Forbes JAPAN・谷本有香さんに聞く、コロナ時代に人との距離を近づけるコミュニケーションのいろは ~雑談王~ (1/3)
コロナによって、ビジネスの面でも急速なオンライン化が進む中、オンラインでのファシリテーションやコミュニケーション、マネジメントの仕方に迷う場面も出てきているのではないでしょうか。そんな状況下における「人との関わり方」のコツや、多種多様なTipsをその道のスペシャリストに聞く、連続企画「雑談王」。第三回目のゲストにお越しいただいたのは、数多の著名人の方々と関わってこられたインタビューのプロ、Forbes JAPAN Web編集長・谷本有香さんです。(取材・文/QUMZINE編集部、本田 恵理)
インタビューをうまくいかせるコツ:「緊張感」「ペルソナの使い分け」
宮内:オンラインのコミュニケーションで、雑談が苦手な方がマネージャーになると大変ですよね。雑談力のスキルについて、今日は谷本さんにお伺いできればと思います。
角:谷本さんはとにかくいろんな方と、たくさんお話しされていますよね。すごい方も普通な方も、面白いエピソードを持ってらっしゃると思うんですが、インタビューしていて面白かった方のエピソードはありますか?
谷本:普段から著名な方とお話しさせていただくことが多いので、そうすると、お話が面白かったり、すごかったりするのはもう当たり前になってしまうんですよね。
角:すごさのインフレですね!
谷本:なので、印象に残るのは「ギャップ感」なんですね。
メディアから得る情報などから、先んじていい印象を抱いてはいなかった方が、実はいい方だったり。一番顕著だったのは、ブッシュ元大統領(小ブッシュ)ですね。
角:えええ、すごすぎる!
谷本:ブッシュさんのお気遣いと、コミュニケーション能力の高さは、今まで見た中でもトップクラスでした。会えば全員好きになってしまうような。彼を見て、世界一の大国のトップになるとはどういうことなのか、教えていただきましたね。
角:規模が大きすぎる! すごいお話ですね。
宮内:メディア等の媒介が入ると、どうしてもイメージが違って伝わってしまうことはありますよね。オンラインでインタビューをする上でも、意図の伝わりづらさや、それゆえの難しさを感じることはありますか?
谷本:私の場合は、いろいろと培ってきたTipsがあるので、オンラインでもあまり不便さは感じてないですね。むしろ、オンラインの方が、伝わるためのソリッドな言葉を選ばなければならなかったり、実は信頼関係を構築できるような気がしています。ただ一方で、それができていない方が多いように思いますね。リアルではできていたコミュニケーションができなくなって、引き出せる言葉も引き出せなくなってしまうんですよね。
宮内:谷本さんは、インタビューするとき、緊張されたりしないんですか?
谷本:絶対してます。緊張感がベースにないと、うまくいかないと思っています。緊張と弛緩のいいバランス感がないと、やっぱり成功しないというか。だから、慣れた場所でも、敢えて緊張感を自分で煽って鼓舞することはありますね。
角:どうしたらちょうどいい緊張感にできるのでしょう? 準備がうまく進みきっていなかったり進行のプランが練り切れていない時は、どうやって帳尻を合わせてますか?
谷本:「私」の視点から、「公」の視点にしますね。プロデューサー目線で、俯瞰的に見るようにしています。離見の見じゃないですが、緊張は「私」の感情なので、それを離れるようにしてますね。
宮内:世阿弥の世界だ。
谷本:自分自身が「できないかも」という感情は、主語が「I」なので。それを「We」とか「They」の視点にすると、見えてなかった状況が見えてきて、すごくいい形にコントロールすることができるんです。いいやり方だと思っています。
角:僕の場合、それをするためには、自分から離れるための仕事や情報から隔絶した時間が必要になるんですよね。散歩とかお風呂とか。
谷本:私の場合は、「オン」と「オフ」を使い分けていますね。それぞれのモードを必要に応じてインストールするイメージです。外と内の「谷本有香」を分けて、2つのペルソナを使い分けているような。「公」の時はそのペルソナをインストールするので、大胆で堂々としていて、自信があります。20代の頃、大統領とお話しする際には緊張したけれど、当時は失敗したらその場でクビ、という環境にいました。だから、どうしたら成果が出るか考えて、当時尊敬していたアメリカのアンカーのやり方をインストールするようにしていましたね。その方だったらどうするか、考えて。場数も踏みながら、そうして仕上げた「公」のペルソナが今も継続しているんでしょうね。
宮内:プライベートな時の谷本さんと、公の場での谷本さんにわりとギャップを感じていたんですが、それはペルソナを使い分けていたからなんですね。
谷本:そうですね、核は自分なんだけど、周りだけ固めていくイメージです。中身としての「自分自身」がないと、大衆の方や視聴者の方が欲しい情報や求めてるニーズが見えにくくなるので、確固たる自分を持つことはすごく重要です。けれどその上で、仮面をかぶるイメージですね。
日本のCEOが目指していくべき「プレゼンのやり方」の極意
宮内:コロナ禍で、インスタグラムのライブ配信をされていたじゃないですか。あの時はどちらのモードだったんですか?
