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狙うは観光のDX!新しいコンセプト「メタ観光」について、メタ観光推進機構の菊地映輝さんにお聞きしました

情報社会の進展に伴い、「DX」の必要性が叫ばれています。そんな中、観光分野におけるDXを謳う「メタ観光推進機構」という組織が2020年11月に発足されました。まず、「メタ観光」とはどういうものなのでしょうか。そしてコロナ禍で大きな影響を被っている観光業界に、メタ観光というコンセプトは有用なのでしょうか。一般社団法人メタ観光推進機構の理事、菊地映輝さんにお話を伺いました。(文/QUMZINE編集部、永井公成)

「メタ観光」は情報社会の新たな観光のコンセプト

永井:一般社団法人メタ観光推進機構が掲げている「メタ観光」について、簡単に教えてください。

菊地:情報社会である現在は社会の様々な領域に変化が訪れています。その中には「観光のDX」もあります。情報社会の到来、特にスマートフォンの登場で観光のあり方は一変しました。SNSや口コミサイトで事前に情報を取得してから、観光地やレストランを訪れるスタイルが定着し、旅の間も遠く離れた場所にいる家族や友人たちと、SNSやメッセージングアプリを介してオンラインコミュニケーションを行うようになっています。写真を撮ってオンライン上で共有することが旅の目的という人も出てきました。その際にGPSやGISといった位置に関する情報技術に我々は注目します。例えばスマートフォンの地図サービスのおかげで、ガイドブックに掲載されていない場所を見つけて訪れることができるようになりました。それに加えて、アニメ聖地巡礼や写真映えするスポット巡りという新たな観光の形も広がってきました。『Pokémon GO』に代表される位置情報を使ったスマートフォン向けサービスも登場しています。これらにはGPSやGISといった技術が利用されています。

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 情報社会の変化とその広がりの中でGISやGPSによって形作られる新しい観光のあり方を捉えるために「メタ観光」という概念は生まれました。「メタ観光」は「GPSおよびGISにより位置情報を活用し、ある場所が本来有していた歴史的・文化的文脈に加え、複数のメタレベル情報をICTにより付与することで、多層的な観光的価値や魅力を一体的に運用する観光」と定義されます。

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これまでは、単体で提示されていた、アニメ聖地巡礼などのコンテンツツーリズムや、その場所自体が歴史的文化遺産になっているヘリテージツーリズム、美味しい食べ物を食べるフードツーリズムなど様々なツーリズムを位置情報を使って縦串を刺し、一体的に運用するというのがメタ観光です。
 代表的な事例としては、神田にある和菓子屋「竹むら」が挙げられます。揚げまんじゅうが有名なお店で、建物自体も東京都の歴史的建造物に選定されています。この段階でここはフードツーリズムやヘリテージツーリズムの価値があると言えますが、それらに加え、この場所は池波正太郎の本に登場したり、近年では『仮面ライダー響鬼』のロケ地や『ラブライブ!』の作品中に登場したりする場所としても知られています。さらには位置情報ゲーム『Pokémon GO』に登場するスポットになっているなど、1個の場所に複数の違った視点からの価値を見出すことができます。これらは今まで、それぞれの価値が単体で注目されていましたが、位置情報を使いながらこれらを可視化し一体的に体験するのが「メタ観光」です。

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「メタ観光」というコンセプトのはじまり

永井:位置情報で、これまでバラバラに存在してきた観光のテーマを一括りにして可視化するのが「メタ観光」なのですね。このコンセプトが生まれたきっかけを教えてください。

菊地:メタ観光推進機構には6人の理事がいるのですが、もともとメタ観光の概念は代表理事の牧野と理事の玉置が2016年に登壇したイベント内で「メタ観光」という新しい概念で観光を捉える必要があるのではないかという話をしたことがきっかけで生まれました。

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その後、この「メタ観光」という概念について定期的にイベントを開催してきましたが、メタ観光を概念としてただ言っているだけでは社会に定着しないので、この概念を普及するための団体として一般社団法人メタ観光推進機構を2020年11月10日に設立しました。

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「ブラタモリ」がメタ観光の最たるもの

永井:これまでも、ダークツーリズム、聖地巡礼など個々のレイヤーでの観光は行われてきました。複数のレイヤーがまとまる「メタ観光」というコンセプトによって何が新しく生まれるのでしょうか。

菊地:2つあります。1つ目は、「一つ一つの観光資源(レイヤー)が小さくても厚みで勝てる」ということを地域に理解してもらえると思います。日本各地の観光地がこれまでは地域の観光資源を大きな価値があるものとして押し出すのが当たり前でしたが、そうではなく個人に響くような小さい観光価値を複数作ることで同じような効果を生み出すことができると思います。
 もう1つは、インターネットに由来する新たな観光価値をレイヤーとして追加できるということです。『Pokémon GO』やYouTube動画、インスタ映えスポットといったものが今日新たな観光価値を地域に生み出しますが、それらと地域にもともとあった観光価値とがレイヤーという考え方で同じ土俵に立つのです。
 ビジネスサイドからすると、ICT系の企業が新たな観光レイヤー作りに参画することができるのは大きいことです。ICT企業以外にも、たくさんあるレイヤーをキュレーションするといった新たなビジネスも創出できると思います。この他、地域住民が自分たちの手で観光価値を開発することもできるでしょう。理事の玉置はメタ観光の最たるものは『ブラタモリ』(NHKの紀行・教養バラエティ番組)だと言います。地学や歴史をタモリさんがキュレーターになって提示する番組ですが、あれこそ色々な観光的価値をタモリさんというフィルターを介してキュレーションして提示しているのだと思います。同じようなことを地域の住民が自分たちの手で行うこともできると考えます。
 また、メタ観光によって自治体の予算のつけ方が変わってくる可能性があります。観光用の箱モノを作るために予算を使うのではなく、観光資源の見つけ方やレイヤー化することに予算を投じるようになるかもしれません。オープンデータを地域住民が作り、それが新たな観光のレイヤーになっていくことも考えられます。

永井:メタ観光が観光地やICT企業、地域住民にとって利益をもたらすことは理解しました。それでは、メタ観光は観光客にとってはどのような利益をもたらすのでしょうか?

