リモートワーク時代における地方の副業・兼業人材獲得 〜山形県の金融機関、人材紹介機関、スタートアップ支援の観点から〜
2018年に政府のモデル就業規則が改正され、副業が解禁されました。大企業を中心として従業員の副業が認められるようになり、企業の副業人材を積極的に受け入れるようになってきました。また、2020年にはコロナ禍により出勤を控えることが求められ、リモートワークが普及しました。こうした流れは、地方の企業による都市圏の副業人材の獲得を後押ししています。会社がスキル人材を囲い込むような時代ではなくなり、個人のエンパワメントがより良い未来を作るようになると期待されます。
2021年4月22日、山形県はオンラインイベント「ジョージ・ヤマガタ氏 Presents 第4回オンラインセミナー 山形*福業神財革命!!」を開催しました。「外部人材活用と金融機関・支援機関の役割」と題されたパネルディスカッションでは、金融庁 地域課題解決支援チームリーダー菅野 大志氏がモデレーターを務め、スピーカーとして、あぶくま信用金庫 総合企画部経営強化計画推進室室長岡田 寛氏、山形県プロフェッショナル人材戦略拠点 マネージャー 吉田 勉氏、キャリアクリエイト田中 麻衣子氏、そして株式会社フィラメント取締役COO兼CFO 渡邊貴史が登壇しました。本記事ではディスカッションの模様をご紹介します。(文/QUMZINE編集部 永井公成)
パネルディスカッションの冒頭には、当日の都合がつかず参加できなかった山形市売上増進支援センター(Y-biz) センター長の富松 希氏から動画メッセージが放映されました。富松氏は2018年12月に開所された公的な売上相談所である山形市売上増進支援センターの概要説明や開所からこれまでの経緯、コロナ禍の影響等について紹介し、副業人材の活用が地域や国に役立つと述べました。
副業・兼業人材マッチングにおける地方金融機関の強み
菅野:イベントをご覧いただいている皆様が副業人材を実際に活用しようとした時に、どういう流れでやっているのかということも深く掘り下げられたらいいなと思っております。金融庁は、これまで地域にお金を回すのが役割とされてきましたが、規制が緩和され、金融仲介機能を発揮し、コンサルティング機能を充実させようとしています。また、金融業界が人材紹介をやっていいことになりました。地域に不足するヒト・モノ・カネを仲介して地域の核になるような金融機関になれるように国は規制を緩和しています。その中で、あぶくま信用金庫の岡田さんから金融機関にどのような価値があるかお聞きしたいです。
岡田:金融機関は一番事業者に近く、信用されていることが強みだと思っています。金融機関だけで全ての課題解決ができないのが実情ですので、より良い人とつないでお客様の課題解決を支援することが金融機関のできることかなと思います。
菅野:「新現役交流会」という東京の起業OBの方を活用する取り組みをされていますよね。こちらについて教えてください。
岡田:一昨年の11月に宮城岩手福島の3県で「新現役交流会2.0」と題して開催した時には当金庫のお客様1社が販路の拡大を課題として参加され、6人の大企業OBのシニア人材の方とマッチングしました。6人中4人の方から現在のウェブページについて改善すべきだという話が異口同音であり、その見直しからやっていくという話になりました。その中から1人、鋳物製造メーカーの小売のバイヤーの方とマッチングしてバイヤー目線でどういうウェブサイトならみてもらえるのかのディスカッションをしました。そして実際のウェブサイトの制作作業は副業人材で作ってもらえないかと社長に働きかけました。
地方での副業でも地理的なハードルはない
菅野:続いて山形県プロフェッショナル人材戦略拠点(プロ人)の吉田さん、「プロ人」について、取り組みについてやメリット・デメリットなどご紹介ください。
吉田:プロ人は平成27年度に人の首都圏の一極集中と地方の人口減少の問題に対して、首都圏で大企業等で活躍なさっている方を地方の企業に呼び、地方の企業を強くするという地方創生の一環としてはじまりました。5年前からはじまり、マッチング実績が322件、相談件数が1,078件です。そして昨年、副業・兼業について内閣官房からプロ人材をいかにマッチングさせるかという新たなミッションが与えられ、去年の6月頃から活動を開始しました。コロナ禍という問題があったので、企業がウィズコロナ、アフターコロナを考えて経営課題を考える社長が多くいました。マッチングの件数をこなすと、仮説を立てられるようになります。そこで立てた仮説を社長に投げて、仮説の検証をしてきました。
