中小企業の“妥協なき”ものづくりと学生の感性が生んだ新たな価値【商工中金×アナザー・ジャパン商品開発プロジェクト】
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OEM中心の50年以上続くジュエリー企業の新展開へ
――まずは、今回のプロジェクト「商工中金×アナザー・ジャパンの商品開発プロジェクト」の概要を教えてください。
垣沼 陽次郎(以下、垣沼):商工中金のお客様はものづくり企業が多く、普段から「もっとお取引先のものづくり中小企業の魅力を世の中に発信したい!」とかねてより考えていました。しかし、その発信する「場」が私たちにはありません。そこで店舗という発信の場を持つアナザー・ジャパンと一緒にものづくりをしてみようということでスタートしたのが、今回のプロジェクトです。
プロジェクトは、新商品の作り方からスタートし、実際に店舗で販売するところまでを含めた約1年間にわたるものです。まず昨年9月から、アナザー・ジャパンを運営されている株式会社中川政七商店のプログラムのもと、私たち商工中金のお客様である中小企業向けの全3回の商品開発講座を実施しました。ここでものづくり技術の生かし方をお客様に一通り学んでいただいて、実際にアナザー・ジャパンの学生と商品開発にチャレンジして、販売までやっていただく設計としました。
――その講座に石友さんが参加されていたんですね。
髙木泰知(以下、髙木):石友は山梨県甲府で50年以上続くジュエリー会社です。事業の中心はジュエリーのOEMですが、私が所属しているリテール事業部が新規事業として小売に挑戦しており、ECや百貨店でのポップアップなどを展開しています。このプロジェクトは社長から紹介されて、参加を決めました。
――石友さんと上田さんの出会いは、どのタイミングで?
上田声美(以下、上田):私はアナザー・ジャパン2期生の服飾大学に通う学生で、ファッションつながりということで、アナザー・ジャパンの本部から、石友さんの商品開発パートナーとして声をかけていただきました。学んできたブランディングやマーケティングの知識を活かせると思い、ぜひやりたいと参加しました。
髙木:最初の出会いは、商品開発講座の最後のプログラムで、それまでの学びをもとに考えた自社製品をプレゼンする成果発表会の時でしたね。
――最初はどんなお話をされたんですか?
上田:髙木さんにお話を伺ったところ、自社で大切にされている技術が、地金を磨く加工研磨の技術ということで、そこを生かした商品づくりをしましょうとお話しました。
髙木:自社商品の開発やオリジナルブランドも手掛けていますが、今回のようにしっかり商品開発を外部で学んで落とし込むという取り組みは初めてでした。商品開発講座は毎回学びがありましたが、どうやって自分たちの事業に落とし込めばいいのか葛藤も大きく、この日の自分たちの発表は不本意なものでした。
そこでまずは上田さんに私たちがどういうモノづくりができるかを知ってもらうために山梨のうちの会社に来てもらうことにしたんです。
上田:1月に初めて会社にお邪魔して、その時に新商品のコンセプトをプレゼンさせていただきました。
どういう商品にするか一番悩んでいると伺っていたので、私も自分なりにいろいろ考えてアイデアを検討しました。このプレゼンに至るまでにアナザー・ジャパン プロジェクトの本部の方に相談にのっていただきましたが、「若い感性に期待していただいる」という部分にプレッシャーを感じたりして、アイデアを考える過程は本当に大変でした。
学生ならではの視点で、企業の固定観念を超えた商品が誕生
――どのような提案をされたんですか?