菊地:東浩紀さんが『弱いつながり 検索ワードを探す旅』という本を書いています。人は生きている中でいつのまにか使用する検索ワードが固定されていきますが、旅に行って新たな検索ワードを獲得することで、新たな自分に変われるという話です。その観点で言うと、観光地に行って自分が目的にしていたもの以外の新たな価値をも発見できるメタ観光は、東さんが指摘する新たな検索ワードに出会うチャンスな気もします。そのような難しい話をせずとも、ただ一つのものを目的にして行くのではなく、そこに行くことで、その場所に紐づいた新たな観光的価値を知って楽しめるということは、より豊かな観光経験になると思いますし、純粋に楽しいと思いませんか(笑)。
 また、メタ観光の利点は、後から新たなレイヤーが付与できることです。そうすることで、たとえ同じ場所を複数回観光しても別の楽しみ方が得られるわけです。

ウィズコロナ時代の安心安全な旅にも活用できる

永井: レイヤーが増えることで、同じ場所を複数回観光できるのも、メタ観光のいいところなのですね。話は変わりますが、観光業界はコロナ禍の影響で苦戦を強いられています。ウィズコロナ時代、アフターコロナ時代にメタ観光が観光業界で果たす役割などがありましたら教えてください。

菊地:こちらも2つあげますね。まず、レイヤーの1つに観光地の「混雑状況」や「コロナ対策状況」を設定できるということです。混雑度合いが低く、密でないことで安心安全な観光ができるのも重要なレイヤーの一つになると考えます。今のところ、地域が安全に観光できるかどうかは、レイヤーとして切り出されているわけではなく、個々の事業者は把握できるものの、網羅的に確認できるようになっていません。それを現地の観光スポットの情報とともにレイヤーで重ねて一体的に運用すると言うのがウィズコロナ時代の観光の考え方だと思います。

2点目は、ポスト・マスツーリズムの新たなモデルの提示です。大勢の観光客が同じ時期に同じ場所に行くマスツーリズムへの批判が高まる中でオルタナティブツーリズムといった新たな観光のあり方が提議されてきましたが、本質的な解決には至っていません。近年でも観光客が来すぎることで、地域の人々の生活が阻害されるオーバーツーリズムなどの現象が一部の観光地では起きています。やはり、そうした1箇所にたくさんの人が集まる観光の次のあり方を提示する必要があると思っています。その1つの可能性をメタ観光は提示しています。メタ観光で多様な観光的価値を提示できれば、異なる場所や異なる時期に人々が観光するようになり、自ずと観光地の混雑度合いの軽減に寄与するのではないかと考えています。

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メタ観光推進機構の今後の展望

永井:メタ観光のコンセプトはウィズコロナ時代にも有効というわけですね。法人としての今後の活動内容や展望、具体的に今後どんな人たちを巻き込んでいきたいのかについて教えてください。

菊地:現在、日本ユニシス株式会社、株式会社大丸松坂屋百貨店未来定番研究所、豊島区が賛助会員になってくださっています。この賛助会員の多様さからも分かる通り、様々な企業・組織と一緒にメタ観光を作っていければと思っています。新たにレイヤーを作ったり、複数のレイヤーをキュレーションして可視化することをさまざまな企業と一緒にできたらと思いますし、そこから派生して、レイヤーを可視化するプラットフォームを作る企業とも協働できると思っています。また、それを実際に実証し新たな観光を実現するために、地域や自治体とも一緒にやっていけたらと思っています。必ずしもICTに関連した企業だけでなく、ICTとは無縁であっても地域に新たなレイヤーを生み出すことができる企業や団体とは広くご一緒できるのではないでしょうか。
 また、学術的な議論を通じてメタ観光の概念を深化させていきたいと思っています。近いうちにメタ観光に関する学術イベントも開催したいと思っていますし、メタ観光の概念を使った学術研究の支援も将来的にはやっていきたいです。さらには、地域にある高等専門学校や大学の学生さんたちなど、次世代の観光を担う人材の育成も大事と考えており、メタ観光的視点を持ったキュレーターになれる人材の育成も将来的に進めたいです。

機構の設立は2020年の11月ですが、2021年3月25日に公開オンラインシンポジウムを開催して本格的な活動を開始しました。今後も様々な企業・団体・自治体とパートナー関係を結んでメタ観光を進めていきたいですね。

永井:わかりました。最後に、読者へお伝えしたいことがありましたら教えてください。

菊地:現在の日本はAfter/Withコロナの観光あるいはポストオリンピックの観光を考えなくてはならない時期にあります。観光あるいは、関連する地域活性やまちづくりに関わる皆さんと一緒に走りながらメタ観光の概念をより深め、広めていけたらと思います。メタ観光の概念が気になる方、そしてメタ観光推進機構の活動にご興味のある方はお気軽にご連絡ください。


【参考情報】


【プロフィール】

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菊地映輝
一般社団法人 メタ観光推進機構 理事

1987年、北海道生まれ。博士(政策・メディア)。2017年、慶應義塾大学大学院後期博士課程単位取得退学。2019年より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員・講師。2020年11月から一般社団法人メタ観光推進機構理事を務める。専門は文化社会学、情報社会論等。現在は、情報社会における文化事象について都市とネットを横断する形で研究を行っている。

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