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生駒市はデジタルの力でコロナ禍からの超回復を目指す ~NTT Comの電話×AI活用サービスの実証実験にかける思いとは~

フィラメントが伴走支援しているNTTコミュニケーションズの新規事業創出コンテスト「DigiCom」。このコンテストに出場した「人生100年」チームは電話をかけて簡単な質問に答えるだけで、かけた人の認知機能の健康状態をAIで判定するサービスを提案しました。そして現在、その実証実験を生駒市との協働実証実験事業として実施しています。今回は、生駒市の小紫市長と「人生100年」チームのメンバーであるNTTコミュニケーションズの田上さん、そしてフィラメントの角が対談し、生駒市がこの実証実験についてどう受け止めているのか、そしてコロナ禍における自治体のDXについてお聞きしました。(文/QUMZINE編集部、永井公成)

角:まず今回の協働実証実験の仕組みや概要について、簡単に市長からご説明していただけますか。

小紫:はい。今回はまずNTTコミュニケーションズさんから、生駒市の協創対話窓口のほうに働きかけをいただきました。本当にありがたい申し出をいただいたと思っています。

NTTコミュニケーションズさんの電話×AIの技術を活用して、電話を一本いれて、その音声に従って少し喋るだけで、認知機能の健康状態を判定する、これ以上なくシンプルな仕組みです。

実は私も試してみたんですけど、所要時間が短く、本当に簡単でした。AIを活用した最先端の技術を使いながらも、高齢者の方もシンプルがゆえに気軽に活用できるようなサービスなので、非常にありがたいです。2/5と2/8の2日間のみですでに40件ほど診断してもらっていますので、実際にニーズがあると思われます。

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角:なるほど。ご自身でかけてみられて、使いやすいという感じがあったということですよね。

小紫:そうですね。本当にシンプルで、かつ明快なシステムだと思います。

田上:今回の仕組みは、まず所定の電話番号に利用者の方より電話をかけていただき、最初に個人情報の取り扱いなどに関する同意の確認が入ります。その後「年齢をプッシュボタンで入力してください」とアナウンスされ、年齢を入力すると、次に「本日の日付を西暦で曜日を含めて、声でお答えください」と、日付が質問されます。そのあとAIでチェックして、大体10秒前後で認知機能の健康状態をお知らせします。

角:認知機能に低下の傾向がなければそのままで大丈夫だと思うんですけど、低下の傾向があるとなった場合はどうなるんでしょうか。

田上:今回の実証で認知機能が低下していると判定された方には、生駒市様の地域包括ケア推進課の窓口相談を促すメッセージを流しております。
将来的には、個人情報の利用許諾が取れている場合に限り、認知機能に低下傾向が見られる方や、実証でもお聞きしている「生活をしている中で、最近困っていることを教えてください。」という質問にお悩みを答えられた方に対し、生駒市様よりご連絡いただきサポートに繋げることも可能な仕組みを検討しております(利用者が仕組みの利用時に入力した電話番号を活用)。

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角:なるほど。生駒市さんの場合だと、多分全国平均に比べても高齢化率がちょっと高めだったような気がするんですけれども、認知症についての関心も大きいのでしょうね。

小紫:そうですね。僕がちょうど10年前に生駒市に来た時には、生駒市の高齢化率は全国平均より低かったんですが、今は全国平均を上回る高齢化率になっています。つまり、住宅都市は高齢化のスピードがとても速いんです。高度経済成長時代やバブルの頃に働き盛りの世代が生駒市にたくさんに転入されて、そういう方々が後期高齢者になっていくからです。全国的にもちろん高齢化率は上がっていますが、生駒市は全国トップ5%ぐらいの早さで高齢化が進んでいます。これが大きな課題です。

角:だとすると今回の取り組みの意義というのは、やっぱり生駒市ならではのものもあるのでしょうか。

小紫:そうですね。今、元気な高齢者の方も将来的に認知症になることを心配しておられますし、認知症のセミナーをすると大体どの会場も満席に近いぐらい参加されます。それだけ認知症に対する不安もあるでしょうし、関心が高いというのがあります。