メリット・デメリットについていうと、メリットは副業・兼業の場合、地理的なハードルが関係なくなることです。コロナ禍ということもありZoom会議が中心となるため、東京に自宅があっても問題ありません。業務委託契約なので変動費で安く済ませられるのもメリットです。1ヶ月の自動更新なので、雇う側にリスクが少ないのもメリットと言えるでしょう。最後に、副業・兼業人材の使い方として、外注のように丸投げ・任せっきりはすべきではありません。経営課題について、会社も副業人材と一緒にやる姿勢が重要です。
地方のスタートアップに東京のファイナンス人材を呼ぶべき
菅野:フィラメントの渡邊さんにお聞きします。スタートアップのご支援を色々されているかと思いますが、副業人材を活用するときの経営者の覚悟について、そしてスタートアップ支援に副業人材は有効なのかについてお聞かせください。
渡邊:スタートアップは資金がないので、最初は手弁当で人を集めるか、生株を渡すか、ストックオプションを渡してそれを人材の対価としています。そうすると、元手ゼロで有効な人材が使えることになります。そのため、スタートアップは最初の1年くらいはだましだまし会社を続けることが可能ではあります。しかし、本来はそれを半年ぐらいで収めて、地銀から融資を受けるなど、資金調達をすることが求められます。これに伴い出口戦略が非常に重要になります。スタートアップの経営者にはそうした覚悟が求められますし、経営戦略として成長戦略のロードマップを書く必要があります。そうしないと、雇用を生み出せず企業は「社会の公器」としての役割が果たせません。私も支援しているスタートアップではお金ではなくストックオプションをもらっていますが、それが紙くずになるかお金になるかはスタートアップのメンバーとしての自分の頑張り次第なので、そこは私も一緒に汗をかいて頑張る必要があると思っています。
副業人材の活用で、地方のスタートアップに対して東京からどんな人材を呼ぶかについですが、東京にはファイナンスができる人がいるものの、地方には少ないという課題があります。一方で、地域にもお金はあるもののそれを有効に動かす人材が足りないということも課題としてあるという認識です。そこで東京から人を引っ張ってくることは有用だと考えます。ここでいう人材とは、税理士、公認会計士などではなく、プロとしてお金の話をできる人のことを指します。こうした人を地域に呼ぶためにはどうすればいいのかを考えるべきで、社長の覚悟と事業戦略とビジョンで共感できるかが非常に大事になってきます。私が関わっている山形県のスタートアップで事例を挙げると、グリーンエースという野菜を粉末処理して販売する事業を行う企業があります。野菜をパウダーにすると、加工食品になり世界中に持っていくことができますし、宇宙にも持っていけます。地域で取れた不揃いの野菜を活用できるので、地域の産業にも役立ちます。こういうことができる会社がどんどん出てくるようにする環境整備をする必要がある一方で、このような尖った企業の成長を加速させる為の人材を、例えば東京からファイナンスや事業開発のできる人材を呼び寄せることが重要だと考えます。
会社の課題解決のためにいかに外部人材が入っていくことをデザインするかが重要
菅野:キャリアクリエイトの田中さんにお聞きします。人材紹介の仕事をされていると思いますが、こちらの紹介と、サクラマスプロジェクトについてお聞きしたいです。
田中:副業や兼業の人材紹介はマッチング前後のコーディネートが大事で、業務の切り出しや案件の組成、会社の内部の人と副業人材でコミュニケーションのすり合わせなどもやっていかないといけません。コーディネータの役割がすごく必要とされていると感じます。
事例を挙げると、例えば自社のウェブサイトの運営に関わる人はほぼ副業人材で運用しています。本人がやりたいこと、やるべきこと、できること、うちの会社でやってほしいことをすり合わせています。他には、LINEで働いているUI/UXデザイナーの方にウェブマーケティングプロジェクトに参画してもらってランディングページの制作、広告、会員獲得までを行なっていただきました。県内にいるウェブデザイナーだけだとなかなかできなかったことができたと思います。
