NTT Comはどのように両利きの経営を実践してイノベーションを起こすのか 〜組織、人、戦略に見るこれからのイノベーション〜
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NTT Comはどのように両利きの経営を実践してイノベーションを起こすのか 〜組織、人、戦略に見るこれからのイノベーション〜

2021年10月20日(水)〜22日(金)、「NTT Communications Digital Forum 2021」がオンライン開催されました。特別講演“日本企業が「知の探索」をし続けるためのKSF~NTT Comの「両利きの経営」への挑戦とこれから~”に、稲葉 秀司 氏(NTTコミュニケーションズ株式会社 *以下NTT Com 執行役員 イノベーションセンター長)とともに、フィラメント顧問でもある入山 章栄 氏(早稲田大学大学院経営管理研究科 教授)、株式会社フィラメント代表取締役CEO 角 勝が登壇しました。本記事では講演内容の概要をお送りします。

「BTC+S」四位一体モデルでイノベーション創出

稲葉:昨年のDigital Forumで、私は『「二兎追う」戦略でイノベーションを起こす』というタイトルで講演をさせていただき、「知の探索と深化の二兎追う」という話を致しました。本日は、「組織」、「人(人材)」、「戦略」の3つのレベルから弊社の取り組みをご説明するとともに、みなさまと両利きの経営を議論させていただければと思います。

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はじめに、組織レベルからお話しします。弊社のイノベーションセンターは昨年の4月に設置されました。私どもの会社の企業理念「人と世界の可能性をひらくコミュニケーションを創造する」のもと、大きく2つのミッションを掲げています。
1つ目が「新規事業/新たな常識の創出」で、出島としてこれをやって行きます。そして2つ目は「社内イノベーションの推進、支援」で、Center of Excellence、COEと呼んでおります。

イノベーション創出のための仕組みとしては、Business、Technology、CreativeのBTCモデルが有名ですけれども、私はここにStrategyを加えて「BTC+S」の四位一体モデルで、プロデュース部門、技術戦略部門、テクノロジー部門、デザイン部門の4つが知の深化や探索を掛け合わせてイノベーションを起こしていきたいと考えております。

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【組織】イノベーションにおける適切な評価制度とは

入山:知の「探索」と「深化」という言葉が出てきましたが、まずこれらについて簡単に解説させてください。知の「探索」は「イノベーション起こすには遠くのことを幅広くたくさん見る必要がある」ということです。一方で、知の「深化」というのは、目の前を深堀して磨きこむというもので、両方のバランスが大事だというのが「両利きの経営」におけるイノベーションの考え方です。深化に偏りがちなのが課題となります。

稲葉:ありがとうございます。そこで1つ目の質問です。出島における評価制度の在り方についてまずご意見をいただければと思います。

入山:評価制度はものすごく重要です。遠くの幅広いものを見て、知と知を組み合わせないとイノベーションは起きず、それは既存の組織だとできないから、出島組織をつくるのだと思います。その一方で知の探索は、どう見ても無駄に見えてしまいます。いろいろなことをやって失敗も多いので、「あそこはコストセンターだろ」といった言われ方をされることもあります。でも続けていくことが必要なので、出島組織は失敗をある程度受け止めて、チャレンジできるような評価制度を取り入れるのがものすごく重要だと思います。

代表例としては、ドイツのSAPが取り入れているノーレイティングとか、あと最近はGoogleが始めてメルカリさんが取り入れているOKRですね。今の日本の会社の評価制度は、成功か失敗の紋切り型の評価をするので、失敗が怖くなります。だから少なくとも出島組織はそれを見直していくことはものすごく重要だと思います。そして、トップがそれをある程度ちゃんと許容してあげるということです。ここは多分稲葉さんのお仕事ですね。

稲葉:そうですね。

入山:こういう仕組みをいれていけば、時間はかかっても何か成果が出てくるんじゃないかと思います。

稲葉:まさに1つ目の私の宿題として承って頑張っていきたいと思います。ありがとうございます。

【人(人材)】イノベーティブな「マインド」を社内でどれだけ増やせるか

稲葉:次に、「人(人材)」のレベルで議論したいと思います。
まず弊社の取り組みの目的としては、マインド醸成とスキル習得の支援。そして多様な人材を育てるためのイントラパーソナル・ダイバーシティの強化が挙げられます。

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1つ目は「DigiCom」という、社員発の新規ビジネスアイディアコンテストです。これは「組織発」じゃなくて「社員発」というのがポイントです。Comグループの社員なら誰でも参加でき、ビジネスアイディアは自分の属している組織とまったく関係ないものでも構いません。もう7回目となり、毎回300~650名が参加する名物イベントとなっております。
 
2つ目は「BIチャレンジ」で、こちらは新規事業創出支援プログラムです。これは通年で募集していまして、例えば「社外メンターによるメンタリング」として、フィラメントさんにも大変お世話になっております。

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1つの成功例としまして「Smart vLive for Music」というのがあります。これはコロナ禍でコンサートに参加できない人にライブ配信をするという仕組みです。弊社で開発しました超低遅延の配信技術「SkyWay ILS」を活用して、リモートでも一体感を感じられるライブ視聴体験をご提供できるようになっております。今年の7月にもイベントを実施しましたが、非常に好評でした。すでに実際にサービスとしてご提供しています。

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そこで2つ目の質問です。「イノベーション人材を育成するための肝」について、ご意見をいただいてもよろしいでしょうか?