谷本:あの時は、「個」を出していましたね。インスタのようなメディアの特性を自分のメディアにも取り入れて拡充していきたい思いがあったので、実験的な意味合いが強かったんです。結果的に、「個」を出さないと視聴者の反応が落ちることが目の当たりになることを痛感したので、「公」モードから「個」モードに着地していった感じですかね。
宮内:あのタイミングは、いろんな方がまず実験として配信をやってみたタイミングだと思うんですけど、あの谷本さんが「個」モードのプライベート感が発揮されていて、面白かったです。ペルソナの使い分けの面で言うと、角さんはペルソナ1個ですもんね。
角:完全に1個しかないですね(笑)。
谷本:角さんは、ありのままで、場を素敵にできる方ですから。角さんの元々の部分が前面に出ることによって、より良い相乗効果が出る方ですよね。
私自身、何回か CEOの方にプレゼンやスピーチを指導したことがあるんですけど、その度に思うのが、よくモデルにされがちなスティーブ・ジョブズのプレゼンは、日本人にとってはやっぱり罪だったということですね。
宮内:ジョブズは、俳優中の俳優ですよね。
谷本:あれを日本でやろうとすると伝わらないんですよ。ご自身のプロファイルや、ペルソナのコアな部分をわきまえてパフォーマンスしないと。そうしないところが、日本のCEOの方のもったいないところですよね。
角:僕は自分がやってきたことしか語れないし。格好良くはなれないし。けど、格好いいのを真似してたら逆に格好悪いんですよね。とは言いつつも、努力を怠るわけにもいかない。悶々としますよね。
結局のところ、「自分が自分の言葉ですんなり語れるようになっているか?」が全てですよね。自分が知らないことを知ったかぶりすると、言葉が浮く感覚って、自分で話していて明らかにわかるじゃないですか。だから僕は、「自分の言葉で語れること」だけ語るようにしてますね。
宮内:往々にして、Webやイノベーション界隈の人って、台本があると弱いんですよね。縛りが強いと失敗する。谷本さんは元キャスターですから、台本があっても大丈夫なタイプですか?
谷本:いい話題ですね! 私の場合は、もし台本があっても、台本通りやらないですね。自分で台本を書くことも多かったですが、もし台本を書いてくださった方がいても、その方へのリスペクトは忘れないようにしつつ、それを超えるように必ずしています。どこまで縛りがあって、それをどれくらい超えていいのか、見極めるようにしていますね。
宮内:俳優さんが全ての台本を覚えて、その上で台本を破って捨てるみたいなのに近いですね(笑)。
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【プロフィール】
谷本 有香(たにもと・ゆか)
Forbes JAPAN Web編集長
証券会社、 Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、米国でMBAを取得。 その後、 日経CNBCキャスター、 同社初の女性コメンテーターとして従事。 これまでに、 トニー・ブレア元英首相、 アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック、 ハワード・シュルツ スターバックス創業者はじめ、 3,000人を超える世界のVIPにインタビューした実績がある。
現在、 MX「モーニングCROSS」にレギュラーコメンテーターとして出演する他、多数の報道番組に出演。 経済系シンポジウムのモデレーター、 政府系スタートアップコンテストやオープンイノベーション大賞の審査員等としても活動。