持っているけど、暗号化されて匿名化された情報なら持っています」になる。
徐々にエッジの処理レベルが上がっているので、これからはクラウドに上がる段階では、どこの誰の情報かというピンポイントでは分からなくなってきていると思います。僕は日本やヨーロッパは、エッジコンピューティングが盛んになるかなと思います。

榎本:おっしゃる通りで、NECの顔認証も顔写真をネットワークで送っているわけではなくて、ここの間の距離が何ミリですとか、ここの角度はどのくらいですという、デジタルな情報だけが行き交っています。顔写真をネットワークでやりとりしたら、無線ネットワークが持たないですから。キャプチャーされた特徴量から顔写真を作ることはできません。なので、心配されているような、顔写真がクラウド上で行き交うということはないんです。以前は街中で人混みがどういう風になっているかビデオで撮って解析していましたが、エッジの処理技術が向上し、当社の技術もエッジで処理してしまうので、映像の中から人を消して、青い矢印の方向に男性が何人などといった情報だけを持ち出しています。

村上:なるほど。情報をどうやって処理しているかというのは、分かりやすい言葉で説明することで、理解が進むし、どちらもとても大切ですね。

今日のディスカッションで、デジタル時代の街づくりはデジタルの力によって、より豊かになることや、バルセロナの例のようにインバウンドとの共生も可能ということが分かりました。また、情報の利活用や処理する方法などをきちんと説明する責任、そしてそれを理解する責任もあることがわかりました。

これから大阪でも、万博などがありますし、街中の様々な場所に色んなセンサーが付くと思います。そのデジタル情報をどう使うかについて、みんなが納得する議論をして使っていくことで、より豊かな街ができていくと思います。

みなさん、ご静聴ありがとうございました。

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(19/08/22)

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