上田:大学の授業の資料を全て振り返る中で「アイデアは既存のもの同士の組み合わせ」というキーワードがをきっかけに、当時若い世代で流行っていたお香をヒントにしてお香立てになる指輪のアイデアを考えました。このアイデアであればアナザー・ジャパンで販売ができる手に取りやすい価格と、加工研磨の技術の両方が叶えられるのではないかと思いました。
髙木:アイデアを聞いて、社内はみんな盛り上がりました。講座終了時の自分たちのプレゼンで納得のいく商品に落とし込めなかったモヤモヤを引きずっていたので、「希望の光が見えました!」と思わず言ってしまったくらいです。
上田:コンセプトは一つですが、Z世代のトレンドを反映させたいということで、流行を取り入れたものから山梨らしいモチーフまで、デザイン案は複数ご提案しました。デザイン案を考える時も本部の方から「山梨の地域性がないとお客さまに伝わらない」というアドバイスをいただき、とても勉強になりました。
髙木:普段は、数万円~数百万円のジュエリーを作っているので、自社ではお求めいただきやすい価格のシルバーの商品というアイデアは全く浮かばなかったんです。
上田:髙木さんからは当初、ダイヤのような輝きのある石を付けませんかとご提案をいただきましたが、セトラーと呼ばれるアナザー・ジャパンの学生メンバーにアンケートをとったところ、お香立てにしたときに石の部分が下になって見えなくなってしまっては勿体ないし、価格も高額になってしまうという意見があり外してもらうことになりました。他にもいくつも学生の意見が反映されています。
髙木:石を入れないということ自体が、私たちにとっては思いつかない発想です。いただいた提案を検討して、富士山と猫をモチーフにしたデザインに絞りサンプルを製作してみたところ、猫だとお香を支えることが難しいことがわかり、最終的に富士山の商品化が決まりました。
上田:猫だと地域性に欠けてしまう課題もありました。スケジュールの問題もあり、安田さんとも相談して、富士山一本に絞ってしっかり販売を目指そうということになったんです。
企業の技術力への感動が、ダイレクトにお客様の心を動かす
――そして6月、遂に商品「お香立ての指輪」が完成して店頭に並びました。自分で開発した商品ということで、売り方に何か変化はありましたか?
上田:やはり大きな違いは、工場で石友さんのモノづくりへのこだわりを体感できたことです。検品は宝石一つひとつを人の目で確認し、わずかな刻印の薄さも見逃さないなど、そのこだわりに感動したので、この感動をお客様に伝えたいと思いました。アナザー・ジャパンの学生が制作したリーフレットにも、どんな会社がどんな技術で作っているのかを丁寧に落とし込みました。
――そんなこだわりが込められた新商品、店頭での反響が気になります。
上田:奇跡的に、一番最初に購入してくださった現場に立ち会うことができました。販売2日目にご購入いただけて、ものすごく嬉しかったです!
髙木:「売れました!」って連絡をくれましたね。翌日の全体の朝礼で報告したら、社長も喜んでいました。
上田:普段ジュエリーは全く購入されないという女性の方でしたが、お香立てになることにまず惹かれて、そして石友さんの技術にも感動してくださって。1回はお店を出られたのですが、5分後と経たずに戻ってこられたんです。一緒にご来店されていたご主人が購入されて、目の前で奥様の指に嵌めてあげていました。
垣沼:すごい!それは感動しますね。
髙木:講座を受けながらも僕たちでできるのか不安もあった中で製品化に至り、果たして売れるのかという心配もあった中で売れた。これは初めての経験で非常に嬉しかったです!BtoBのやりがいとはまた違った喜びがあります。本当に感動しました。
――商工中金さんからはどのようなフォローがありましたか?
垣沼:最初はアナザー・ジャパン プロジェクトの本部の方と、コミュニケーションギャップがあるかもしれないから商品開発の進捗を見ながら、我々商工中金が間に入ろうかとも話していたのですが、いろいろ検討した結果、学生と企業様に任せてみることにしました。なので、開発期間中はどんなものが出来上がるか待つだけでした。
ジュエリーが出来上がるとばかり思っていたので、この指輪ができた時は驚きましたね。ジュエリーではないけれど、しっかり石友さんのこだわりが見える商品です。私たちが間に入っていたら、ジュエリー会社であることを推そうとしていた可能性もあるので、見守ったことがかえって良かったと思います。
販売においては、今回の取材のような広報面でフォローをしました。今回、商品開発を行った4社の地元紙に掲載いただくお手伝いをしたり、商工中金グループのメディアに商品を掲載したりと、「ものづくり」を広めることをサポートいたしました。
中小企業の技術力の高さをもっと発信していきたい
ーーこのプロジェクトならではの気づきや収穫はありましたか?