角:偶然生まれる少数のイノベーターに頼るのではなくて、社内でイノベーティブな活動をどうやったらコモディティにしていけるかが重要なのだと思います。なので、イノベーション「人材」ではなくてイノベーティブな「マインド」を社内でどれだけ増やせるかというところに着目するべきだと考えます。

ではそのためにはどうしたらいいのかということ考えるにあたり、企業人のマインドを「知の深化」と「知の探索」、このそれぞれに、やりたいこと・やりたくないこと、この2×2のマトリックスをつくって始めたいと思います。

まず「知の深化」マインドの「やりたいこと」は「道の追及」だと思います。すでにやっていることをどんどん洗練させていきたい。弓道とか柔道とかの〇〇道ですよね。
一方で、この「深化」マインドの「やりたくないこと」は「誤謬」。間違えたくない、リスクをとりたくない、空気を損ないたくないというところだと思います。一方、「知の探索」マインドの「やりたいこと」の軸、「深化」で「道」の追求だったところが「未知」の追求になると思っています。純粋な好奇心や使命感、そういったものが原動力になるでしょう。

そして、「探索」マインドの「したくないこと」は「無駄」。恐れているのは、決まりきったこととか分かりきったことに労力とか時間をさきたくないということです。なので反対なんですね。

世の中には「探索」だけの人や「深化」だけの人がいる訳ではなく、誰もが両方を持っている。また、ときに、知の深化マインドが優勢になったり探索マインド優勢になったりと揺れ動くのだと思います。

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こういう前提の上で、両利きの経営を考えてみると、組織全体の探索のマインドの総量を増やすということを考えたほうが面白いし、イノベーション人材の育成をめざすよりも再現性があるんじゃないかと思っています。

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そのときに必要なものが、「雨」、「土」、「手間」です。農業と一緒ですね。「雨」が何かというと、トップが本気でそれをやりたいということを組織全体に示して空気をつくっていくこと。そしてその次は「土」として活動が保証される制度・仕組みも同様につくっていくこと。多くの企業は大体ここまでで活動が止まるんですけど、本当に必要なのは「手間」のところです。社員のパッションが無駄に消耗されないためのヒューマンサポートが潤沢にはいること。そしてその結果「果実」が生まれ、このサイクルが回っていくようになります。この生態系をつくるためにもっとも重要なのは手間と時間なのではないかと思っています。そうなると、イノベーティブなマインドをもつ人材が普通に生きられる会社になるのではないでしょうか。

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そして、NTT Comも「Smart vLive for Music」のチームのメンバーがまずすごいんです。DigiComに参加されたのが部長級の方です。部長級の方と、それから新入社員の人がチームを組んでこの成果を生みだすに至っています。部長級の方が新規事業の提案制度に手をあげて自ら突っ込むみたいな会社ってほとんどないんですよね。こういうモチベーションがつくれているのが、まずすごい。

そしてこの2人の熱気にあてられて、エンジニアチームが巻きまれていって、超スピードで開発に成功している。こういう「雨」、「土」、「手間」、「時間」が生態系をつくりあげていくんじゃないかというのが私の持論でございます。

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入山:面白いです。Teslaやソフトバンクなどトップがすごく強いカリスマ経営者がいる会社は、トップがイノベーター人材なので、あとはそこについていけばいいんですけど、企業が成熟してくると当然経営者がカリスマイノベーターとは限りません。そうすると、組織全体で企業文化としてイノベーションの風土みたいなのを醸成していくのは僕もすごく重要だと思っています。

稲葉:なるほど。企業文化は一番時間がかかる部分ですがそこまで頑張るというのが2つ目の宿題ですね。

入山:そうですね。企業文化ってどうやって決まるかというと、みんな上を見るのでトップ次第だと思います。稲葉さんや社長さんがそういう感じでやっていれば、やがていい感じになると思います。

【戦略】会社全体でどのような価値を提供したいのかを揃えることが重要

稲葉:そして3つ目の問いとなります。「よくあるオープンイノベーションの失敗ケース」についてご意見を伺いたいと思います。まず入山先生からご意見をいただければと思います。