生駒市は認知症の取り組みを先進的に色々と進めています。認知症だと分かっても早期に発見、早期に対応すれば進行を食い止めることもできますし、さらにいえば認知症になったとしてもその人らしく活躍できるような社会を、地域包括ケアの仕組みの中で実現していきたいです。

そういう意味では、今回の実証実験で市民の方があらためて認知症について考えることで、早期発見、早期対応にいたれば非常にありがたいです。

角:なるほど。生駒市さんは高齢になった時にどういうケアをしていくのかは、おそらく全国の自治体の中でも相当先進的に考えられているのかなというふうにお見受けしました。そして、今コロナ禍になって、そういうケアがやりにくくなったところってあったりするんでしょうか?

小紫:あります。生駒市が今、先進的な自治体と言っていただいているのは、介護予防の取組だと思います。認知症にならないとか、身体の機能を低下させないようなことをしっかりとやっているのが生駒市の一番の売りですね。

具体的には、体を動かしてその後おしゃべりができる、市民ボランティアによる体操教室やサロンの整備に力を入れています。市内には80か所以上あり、生駒市は自治会が今127あるので、ほぼ自治会に1個ずつぐらいはそんな場所があることになります。これは、高齢者の方でも歩いていける場所に、体操ができたり、人と話せる場所があるということです。

しかし、そうした生駒市の市民力を活かした介護予防の取り組みをやっているがゆえに、今回の新型コロナウイルスによるダメージもほかの自治体より大きく受けているとも言えます。そうしたコミュニティがなくなったことで、1,2か月は何とかなっても、これだけ長期化すると、一人暮らしの高齢者の方をはじめとして、心身ともに大きな影響がありまして、それが最近顕在化し始めているというのは聞いています。

角:生駒市さんで取り組まれていることってすごく大きな意義があると思うんですけど、その意義を一言でいうと、「人と人が繋がれる場所、人と人が繋がれる機会」が非常に密接にいろいろな場所でたくさん提供されていて、それがとても身近だったということに尽きるかなと思いました。コロナによって人と人とが繋がれる場所が閉じてしまうというか、成立しなくなってしまったことのダメージも非常に想像しやすいお話でした。

今回の実証実験では、人と人とが繋がれる場所がコロナのリスクによって閉じざるをえなくなった時に、本当に必要な人に対して繋がれる機会を提供するひとつの糸口のようなものなのかなと思うんですけれども、いかがですか。

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小紫:そうですね。人と人の関係づくりを丁寧に進めていた自治体ほど、コロナで集まることができなくなったことのダメージが大きいというのはおっしゃる通りだと思います。我々もそれを痛感しているんですが、同時に「だからこそこれからどうしていかなきゃいけないのか」をきちんと考えていかなければならないと思うんです。「ピンチをチャンスに」などと、最近よく言われますけど、僕は筋トレでよく使われる「超回復」という言葉を使うんです(笑)。筋トレした直後ってむしろ筋細胞が破壊されてとても弱っているわけです。だけど、ちゃんとご飯を食べて、睡眠をとってプロテイン飲んで、そうすると2日後ぐらいに筋肉がちゃんと戻る。ただ元の水準に戻るんじゃなくて元の筋肉よりも大きくなって、強くなって回復するから「超」回復です。

僕はコロナの時代はまちづくりとか自治会経営とか、常にこの「超回復」を意識しておかなきゃいけないと思っています。

例えば、これまでは高齢者の方にICTとかAIのお話をするのは半分タブーみたいなところがあったんですけど、コロナ禍でその潮目がだいぶん変わってきている感じがします。そこで市としても、スマホ教室など、高齢者の方のデジタルリテラシーを高めていくような取り組みを進めていくことで、ICTが積極的に受け入れられるようになるのではないかと思っています。

今回の実証実験は、高齢者の方にもAI技術が受け入れられるような素地がちょっとずつできてきた良いタイミングでの実施だったと思います。出かけづらい状況だったからこそ、電話での判定をうけてみたいと思う人がいたのでしょうし、AIなんて自分には関係ないと思っていた方々も実証実験を通して、それが自分の暮らしにも役立つものなんだと身近に感じることができたはずです。コロナ禍がきっかけで高齢者にもデジタルリテラシーが高まり、社会全体の超回復になると思っています。