髙木:完成した商品はもちろんですが、何よりも上田さんがイキイキとプロジェクトに取り組んでくれる姿に刺激を受けました。製品が完成するまでの工程にもすごくいい影響があったと思います。
そんな上田さんの情熱をエネルギーに、ここまで徹底して一つのものを作るときに時間をかけて考えそのアイデアを落とし込んで製品化する。この過程が何よりも勉強になったし、今後に生かしていきたいですね。お香立ての指輪の別デザインにも引き続きチャレンジしていきたいです。
上田:私は、地域のものづくりをしている中小企業の素晴らしさは、以前から知っているつもりでしたが、妥協のない最高品質のものづくりとはこういうものなんだと実際に工場で目で見て学ぶことができて、本当によかったです。
さらに、今回のプロジェクトは1月に工場見学をして6月にリリースというタイトなスケジュールでしたが、無事に販売を間に合わせられたことで、やればできるという自信に繋がりました。今回の経験で何かと何かを組み合わせるアイデアの出し方にも手応えを感じています。
髙木:商工中金さんや上田さんとの出会いが、何よりも素晴らしいものでしたし、また違うところでも繋がっていければいいなと思います。
ーー1つのプロジェクトを通して、日本のものづくりへの意識に変化はありましたか?
上田:中小企業の製品はOEMが多い一方で、最近は石友さんのように自社ブランドを作り始めている企業が増えていると感じています。
今回のプロジェクトを通じて中小企業の方が何に悩んでいるのかを知ることができました。石友さんの場合は、自社ブランドを展開するノウハウがないこととバズらせたいということだと感じました。SNSマーケティングの知識で貢献できるのかなと可能性を感じています。
日本各地の中小企業の頑張りを発信するのが私たちのアナザー・ジャパンという場所であり、これからも日本の中小企業が手がけるものづくりの魅力を発信し続けていきたいです。
ーー見守ってきた商工中金さんは、一連のプロジェクトが終わって、手応えはいかがでしょうか?
垣沼:私たちのお客様はBtoCよりもBtoBの企業が多く、普段消費者や小売からは少し遠い企業さんが参加して頑張ってくださったことがとても嬉しかったです。社内からもBtoBの企業もこういったことができるんだね、という声が得られました。
これまでOEMを中心にしていて、新たに自社製品にチャレンジしようという企業は増えてきていると私たちも感じています。今回伴走してみて、「オリジナルの商品開発をやりたいけど、これまでなかなか動けなかった」そんな会社を後押しするプロジェクトになったなと実感しています。まだまだ全国にそういったお客様がたくさんいるので、今回の取り組みを次に生かしていきたいと思います。
ーー実際の売上以上に、皆さんそれぞれに得るものがあったんですね。
垣沼:売り場まであると、強くお客様の背中を押すことができますね。
今までコンサルティングは手がけてきましたが、商品開発の入り口から出口まで全部見られたこと、特に店頭でのお客さんの反応は普段私たちは知らないところなので、そこを知れたことはすごくよかったですし、実際のお取引先のものづくりの大変さを間近で知ることができたことも貴重でした。より一層、ものづくりを応援していきたいなと思いました。
海外企業の躍進やDX化の遅れ、後継者不足など、日本のものづくりを取り巻く環境は決して楽観視できるものではなく、現状維持では衰退を免れません。
しかし【商工中金×アナザー・ジャパン】の商品開発プロジェクトからは、
確かな技術力と新しい感性の掛け合わせにはまだまだ大きな可能性があり、日本のものづくり、そして中小企業には明るい未来があるということが感じられました。
今後、ものづくり企業の高い技術力を生かし、どのような素敵な商品が世の中に誕生していくのか、【商工中金×アナザー・ジャパン】の商品開発プロジェクトへの期待が高まります。
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