入山:日本の伝統的な大手企業さんで、いわゆるプロダクトアウト型の会社さんは、顧客目線が圧倒的に弱いんですよね。これは本当に僕もいろいろな会社を見ていて思っていて。自分たちでやりたいことがあるんだけど、結局やっぱり最後許可してくださるのはお客様ですよね。そういう意味では毎日のようにお客さんのところに行ってお客の声を聞くことが何より大事です。
あとオープンイノベーションで重要なことの一つとしては信頼関係ですね。特に大手企業とベンチャーでは、大手企業が上から目線で行くと信頼関係が築けずうまく行きません。「失敗ケースとは?」という問いも大事なんですけど、一方で当然いろいろなチャレンジがあるから失敗もあるので、それも含めて信頼関係をつくりながらどんどん一緒に新しいことやっていくということかなと理解しております。

稲葉:ありがとうございます。

入山:いかがでしょうか?角さん。

角:素晴らしいです。あえて重ねていうならば、パートナーやユーザーのためを思うという目線を持つことが一番大事なんですけど、やりすぎて自分のオーナーシップがなくなるパターンも失敗パターンとしてはあるような気がします。

コンテスト型で開催されるオープンイノベーションのイベントを開催すると、そこで生まれたビジネスを事業部に持って行こうとした時に事業部が受け取ってくれないという問題が起こることがあります。この「ハンドオーバー問題」も失敗のケースとしてはあるかと思います。

入山:多分一番大事なのは会社全体の意思の統一だと理解しています。結局、会社全体でトータルでどういう価値を提供したいのかというのが揃っているとずれないんですよね。軸がぶれるとパートナーの言うことばかり聞いちゃって、次に持って帰ると事業部が「何それ?」みたいになるという。それすごく大事ですよね。

稲葉:顧客のインサイトまでたどり着く、この行為を突き詰めること。これを3つ目の宿題として頑張っていきたいと思います。ありがとうございます。それでは最後にまとめとして、一言ずつお願いできればと思います。

入山:はい。日本はGAFAに勝てなかったことでデジタル競争の第1回戦に負けたんですよね。でも第2回戦はチャンスがあると思います。これからはIoTの時代だといわれているわけですけど、IoTってモノとモノがネットで繋がる時代なので、実はモノがよくないと勝てないんです。世界でもっともものづくりが強い会社がどこかといえば、それは日本とドイツなんです。僕は「IoHuman」と呼んでいるんですけど、同じようにサービスもこれから、人にネットがついたりしてデジタル化されてサービスを提供する時代なので、実は人間のサービスそのものが結構重要になってきます。そしておもてなし大国といえば日本です。だから実はこれからデジタルをうまくいれながら変革していくことで、日本企業全体にものすごいチャンスがあると理解しています。ぜひNTT Comさんも頑張っていただければと思います。

角:先ほど入山先生のお話の中で「ヒューマン」という言葉が出ましたけど、僕からするとNTT Comさんはまさにヒューマンの会社だと思っています。NTTさんが動いたならほかの人たちも動き出すという絵が見えるんですよね。ぜひ人間が自由に動けて知の探索が自由にできるような空気をどんどんつくっていってほしいと思っています。

稲葉:ありがとうございます。

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話題もつきないところではございますけれども、時間になりましたのでクローズさせていただきます。入山先生、角社長、本日はどうもありがとうございました。


【プロフィール】

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稲葉 秀司(いなば・しゅうじ)
NTTコミュニケーションズ株式会社(NTT Com)
執行役員 イノベーションセンター長

1989年慶應義塾大学商学部卒業後、日本電信電話株式会社に入社。主に法人営業に従事。1997年国際大学大学院にて国際関係学修士号を取得後、国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)にてインターネットの社会科学的研究に従事(現在は上席客員研究員)。
1999年NTT再編成でNTT Comに転籍。経営企画、組織戦略、インキュベーションを担当。またグループ会社にて、データセンター、インターネットエクスチェンジプロバイダー(IXP)、ポータルやEC等のネット関連事業分野でサービス開発やマネジメント経験を積む。
2017年NTT Com経営企画部長、2020年4月イノベーションセンター設立時より現職。

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入山 章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院経営管理研究科
早稲田大学ビジネススクール 教授
フィラメント 顧問


慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関 への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008 年 に米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)を取得。 同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013 年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。 2019 年より現職。Strategic Management Journal」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。著書に「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)、他。 テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、メディアでも活発な情報発信を行っている。

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角 勝(すみ・まさる)
フィラメント 創業者・CEO

新規事業開発支援のスペシャリストとして、上場企業を主要顧客に、前職の大阪市職員時代から培った様々な産業を横断する知見と人脈を武器に、事業アイデア創出から事業化までを一気通貫でサポートしている。オンラインとオフラインを問わず、共創型ワークショップや共創スペースの設計・運用にも実績を有する。経産省の人材育成事業「始動」のメンターも務めるなど、関わった人の「行動の起点をつくる」ことを意識して活動している。CNET JAPANにて「新規事業開発の達人たち」「コロナ禍で生き残るためのテレコラボ戦略」連載中。1972年生まれ。関西学院大学文学部卒。

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