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メッシが首位陥落したアスリート長者番付TOP10に見るスポーツビジネスの現在〜スポーツよもやま話〜

アスリート長者番付に地殻変動が!?

突然ですが、2021年のアスリート長者番付トップは誰だと思いますか?
メッシ?フェデラー?セリーナ・ウィリアムズ…?
答えはこちら、コナー・マクレガー(1億8000万ドル(約196億円))
……ちょっと聞き慣れない選手名ですよね!?コナー・マクレガー選手はアイルランド出身の総合格闘家

Forbesより引用

この約196億円の大半はファイトマネーではなく、自身のウイスキーブランドとして手がけていた『Proper No.12』製造会社の過半数の株式を今年4月売却したことによるもの。(上記画像の右下「$22M」がON THE FIELD=競技”内”収入、「$158M」がOFF THE FIELD=競技”外”収入を表しています)
ちょっとイレギュラーな収入ですが、このランキングはForbesが競技内外の収入を合わせて算出されているものなのです。ちなみに、競技以外からの収入には、対象期間中のスポンサー収入・出演料・ライセンス収入・手掛けるビジネスで得た利益などが含まれています。

ちなみにこちらは2021年のアスリート長者番付で、2位がリオネル・メッシです。2022年にはメッシが1位に返り咲き、コナー・マクレガーはランクインしていません

コナー・マクレガー選手以下には冒頭で挙げた、多くの人がご存知の選手が名を連ねています。


フェデラーは5試合に出場しただけでアスリート長者番付TOP7!?

2021年は右膝の怪我により出場した大会はわずか5つ。しかしながら、アスリート長者番付では7位(9060万ドル=約102億9600万円)に輝いています。注目すべきは競技”内”収入が30万ドルに対して、競技”外”収入が9000万ドルとなっている部分。

フェデラーには多くのスポンサーがついていて、そのスポンサー料が2021年の収入の大部分を占めています。現在のスポンサーは以下の通り。ユニクロとの契約は現役引退関係なく2027年末まで継続など、まだまだフェデラーのスポンサー収入は続きそうです。

またフェデラーは母国スイスのスポーツブランドonに投資をしています。onは2021年にニューヨーク証券取引所に上場しており、前述のコナーマクレガー選手のように投資や株式売買による巨額の収入も期待できます。引退後もフェデラーのスポンサーと投資先を要チェックですね。

フェデラーのスポンサー
GREDIT SUISSE(クレディスイス)、JURA(ユーラ)、LINDT(リンツ)、MERCEDES-BENZ(メルセデスベンツ)、MOET&CHANDON(モエ・エ・シャンドン)、NET JETS(ネットジェッツ)、UNIQLO(ユニクロ)、SUNRIZE(サンライズ)、ROLEX(ロレックス)、WILSON(ウィルソン)、Barilla Group(バリラ)、Rimowa(リモワ)


2022年の男性アスリート収入にも地殻変動が起きている!?

2022年にトップに返り咲いたサッカー、アルゼンチン代表のメッシ。バルセロナからパリ・サンジェルマンに移籍したことで年俸は減少しましたが、スポンサー契約料など、競技以外からの収入が大幅に増加。

アスリート長者番付TOP10に入ったアスリートたちの年収の合計は、過去3番目に多い金額となっています。収入増加の要因は、暗号通貨やNFT(非代替性トークン)の広がりが挙げられます。メッシはブロックチェーン技術を用いた「ファンエンゲージメント」アプリのソシオス(Socios)と契約(推定年間契約料は2000万ドル)。また、その他のTOP10にランクインした選手4名も暗号通貨取引所のFTXやクリプト・ドットコム、コインベースと契約しています。

スポーツ選手には仮想通貨やギャンブルの広告塔としてよく声がかかります。スポーツというクリーンなイメージが魅力的に映るのかもしれません。しかし場合によってはスポーツベッティングの八百長につながる恐れもあり、スポーツ界は付き合う業界についてよく検討する必要があります。

たとえばベルギーでは2022年末までにギャンブル産業の広告活動を抑制するための新法案が提出されています。成立すれば、テレビ、ラジオ、SNSを含む多くの媒体での広告活動が禁止となり、スポーツクラブのユニフォームやスタジアムの看板などを使った広告にも厳しい制限がかけられることとなります。スポーツベッティングの人気が加速するアメリカとは対象的なヨーロッパですね。日本でも解禁を望む声が高まっており、サッカー・バスケを対象に1試合ごとに予想ができるWINNERが2022年9月26日よりスタートしています。


女性アスリートも儲かるのか?

今度は2021年の女性アスリート長者番付をご紹介します。1位は納得の大坂なおみ選手、5730万ドル(約65億2000万円)

コナー・マクレガー選手同様、競技外での収入比率のほうが高いのですが、これは大坂なおみ選手に限らない女性アスリート全体の傾向です。男性アスリート長者番付TOP10では競技”内”収入が競技”外”収入とほぼ同じ、あるいは競技”内”収入のほうが高い場合がほとんどですが、女性アスリート長者番付TOP10 では競技”外”収入のほうが高くなっています

これは、女性アスリートの賞金額が男性アスリートよりも圧倒的に低いことが要因となっています。同じ競技であっても女性アスリートのほうが賞金額や給与が低い状況について是正を求める声が多く上がり、少しずつ改善がなされていますが、こうしてアスリート長者番付を見るとそれはまだまだであることがわかります。実際、アスリートを男女合わせてランキングにすると、大坂選手は12位、ウィリアムズ選手は28位となっています。

しかしながら、女性アスリート長者番付TOP10に入った選手たちの賞金総額は前年比23%増、2013年に記録した史上最高額の1億4330万ドルからは16%増となっているので、女性アスリートの環境が少しずつ改善されつつあると思いたいところです。


そういえば、東京五輪ではトランスジェンダーの選手が女性として出場していた

東京五輪では、トランスジェンダーであるローレル選手がウエイトリフティング女子87キロ超級に出場し、歴史を作りました。

これはオリンピック史上初の出来事だったのですが、その理由はトランスジェンダー選手の出場のためのルールが整備されたのが最近だったからです。スポーツ競技においては平等性の担保から始まりますが、これまでは「女性種目の中に男性が混じることは不公平だ」という前提のもとで、1960年代から女性アスリートにのみ性別確認が医師の視認と染色体検査が実施されていました。

ここにトランスジェンダー選手の参加をどのように組み込むのかということになり、

「法的に女性である人は血清中のテストステロン濃度によって示されるアンドロゲンレベルが男性の範囲以下であるか、男性の範囲内であっても競技に有利とはならないアンドロゲン耐性がある場合には、女性の競技に出場する資格を有する」(IOC, 2013)

というルールが追加されました。ただ、このルールでは、テストステロン濃度が高い値を示した女性アスリートは治療対象となってしまい、当人の健康にはなんら問題がないのにテストステロン濃度を下げた上で競技に戻らなければなりません。このルールによりオリンピックで出場を希望している種目に出場できなくなった選手も現れています。

男性か女性かの二元論でスタートしているオリンピックを今から分類整理するのは難しいかもしれません。乗馬のように男女の区別がないものや、最近では男女混合競技が増加している傾向もありますが、性別と競技の公平性の担保についてはまだまだ問題が山積みです。


おわりに

スポーツよもやま話、いかがだったでしょうか?
スポーツニュースは毎日テレビや新聞で配信されていますが、試合結果以外の部分にも注目してみると面白い情報やビジネスのヒントが得られるかもしれません。(文/QUMZINE編集部、土肥紗綾)

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