角:参加のハードルを下げるってすごく大事だなと思います。今回の取り組みでも、AI技術を体験するのに実は「固定電話」でできるということ。こことかは、すごく参加のハードルを下げるのに有用だったんじゃないかなと思うんですけどね。

小紫:そうですね。本当にそう思います。僕も結局電話したのが市役所の固定電話からなんです。固定電話から電話するんだけど、最先端のAIの技術が使われているという。そこの繋ぎ込みなんかはとてもいいと思います。

高齢者に限らないのですが、体験をしたことがないものに対して、人は不安を感じますし、怖さも感じます。最初のハードルをできるだけ低くして、とにかく1回経験してもらうというのがとても大切なことだと思うんですよね。

そういう経験をした人は、そこをきっかけに固定電話じゃなくてスマホとか新しいものもつかってみようと思うようになるかもしれません。高齢者でもどんどんそんな経験をしてもらうようになればとてもありがたいなと思います。

角:ここで田上さんにもお聞きしたいです。もともとこちらの仕組みはアプリで動くものだったと思うのですが、それを固定電話から動くようにするのは結構大変でしたか?

田上:技術的には、0から何かを開発をするというわけではなくて、もともとあった電話サービスと、アプリの仕組みに使っていたAIとを繋げるというところでしたので、そこまで技術面でのハードルはなかったと感じております。

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角:なるほど。もともとあったものを高齢者の方にも使いやすくインターフェースを変えられたんですね。

田上:そうですね。私も実際に高齢者の方がアプリと電話の両方を使う現場を見てきたんですが、「スマートフォン×アプリ」の仕組みを使っていただくのは、なかなかハードルが高いなと感じました。そこで今回の実証実験では、ご自宅にある固定電話からでも簡単に使っていただけるようにして、高齢者の方でも使いやすいUI(ユーザーインターフェース)を、意識して取り組んできたところです。

小紫:固定電話からAIを体験できるのは画期的なことだなと思うのと同時に、実はスマホでもやってみたいと思った高齢者もいらっしゃるんだろうなと思いました。

角:本当にそうだと思います。高齢者といってもいろいろな方がおられるじゃないですか。高齢者と一括りにすること自体が、今となってはちょっと違うのかなと思うんですよね。今回の認知症の仕組みの中で、認知機能の低下が疑われるような方であれば、丁寧に寄り添って、固定電話からでもチェックできますとしたほうがいいとは思うんですけど、そうではなくて全然まだまだお元気で、新しいことをやるためのハードルが高くなっているだけという方でしたら、スマホに挑戦してみたら意外と簡単だったと思えるかもしれないです。

小紫:そうです。何かに挑戦したり、人と話すことで刺激を受けていたりとか、ボランティアで子どもの見守りしたり、まちのために貢献されていたりするといった方の認知機能はかなり高齢になるまでしっかりしておられる。そういう科学的なデータも出ています。

ですから、新しいことに挑戦していただいたり、ふれていただいたりというようなことを、積極的に進めていきたいと思います。

角:素晴らしいと思います。衰えないようにするというのは、日々の生活の中で新しいことに対してチャレンジが促されていく環境がすごく大事なんだろうなと思います。

小紫:そうですね。

角:そんな生駒市さんが、今回に限らずこれからNTTコミュニケーションズさんに期待されていることがあればお伺いできればと思うんですけど、いかがでしょうか?

小紫:NTTコミュニケーションズさんとはこれまでもご一緒させていただきました。生駒市はコミュニティが強く、その中にはデジタルに対するリテラシーの高い人もいるという特殊性を活かして、コロナ禍を逆にチャンスとして、生駒市とNTTコミュニケーションズさんでないとできないような面白い協働実証実験が今後もできれば我々としてもありがたいです。また、それはほかの都市のモデルにもなっていくと思っています。

角:ありがとうございます。
NTTコミュニケーションズさんは企業理念で「人と世界の可能性をひらくコミュニケーションを創造する」ということを謳われています。もともとはフィジカルな人と人のつながりの場を整備していたのに加えてデジタルなものも増やしていくことで、市長がおっしゃられる超回復が実現される。そんな感じなのかなというふうに思いました。