サクラマスプロジェクトについてお話しします。サクラマスは川で生まれ育って海に出て行って半数くらいが戻ってくる県の魚です。それに若者になぞらえて戻って来やすい環境作りをしようということを名前にしました。キャリアクリエイトとワークライフシフトが事務局をつとめている、「山形にUターンする若者を増やす、Uターンしやすい環境づくり」をするプロジェクトです。具体的にはキャリア教育、中小企業の人に対する課題を解決する「山形の人事部」をはじめています。サクラマスプロジェクトでUターンしやすい環境作りはどうしたらいいのか、企業と教育機関と保護者と当事者と支援機関のステークホルダーで、どういうことをするといいか考えていくと、その本質は企業の方と学生を含む外部人材、外にいる人材が面接などの「かしこまった場でお互いを見定め合う」のではなく、学生でも社会人でもインターンのような形で中に入り込むことだと思いました。そして、Uターンしたい気持ちやUターンできる自信に繋げていくのは学生でも社会人でも意味合いは同じだと思います。外部人材の活用という意味で、副業・兼業人材も学生も、会社の課題解決のために外の人が入っていくことをいかにデザインしていくところか重要ではないかと思っています。
菅野:最後に、一言ずつメッセージをいただきたいと思います。
吉田さん、「プロ人」の今後についてお聞かせください。
吉田:去年山形県信金4つ、信用組合4つと提携した人材会社8社を絡めて提携しました。県内の3つの地銀は全て自分たちで人材紹介をしています。そして内閣府の先導的人材マッチング事業の採択も受けています。コンソーシアムのような形で連携しながら人材を管理できるようになればいいと思っています。山形県についで福島県が同じような仕組みで信用金庫、信用組合が全て連携されました。まずは東北地区の信金を全て繋げようとして動きつつあります。金融機関は今かなり厳しいですが、企業に近いところにいて、情報が一番集まるのはやはり金融機関だと思います。しかし、ただ情報を集めただけでは深みがありませんので、自分たちで外部研修に行くなどしてアライアンスを組んでいます。
菅野:渡邊さん、副業人材がイノベーションに繋がるのではないかと思っていますが、その可能性はどうお考えでしょうか。
渡邊:人の活用方法はお金だけじゃないと思います。事業を起こす、生活を豊かにするのは、なんのためにそれをするのかという目的の話になると思います。弊社フィラメント代表の角といつも話しているのは、子供が20歳になった時にこの国できちんと生活できることが大事ということです。親世代は子供世代が世界に伍して戦える経済環境を作り、プレイヤーを育てていかないといけないと思っています。弊社フィラメントは新規事業を作るコンサルティングによって強い会社を作っていく会社ですが、新規事業を作るのは人間の行為です。いかに事業に特化した人材を作れるかが大事です。
そして、こうした人材を東京だけではなく地方にも作りたいと考えており、活動できる人を作るためにはまず仕組みを作らなければならないと思います。こうした仕組みを山形モデルをベースに他の都道府県に真似してもらえるようにパッケージ化して広げることが大事です。
それを実現するためには、政府の押し付けではなく、山形県の成功事例を見せて、正しい手法で皆が真似できるものをやることが必要です。そして東京から地方へ人がいくスキームを作る事も重要です。その人が講演する際の費用はお金ではなく、自分のやってることが間違ってなかったという肯定感を得られる体験だけでもいいと思います。お金ではなくその体験価値のために頑張るでしょう。
地方は東京のようにいきなり1000億円の会社を作るのは現実的ではないので、地方は最初は10億円くらいで、そのうち100億円稼げる会社をいくつも作ればいいと思います。それができる人をどんどん増やしていくのが重要です。これは地銀が中心になってやっていくべきで、そういう意味では地銀がとても大事です。地銀は地元の会社を見ており、地元の特性も理解しているので、どういう人をアサインすればいいのかもわかっています。地銀・信金・信組が砦として融資し、それを金融庁・中小企業庁がきちんとサポートすることが大事だと思います。
菅野:人口減少が進む現代はスキルシェアが必要です。最初は企業内にまず副業人材を入れてみて、企業を金融機関やプロ人の人が一緒に体験すれば、周りに説明して広げられるようになると思います。これから山形が少しずつ変わっていくことを祈っております。ありがとうございました。
本パネルディスカッションの後は、イベントのクロージングに移りました。山形県非公式キャラクターでVTuberのジョージ・ヤマガタ氏が、「本日のイベントをご覧になり県内事業者で副業人材について少しでも興味を持たれた方、そして山形県内の副業には様々なバリエーションがありますので、山形県外にお住いの方で興味を持たれた方は、ぜひお問い合わせください」とあいさつを行いました。