小紫:ありがとうごいます。「リアル+デジタル」のハイブリッドでどう地域活動を活性化していくかというところだと思います。そのために、自治会単位でデジタルデバイドを解消する教室なんかもやっていこうかなと思っているんです。その進め方を僕ら素人なりに考えているんですけど、いろいろご指導いただいたり、その中でいろいろな技術をご提案いただいたりできればすごくありがたいなと思います。

角:田上さんにも、NTTコミュニケーションズ、あるいは「人生100年」チームとして生駒市さんとの協働で実現したいことがあればお伺いできればと思います。

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田上:ありがとうございます。まずは今回約1か月間<令和3年2月5日(金曜日)~3月8日(月曜日)の平日>の「ケアリンピック生駒」での実証実験を通じて、より良い仕組みづくりに向けたサービス検証をしたいと思っています。住民にとって使いやすい仕組みになっているか、仕組みを導入いただく自治体様にとって魅力的な仕組みになっているか、認知機能チェックをした結果をどう活かしていくかなど、生駒市の担当課様とも議論を重ね整理したいと思います。生駒市様のように実証のフィールドをご提供いただけるのは、事業者としては大変ありがたいことだと思っております。

また、コロナ禍で独居・高齢者の方々が健康に不安を持つだけでなく、実際に健康状態の低下が起こってるという話も聞きます。今回生駒市様には実証という形で認知機能をチェックするサービスをご利用いただきましたが、最終的には生駒市様含め全国様々な自治体様にご利用して欲しいと思っております。そして、住民の方々の認知機能の変化を早期に把握し、予防・改善活動に繋がるといいなと思ってます。

角:ありがとうございます。早期に高齢化の部分がすごいスピードで進行しているという生駒市さんの課題をベースとして、それを克服してさらに強みに変えていくような超回復の取り組みに繋がるようなことが、またこれからもNTTコミュニケーションズさんと生駒市さんのコンビネーションによって実現していければいいなというふうに思います。
今日はどうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。


【プロフィール】

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小紫雅史(Masashi Komurasaki)
生駒市長

1974年生まれ、兵庫県出身。1997年一橋大学法学部卒業。2003年シラキュース大学院行政経営学部修了。1997年環境庁(現環境省)入庁。ハイブリッド自動車の税制優遇、廃棄物処理法・容器包装リサイクル法の改正や、事業者との環境自主協定制度(エコ・ファースト)の創設などに尽力。2011年退職(大臣官房秘書課課長補佐)。2011年8月、全国公募により生駒市副市長に就任。2015年4月、生駒市長に就任(現在2期目)。前立命館大学客員講師。NPO法人プロジェクトK(新しい霞ヶ関を創る若手の会)創設メンバーで元副代表理事。著書に『さっと帰って仕事もできる!残業ゼロの公務員はここが違う!(学陽書房)』など。最新作は『公務員面接を勝ち抜く力(実務教育出版)』『公務員の未来予想図(学陽書房)』。

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田上徹(Toru Tanoue)
NTTコミュニケーションズ株式会社
ビジネスソリューション本部 第二ビジネスソリューション部 ビジネスデザイン部門 所属

公共業界を担当する営業組織にて、ビジネスデベロップメントを担当。
2017年8月に、現組織の前身となる第三営業本部に着任後、医療分野を中心とした国の実証事業に従事。
社内の新規事業創出コンテストDigiCom(デジコン)には、2018年度より参加。
3回目の参加となる今回は「人生100年チーム」にて、主に公共業界向けのビジネスを検討。
奈良県生駒市様との協働実証事業では、過去の実証事業で培った経験を活かしつつ、事業責任者を担当中。

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角勝 (Masaru Sumi)
株式会社フィラメント CEO

2015年より新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業において事業開発の適任者の発掘、事業アイデア創発から事業化までを一気通貫でサポートしている。前職(公務員)時代から培った、さまざまな産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、必要な情報の注入やキーマンの紹介などを適切なタイミングで実行し、事業案のバリューと担当者のモチベーションを高め、事業成功率を向上させる独自の手法を確立。オープンイノベーションを目的化せず、事業開発を進めるための手法として実践、追求している。

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